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6.協力体制

「カーマ・ガタラとはこの星の頂点に位置する機械生命体だ。私と同類といえば同類になるのかな」


 ホテルの最上階にあるスイートルームで、真悟達はガーディの説明を受けていた。暖色の照明の中、部屋の中央でガーディの喉笛の辺りが縦に裂け、内側から紅色の艶やかな鉱石が覗き、そこから青白い光が照射されている。照射された光はその先でホログラムを作り出し、巨大な神獣の立体図を描き出していた。六つの太い足を伸ばし、長い首の先には巨大な角をいくつも生やした頭がある。平たい甲羅の上には木々や大地が様々な形に配置されている。亀というよりは甲羅を背負った龍といった風情があった。


 神話にそういう生き物がいたな、と、真悟はふと思い出していた。この世界は全て、巨大な亀の背に載っているという伝説である。神話については置いておくにしても、今の自分達は地球からはるか別の星に飛ばされ、異星人が作った――あくまで仮定だが、それくらいしか説明の仕様がない――自我を持ったアンドロイドと会話をするという、後に伝説としてに名を残すような事を行っている。


「姿としては君達の星に生息している亀に似ているかな。種族全体で見ると全長は平均20キロメートル前後。これはもっと大きいな。40キロといったところかな」

「はあ?ちょっと待てよ!」


 当然のように言われた数値に、啓一が驚愕と非難の声をあげた。

「平均20キロメートル?昔のSFアニメの宇宙船だってもうちょい自重したサイズだぜ?一体何食ったらそんなデカくなるんだよ!」

「残念ながらそこまでの知識は私にはない。だが一つ言っておくなら、今私達のいるこのカーマ・ガタラは、何者かが自分達好みに改造したのは確かだ」


 ガーディの説明に納得はいってなさそうだったが、これ以上の追求は無理と判断したのだろう、一旦両手を組んで押し黙った。首をしゃくり、話を続けるように促す。

 ガーディは頷いて話を進めた。


「私の知識によると、君達の星……地球だったな、そこから飛ばされた神谷市のように、様々な星からこのカーマ・ガタラの背中に複数の町が連れて来られている。センサーで感知できる程度の情報はホロに追加しているが、周辺の状況はこれ以上分からない」


 真悟はホログラムに視線を移した。平たい甲羅の上に、神谷市の立体模型が小さく載っていた。正六角形の街は将棋盤の上に置かれた駒のように小さい。周辺には山や森に川、様々な地形が配置されているが、街から離れるにつれて影に覆われていた。


「これが神谷市って事は、さっきの山みたいにデカい影は何だったんだ?」

「あれはカーマ・ガタラが伸ばした首だよ。ガヴァタラは一日のほとんどを寝て過ごすし、動く時も緩やかだから上に載っていても揺れは気付かない程度だが、時たま大きく伸びをする時がある。その動きがあれだ」

「背伸びする度に災害起こしてたら世話ないぜ……」


 啓一が愚痴をこぼした。きっと七年前に神谷市に転送させられた人達も、初めてカーマ・ガタラの存在に気付いた時に同じような事を思ったに違いない。


「しかし、何でガタラの背中に神谷市は送られたんだ?」

「それは私の知識にはない。少なくとも、遥か彼方の別の世界からここまで街を丸ごと切り取って持ってくる、高度な技術のあるものの技術なのは間違いない」


「つまり、宇宙人とかか?」

 啓一の言葉に、真悟は苦笑いで返した。

「地球人初のファーストコンタクトなら、もうちょっと穏便なのが良かったな」


 宇宙人による拉致や誘拐という話は一昔前のテレビ特番の定番だったが、町ごとの誘拐アブダクションというのは、真悟も聞いた事がなかった。


「俺が触れたあの球体、あれはその誰かが送った、周囲のものをカーマ・ガタラに転送する装置だったのかもな」

「だけどよ、神谷市がここに転送されたのは七年も前だぜ?一辺転送したのに、一体誰がまた同じ所のものを転送しようとしたんだ?」

「人が足りなくなったからかも」


陰鬱な声に、真悟と啓一が振り向いた。先ほどまで両足を抱え込んで顔を埋めて、黙って真悟達の会話を聞いていた彰子、疲れきった瞳でカーマ・ガタラのホログラムを見つめていた。


「このカーマなんとかって所は、宇宙人が作った大きな狩場なのかもしれない。宇宙人が私達を狩って遊んだり、私達人間同士で戦わせる為の。市内にいた人達がみんな死んじゃったから、補充要員が必要になったんだよ」


 彰子になんと声をかけるか、真悟には思い付かなかった。目のあたりにした惨劇が、彰子の心に暗い影を落としているのを、真悟は痛い程に感じ取った。これ以上話を続けても、おそらく彰子にはいい影響は及ぼさないだろう。


「……とりあえず、今の状況は大体分かったよ。それで、お前の望みは一体何なんだ?」

「簡単に言えば、自分が誰なのか知りたいということだ」

ガーディはホログラムを消した。室内がホログラムの青白い光を失い、元の暖かい色彩を取り戻す。


「今の私には何もない。知識はあるし生き残る力もある。だが私が何なのか分からない。私が眠る前に一体何があったのか知りたい。それに関して、重要だと考えているのがシンゴ、君だ」

「俺?」


 予想していなかった指名に、真悟は目を見開いた。

「君が私に触れた事で、私は目覚めた。先ほども話していたが、君は謎の球体に触れてここに飛ばされたそうだな」

「ああ。その後ガーデウスに近づくと手が光り出して、触れたらそれがガーデウスに吸いとられた」

「その直後に私は目覚めた、つまり私と君、正確には君が触れた球体には何か、我々の知らない特別な関係があると言うことさ。私はそれが知りたい。その為には君達について、観察するのが一番いいと考えるわけさ」


 真悟は頬杖をついた。ガーディの言葉はとりあえずは筋が通っている。真悟としても自分とガーディ、そしてあの球体との関係は何なのか知りたいところだ。その為にはガーディと手を組むのは得策に思える。

 だがガーディとガーデウスという強大な力を近くに置いておく事に、真悟は一抹の不安を感じずにいられなかった。今は紳士的だが、仮にガーディが自分達を支配しようと考えれば、真悟達に成す術はない。


「どうだ。私と君達で力を合わせて、このカーマ・ガタラを切り開いてみないか。きっとお互いの為になるはずだぞ」

「私はガーディを信じるよ」


 最初に返答をしたのは彰子だった。


「あなたがいないと私達は生きていなかった。きっとあなたは悪い人じゃない、そう思う。一緒に来てくれたら心強いよ」

「確かに先輩の言うとおりだな。俺達は借りがある。こっちもちゃんと恩返しはしないとな」


 啓一も頷いた。ガーディに笑顔を見せる彰子に対して苦々しい思いが顔から見て取れたが、真悟以外は誰も気付いていないようだった。


「分かった。頼むよ、ガーディ。俺達を助けてくれ。その代わり、俺達も君の記憶を取り戻すのに協力する」

「契約成立だ」


次回:27日18時予定

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