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第十三話◆

第十三話

 どこの学校にも基本的に図書館が備わっている……というより標準装備?まぁ、僕が通っている高校は図書館の面積が多く、地下二階まで蔵書が確認できる。さらにその下にもう一階だけ下があるといわれているのだが残念ながら下へ向かうための階段はどこを探しても見つからない。まるで七不思議のひとつみたいだ。

 とにもかくにも、体育委員でありながら図書委員長もかねている宮川百合図書委員長さんに放課後会いたければ図書館に行けば大体会えるのである。しかも、百合さんが怖いのかそれとも活字離れが深刻なのかわからないが図書館には基本的に人が少ないために彼女と話せる時間は長い。

「百合さん」

「ん?どうした霧之助」

 暇そうな表情を出しながら机にすらっとした足を投げ出して組んでいる。そしてその手には『全国対抗!これが日本の剣道用最高防具取扱店!』と書かれている本が握られていた。

「あの、実は話したいことがあるんです」

「何だ?」

 組んでいた足を下ろしてこちらに微笑みかけてくる。剣道の時のとげとげしさがなくなっていたのは今、彼女が機嫌がいいということなのだろう。もっとも、彼女がポーカーフェイスだった場合は最悪のタイミングかもしれない。

 どうでもいいことかもしれないが、百合さんの目つきがものすごく悪くなるのは機嫌が悪いとき、眠いとき、昨日寝てないときなどだ。最初であったときに目つきが悪かったのは眠かったからで、元からそんなにおそろしいほどの目つきではなく。まるでヤ○ザさんみたいな目つきぐらいだ。

 どうやって話そうなかぁと考えていると百合さんが両手をぱんと叩く。

「もしかして…告白か!?」

「違います!」

「って、そんなに否定しなくたっていいだろうに」

「すみません……」

 調子狂うなぁ…しかし、これから先言うことは確実に百合さんのご機嫌を損ねることにつながってしまうだろう。

「……百合さん、百合さんが落第した理由を教えてください!」

 頭を思い切り下げた。これは二つの効果がある。卑怯だとののしってくれてかまわない……一つ、百合さんの顔を直接見ないで済む。二つ、相手に誠意が伝わると思う。つまり、自分がへたれですと宣言しているような話だ。

 まったく反応がないなと思っていると頭に何かがかぶせられた。

「え?」

「……いいよ、教えてやる……けどさ、教えるだけじゃいやだから、霧之助があたしと剣道で試合している間、お前が倒れるまで話を続けてやるから」

 剣道用の防具一式をつけろといわれ、もたもたしていると百合さんが近寄ってきた。

「おい、何だ?着せて欲しいのか?」

「こ、こんなの一人でできます」

「……そうか、それならちゃちゃっとやってくれ」

 なんとか着用して(頭にタオルを巻いていない……わかる人にはわかるが、これがないのとあるのとでは結構違いが出てくる)天井の広い図書館で何もつけていない百合さんとにらみ合う。

「防具、つけないんですか?」

「ハンデ」

 余裕の笑みだが目は笑っていない。じりじりと近寄ってみるが相手はまったく動かない。瞬きしてすぐ後、百合さんが動き出した。

「……一年前、屋上で一目ぼれしたやつに告った……けど、一年前の今日振られて……はらいせに近くのものを壊してたらそいつがまたきやがって……止めようとしたから無理に振りほどこうとしたらここ、本棚が倒れてきてそいつはあたしをかばって大怪我だ。はっ、あいつはあたしを弁護しようとしたがな……そんなことあたしは望んでなかった。だから適当な嘘をついていたらなんだか自分でもわからなくなってきて気がついたら一学期中ずっと停学。その後も休みがちだったからな……一学期に暴力事件を起こすと友達なんてあまり出来ないものだ……しかも、そいつは転校してたし。これが事件の結末。別におもしろくもなにもなかっただろ?」

 百合さんが半分しゃべり終えるまでにすでに足がふらふら。

闇雲にふってもかすりもしないし、竹刀が触れ合うこともなかった。胴を薙ごうとしてもそれよりも低くしゃがまれ、後ろを取られる。振り返れば文字通り面食らっている間に胴と、小手を叩かれる始末だ。小手先だけの技術じゃ絶対に勝てない相手……まぁ、剣道部でも何でもないから勝たなくていいんだけどね。

 全ての話が終わったとき、僕はとっくに前に倒れており、背骨の中央に竹刀をつきたてられていた。

「霧之助に八つ当たりしたことは悪かったとは思ってる」

「そ、そうなんで……すか……」

「ああ、そうなんだよ、お前ぐらいしか友達いないからな。八つ当たりする対象も必然的にお前だけだ♪」

 にやっと笑っている百合さんに笑顔を返したかったがそれもできないほど緊張とダメージが酷いために荒い息しか出ない。しゃべりながら剣道なんてできるはずないのにこの人はやってのけたのだ……まったく、末恐ろしい人である。

「けど、今度からは何かあったら話してくれませんか?何かできなくても話を聞くぐらいはできるかもしれませんから……」

「あ〜そりゃ無理だな。前文英語でしゃべってやるから」

 僕の英語能力はものすごく酷い。それを知っているのだろう……

「安心しろ、自分だけじゃ駄目だって思ったときは友人のお前にちゃんと話すから」

「え、ええ……おねがい……します……」

 酸素を一生懸命吸って何とか立ち上がる。そして、立ち上がった僕の頭に竹刀が軽く落とされた。

「いたっ」

「これ、内緒だからな?言ったらド突き回すから」

「え、ええ……誰にも言いません」

 図書館から出て行こうとする百合さんの足が止まる。

「あ〜…もちろんこれも内緒だが……あたしが告ったのは男じゃない、女だ。それと、勘違いするなよ」

「は……」

 そして、二度とこちらを振り向くことなく去っていった。


さて、少しシリアス方面に走ってみた十三話、どうでしたか?というか、いまさら気がついてなんですけど悠子に百合、悠ってどれもツンデレっぽいような……ま、まぁ、いいでしょう。とにもかくにも、次回はなんとなく久しぶりに悠が出てきます。忘れてしまった方、もう一度読み返してください。感想、お待ちしております。

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