始まりの1ページ
今回は幕間です。ちょっと長くなってしまったのはそういう時もあるよねってことで許して
「あらー、やっぱり負けちゃいますよねぇ。そもそもとして、多勢に無勢だったんですよ。これに懲りたら次は味方を増やすように動いてくれると面白いと思うんですけどねぇ。」
私は今まで見てた窓を閉じ、ひとりごちた。
「それにしても強かったですねぇ、あの転生体は。恐らく【人】の子なのでしょうと思っていたけれど……あれは【武】と力を合わせていたのかしら?それに、とても優しい。……いえ、それはあの転生体の性格ね。きっと。」
そう言って仕事を再開する。
「さてと、じゃあ溜まった仕事を終わらせちゃいましょうかしらね。」
指を一振りし机と椅子、書類を取り出す。
お気に入りのアンティーク調の肘掛椅子に座り、束になった書類の中から1枚抜き取る。
そこには世界の住人からの強い願いが書いてある。
「えーっと、なになに?最高の服を作りたい…?あら、また服装に関する願いが大きくなってきたのね。やっぱりブームってのがあるのかしらねぇ?最近は武器の強さに関する願いが大きかったのだけれども……ま、それはタイミングによるものもあるのでしょうね。それじゃあ【服】にまた仕事してもらわなきゃね。」
そう言って私は書類を放り投げる。ヒラヒラと落ちた紙は地面に着くなり人型に変質した。その人物は派手派手しくは無い程度に、しかし確実に高価であろうと分かる服を着ていた。
「【服】の神、またあなたの力が必要になりました。仕事をお願いしますね?」
「ええ、分かりました。世の中のファッションを高い水準の物に致しましょう。」
そういうと【服】は一礼して姿を消す。
そして残った私はまた椅子に座り書類を手に取る。が…
「うーん。飽きました!もっと面白いことは無いんですかー!この前の【邪】vs【人】みたいな程々に面白い戦いを所望します!!!」
そんな誰が叶えるのかも分からない望みを叫びながら別の書類を手に取る。
「はぁー、なんだかんだ言いながら仕事をする私って偉い……ん?好きな子の願いを叶えたい?こんな願いがあの世界からここに届くなんて珍しいですねぇ。きっとほんとうの平和になったってことなんでしょうね。良いことですが願いを叶えるのは私なんですよねぇ……」
そう、願いを叶える役目を持ったのは、持ってしまったのは私だ。他の人に願いを叶える力を持たせるのは良くない事だし、そもそも出来ない。
「結構多くの人が願ってますがこればっかりはどうしようもないんですよねぇ。取り敢えず【恋】に恋愛成就の祈願でもしとけって感じです。私はそれを眺めるの…で……」
その時、私の頭の中に名案が浮かんだ。
「そうです。そうですよ!この世界で願いを叶えるのは私の役目!私以外にこの役目をこなす人は居ない。つまり!私の願いも私が叶えていいんです!!!!」
私の願い、それは「面白い物が見たい」
ずっと仕事ばかりの生活で面白みの欠けらも無い。昔はそれでよかったが、一度何となくで見た人々の生活。それは私に大きな衝撃を与え、興味を持たせるのに十分な物だった。
それ以来、退屈というものが嫌いになってしまったが、反省はしてないし後悔もない。
「でもどうしましょう。どうしたら面白いものが見れるのでしょうか?そもそも面白いとは?」
そんな哲学めいたものを考えながらうんうんと唸っていた時
「あ、そうです。私も異世界から人呼んじゃいましょう!異世界から人が来た時に面白いことがよくありましたし。そうです、そうしましょう!」
思いついたら即行動。それが私の信条だ。
「さて、どんな人を呼びましょうかねぇ。簡単に呼べる人だといいですねぇ。お、ここの世界は魔法を使えるんですねぇ。ならここから呼べば魔法使いの人呼べるからこの世界でも戦えそうですね。とりあえず呼んでみますか!」
私は手っ取り早く程々に戦えそうな人間の男性を選び召喚した。
「あ、え?なんだここ。俺はさっきまでダンジョンにいたのに───」
