◆第百七十六話◆◆
第百七十六話
スーパーにて、怪しい人物が一人でぶつぶつ言いながら見切り品がたくさん入ったワゴンを荒らしていた。真っ赤なぶかぶかのマフラーを口上まで上げて淡い紅色のニットをかぶった人物……
「……よかったぁ、一個も買わなかった、誰も買わなかったから年末大セールで安売りです!これを一気に箱買い……うぇっへっへ!」
声を聞いてそれが知り合いであると脳内が判断する。声をかけたらどうなるか(きっと人間の寿命を縮めようとしてくるだろう)容易に想像がついたのだが……見苦しいので声をかけることにする。
「……名古ちゃん?」
「あひゃ……って違います!これは妹がどうしても欲しがっている食玩のシリーズなんです!……って先輩ですか?驚かさないでくださいよ!」
何故だかよくわからないが怒られてしまった。理不尽だとは思いつつもここで反論してもさらなる時間の無駄だということをすでに僕は学んでいたりする。忍耐力というものは大切である。きっと、文字から察するに忍者はこの忍耐力が必要だったんだろうな……
「で、今日はワゴンで宝探し?」
「安くなっていたから年末コンプリートしようと思っていたんです」
何その年末コンプリートって?いや、訊ねると膨大な知識(専門家が自分の言いように一生懸命しゃべったとしても基礎知識がない一般人はたいていが適当な相槌をうって終わりである)が返ってきそうだったからやめておいた。
しかし、どうやら僕は名古時羽という人物についてちょっと間違った考えを持っていたかもしれない。彼女はとても優しい子だったのである。
「あ、年末コンプリートというのはですね……」
その後、うんぬんかんぬん……約十五分程度の説明で終わってくれた。一生懸命…説明してくれた名古ちゃんだったが僕の頭に入っている単語は数単語のみであり、さらに言うならば一週間、いや、明日にはもう忘れていること間違いないだろう。
「……それで、先輩はいつものように夕飯のお買い物ですか?」
「そうだよ。まぁ、それと写真を現像しに行く途中だけどね」
「へぇ、いつ撮った写真ですか?」
「今日だよ?今日妹と一緒にとった写真」
「なるほど~……」
使い捨てのカメラで撮ったものだが、まだ余りがあるようだ。
「一緒に撮る?まだ残ってるからさ」
「そんな……いいですよ、先輩と一緒に写真撮ると寿命が縮むかもしれません!」
「……僕を死神とでも言いたいのかい?」
「違いますっ!いいことがこんなにも続くと人間、不安になっちゃいませんか?」
近くのワゴンを指差す。つまり、名古ちゃんにとって僕と写真を撮ることはワゴンセールとイコール程度ということなのだろうか?
な、何気に自分がショックを受けているとは……恐るべし、名古ちゃん。
「……じゃあ、ケータイで撮ればいいでしょ」
「そうですね、あたしの使いますからいいですよ」
淡い赤色のケータイを取り出してカメラモードへと切り替える。しかしまぁ、ケータイにカメラ機能をつけた人はすごいね。張り出された試験範囲を写すために今じゃ必需品だよ。
「はい……じゃあ、チーズ!」
「あはは……」
密着しないといけないのケータイのカメラ範囲が狭い……というより、ケータイを誰かに渡してまで撮影なんてしなくていいからかな。
「けど、僕の手元には名古ちゃんと写ったデータは残ってないよね?」
「いいんですよ、先輩にデータあげたって消しちゃうかもしれないじゃないですか」
ものすごく失礼な子だ。僕が間違って消すとでも思うのだろうか?
「だから、あたしがちゃんと管理してますからね♪」
「はいはい、わかりましたよ…じゃ、僕はもう行くからね?遅くならないうちに帰りなよ」
「は~い!今から帰りますっ!!」
さようなら~って手を振りながらワゴン内のお目当ての品物を全て抱えてレジへと帰っていく。やれやれ、ご機嫌だな……
―――――――
現像されたツーショットをぼけーっとみながら帰路に着く。何で写真なんて撮りたいって思ったんだろ?最近、なんだか由美子が優しい気がするのは気のせいかなぁ?きっと、この前行方不明になってたときに相当僕の有難さがわかったのであろうか?掃除洗濯お料理と……万能とは言わないまでも人並みこなせているから僕がいなくなったために二週間家事を体験して自分がいかに恵まれている存在かわかったんだろうなぁ……ああ、僕に姉ちゃんがいたら怠惰な生活送ってたかも。
僕が行方不明の二週間、何してたんだろ?
ついに次回からは霧之助行方不明二週間、それぞれがどういった感じで過ごしていたかというお題が続きます。下手したらこれだけで結構進んでしまうかも…おおくて約五話で済ませるよう努力します。まだまだこれからがんばらなくてはいけませんね。それでは次回もご覧ください。十一月十三日金曜、十四時十七分雨月。