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7.食料調達

 話を終えて、真悟と啓一の二人は当面の課題を解決する為に外に出た。外は陽が傾いて遠くビル群に触れようとしているところだ。まだ当分は明るい事だろう。


 ひとまず寝床は確保した。ホテルには綺麗な状態で保存された部屋が無数にあり、ベッドも十分使えた。部屋に溜まった埃はどうにかする必要があるが、道路のど真ん中やビルの陰、捨てられた車内で眠るよりは百倍マシだ。タスカーが近付いてくれば、ガーディが探知できるというから、安全性はさらに高まる。


 近くにあったコンビニ――コンビニだった建物というべきか――の電灯も消えた暗い室内を漁りながら、啓一が溜息をついた。今まで生活していた中では当然と思っていたコンビニの保存食品や菓子類、生活必需品の類まで、全て失われてあるのは空の棚だけだ。

 真悟達の手は片方にホテルの調理場から拝借した鍋があった。なんとかしてこれを満たすだけの食料を集めようと考えていたのだが、廃墟と化した現代日本の都市部で、まともな食糧源を求めるのは非常に困難と言えた。

 当てが外れたといった感じで、啓一が頭をかいた。


「やっぱ、コンビニなんかにゃ食い物は残ってねーな」

「七年も経ってるんだ。一緒に飛ばされた人に持ってかれたんだろ。というか七年も前のもん食べたくないぞ」

「ったく、楽はできねーもんだな……」


 頷いて、真悟は手に持つ杖を握りしめた。二人が持っている金属の杖は百八十センチ程の長さで、先端には直方体の宝石が紅に輝き、金属の足が六方向から宝石を包むように伸びている。まるでファンタジーに出てくる魔法使いの杖のようだ。ガーディが言うにはサイズは伸縮自在、射程は遠近両用、麻痺から消滅まで出力を調整できる優れものの兵器らしい。護身用として真悟達に渡したものだが、果たしてどれ程の力があるのかはまだ試していないので分からなかった。


 コンビニから外に出て、真悟は周囲を見回した。建物の陰や曲がり角が目に留まるると、ガーディがタスカーと呼んでいた、あの鉄をまとった獣達が飛び出してくるのではないかと、思わず身構える。他にも何が出てくるか、気になって仕方なかった。もうここは真悟の知っている神谷市ではない。カーマ・ガタラという異界の一部となっているのだ。


 啓一の方には、真悟程の恐れはないようだった。杖を両手で構えはしているが、ためらいもなくずかずかと町を歩いて回っている。

「そんでどうするよ。彰子先輩なんかただでさえ色々あって疲れてるんだ。何もありませんでした、今日はメシは我慢してください、なんて言いたくないぞ」

「狙いは他にもあるって。いいから手伝えよ」


 数分程歩いて目的地に辿り着き、真悟は改めてそれを認識した。

 先ほど真悟達が渡った橋の袂まで来て、真悟は柵の下を覗き込んだ。五、六メートルは幅のある清流の中に、ゆらゆらと揺れる魚の影がそこかしこに見える。

「こいつらを捕まえよう」

「マジかよ。川魚って臭いらしいぞ。そもそもこいつら食えるのか?日本に生息してる魚じゃない可能性すらあるだろ」

「取ってからガーディにスキャンしてもらえばいい。そういう事もできるって、あいつが言ってたんだからな」

「ガーディなあ……。あいつの事、信用できるのか?」


 真悟は啓一の方を向いた。啓一は言いづらそうに、口をへの字に歪ませていた。

「別に、さっき言った通り、あいつを信じるって事に嘘はねーけどよ?あんなデカいロボを作る、頭に超がつく科学力の持ち主だ。気付いたら俺達みんな、あいつの奴隷になってるなんて事もあるかもしれねーぜ」

「今そこを考えてもしょうがないだろ。今の俺達にはあいつの力が必要だ。まずはお互い信頼できる関係を手に入れよう。意見が対立したら、その時はその時考える」


 真悟は杖の握り部の近くにある目盛りに手を伸ばした。ガーディに説明してもらった手順で目盛りのロックを外して動かすと、杖のサイズが縮まり、構えやすくなる。出力の調整は隣の目盛りだ。

「出力は弱めにしといた方がいいかな?」

「おう。魚を吹っ飛ばさないようにしてくれよ」


 腕を組んで観戦する啓一に軽く手を振り、真悟は水面に向けて杖を水平に構えた。魚影の内の一匹に先端を向けて、スライド式の安全装置を解除し、手元に突き出てきた引鉄を引く。

