第十二話◆
第十二話
「めぇぇぇぇん!!」
剣道の選択授業。なぜか男子のところに百合さんが混じっていてしかも僕の対戦相手だった。始まってすぐ臆する僕に滅多打ちを敢行してきやがった。
面と胴を徹底的に狙われた挙句突きのフェイントまでしてきたのである。
これはもう、私怨が混じっているとしかいえない殺伐とした戦いだった。
しかも、まだ二回目だというのに練習試合的なものだった。そのため、先生の止めがあるまで続けないといけない。経験者相手だともはや赤子の手をひねるも同然で生まれたての子じかのような僕はライオンに徹底的になじられ(そんなんじゃ侍の時代で生き残れない!)、いたぶられ(面を食らうたびに目の前がかすむ)、場外に押し出されたりもした。
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「百合さん、僕に何か恨みでも?」
「べっつにぃ」
五月に冬服はものすごく暑い。いずれ世界は電子レンジのようになって人類皆こんがりジューシーになってしまうのではないかと僕は危惧している。その考えをふと悠子にこぼしてしまったために徹底的に馬鹿にされた。しかも、こんがりジューシーには絶対にならないというところで議論になったのである。まったく、あほらしい。
「久しぶりに剣道したからついついね……」
「先週もしたじゃないですか?」
「そうだっけ?」
ふんとそれだけ言って教室から出て行ってしまった……なんだろ?何か怒ってる気がする。
「悩める君に、俺参上!」
「猛……」
廊下からのスライディングで現れたところを見るとものすごく暇なようだ。胴でもいいことだがこのクラスの学級委員長をしているのがこのクラスである。異様な雰囲気に包まれ、クラスメートたちが『お・う・どう!お・う・どう!』と連呼しているさまは一種のカリスマ性がこの男にあると気づかされた瞬間でもあった。
「別に悩んでないけど百合さんの機嫌悪くない?」
「あぁ、そりゃああれだな」
「あれ?」
「いや、あれって言うのはだな……」
「あれってなんだ?」
「……以前話しただろ?宮川百合が暴力事件で落第したって話」
「ああ、あったねぇ」
ちょっと前の話なのにもはや忘れかけている。
人間、どうでもいいことを頭の中に入れておくと早めに忘れるようである。
つまり、僕にとってその話題はどうでもよかったということになってしまう。せっかく初めての友人(どうやら百合さんの話は広まっているようで百合さんと仲がいい僕の友人はものすごく少ない)のことなのに忘れるとは馬鹿なことだ。ふと、一瞬だけおそろしい考えが浮かんだがその考えをさっさと振り捨てる。
「で、詳しいことはわかったの?」
「愚問だな……知らないならこうやって首を突っ込まない……霧之助……人は好奇心で行動を起こせるんだぜ?」
かっこよく言ったつもりでも無駄である。そしてクラスメートたちが後ろのほうで『お・う・どう!お・う・どう!』と叫んでいる……いつの間にこのクラスは猛にのっとられたのだろうか?
「行動起こせるのはわかったから……その事件の内容って?」
「どうやら以前彼氏だった男をぼこぼこにして病院送りにしちまったらしい」
「……」
「右手、左足の骨折だそうだ……しかも今日がその事件日だそうだ」
あぁ、だから荒れていたのか……これ以上首を突っ込んでしまってよいのだろうかと悩みながら、もっと詳しく聞こうとして授業のチャイムが鳴り響いた。
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「宮川百合?ああ、去年の今頃暴力沙汰起こした生徒でしょ?」
「ええ、どういった経緯でそうなったか知ってます?」
「あたしがしゃべったってこと、あの子に言わないよね?」
「勿論ですよ♪しゃべっちゃったら一生あなたのことをお守りしますから」
「へぇ、たくまし〜」
非常に手持ち無沙汰である。昼休み、二年生のところに猛に無理やり連れて行かれたのだ。そして、適当な二年生女子を捕まえて事情を聞き始めたのである。すでに猛は知っているはずだが再び情報を集めているらしい。
「一途だったそうだからね、その付き合ってた男子生徒が他の子にちょっかいをだしたとかだしてないとか……それが原因でしょ」
百合さんの元彼氏が原因か……ちょっとだけ面白くない気もしたが所詮は友人である。僕がどうこうできるわけでもなかった。
今回は百合さんの話でしたね。まったく他の二人が出ていないことに少しあせりながら(出す予定だったので)更新しました。ああ、なんだか悠の存在がうすぅくなってきているような気がしないでもありません。誰か彼女に愛の手を!