◆第百五十一話◆◆
第百五十一話
結局、台本なんて思いつきもせず翌日へと時刻は移行。食器を洗っていたら少々の手間がかかってしまい、由美子はすでに学校へと向かった後だったようだ。
淵がさび色の重たい金属板を押し退けて外へ出ると、ちょうど結さんも扉を開けて出てくる途中だったようだ。
「おはようございます」
「おはようございます……何か疲れているようですね?」
「まぁ、少しは……」
文化祭のことです。そういうと理解したという表情を僕に見せてくすっと笑った。
「昨年は大変でしたからね」
「……ええ、とても大変でしたけど……今じゃいい思い出ですよ」
「今年は乱入してこないようにしていますので安心しておいてください……途中まで一緒ですから行きますか?」
誘われていえ、やめておきますとかいえない状況だったので頷いておいた。きっとこの人のご機嫌を損ねたら去年以上に面倒なことが起きかねない。事なかれ主義者としてはやぶをつついて蛇ならまだましだけどそれが龍だったり他の何か……だったりしたら手に負えないから。
「結さん、今年も文化祭来ますか?」
「ええ、そうですね……霧之助さんが案内してくれるというのなら行ってもいいですよ」
どうですか?そういった感じで僕のほうを見るのだった。
「それとも……」
少しだけ間を開けて結さんは続きを口にする。
「わたくし以外ともう回る約束をした人がいますか?」
「いや、いませんけど……そうですね、当日は結さんと一緒に回ります。どこで落ち合いましょうか?」
「校門前で来るのを待ってますよ……忘れていたら……」
忘れていた生き地獄ですね?わかってます。
首をこくこく動かすだけで伝わる僕と結さんの波穏やかではない関係。彼女が親指を地面に向ければ僕が見るべきものは地獄である。
「楽しみにしていますよ」
「ええ、それじゃあ」
分かれ道で手を振って別れる。僕の高校とは違う制服、長い髪を風に遊ばせながら去っていくその後姿は非常に見とれるものであった。
「おーい、何ぼけっと立ってんだよ?」
「猛……いたの?」
「いや、いたって言うより今来たばっかりだけどな?で、何でそんなところに突っ立ってるわけ?」
「……気にしないでよ。それより、台本とかできなかったんだけど?そっちのほうが問題かも」
僕がそういうと猛は手を振ってこういった。
「安心しろよ、お前に求めているなんてまだ俺は落ちぶれてないから」
「な、何それ?」
「台本のほうは予備として演劇部の連中に差し入れ(わいろ)を渡しておいたから他の誰かの台本が駄目であっても平均的なものは期待できる」
本当……だろうか?うちの高校の演劇部が何かしらの賞をとったという話は聞いたことないし、第一に僕は自分の高校に演劇部があるということを知らなかった。
「信用できるの?」
「……ああ、一年一人だったけどな。安心だと思うぜ?」
不安だ…と、ともかく、僕に責任が押し付けられることはないだろう。僕の心を知ってかしらずか、空はどんにょりと、そう、どんにょりと曇っていた。
いつか人類が発達して研究してくれるであろう夢。そうですね、寝ているときの夢を解析してもらいたいものです。『テディ』という馬鹿でかいクマに襲われるという夢を見ました……まぁ、他人の夢を聞くのなんて暇以外のなんでもないとは思いますがちょっと聞いてください。ファンタジーな畑にそのクマがいたんですよ。ニンジンだか大根だか食べててこっちに気がついてその後はおいかけっこです。クマに追いつかれると思った瞬間に目が覚めました。皆さんもきちんと夢、見てますか?たまにはゆっくりと睡眠をとったほうがいいですよ。十月二十六日月、八時十九分。