「どうもー!おめでとうございます!貴方は神に選ばれ異世界に転生する事ができます!」
……………
「あれ?あのー?もしもーし?聞こえてますか?」
「な、何を言ってるんだ?キミは。親御さんはどこにいるんだい?」
「む、私は子供ではありません!言語の方が同期出来てないんでしょうかね?んーと、これをこうやって……」
コンソールを呼び出して空間設定を弄り再度男性と向き直る。
「よし、これでいいはず。私の言ってることは分かりますか?」
「あ、あぁ。何で急に話せるようになったのかは分からないが、ここはダンジョンの中で特殊な罠を踏んでここに居るってことなのか?それでキミはダンジョンフェアリーかい?」
「よかった。これでちゃんと話が出来ますね。それでは改めまして、おめでとうございます!貴方は神に選ばれ異世界に転生することができます!」
「えーっと、つまりキミは神様で俺は死んで別の世界に転生することができるってことかな?」
「え?違いますよ?ただ貴方が選ばれただけです。特に死んだとかでは無いですよ?」
「なら元の場所に戻してくれないか?まだやりたい事が沢山あるんだ。」
「あ、それは無理です。」
…………
「は?それは無理って、どういう?」
「私は別の世界に干渉して生物を呼び込むことは出来ますが、戻したり送り込むことは出来ないんです。送り込むが出来てしまうと簡単に戦争が起きてしまいますからね。呼ぶのもちゃんと自重してかないと怒られちゃいますし。」
「じゃあ、俺はもうあの場所に帰れないのか?」
「まあそうですね。」
「そうですねって、そんな勝手な……理不尽すぎるだろ!」
「怒らないでくださいよ。元の世界には帰れませんが、私の世界で楽しく過ごすことは出来ますよ!今なら好きな世界に行くことが出来る特別キャンペーン中で──」
「バーンランス」
ドッ
「え?」
「内側から燃え尽きろ」
私の体にメラメラと燃える槍のようなものが突き刺さる。彼の言葉を受け温度が急激にあがり、体内から激しく燃え上がる!───かのように思われたが。
「あっつい!何するんですか!」
私はそこにある魔力を奪い取って消火した。
「……ちっ、なら…」
「ちょっ!またやるんですか!一旦落ち着いてください!」
何とか話して落ち着かせようとしたが落ち着く気配はない。何度も私に向かって魔法を使おうとする彼を止めるには、こちらも魔法を使うしか無かった。
「もう!束縛!」
「!くっ、こうなったら……」
「抵抗をやめなさい!貴方の抵抗は全て無意味ですよ!」
「はっ、全て無意味がどうかはやってみねぇと分からねぇだろ?俺の命を賭ければ自称神のお前さんもダメージを食らうだろ?」
彼の身体から膨大な魔力が溢れ出す。人間という存在が持てるようなレベルでは無い。それこそ神やそれに準ずるものが持つレベルの魔力が人間の中から溢れ出していた。普通であればこんな事はありえない。ありえないが不可能ではない。
それこそ、命、人間の生命力を魔力に変換するなどの抜け道がある。だが、それは生物の根幹、つまり魂を傷付けるような行為だ。
そんな膨大な魔力を人間が操作できるわけが無い。良くて暴走させる程度だろう。暴走した魔力を止めることなど普通はできない。だが……
「だから言ってるでしょう!抵抗は無意味です!」
生憎と私は普通ではない。神という存在だ。たかが暴走した魔力など魔力の主導権を握ってさえしまえば問題無く操作できる。人間からしたら膨大な魔力も神からすればなんの問題も無いものだ。
「魔奪」
魔力を奪い、操作を制御する。本来なら暴走し爆発するだけの魔力を固定化させていく。
「な、なぜ!生命力を削ってまで魔力を構築したというのに!」
「所詮はただの魔力ですよ。奪い取ってしまえば私の魔力です。あのくらいの魔力の量なら制御はそう難しくありませんしね。」
「はっ……そうかい。」
(それにしてもどうしましょう。この人は転生する気は無さそうですし……)
「なぁ、どうして俺をこの世界に呼んだんだ?世界の危機とかが有るのか?」
