◆第百五十四話◆◆
第百五十四話
「いらっしゃいませー」
そんな声が店内に響き、僕たちは店の中へと足を踏み入れる。なかなか人気のようで女の子たちがケーキを選んだり、店の一角のスペースにあるテーブルなどについて食したり、持ち帰ったりと様々である。
場違い、そんな雰囲気がひしひしと感じられるものだが……今日は百合ちゃんと雪ちゃんが一緒にいてくれるためにそんな気持ちも五十パーセントぐらいしかない。
「間山さんは何食べますか?」
三枚の『お好きなケーキ一つまでサービス』券を見せながらにこっと笑う。
「ん~……この前ショートケーキだったから今回はモンブランにしてみようかな」
「そうですか、姉さんは?」
「私は……」
ちらっと僕のほうを見てその後うつむき一言。
「……霧之助と同じ奴でいい」
「モンブラン?」
「……うん」
「わかった、じゃあ適当に席についてて」
レジのほうへと向かっていった雪ちゃんが残した言葉に従うとして僕は百合ちゃんから離れないように店の一角へと向かっていったのだった。ここで迷子になったら(まぁ、なるわけないけどね)女性者の下着売り場で迷子になった変質者と同じ目で見られるかもしれないからね。
三つ席が空いていた場所に腰を下ろし、ふと思ったことを口にした。
「……雪ちゃん、変わったよね」
「雪が……変わった?」
いまいち納得ができない、というよりは理解ができないといった感じの百合ちゃん。
「うん、昔はちょっと意地悪だったかな」
「意地悪?」
不思議そうに首をかしげる。まぁ、確かに姉に対して意地悪なわけがないだろうね、シスコニストだし。
「僕に対してちょっと意地悪だったんだよ」
「そうなのか?」
「ま、ほんのちょっとだけ……」
「お待たせしました~」
店員さんの真似をしてここで雪ちゃんが登場。ささっとそれぞれの前にケーキを並べて自分の席に腰を下ろす。彼女の目の前にはミルフィーユと思われる(素人にとってケーキとはケーキであり、それぞれに名前があるとは思いもつかない人だっている。大体、詳しくないし)ケーキだった。
何層にも重ねられているそれはやっぱりミルフィーユ……だよねぇ?
「間山さん、ミルフィーユがそんなに欲しいんですか?」
「え?いや、違うよ……」
ミルフィーユか確認しようとしていたんだよと、言おうとしたのだが先に雪ちゃんが勘違いを起こした。
「……じゃあ、ちょっとだけ、はい、あ~ん」
まぁ、いいか。モンブランもちょっとあげればいいだろうし。
「あ~ん……ん、おいしい」
「この店自慢ですから……あれ?姉さん顔色が悪そうですけど?」
「い、いや、なんでもない……」
恨みのこもった目が僕のほうへ……あれ?一体全体どうかしたのだろうか?ものすごく恐いんですけど……
頭頂部の栗にフォークをつきたててモンブランをそのまま、一口で食べ終えてしまった。
「……ご馳走様。雪、私ちょっと用事があるから」
「う、うん」
「そっか、じゃあね、百合ちゃ……」
すでに鞄を持って店から出て行ってしまった。何か起こっていたような気がしないでもないかな……
「味が気に食わなかったのかな?」
「……さぁ、どうでしょう?」
二人して首をかしげるがわからないものはわからなかった。
甘いものは大好きです。あれを食べて太る人は太りますが太らない人は太りません。雨月は後者なので一生懸命太るよう努力していますがうまくいかないものです。一時期、やめちまうかという気分にもなりましたが霧之助二年生秋までやってくることができました。二度目の文化祭、波乱に満ちた展開に……なるのでしょうか?十月二十九日木、八時二十七分雨月。