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3.廃墟と巨人と

「一体どうなってるんだよ……」


 啓一の呟きに答えられる者は誰もいなかった。三人とも体感的にはつい十数分前まで輝く砂以外何もない消失地点にいたはずなのに、今は消失した街に立っている。

 真悟も混乱していた。混乱して当然だ。きっと消失した時街にいた人々も、同じ気持ちだったに違いない。


(だめだ、これじゃ)

 真悟は深呼吸を繰り返した。目的だった町が向こうから現れたのだから、これはチャンスだと自分に言い聞かせる。

「とりあえず、ここにいても始まらないし、ここがどうなってるのか見て回ろう。彰子先輩はどっか行きたいところあります?」

「じゃ、あのホテルに行きましょう。あそこの上の方に行けば周囲も見れるわ」


 彰子が指差したのは、駅前にあった十階建てのホテルだった。ここから見た限りでは、他の建物に比べると比較的被害が小さく、中に入っても上階に上がりやすそうだった。

 真悟達は歩き出した。人影は見えなかった。当時数千人が街と一緒に行方不明になったというのに、完全にゴーストタウンと化している。この七年間に何が起きたのか、想像すると陰鬱な気持ちになった。


「あたし達以外はみんな離れ離れになっちゃったみたいだね。無事だといいんだけど」

 彰子は不安そうに眼鏡の位置を直しながら、周囲を見回した。

「消失地点で光に包まれてから何があったか、二人とも覚えてます?」

「駄目だ。気付いたら見た事もない建物の中にいて、出てきたら彰子先輩に会って、真悟が立ってた」

「あたしも似たような感じ。あの光で私達も、この街と同じようにワープしたって事なのかな」


 真悟は唸った。埋まっていたあの球体を見つけ、最初に触れたのは真悟だ。ただの玩具だと言う者もいたが、目の前で起きている事を思えば、あの球体が消失に関係したものだと連想するのは当然の事だ。


(俺が不用意に手を出したから、何かスイッチを入れてしまったのか)

 なんとなしに球体に触れた掌を見ると、球体に触れていた時に火傷でもしたか、掌には球体に刻まれていたものと同じ紋様の痣が残っていた。


 歩き出して数分もすると、アーチ状になった石造りの橋が見えてきた。明治時代初期に作られ、かつては市内の観光地の一つとして知られたこの橋も、手入れをする者や使う者がいなくなり、荒れ果てて苔が所々に生えている。下の川には清流が穏やかに流れ、そこだけは真悟の記憶と変わらなかった。


「この水、どっから流れてきてんだ?」


 橋の欄干に手をかけて川を覗きながら、啓一が疑問を口にした。確かにこの街が消失地点からくり貫かれたなら、上流がそもそもなくなっているのに水が流れてくるはずはない。今は建物の陰に隠れてよく見えないが、水辺が近くにあってつながっているのかも知れない。


「上流に何かあるのかもね。後で行ってみましょ」

 彰子の言葉に二人が頷いたところで、前方から声がした。見ると先ほど消失地点にいた学生達が集まり、その一人が声を上げて手を振っていた。


「黒崎くん!」

 心配事が一つ消えて、嬉しそうに彰子は声を上げて走り出した。啓一も川を覗くのを止めて、安堵の息をついた。

「とりあえず誰も死んでなかったみたいだな」

「不謹慎だぞ」


 半眼でにらむ真悟の言葉に啓一は苦笑いで返し、彰子の後を追った。真悟も走って学生達のもとへ向かった。不安が一つ解消されたのも事実なので、啓一が茶化したい気持ちも分かる。


 橋と駅前に続く大通りとを繋ぐ交差点の真ん中に、学生達が数人集まっていた。周囲に立てられているビルの窓はいくつか割れて破片が歩道に散乱していたり、ビルの壁が砕けてコンクリートの破片が道路に落ちていたり、ひどい有様だ。この周辺で過去に何か、大きな災害が起きたようだった。