 宝石が輝き光が膨れ上がった次の瞬間、紅の雷光が放たれた。手の中で杖が振動し、驚いて必死に握りしめる。しかし衝撃に耐え切れず、膝の力が抜けて尻餅をついた。

 雷光は狙いを外れ、魚影どころか水面を通り越して飛び、奥のコンクリートで固められた土手触れた瞬間、雷のような轟音と共に水面が爆発した。水面から巨大な水柱が上がり、赤い閃光の欠片が残像となって周囲に飛び散った。


「うおぁ!」

 真悟の後ろで余裕を見せていた啓一が驚きに声を上げ、両手を盾にした。水しぶきが周囲に飛び散り、橋や土手に降りかかる。

 数秒後、水と音と光が収まったところで、真悟はやっと立ち上がった。何が起きたか分かっているのかいないのか、自分でも正直自信を持てずに橋の柵に手をかけて下を覗き込む。


 波紋が揺れ動く水面に、真悟の太股程はありそうな大きさの魚が数匹、腹を見せて漂っていた。さらに目を奥にやると、コンクリートで整えられていた土手が砕け、大小様々な破片と砂のようになった砕片が散らばり、コンクリートがなくなったところは地肌を見せている。閃光が当たった土手のあたりは丸く抉れ、川幅が広くなっていた。

 杖から放たれた閃光は川を吹き飛ばした後、向こうの土手へと向かい、その破壊的な力をコンクリートに向けて思う存分発揮したらしい。


「こ、こんなもん俺達に持たせてたのか、あのメカ虎……」

 啓一が呻くような声を発した。真悟が顔を向けると、同じようにへたり込んで、引きつった笑顔を見せていた。予想していたよりも激しい破壊力に興奮と驚きと恐怖が同時に来て、顔の動きが制御できなくなっているようだった。


「とりあえず、とりあえず魚取ってこう。まずは飯だ。やっちゃったもんはしょうがない」

 真悟は杖を伸ばして浮いている魚を引き寄せた。パッと見た外見は鱒に似ていなくもないが、ごつい顎に並んだ牙と表現したくなるような歯や、長い尾びれの周辺の鱗は棘のように尖り、少なくとも真悟の知識にはない姿だ。先ほどの杖からの衝撃で内臓を粉砕されたらしく、魚はぴくりとも動かなかった。


 鱗が刺さらないように慎重に掴み、ホテルの調理場に転がっていた鍋にそのまま入れていく。よどみなく動く真悟に、啓一は変なものを見るような目になった。

「お前、なんつーかバイタリティがすげーっつーか、状況に馴染んできたな」

「慣れだよ、慣れ。サイボーグワニと巨大ロボットにロボット虎に会って、あげくの果ては全長30キロはある亀の怪獣の背中にいるんだぞ。いちいち驚いてたら身が持たねーよ」


 啓一にはそう言ったが、真悟の心中は決して穏やかではなかった。

 目の前に廃墟となって広がる、かつて見た街並みと、そこに人間の代わりに闊歩する怪物達。この街と街に住む人々がどういう道を辿ったのか、それによって作られた今に自分達はどうすればいいのか。ずっと戸惑っている訳にはいかない。


「魚は持つから、そっちは鍋で水汲んどいてくれよ」

「水?川の水なんかどうするんだよ」

「飲むに決まってるだろ」

 啓一が心底嫌そうな顔をした。


「冗談だろ。一人暮らしする前に、生水は飲むなってうちの婆ちゃんが言ってたぞ」

「沸かして飲むんだよ、沸かして。火を焚いて沸かせば何とかなるだろ。……多分」


 真悟としても正直自信はなかったが、せめて今日の分だけでも食料と水を確保しておかなくては今後の方針すら立てられない。周囲の状況が分からない今では、あまり遠くまで足を運びたくはなかった。背に腹は変えられない。


「大丈夫かぁ?これで腹壊したら俺達に明日はないぜ」

「やめろ縁起でもない」

「昔読んだホラー漫画に、毒素に汚染された水を飲んだらだんだん人間じゃなくなるって話があってよ」

「だからやめろって……」

 ぶつぶつと気を紛らわす為の会話をしながら、二人は魚と水を集めるのだった。

次回:28日18時予定

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