悪役令嬢はヒロインの演技を褒め称える
「エヴァ! 婚約は破棄だ!」
アルの言葉で茶番劇は始まった。
卒業記念パーティーでの出来事。周りは貴族の子息令嬢ばかり。公爵令嬢の私に視線が集まる。
私はアルではなく、彼の影に隠れる少女を見た。
瞳を潤ませていて、儚げな印象だ。演技だと知っている私でさえ、彼女を庇いたくなる。
私はわざとらしいため息をついた。
「理由をお聞きしても?」
「リナをいじめた! 証言も証拠もある」
「証拠の提示をお願い致します」
「青の月3日……」
「その日は式典に出ておりました」
「同月21日」
「領地の視察に行っておりました」
やりとりが続いている間、リナは懸命にアルを応援していた。ほぼ全員、私とアルに注目しているのに、演技を忘れずけなげな表情を浮かべるなど、さすがだ。
リナがいじめにあった日すべてに私のアリバイはあった。
リナは涙を浮かべながら訴えかけてきた。
「エヴァ様、罪をお認めください」
目尻に浮かんだ涙は光をキラキラと反射し、美しい。
涙を浮かべつつ、けれどこぼしはしない。高等な技術だ。私は内心で舌を巻く。
いじめが否定されたにも関わらず、こちらが悪いと思わせる演技はやはり侮れない。
突然空気が変わる。私の背後から登場した第一王子ライアンのせいだ。
リナの表情は一気に青ざめた。すごい! と私は目を見張る。
「罪を認めるのは君だ、リナ。結婚詐欺で訴えられている」
結婚詐欺……。
私もアルも、他の貴族たちも目が点になる。台詞を覚えるのが面倒で、一括りにしたのね。
青ざめていたリナの顔が一転、真っ赤になって魔王の形相で捲し立てる。その変わり身、すごいわあ。
ライアンはリナを気にせず私の前に跪く。
「私と結婚してください」
「もちろん、喜んで」
私の返事に、リナは顔色を戻すとさっと指揮棒を取り出した。それを合図に、ファンファーレがなり、拍手が沸き起こる。
台本にない出来事に私は目を丸くする。
リナは花束をもって私に近づいた。
「ご卒業、そして王太子様とのご婚約おめでとうございます」
「ありがとう。こんなことに付き合わせてしまって、申し訳ないわ」
「楽しかったです。また何かありましたら、是非ご依頼くださいね」
営業スマイルで女優リナは礼をする。
彼女の舞台は何度か見たことがあるけど、間近で見るとやっぱりすごい。
ライアンの思い付きで卒業パーティーで寸劇をやるときいたときはどうかと思ったけど、リナに依頼して正解だったわ。
私は最後に、リナに向けて称賛の拍手を送った。
なろうラジオ大賞用作品です。千字以内縛りは結構キツイですね。
作品内で語れませんでしたが、アルも役者です。
お馬鹿な寸劇に付き合うくらいなので、エヴァとライアンはもちろんラブラブです。