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◆第百四十六話◆◆

第百四十六話

「平行世界、わたしはあると思いますよ」

「え?」

 百合ちゃんが図書館の鍵を返しに行っている間、雪ちゃんがそんなことを言い出した。遠くのほうからはまだ部活が続いているようで野球部の掛け声、陸上部のはしる音や砲丸を投げる音に剣道部の鋭い声が聞こえてきていたりする。どこもがんばっているのだろう。

「あんな出会いじゃなくてもっとちゃんとした出会い方をしたかったなぁ、何て思ったりしますから」

「へぇ、雪ちゃんもそんなことを思ったりするんだ?」

「間山さんはどうなんですか?平行世界、あると思います?あったとして、そっちのほうに行きたいとか思っちゃったりしますか?」

 廊下の隅を眺めながら雪ちゃんはそんなことを言った。

「僕?僕は……このままでもいいかなぁ?だって、あっちで百合ちゃんや雪ちゃんたちと会ってないって考えられないからさ」

「……そうですよね」

 ふっと淡く笑って歩き始める。

「さ、行きましょうか?」

「え?何処に?」

「何処って決まってるじゃないですか?わたしの家ですよ」

「百合ちゃん置いていっていいのかな?」

「大丈夫、きっと姉さんも許してくれますよ」

 何が大丈夫なの?とっても僕は不安なんだけどなぁ……そんな不安を知ってか知らずか、雪ちゃんは僕の手を引いて校舎を後にしたのだった。



――――――



 未だ変わらぬ豪華なマンション。僕が住んでいるアパートとは大違いである。しっかしまぁ、よくよく考えてみたら意外と雪ちゃんの家に来るのって久しぶりなんだよねぇ……

「あ、ちょっと由美子に電話しておかなきゃ」

「そうですね、遅くなるって思いますから」

 玄関口でコール音を待つことしばし。由美子の声が聞こえてきた。

『もしもし?どうかしたの?』

「うん、ちょっと今日は友達の家で晩御飯を食べてくるから……」

『そっか、わかったよ……遅くなるの?』

「ちょっと遅くなると思う……あ、戸締りとかちゃんとしておいてね?さいきん物騒だからさ」

『わかってるわかってる』

 少しだけ不安だったがまぁ、由美子もそこまでバカじゃない子だ。きっと言いつけを守ってくれることだろう。

「じゃ、どうぞ入ってください。母がいるかもしれませんが……気にしないでいいですから」

「……え?なんだかものすごく恐いんだけど?」

 百合ちゃんもなにやら苦虫を噛み潰したような感じだったがその百合ちゃんたちのお母さんって恐い人……なのかな?

 リビングへと続く扉が開け放たれ、僕は恐る恐る一歩を踏み出した。リビング内をきょろきょろと見渡したわけだがそこには誰もいなかった。

「だ、誰もいないね」

「あれ?そんなはずは……呼んでほしいって……」

 二人してきょろきょろしているとトイレのほうから音がした。どうやらトイレに入っていたようだが……扉をドンドン叩く音に変わる。

「な、何かあったのかな?」

「どうでしょう?」

 トイレのほうに急いでいくと、トイレの前に箱が置かれていた。それがどうも邪魔をしており、出られない状況に陥っているらしい。

 一分後、二人で箱をどかしてトイレから救助された青白い肌の女性。活発な百合ちゃん、雪ちゃんとは違った感じの女性が這うようにして出てきたのである。

「お帰り……雪」

「ただいま……どうしてたの?」

「見てのとおり、トイレに行ってたら出られなくなってね……朝、あなたが行ったあとすぐこんな状況に陥ったから……十時間近く軟禁状態ね」

「「……」」

 おそろしい話である。個室に閉じ込められて十時間近く……そんな雪ちゃんのお母さんはよろよろながらもリビングのほうへと向かっていった。

「あなた、お客様でしょう?」

「え?あ、はい」

「こっちにいらっしゃい」

 なんだか地獄に連れて行かれそうな雰囲気(僕が、ではなく彼女が)を纏っている女性だがついていくことにした。

 雪ちゃんが後ろから僕に話しかけてくる。

「母はトラブルメーカーなんですよ」

「そ、そうなんだ」

 さっきのあれってトラブルメーカーの範疇なのだろうか?一人暮らししていたら死んでたかもしれないと思うんだけど?