「君らも無事だったか。よかったよかった」

 時任助教授がほっとしたような声を出した。集まった全員、泥や埃であちこち汚れてはいるものの、大きな怪我はないようだ。

 彰子は頷いて、

「みんなは揃ってないんですか?」

「ああ。他のみんなはどうなっているかは分からない。君達はどこから?」

「向かいのビルの中です」」

「私たちはこの通りの近くにいた。どうやら皆、この町のあちこちに飛ばされたらしいね」


 時任は真悟に視線を向けた。詰問しようと言う訳でないのは分かるが、これから言うであろう内容が分かってしまい、思わず真悟は体を強張らせる。


「馬上君だったね。今私達がいる街が、かつて消失した神谷市なのは分かる。標識もいくつか立ってるからね」

「そうです。俺はここ出身なんで、見れば分かります」

「うん。そして君が見つけたあのボールのようなもの、あの光によって我々はここに飛ばされたらしい」

「……みたいですね」


 改めて言われるとやはりショックだった。だが客観的に見てそうとしか考えられないのも事実だ。

 何も言い返せず押し黙っていると、ぶっきらぼうで不快感のこもった声がした。

「ほんとに分かってんのか?お前には責任があるんだぞ」


 真悟が声の方を向くと、佐久間が真悟を不愉快そうに睨みつけていた。

「佐久間、何言い出すんだよ」

 学生の一人が言うと、佐久間は悪びれた風もなく鼻を鳴らした。


「事実を言ってるまでだ。こいつがあのボールに触れたら光りだして、その光に飲み込まれて俺達はここに飛ばされた。誰の責任か分かりきってるだろ。こいつが勝手な事をしたせいでいい迷惑だ」

「偉そうに。子供の玩具とか、誰かがいたずらで埋めたとか言ってたのはどこのどなたでしたっけ?」

「あぁ?」


 啓一のぼやきに、佐久間は怒りの反応を示した。啓一は眉間に皺を寄せて、珍しく敵対心をむき出しにしている。


「先輩にずいぶんと舐めた口を利く奴だな」

「俺は彰子先輩に頼まれたから来てるんで、あんたの後輩じゃねーもんで」

「もうやめましょ。ここで責任追及なんてして何が変わるんですか。そんな事よりこれからの話をすべきでしょ」


 苛立ち混じりの彰子の言葉に、啓一は「はーい」と両手を上げて佐久間から離れた。佐久間も不満を露にしながらも、鼻を鳴らして引き下がる。時任も皆を落ち着かせるように、両腕を広げて抑えるようにジェスチャーを見せた。

「私だって馬上君が悪いと言っているわけじゃないよ。あんないきなり見つかったものが街を消した原因だなんて誰も思わないさ。それより状況を確認しよう」


 研究室生達が集まって話を始めたところで、真悟は一人離れていた啓一に駆け寄った。

「別に言わせておけば良かったんだぜ、あんなの」

「だってよぉ、お前に悪い所なんて一つもないのに、一々つっかかってきてムカつくじゃねーか」

「フォローはありがとな。でもその辺にしとこう。彰子先輩もこれからを考えようって言ってるだろ」


 啓一はなおも不快感を隠そうとしなかったが、とりあえず踏ん切りはつけたらしい。二人は佐久間からは距離を置いて、学生達の会話に参加した。会議はちょうど彰子が真悟達と会ってからの事を話しているらしかった。


「それで私達はここがどこなのかまず調べたいと思って、あのホテルを目指してたんです。このへんで一番高い建物だから」

「成る程。だったらすごいものが見れるぞ。俺はあっちから来たんだ」

 分厚い眼鏡をかけた学生の一人が、興奮気味に指差した。


―――・―――


 駅の南に建てられたホテルは当時改築されたばかりで、観光客の利用が増加するだろうと期待されていた。二十階建てのホテルは東西に広がる長方形の形をしていて、真悟達に立ちふさがる巨大な壁の様相を呈している。その壁の下は広い駐車場になっている。先ほど真悟達が他の学生と会った場所で見られた被害は、この周辺では更に酷くなっていた。道路が絡み合うようにして周囲に広がっているが、道路のアスファルトにはところどころクレーターのように穴が開いて抉れた地肌を見せ、自動車や観光バスはまばらに止められたまま放置され、スクラップと化していた。


