◆第百四十四話◆◆
第百四十四話
決断の朝は来た。
「……眠い」
きっと、今鏡に映った僕を見たら誰もが逃げ出すに違いない。目の下には凶暴なクマがいついているために機嫌の悪い百合ちゃんと同じような印象を相手に与えることが可能なはずなのだ。
のっそりと自室を出るが当然のようにそこに由美子の姿はなく、僕はこれからどうするべきかいまだに悩んでいた。
悩んだら眠れなくなる夜を自分で体感するとはこれまで思いもしなかった……
眠たいまぶたをこすりながら由美子の部屋へと向かう。
「……由美子ぉ、おきてる?」
「……ぐぅ」
寝ているようだ……僕もそろそろ力尽きそうだったが何とか踏ん張って顔を洗いに行こうとする……
「うがっ!!」
その途中で何かにつまずいて転び、ひんやりとした廊下に頬を打つ。ああ、頬が冷たくて気持ちいいなぁ……夏だ、夏だから廊下でねたってかぜ引かないはず。ああ、廊下がつめた……い。
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気がついたときにはもう太陽が眠りにつこうとしている時間帯、夕方だった。間然にではないが体力を回復した僕は何とか立ち上がって自分が何をしようとしていたのか思い出すことにしたのだが……
「顔を洗いにいこうとしたのか、由美子に会いに行こうとしたのか思い出せないなんて恥ずかしいなぁ…」
まぁ、結局どっちもしないといけないことに変わりはなかったので由美子の部屋へと向かうことにしたのだった。僕の出した答えは……
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「ごめんね、昨日聞き忘れていたことがあったよ」
「お兄ちゃん……やっとおきたんだ。いつおきるか気になって放っておいたんだけどまさかここまで寝てるなんて思わなかったよ」
「うん、僕もびっくりだよ……」
「で、ききたいことって何?」
ききたかったこと……
「なんでそんな話になったのか教えてほしいんだよ」
「……そっか、まだ言ってなかったね」
ごめんごめんと舌を出しながら謝る由美子を少しだけ、そう、少しだけ(たとえるなら小鳥がさえずる姿を見ている猫ぐらい)可愛いと思いながら続きを待つ。
「……雑誌の編集長がね、男関係が解消されたのなら戻ってきてもいいんじゃないかって……結構言ってくるんだ」
「そっか、そりゃ……よかったね」
「ううん、よくないよ」
なんだか元気のないようにため息をついている。
「どうか……したの?」
「うん、私あの編集長のこと嫌い……私自身は戻りたいって思ってる。だけどね、その、編集長が嫌いだからそこにはもう戻りたくないの……わがままかもしれないけどね。それでも、お兄ちゃんがモデルをやって欲しいっていうのなら私は……がんばってやるから」
にこっと笑ってくれたがなんだかとても悲しい笑顔だった。そんなのきいたらまたモデルをやってる由美子が見たいっていえないじゃないか……
「あのさ、あと一ヶ月ぐらい時間もらえないかな?」
「…まぁ、編集長からは十月ぐらいまでに考えておいて欲しいって言ってきてるからかまわないけど……もしかして、殴りこみ?」
「行くわけないよ」
それだけ言って僕は自室へと戻ることにした。そして、布団を引っかぶって眠る。先延ばしはいけないってわかってるし、僕もそうする気はないけど……明日は明日で学校の清掃作業がある。今は目の前のことを考えてそっちを優先しておかないといけないのだから仕方がないじゃないか。
これ自身が言い訳だって事と自分で言ってておかしいけど今の僕がまともな思考回路を持っているわけがなかったりする。一日起きてていい考えが浮かぶわけがないじゃないか!
今回の後書きは……次回に持ち越しということで。いえ、別に逃げているというわけではありませんよ?感想……お待ちしております!十月十九日月二十一時五十六分。