◆第百四十一話◆◆
第百四十一話
「暇だ」
お祭りが終わった数日はそんな感じだった。毎日由美子に電話がかかってきてそのたびにどこかに行ってしまい、僕は部屋でごろごろ過ごしていた。悠子がくれた謎の置物をじっと見ていると不安になってしまうので部屋にはいないほうがいいだろうと考えた火もあったりしたのだ。そう思ってキッチンのある部屋にやって来たりもしたのだが特にすることがない。いや、本当はあるんですよ?夏休みの宿題とかもう八月上旬だしそろそろ手をつけ始めておかないとあとで地獄と天獄を見そうだからさ。去年は悠子がいてくれたから、ずっと宿題とか自習などしかやってなかった夏休みだったから秋からの授業にも好スタートをきれた。僕が宿題や自習をしようともしないでどこかに行こうとすればあの子、ものすごく僕のことをにらむんだもん。そんな恐い恐い妹である悠子が海外に行ってしまったおかげで僕の心と夏休みの友は青色吐息ですよ。それが数日前の話。しかしまぁ、今現在暇だ暇だとうなっていた自分を叱咤したい気持ちになっているわけで、時駆け機械なるものがあれば絶対に過去に行っていたに違いない。お勉強をしなくちゃいけない状況には陥っているのですよ。悠子から頼まれたかどうかしらないけど……
「霧之助さん、手が止まっていますよ」
「……はい」
結さんがね、毎日毎日朝八時から僕の家にやってきているんですよ。結さんが来るようになってもう、本当……四日で夏休みの友がお役ごめんになっちゃって今じゃ秋からやるであろう授業のところをびしびし教えてもらっているんです。
「あの、結さん?」
「何でしょう?」
「そのぅ、いえ、なんでもないです」
しかも、結さんはほぼぴたりと僕に引っ付くように近いのだ。しかもちゃぶ台返しに使うような味のある代物で勉強しているため正座。立とうとしてふらついてそのまま結さんを押し倒すようなことがさっきはあったのだ。
殺されてしまうかもしれない。
そんなことが脳裏によぎったわけだけども、結さんは微笑むだけで僕を殺そうとはしなかった。てっきりどすっ!ざすっ!!ずばばばっ!!!ってな展開になると思っていた僕はほっと胸をなでおろしたりしたのだ。
「また、手が止まってますよ?」
「あ、すいません……」
再び指摘されてしまったので慌ててをうごかして先に進める。手を動かした状態でならば結さんは一応話をしてもいいようで(逆を言えば手を休めた状態で話しかけても無視される)そうやって今日までコミュニケーションをとってきた。
「あの、結さん?」
「何でしょう?」
「結さんはもう夏休みの宿題を終わらせているんですか?」
「わたくしの心配をしてくれるのは非常にうれしいのですがわたくしは今年が受験なのでそういったものがないんですよ」
「え?」
あ、そういえば年齢的に僕より二つ上……だろうか?もはや記憶があやふやとしているのだが一体全体結さんは何歳なんだ?
「あの、結さん……」
「何でしょう?」
「一つ、わからないことがあるのですが……結さんって何歳ですか?」
口元に手を持っていき、怪しく笑う隣人のお姉ちゃん。
「ふふっ、知りたいのですか?」
「……いえ、やっぱりいいです」
湧き出る殺気を隠すこともなく僕に笑いかけてくる結さん。きっと、知ったら消されるんだろうなぁ……好奇心で人は死ぬらしいし。
そんなバカなことをやっていること数時間。そろそろ予定していた夕食の買出しに行く時間である。
「では、行きましょうか?」
「はい、そうですね」
結さんも最近また僕の部屋で食事をするようになったために二人で買い物に行くことが多くなった。由美子が何処に行っているかは教えてくれないのだが帰りが遅いために結さんがついてきてくれるのである。帰り道に僕が襲われない様に……って僕は女子中学生かっ!?
「今日は何を作るんですか?」
「そうですねぇ、夏だから……」
「夏だから?」
「カレーですかね?」
「安直ですけどまぁ、期待していますよ」
「任せてください、がんばって作りますから」
スーパーの野菜売り場でジャガイモを品定めしていると視界の隅にどこかで見たような収集家が入った。
「……ちょっと結さん、知り合いがいたので挨拶してきます」
「そうですか……それならわたくしはニンジンを見てきますから」
結さんだけを残して何処かに行くのは少しだけ惜しい気もしたが今日はちょっと収集家さんの様子が変だったのである。
前回でネタがない困った困ったと思いましたがまぁ、なんとかなりそうです。そして、今回以降出てくる時羽編での登場人物はみんなももう忘れているあの人……そう、あの人が出てくるのです。次回、時羽編スタートです!十月十六日金、十六時二分雨月。