 黒崎に先導された真悟達一行は角を曲がり、目的地に到着した。広い駐車場の出入口にあたる交差点に立つと、前もって予告されていた以上の驚きで、目の前に鎮座するものに息を呑んだ。


 駐車場の先、ホテルの入口の隣で、鋼の巨人が入口を守護する番人のように腰を下ろしていた。


 大きさは二十メートルはあるだろうか。巨人の近くに転がっている車が、まるで巨人の脱ぎ散らかした靴のように見える。円柱形の太い両腕両脚をつなぐ角張った胴体は隆々たる体躯で、巨大な金属の砦のようだ。赤黒い体には錆も見えず、角張った頭部の額辺りからは、太い角が二本生えている。


 おとぎ話に出てくる赤鬼が鎧兜を着込めば、あんな姿になるだろうか。真悟はそんな印象を抱いた。記憶にある懐かしい街並みに、まるで場違いなものが我が寝所とばかりに存在を主張しているのは酷くシュールだった。

 学生達の反応は様々だったが、興奮と困惑が入り混じっているのは共通していた。彰子は自分の見ているものが間違っていないのかどうか、眼鏡の位置を整えていた。


「ロボット……なの?あれ」

「軍が使ってる筋電装甲も、あんなでかくないしなあ……」

「自衛隊や米軍があんな装備持ってるなんて話、聞いた事ないスよ」


 学生達が口々に思った事を口にする。歩兵の強化装備である特殊戦闘装甲は真悟もテレビ等で見た事があるが、基本は兵士の体に合わせた等身大のもの、大きくてせいぜい3~4メートルのサイズだ。あそこまで大きいとアニメや漫画の世界になる。

 左手がむずがゆくて、真悟は手を掻いた。あの巨人を見てから、妙に痣が疼いていた。


「一体何があったんだ……?」


 横倒れになったバスの天井をノックしながら、真悟は呟いた。バスの後ろ半分は引き裂かれ、曲がり角の先に転がっている。あのロボットが動いた結果が、今目の前に広がっている破壊の傷跡を残したのだろうか。


「なあ? 凄いだろう? 神谷市の消失の原因とあのロボットはきっと何か繋がりがあるに違いない! きっと高度に科学力が発達した宇宙人の仕業だ! あのロボットもそいつらが作ったんだよ!俺達は異世界の文明と遭遇した最初の人類なんだ!」


 大仰に感動を身振り手振りで表しながら、黒崎が早口でまくしたてた。黒崎の勢いに推されて、他の学生達も困惑が次第に薄れ、興奮と感動に包まれ始める。


「宇宙人かどうかはともかく、確かにすげえ……」

「後はその宇宙人に会えれば最高なんだけどなあ」


 今の状況も忘れて皆ざわざわと騒ぐ中、突如としてガラスを擦ったような叫び声が、真悟達の耳をつんざいた。

 場違いな音に、真悟は振り向いた。皆も弾かれたように周囲に眼を配る。だが開けた交差点の周囲には、何も姿は見えなかった。


「啓一、聞こえたか?」

「聞こえた。なんか唸り声みたいなのが……」


「おいおい、落ち着けよ。きっと野良犬か何かだって」

 黒崎が高くなったテンションを抑えきれず、声の主を探すように、辺りを歩き回る。スクラップになった車を叩き、呼び寄せようとすらしていた。


「いや、やめた方がいいっスよ、黒崎先輩! 危ないですって!」

 啓一の言葉には真悟も同意見だった。人影が一切残っていないこの街で、野良犬が残っているというのはありえなくはない。だが、ここでそんな安易な答えが返ってくるとは思えなかった。