 リビングに通された僕においしいほうじ茶が振舞われた。暑い、暑いよ……汗をだらだら流しながらもお茶を胃袋へと流し込む。

「雪、この人にお母さんのことを説明して」

「え?あ、うん……間山さん、この人がわたしと姉さんの母である、宮川光です」

「どうも、説明してもらった宮川光です」

 ぺこりと頭を下げられたので慌てて頭を下げる。

「前にも言ったとおり、母は雑誌の編集長をやってるんですよ」

「編集長?」

「間山由美子はあなたの妹さんよね?私があの子をモデルとして起用したファッション雑誌の編集長」

「……」

 てっきり、由美子が言っていた編集長って男だと思っていたけど女性だったなんて……

「あなたからも由美子にまたモデルをやってほしいって言ってもらえないかしら?」

「え?あ、はい……けど、由美子は……」

 僕の言いたいことを察したのだろうか?雪ちゃんのほうにくびを動かすと彼女にこういった。

「ちょっとお仕事の話をするから……雪は夕飯の材料を買ってきて。そこにメモを置いているから」

「うん、わかった」

 メモを手にとって雪ちゃんは僕に一度だけ手を振って出て行った。

「さて、これでいいわね?」

「……あの、由美子は編集長のことが嫌いだって言ってましたけど?」

「はっきり言うのね…けど、事実だからしょうがないわ。私もあのこのことが嫌いだし」

「……」

 一つ本当に疲れているようにため息をついた。何か事情があるのだろう…。

「あの、よろしければ話してくれませんか?」

 にやっと笑い、雪ちゃんのお母さんは首を振った。

「それはできないわ。私とあのことの間に他人を入れるほど私は甘くないし、仕事も甘くないの……もしかしたら今、あの子はあなたの言葉を聞こうとしているかもしれない」

 ぎくりとした。実際、そうなのだから仕方がないわけだが。

「他人の言葉を聞くっていうのはいいことなのかもしれないけど決定してしまうのはいけないことなのよ……あなた、将来の夢とかある?」

「え?僕は……教師になりたいなって思ってます」

「教師、いいわね……私もいつかはなりたいって思ってたけど鬼編集長って肩書き持ってるからね、捨てるに捨てれないわ」

 一つ、また疲れたため息をついてから鬼編集長さんはこういった。

「A、Bという道を選ぶ選択肢。答えは誰にもわからない、けど、あなたが信頼している人がAをとるべきだといった。ちなみに、Aをとるべきだといった人はBの道を進む……ここまではわかるわよね?」

 わかるも何も、言葉通りの意味だろう。

「はい」

「よし、じゃあ次……実際、Aをとったあなたが道の途中で猛獣と出会い、怪我をした」

 頭の中に虎に襲われる自分を想像する。むごい話だ。

「あの時、Bを選んでいれば自分のことを信頼していた人と一緒に楽しく道を歩けていた。そう思う?」

「それは……多少は思うと思います」

「そうでしょう、だから、あなたがあの子に何かを言うのは控えておいたほうがいいわ……人生、それでうらまれてはい、さようなら……ってこともあるかもしれないからね。女の恨みは相当おそろしいわよ」

 あ~つかれたって顔をしている。女の恨み……ねぇ……

「ま、あなたがあの子になんと言おうとあなたの自由よ。関係はあるけど私がどうこう言えるってわけじゃない」

「……」

「ただいま~…霧之助!置いていくってのはさすがに酷くないか?……って、母さんいたの?」

 リビングへ姿を現した百合ちゃんを見て百合ちゃんのお母さんは一つため息をついた。

「いちゃ駄目なのかしら?」

「だって靴がなかったからさ」

「さっき猫に盗られたのよ」

 本当なのかどうか知らないがそんなことを言って僕のほうを見た。

「土壇場でキャンセルって言うか……僕には決めれないよ~とか言われたらどうなるでしょうね?私だったら深く傷つくわ」

「何の話してるんだ?」

「仕事の話よ」

 適当にあしらって百合ちゃんのお母さんは立ち上がった。身長が百合ちゃんと大して変わらないようだが目つきの鋭さは母親のほうが上かもしれない。

「じゃ、雪がそろそろ帰ってくるでしょうから夕飯でも作ろうかしら……」

 それからきっかり五分後、雪ちゃんが帰ってきたときにこの人は神様なんじゃないかなと思ってしまったのだった。


小説を書いていて他のものを思いつくことがあります。一つのことをやっていてわき道にそれすぎちゃったりすること、ありませんか?今現在、この小説はそういった危機に直面しているのです!他の小説のネタがどんどん頭の中に湧き出てきて……なんと、最終的に主人公が死んで終わるというそんな結末の小説がここ一週間でできてしまいました。やれやれ、大変な話です。せいぜい影響受けて霧之助が死なないような結末を目指さなくては!死んじゃったら題名どおりの小説じゃありませんね。スランプで後書きも駄々すべり感が否めない作家、雨月の後書きでした。さて、とうとう霧之助たちの夏休みも終わりに近づいてきております。二学期、進展というより霧之助にとって一つの転機が訪れます。それがいいことなのか悪いことなのか……作者はそれまで持つのか持たないのか……綱渡りをしているおろかなピエロをお楽しみください。感想、評価お願いいたします。十月二十一日水、二十時九分雨月。

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