◆第百六十二話◆◆
第百六十二話
やる気になればたいていのことが人間、できるのである。一週間放課後の殆どを使用して撮るだけとった演劇の舞台。時に深夜の学校で、時に帰宅映像を……様々な場所で撮影した。なるほど、確かにこれなら教室で演劇しているよりも面白いものができるかもしれないな……そんなことを僕は考えていた。
一週間経って撮影が全て終わると後は映画研究部の人たちに託すだけとなる。日々、会うたびにやつれて行く彼らの姿を見るとああ、映画ってこんなにも大変なものなのだなぁ……そんなことを教えてくれているようでもあった。
日々はあっという間に過ぎていき、気がつけば当日となっていた。
―――――――
「お待たせしました結さん」
「あら?お早いお着きですね?」
待ち時間には相当早い時間帯。文化祭が開始されて十分……まだ来てないかなと思っていたが油井さんの姿はすでに校門にあった。さっき別の女性にあって文化祭なのに気合入れてる服装だなぁと思ったのだが……結さんは結さんで着物を着てここにやってきていたのだった。紅葉のような落ち着きある色彩で中身だって綺麗な人だ……他の男子生徒たちがちらりちらりと結さんの方へ視線を動かしている。演劇が全て終了しないと回れないと思っていたのだが演劇から映画へと変わったのでもはや後は放置状態。生ける屍となった映画研究部たちが今頃放映してくれているところだろう。
「まぁ、今日はゆっくりまわりましょうか?」
「そうですね、案内お願いします」
そういって腕を伸ばして僕の腕へと絡めてくる。その自然な動作についつい腕を差し出してしまったが冷静に考えてみて……
「って……え?」
「……こうやって腕を組んでおかないとわたくしと離れてしまうと思いませんか?」
何かをたくらんでいるような表情で僕のほうを見てくる。ど、どうでしょうかねぇ?離れてしまうんでしょうか……
「え~と……」
「今日は霧之助さんに案内してもらうのだからこれぐらいはしておいたほうがいいかなと思ったのですよ」
「そ、そうだったんですか……わ、わかりました」
極度に緊張しているのがよくわかる。周りからの視線がなんだか……恐かった。
「あれ?間山の奴あんな美人と何処で知り合ったんだ?」
「ちょっと、何ぼけっと見てるのよ!あんた私の彼氏でしょ」
そんな彼女持ちのクラスメートの幻聴が聞こえてきたりしている。心臓なんてバックンバックンいってるし……い、いかんぞ……ここは冷静になるんだ、冷静に……相手は結さんだ。触れれば全てを皆滅ぼすというそんな人型汎用決戦兵器だと思うんだ……
「じゃあいきますか」
「相変わらず脳内でのごまかし作業に時間がかかりますね?」
「え?何かいいました?」
「別に……まぁ、霧之助さんがごまかさなかったらわたくしも素直になれるかも……そう思っただけですよ」
ちょっと怒ったようにそういう。ああ、初っ端からご機嫌を損ねてしまったようだ。
「あ、あそこにクレープが売ってます!買いに行きましょう!」
僕は結さんを連れて指差したクレープ屋へと向かったのだった。
―――――――
そろそろ正午を過ぎたぐらいで人々の数が増えてきている。中にはカップルがいたりして僕と結さんが違和感なくそこに溶け込めているのに少々ばかり疑問を抱いたりする。
「どうかしたのですか?急に無口になったようですけど?」
「えーと、いや、別にどうかしたってわけじゃないんですけど……」
このことをいおうか、いわざるべきか悩んだ末にやっぱりいうのは控えておいた。どうせいったところで『あら、それは気のせいだと思いますけど?』といわれるのが落ちだろうし。中途半端に落とされる……
半オチ。
「気のせいです」
「何がですか?」
半オチが恐い僕としては適当な言い訳をしつつごまかすことにした。
「じゃあ、またクレープでも買いに行きますか」
「またですか?」
「ええ、またです!」
「……ちょっと疲れましたからどこかで休みましょう」
ともかく、ごまかせたからよしとしよう。
芝生付近のベンチに二人で腰掛けてボーっとする……まぁ、ボーっとしていたのは僕だけで結さんはじっと前を見ているようだった。
「……霧之助さんは今日、楽しかったですか?」
「ふぁ?」
唐突にそんなことをいわれるが脳みそは対処しきれず間抜けな声を文字通り発声。
「楽しかったは違いますね……今、楽しいですか?」
気がつけばこちらのほうを見ている。
「そりゃまぁ、楽しいですよ」
「はぁ……そうですか」
かなり複雑そうにため息を一つだけはく。
「あれ?結さんは……楽しくないんですか?」
「楽しいですよ……それはもう、時間を忘れるほどに……ね」
目を伏せ、また一つ大きなため息を結さんは吐くのだった。ちょっと疲れているのだろうか?
「疲れてるみたいですけど……今日はもう帰ったほうがいいんじゃないんですか?」
「……そうかもしれませんね……ああ、霧之助さん……今日はありがとうございました。実に有意義な時間を過ごせましたから……見送りはここで結構ですよ」
一度会釈をしてそのまま笑顔で校門のほうへと向かう。校門を出るところまで見送ろうとしたのだが断られてしまったのでぼけーっと結さんの後ろ姿を見送っていたのだった。そして、結さんの前に黒塗りの車が止まってそれに乗って去っていってしまった。
「……きっとずっとスタンバっていたに違いない」
ぽつんと残された僕は一つため息をついたのだった。
今この後書きを読んでくれているあなたへ……幽霊はいると思いますか?あんまり突っ込んだことを聞くつもりじゃありませんが……それに、宗教のにおいがぷんぷんしますからね、このお題は。あなたの守護霊は~…って言われることあるじゃないですか。あれってつまりは自分を守ってくれている霊なんですけど成仏はしてませんよね?代々守っているという割には落ち武者っぽい感じで現れたり……そんなものですし。代々先祖を守ってきた……ってんならアウストラロピテクスみたいな守護霊がいたって不思議じゃないと思いますけどそこのところどうでしょうか?生まれ変わりはまぁ、あると仮定したら……さかのぼっていけばいずれ最初一体全体自分が何者だったのかといったこともわかるかもしれませんね~……こればっかりは死んでみないとわかりませんしきっと死んでもわかりませんよ。死んでわかるのなら次の人生で覚えているでしょうし。なんともまぁ、電波みたいな話になっちゃいましたが誰しも一度はこんなことを考えるんじゃないでしょうかねぇ?秋の夜長にお一つ、どうでしょうか?もう寒さじゃちょっとした冬ですけどね。それでは本日はここらでお開きにさせていただきます。風邪など、ましてや新型インフルエンザにかからないようにうがい手洗いなどちょっとした努力を惜しまないようにしましょう。十一月五日木、二十二時三十五分雨月。