 黒崎も落ち着き、音を立てるのを止めた。静寂が戻り、気のせいかと思ったところで、唸り声がまた聞こえた。七年前なら生活の騒音によって絶対に聞こえないような小さな音だが、確かにこちらに近づいてきている。声だけでなく、アスファルトを蹴る音や泣き声が次第に大きくなり、複数の方角から聞こえてくる。

 元は百貨店だった建物に衝突した、引き裂かれたバスの陰から、ついにそれは現れた。


 それは奇妙な姿をしていた。例えるならばワニを二足歩行にしたような感じだろうか。硬く分厚い鱗を全身にまとい、ひどい猫背で二本の足は膝を曲げ、今にも襲い掛かってきそうだ。それだけではなく、手足には巨大で鋭い金属の爪や黒光りする装甲が複数つけられ、後頭部を覆うように巨大な金属のヘルメットのようなものがつけられている。機械と体の間にはそれぞれ太いチューブがつけられ、全体のデザインは酷く不気味だった。


 獣から一番近くにいた黒崎が、顔をひきつらせた。未知との遭遇に興奮してはいるものの、その見て分かる危険性に、どう反応すればいいか分からず困惑していた。


「お、おいおい、今度は何だよ……? ロボットの次はサイボーグか? 宇宙人なのか?」

「黒崎くん。そんな事言ってる場合じゃないよ。早く下がって」

「う……うわ、ひ……!」


 黒崎が逃げ出そうと振り返ったところで、鉄の獣が動いた。獣は突然跳躍し、走る黒埼の背に向けて、右腕を袈裟切りに振り下ろす。分厚い爪はその鋭さを黒崎の体で実証し、肉と骨を引き裂いた。


「あ、あれ……?あれ?」


 肩から噴水のように血を噴き出す自分の体を見つめながら、黒崎は数秒、緩慢に体を動かして、糸の切れた人形のように倒れた。どさりと落ちた音と共に、皆が目の前の惨劇に気付き、一斉に恐怖に絶叫した。


 真悟達が反応するよりも早く、獣は滝音のような唸り声を上げた。人の恐怖を呼び起こすような声だった。そしてそれに合わせるかのように、物陰から同じ姿をした獣が顔を出した。建物の陰から、二階の窓から、車の陰から、一体どこにこれほど隠れていたのかと思うほどの獣が一体、また一体と姿を現していく。


「どうも宇宙人じゃなくて、猛獣の類だったみたいだな」

「真悟、そんな事言ってる場合かよ。どう見てもやばいだろ、これ」


 真悟も啓一も顔は青ざめていた。隣の彰子は両手で顔を押さえ、今にも泣き出しそうだ。獣の群れは既に二十匹近く集まってきていた。交差点を囲うように集まっている。体を包む装備は皆まちまちだが、耳元まで裂けた笑みと、口元から泡立ちながら溢れる涎は皆同じだ。意思の疎通ができるかも分からない相手だが、何を考えているのかは真悟にも分かった。真悟達を手頃な餌と見ている。


「逃げろ!」


 今日二度目の絶叫と共に、真悟は彰子の手を引っ張って走り出した。啓一は反応して走ったのは見えたが、他の学生達はどうなっているのか分からない。ただ絶叫が聞こえた。


 背後から獣達の哄笑めいた叫びが聞こえた。肉を裂き、噛みつき、新鮮な血肉を味わっているのが耳で分かる。反応が遅れて真悟が無理矢理引っ張っていた、彰子も何とか吹っ切って自分の脚で走り出した。いきなりの全力疾走に心臓が猛抗議を開始するが、無視しないと確実に死ぬ。


「ホテルに入るんだ!」


 今いる交差点は障害物もまともになく、獣達が狩りをするには絶好の場所だ。建物の中ならバリケードを作るなり、まだやりようがあると判断し、手足を必死に動かして速度を上げた。

 駐車場に入ったあたりで、真悟の左手に疼くような痛みが走った。目だけ動かして左手を見ると、腕を振るごとに腕が赤く光を放ち、目に残像を生んでいる。


(なんだ!?)


