◆第百七十話◆◆
第百七十話
目が覚めたときにはあれが夢だったと信じたかったわけだけども実際はそうではなく、次に目が覚めたときにはドーナツ型のテーブルの真ん中に転がされており、自分を見つめてくるご老人方がいたのだった。
前回も前回で大変な状況だったけど今回もおかしな状況だ。
「汝に問う……いついかなるときも東結を大切にするか?」
え?何これ……新手のアンケートか何かだろうか?どう応えればいいのかさっぱりわからないのだが……
「あの、これはどういう……」
「君はただ黙ってわれわれの言葉に従っておればよいのだ」
以前どこかで(というよりパーティーで)会ったことのあるおっさんが僕にそんなことを言う。
「質問の形式が悪かったのかのぅ……では、変えようか」
そして、パーティーのときに僕を呼び出した初老の男性が一枚の書類を見ながらこんなことを言い始めた。
「では、これより質問をしていきますのではい、いいえ、無言の三種類で答えていってください。無言がはい、いいえのどちらかになるかはその場の雰囲気と質問者の気分によって変わりますのでご注意を」
「それってかなり最悪な展開ですよね」
都合のいいように湾曲しかねないおそろしいアンケートである。湾曲という表現よりはむしろ改ざんといったほうがしっくりくるだろうが。
「……では第一問、東結の後姿を見ているとつい抱きしめたくなる……制限時間は三秒」
「え?」
「三……二…一、はい終了」
それはないだろうよ。三秒ってものすごく短い……
「続いて第二問、嫉妬深い女の子が好き?」
「えーと……」
「はい、アウト」
もはや考える猶予もくれないのだろうか?大体、このアンケート自体がどういった意味を持つのか非常に興味があるのだが教えてくれることはないだろう。
「第三問目、東結は恐い人だ」
「はいっ!……やっぱりいいえ!」
「今のはいい返事だったよ」
なにやら書き込んでいるようだが今後どういったことが起こるのか非常に恐い。もし、このアンケート結果が結さんの目に触れた、耳に入ったとしたら……極刑は免れないだろうなぁ……
以降、まるで僕をいじめるかのような質問は三十問近くに及び、それが終わったとき僕は世界の破滅を実感した。このアンケート結果がどのように扱われるかよくわからないがまず間違いなく結さんが知ってしまったとき終焉は訪れる。
「では、今日はこれぐらいで良いだろう……」
一番偉い人と思われる人物がぱんぱんと手を鳴らすだけで屈強な黒スーツの男が二人やってきた。そして、僕にアイマスクをするように促した後はそのまま運ばれてしまう。しかし、これから向かうはずだった扉が開け放たれる音が聞こえてきて……
「待ってください!!」
響き渡る声が聞こえてきたのだった。その声が誰のものだか知っているし、ここにいても不思議ではない人物……結さんのものだった。
「おお、結よ……ちょうどアンケートが終わったところだ」
「そんなことより明日の式をやめてもらいたいと思って参上しました」
結さんがそう言い放った瞬間、この場の空気が凍りついた気がしてならなかった。
「何故だ?」
居心地の悪い空気が漂い、それから少し経った後に一番偉い人が口を開いた。たった一言だったけれでも威厳にあふれ、東家全員が畏怖する対象であるということが察することができるそんな一言だった。
そしてまた、少しばかりの間が空いた。
その間は生半可な言葉では相手を説得できないということを結さんがわかっており、言葉を選ぶための間だったのだろう。結さんを見ることもできず応援することもできず僕はただ、目隠しされた状態で逆えびぞりみたいな感じで担がれている。そろそろ、脳みそ全体に血がたまってきたところだ。
「……わたくしは、わたくしは自分のことぐらい自分でできます!」
「ほぉ、本当か?」
「本当です。今のわたくしは以前のような子どもではありません」
ピリピリとした空気が張り詰めている。にらみ合っている……というのは所詮は想像の域を超えない代物だけれども、多分、合っているんじゃないかなぁ。
もはや完全に結さんが頼みの綱となっているわけだけども今ここで何か僕がしゃべったらそれこそ結さんに不利な状況を作り上げてしまうかもしれないな。
実際はきっと一分かそこらの時間だったはずだけれどもこの場にいた全員にとっては永遠とも取れる時間だったに違いない。突如、ばんっ!という音が聞こえてきたかと思うと誰かが歩きさる音が聞こえたのだった。それと同時に僕の身体が床に下ろされる。
「大丈夫でしたか?」
耳元で本当に心配そうな声がささやかれる。
「え、ええまぁ、なんとか……」
目隠しをとって開けた視界の中には結さんがいて……何故だかわからないが目に涙をためていた。次の瞬間には軽い衝撃が走り自分が抱きしめられていることに気がつく。
「……どうしたんですか?」
「……もう、心配かけたりしないでくださいよ」
「かけてましたか?」
「……二週間も行方不明になっていれば隣人としても不安にはなりますよ」
「え……?二週間?」
どこでどうそんな時間を使ったのだろうか?記憶には計二日分ぐらいしか残ってない気がしてならないんだけど……多分、ずっと眠らされていたのだろう。どおりで身体に力が入らないわけである。
「じゃあ、帰りましょうか?」
「そう、ですね……」
付き添われながら立ち上がり、建物の外へと足を踏み出した。照りつける日光が強くて暑い、今何月だったのか完全に忘れてしまっていた。まぁ、そんなこと言う前にここは何処だろうか?まさか自分が住んでいた近くだとは思わないさ。沖縄……だろうか?
「急いで空港へ行かないと明日の学校に間に合いません。わたくしがもう手配してますから」
「ところで、ここはどこですか?」
「ここですか?ここは……」
告げられた国名がすんなりと耳に入ってきてくれなかった。国外である。国外に行くにはまず、パスポートが必要である。パスポートを持っていない人間はすんなり飛行機なんかに乗れるのであろうか?
答えは否である。
「はい、これを渡しておきますね」
「え?これって僕のパスポート?」
「偽造ではありませんから安心してください」
何がどうなっているのだろうか?ものすごく不安になったがともかく、これで家に帰れると、これまでと同じ生活ができるということがわかってほっとしたのだった。
「……って、結さんはもしかして国外までわざわざ来てくれたんですか?」
「ええ、大変でしたよ?日本国内では再び邪魔されるとわかっていたんでしょうね」
なるほどなぁ、国外でやられてしまったら邪魔しようにも邪魔できない。
「けど、そうまでして式を挙げたくなかったんですね」
ちょっとした悪戯心でそういうと結さんはさっさと先に歩いていってしまう。慌てて追いかけることにする。
「……別に、そうでもありませんけどね……意地悪でいうのはやめてください」
そんな言葉と僕を残して彼女は走っていってしまったのだった。
自転車で走行中……ああ、場所は住宅街っていうと分かりやすいと思います。下り坂でスピード出していたら道路に面する窓からおばさんの顔がぬっ!と突き出して来ました。慌ててハンドルきったらそのまま車道へ……車が来ていたらと思うとぞっとします。脇見中のドライバーが多いのか、雨月の運転が悪いのかはわかりませんが週に二回は死神に誘われてるんじゃないかなぁと思ったりします。ルール守らないと警察か死神に連れていかれちゃいますよ?あ〜……今度死神の小説でも書いてみましょうかねぇ。では、次回も宜しければ御一読ください。十一月十日火曜、八時五十四分雨月。