◆第百二十九話◆◆
第百二十九話
僕を本棚の陰に引っ張りこんだ名古ちゃんの顔は泣きそうだった。
「な、何で泣きそうなの?」
「先輩が友達なんか連れてくるからですよぉ!」
「はぁ?つれてきちゃ駄目だったの?」
「駄目です!口が硬そうな人ならともかく、あの人めちゃくちゃ軽そうですよ?」
「う~ん、しゃべっちゃ駄目だって言っておけば大丈夫とは思うんだけど……それで、何で駄目なのかな?」
しばし、休息タイム?静かになった名古ちゃんの口からは消え入りそうな声が押し出されてくる。
「言ったじゃないですか、あたしがコレクターだって」
「ああ、言ったね?」
「あたしの部屋にも来ましたよね?」
「来たね?で、それがどうかしたの?」
「そのこと、絶対にしゃべっちゃ駄目ですからね?」
「何で?」
何故、言ってはいけないのだろうかと思ったのだが名古ちゃんはどうやらさっさと会話を終わらせたいらしい。
「絶対に!約束してください!約束しないのならトラブル起こしますからね!」
すでにトラブルが起きていると僕は思うんだけど……なぁんて言えずにとりあえず頷いておいた。
――――――――
「で、作戦会議は終わったのか?」
「まぁ、作戦会議ってわけじゃないけどさ……この子は名古時羽ちゃんって言うんだ」
「初めまして」
ぴょこりと頭を下げている隣の名古ちゃんをじーっと見ている猛。
「何?もしかして一目ぼれでもした?」
冗談でそんなことを言ってみた。猛は僕のことをやれやれ、こいつは何を言っているんだ?といった目で見ていたのだが……
「お、黄銅君……そうなの!?」
気がついてみたら猛のことを好きだという矢田さんが近くにいた。ああ、そういえばこの人って図書委員だっけ?さっきも見かけたし。
「え?あ?違う!そういったことでみてたわけじゃ……」
「黄銅君の二股ぁ!!」
「あ、ちょっと待てって……霧之助、お前後で覚悟しとけよ……」
「行ってらっしゃい」
古今東西台詞を残していく奴はせっかちな感じが否めない。そんな友人に手を振ってさっさと行くように促す。やれやれ、世話のかかる友人だ。
ぼけっと突っ立っている名古ちゃんの肩に手を置く。
「そろそろお昼休みも終わりだけど?」
「え?ああ、そうですね……」
存在しない生物を見たかのようなその目はなにやら熱っぽかった。
「あんなこと、小説以外でもあるんですね?」
「思い込みとか激しかったらあるんじゃないかな?」
「そうなんですか……あ、先輩今日あたしの家に来ません?」
う~ん、名古ちゃんの家か……あまり行きたくないというのが本音だけどまぁ……
「……わかったよ、行くよ」
「あの、なにやら嫌々来てくれようとしてません?」
「ちょっと疲れてるだけだから」
正確にはこれから、放課後疲れるってことなんだけどねぇ……
――――――――
不貞腐れていた猛を置いてさっさと教室を後にする。百合ちゃんの姿がなかったのが気がかりで一応メールを送っていると待ち合わせていた人物がやってきた。
「あ、先輩のほうが早かったんですね」
「まぁね」
そんな話をしているとクラスメートの一人が近くを通りかかった。
「間山、お前いつの間にそんな可愛いことを一緒に帰るようになったんだよ!その彼女、今度俺に紹介してくれ」
「あはは、何言ってるんだよ……別に彼女じゃないから」
「じゃあ、これから何処に行こうって言うんだよ?」
挑むようなその目つき。面倒な奴に捕まったものだ。
「この子の家だよ」
「間山、そっか、俺とお前では超えられない絶対的な壁があるんだな……」
なにやら察したようにそういって手を振ってくれた。あいつも疲れてるんだなぁ。
「じゃ、行こうか」
「え、ええ、わかりました……」
こうして、僕と名古ちゃんは学校を後にしたのだった。
「あ、もしかしたら今日お母さんとお父さんが帰ってきちゃってるかもしれません……いいですか?」
「別にかまわないけど……お母さんとお父さんは何してるの?」
「お父さんは部品会社の社長をやってます」
「……すごっ」
「お母さんは教師です」
「へぇ、僕の母さんも教師なんだよ」
「その割にはあまり頭よさそうには見えませんね?」
「それを言うなら名古ちゃんもね」
「ふふふ……」
「あはは…」
そんなフレンドリーな会話をしながら僕らは校門のほうへと歩いていったのだった。
気がついたら次回で百三十話ですよ。よくここまでこれたなぁ……と、聞こえはいいのですが百話超えている小説なんて沢山あります。さて、ネガティブな話はこの程度にして雨月の活動報告読んだ方は知っているかもしれませんが更新スピードが下がる恐れが出ています。ネタ切れと言えたら幸せでしょうがネタはあります。今後展開としては後輩の家に行き、それが終わったら期末試験、一学期終了です。よろしければ感想をお願いします。十月六日八時五十六腑雨月。ちなみにわざとです。