 声も出さずに走る。ホテルへ、正確に言うならホテルの前のロボットに近づいていくごとに、心臓の鼓動にあわせて掌の熱と痺れが強くなっていく。あのロボットに引き寄せられる、妙な感覚を真悟は味わっていた。


 振り向くと、先ほどまで真悟達がいた場所は血の海となっていた。学生達は獣の爪に引き裂かれ、命が尽きるまでの残った時間、面白半分にいたぶられている。時任は既に床に倒れ、真っ白だったワイシャツを真っ赤に染めて、三匹の獣に腹の中身を貪られていた。


「ちくしょう……!」


 泣きそうな心持ちで呻いた。その声に引き寄せられたように、獣達の数匹がが真悟達に顔を向け、新鮮な獲物に気付いて走り出す。獣達の歓喜の鳴き声はどんどん増え、真悟達の背に死を呼ぶ音となって迫ってくる。


「もう嫌、やめてよぉーッ!」


 彰子がついに恐怖を叫びと涙で吐き出した。真悟も同じ気持ちだったが、左手の痛い程の疼きがそれを止めさせていた。まだ止まるな、俺を呼べ、そう言われている気がした。ホテルの入口の隣から一歩も動かず、ロボットは物言わずにただ真悟達を見下ろしていた。だが、疼きが真悟と、あのロボットを強く呼んでいる気がした

 真悟は心を決めた。


「ホテルに入って!」


 真悟の声が聞こえたかは分からなかったが、啓一と彰子は真っ直ぐホテルの入口へと向かった。真悟は一人、ロボットの方へと走る。


(何をやってるんだ俺は)


 頭の冷静な部分が無意味な行動を叱りつけるが、本能と左手がこのまま突っ走れとけしかける。掌の熱は強くなる一方だ。背後の獣の気配はどんどん強くなる。五匹か、十匹か。足を止めれば即座に食い殺されそうだ。背筋に血なまぐさい息が吐かれている気すらした。


 目標まで十メートル、ここまで来たはいいが、どうするか。五メートル、彰子と啓一が自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。あと三メートル、もう本能に任せて、思いついたことをやるしかない。あと一メートル。


(やれ!)


 真悟は全力で跳び上がり、ロボットのちょうど腰にとびついた。死に物狂いで這い上がり、本能に任せてロボットの胸に勢い良く左手を平手で叩きつけた。

 閃光が走った。雷が大地に落ちて拡散するように、左手に溜まっていたエネルギーがロボットに吸われて通り抜けていく気がした。射精にも似た快感と脱力感が全身を駆け巡る。


 獣達も目の前の光景に戸惑い、動きを止めた。強烈な目眩に襲われ、真悟は倒れないようにロボットの胸の装甲の溝に指を引っかけ、何とかしがみつくばかりだった。

 やがて閃光が消えた。左手の熱と疼きは消えていた。一体何が起きたのか、自分が何をしたのか考えるより早く、野太い絶叫が耳を貫いた。


 顔を向けると、獣が硬直から回復し、真悟目掛けて走り出すところだった。全身の装甲や爪を苦にも感じない動きで跳躍し、巨大な口を広げて一気に真悟を飲みこまんと襲い掛かる。


 刹那、獣は真悟から向かって右からせり上がってきた金属の塊に激突し、全身を砕かれて吹き飛んだ。


 真悟の目の前で、赤黒い巨腕が視界を塞いでいた。呆気に取られる真悟の体を巨人の太い指が優しくつまみ、地面に下ろす。真悟に啓一に彰子、獣達も茫然と見つめる中、鋼の砦が轟音を立てながらゆっくりと立ち上がった。巨人の赤黒い体に彫られた幾何学的な紋様が、青白い光を放っていた。消失地点で見つけたあの球体と同じような紋様が、巨人の全身を血流のように巡り輝いていた。


 獣達は真悟達の事など忘れたかのように、巨人を総勢で囲み、敵意をむき出しにして、散発的に吼えていた。巨人は獣達の前に真悟をかばうように仁王立ちとなって、両の拳を胸元で強くたたきつけた。


次回:19時予定

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