「いえ、違います。ただ私が面白いものを見たくてそれで別世界の住人を呼んだら面白くなるかなと思ったからですよ。」
「つまりはお前さんの自分勝手に巻き込まれたって訳か……はは、神様ってやつはとんでもねぇな。」
「えっと、嬉しくないんですか?人間は誰しも神に選ばれたら嬉しいものだと思っていたのですけど。」
「人によって違うとしか言いようがねぇな。神様を盲信してる奴らはそりゃ泣いて喜ぶだろうけど。俺はそこまでじゃねぇ。今まで自分の力や仲間と力を合わせて苦難を乗り越えてきた。そういう奴らからすれば神様なんて眉唾ものだ。たとえ、本物に出会ったとしてもな。」
「そう…ですか。」
「なぁ、そろそろこの縛ってるやつ解いてくれないか?もう暴れたりしねえからさ。」
「あ、はい。すいません。」
私が魔法を解除しても彼は暴れることなくただ私の眼をじっと見てきた。
「お前さんはまだ他の世界から人を呼び出すのか?」
唐突な質問、だが当事者だったからであろう。真剣な眼をしている。
「ええ、勿論。この世界に転生してくれる方を探して色々な世界から呼びますよ。ですが、貴方のような方もいることが分かりましたから少し方法を考えようとは思いますけどね。」
「そうか、それなら呼び出す前にその呼び出す相手の意志を確認したらいい。そうしたら少なくとも転生することを拒否するやつは呼ばないようにできるだろ。」
「なるほど、そうですね。確かにそうしたら無用なトラブルも起きないですね。」
二人でどのようにすれば問題なく人を呼べるのかを色々と話し合った。
「まぁ、こんなもんだろ。お前さんは動機が面白いものを見たいからって言うはた迷惑な物だ。だから呼ぶ奴も面白そうだからって言う理由で転生するようなやつじゃないと合わないだろうな。」
「はた迷惑なんて…酷いことを言いますね!これでも私、神さまなんですよ?」
「神は神でも厄病神だろ?お前さんは。」
「んなっ!?何てことを言うんですか!!」
「ははは、悪かったな。ま、これで勝手に呼び出したことはチャラにしてやるよ。」
「むぅ……そうですか。それじゃあ貴方はもう良いんですね?新しい世界で楽しく生きようとは思わないんですか?」
「俺は前のところが一番の居場所だったんだ。そこに戻れない以上、もう『俺』は終わってもいいんだ。」
「う、本当にすみません……」
「もういいんだよ。それで?俺は何かした方がいいのか?」
「いえ、楽にしててください。ここに居るあなたは魂だけの存在。肉体があるように思ってもそれは仮初のものです。だからそれを解いて輪廻の輪に魂を流してしまえばおしまいです。苦痛も何も無いのでそこは安心してください。」
「ああ、そうか。それじゃあとっととやってくれ。」
「はい、それでは。テル·ソールマー。貴方の魂を輪廻の輪に送ります。貴方の次の生に幸多からんことを。」
彼の身体が光を放ち、ゆっくりと消えていく。
これで彼の魂は輪廻の輪に流れたことだろう。
「よし!気持ちを切り替えて次の人を呼んでみましょう!」
両手でほっぺを叩いた私は次々と色々な世界を見ていく。そして一人の男性が目に止まった。
「お?なんでしょう。この人、なんとなく面白そうな気がします。魔法のない世界ではありますが、こうゆう所から人を呼んでる事もありますからねぇ。とりあえず呼べるか試してみましょう!」
そして私は目に止まった人が席を立った時に、操作していた何かに文字を映し出した。
「さて、どんな反応が見られますかねぇ……ん?え?あ!文字を向こうのものにするのを忘れてました!えへへ、うっかりうっかり。さてとそれじゃあ向こうの知識をインストールして、彼の住んでるところの文字に置き換えてっと……」
少し時間がかかったが何とか向こうの世界の文字でこちらの意図を映すことが出来た。
«貴方に権利が付与されました。利用するもしないも貴方の自由です。ですが1時間以内にご決断してください。»
読んでいただき感謝です。
次の投稿も今まで通り(?)だいぶゆっくりになってしまうと思いますが、気長に待っていてくださいm(_ _)m