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私が2歳の時にお母様が居なくなった。
お父様に聞いたところ、お母様は病気のため、遠い場所で静養させていると言っていたけど。
若いメイド達の噂話では、お母様はお父様が領地に出向いている半年間に見知らぬ男を屋敷に招き入れていた。
その事がお父様に知らてしまい、その男と共に屋敷を追い出された。ということになってみたい。
「ローラ様が、嘆いていたわ、政略結婚は本人達の意思ではどうにもならないことだったけど、お側に居れたならお力になれたのにと」
「そうね、ローラ様もご結婚されてこの地を離れてしまったから」
「えっ、ローラ様と侯爵様のご関係って・・・」
「あら、知らなかったの、お二人は幼き頃からの仲なのよ、侯爵家嫡子と没落子爵令嬢では身分差があるじゃない、駈け落ち寸前のところをローラ様を遠い地に嫁がせて、引き裂かれたのよ」
「「悲恋よね」」
「そうだったの」
この若いメイド達は、娘である私が側に居るのにも関わらずお喋りに夢中になっている。
身分差恋愛、悲恋、略奪愛など、噂好きな女性達の好物なのは今も昔も変わらない。
4歳の私にはわからないも思って話しているのだろうが、実はこのシャノン アイゼント4歳児の中身は、32歳の白川秋なんです、産まれたときから自分が白川秋だと、自覚している。
お母様がお屋敷から居なくなってもう2年が過ぎた。
噂の主人公、ローラ様とは2年前に我が家にやって来たお父様の幼馴染みらしい、もうすぐ4歳になる娘もいて、離れで暮らしている。
私のナニーってことになっている。
(本当にお母様は何処にいってしまったんだろう、お父様の言う通り本当に病気なのかな)
透き通った空を見上げていると、そんなことを考えてしまう。
私付きの侍女のアイファがメイドを連れて戻ってきた、噂話をしていたメイド達はいつの間にか居なくなっていた。
用意されたお菓子を眺めなからも(病気とはどんな病気なんだろう)
つい、そんなことを考えてしまう。
「シャノン」
呼ばれて振り返れば、お父様の妹のリリー叔母様が両手を広げ微笑んでいた。
「リリー叔母様!」
4歳児らしく抱きつくと、リリー叔母様は頬擦りしてくる。
「あーシャノン、かわいい」
リリー叔母様は本当にシャノンを愛して可愛がってくれる、お母様が居なくても、寂しくないようにと、益々溺愛してくる。とても優しくて素敵な方なのだ。
リリー叔母様の旦那様は外交官で、叔母様もたまには、一緒に外国に付いていったりしていて、まだ4歳で屋敷からまったく出たことのない私に、色々な外国の文化や食事、人々の生活などのお話しをしてくれる。
今日も、沢山のお話しをしてくれた。
楽しい時間はあっという間に過ぎていた。
「リリー様、お嬢様、クロード様がお戻りになられました」
執事長のオルロンが呼びに来てくれた。
「あら、オルロン自ら来てくれるなんて」
オルロンはお祖父様の代からずっと仕えてくれていて、前侯爵様、前々侯爵様と代々アイゼント家に尽くしてくれている一族、云わばアイゼント家の生き字引の様な人だと思う。
「リリー様・・・」
オルロンが叔母様に何か話しかけているが、頭の上のほうでこそこそ話されては私にはまったく聞こえない
「・・・わかったわ」
「シャノン、お父様は執務室よ、アイファ」
「はい、畏まりました」
私はアイファに連れられて執務室に向かった。
(あれ、叔母様は行かないの?)
リリー叔母様とオルロンは執務室とは逆に向かって行ってしまった。
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