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35.守りたいものの為に

 私が動いて、この状況をなんとかしてみせる。

 葵はただそれだけを考えて、カルラを駆っていた。装甲車に載せられてきた予備のカルラの調整は万全で、葵の動きに完全になじんでいる。

 リテルとリテラの丹念な整備に、葵は感謝していた。あとは葵自身の働きで、戦いを終わらせるだけだ。


 人工筋肉の力を借りて、葵は走りながら踏み込み、高く跳躍した。

 四角い石造りの家の屋根の上に着地すると、姿勢を低くして周囲の状況を確認する。先ほどまで従神から逃げ回っていた家々と同じはずなのに、カルラを着ていると家の大きさが何分の一にも小さくなったように思えた。


 敵はすぐに現れた。爆音を轟かせて巨大な銃火器を背にかついだボガロの部下達を載せたサイドカーが一台とバイクが二台、並行して家の前の通りを真っすぐ走り、近づいてくる。葵の存在には気付いていないらしい。好都合だ。

 葵のいる家の真下を通ろうとした所で、葵は立ち上がり、手に持った筋電装甲用の突撃銃の引き金を引いた。弾丸はサイドカーの運転席と前輪をたやすく破壊し、安定を失ったサイドカーは速度そのままに隣の家に突っ込んだ。

(まず一台)


 残った二台は急ブレーキをかけ、襲撃を受けた方向に向けて銃撃を始めた。葵はその前に屋根から降りて家の裏に着地し、ぐるりと回って部下達の背後についた。兵士達が気付く前に連射する。

 近かった二人を弾丸が貫き、絶命させる。

(これで二台目……!)


 残った二人は左右に分かれ、近くの家の陰にそれぞれ隠れた。物陰から手持ちの突撃銃を連射するが、カルラの装甲の前では豆鉄砲だ。首をすくめて脇を締め、装甲の薄い部分を狙われないように体を丸めながら右側の家の中へと入った。先ほどとは違い逃げる為ではなく、攻める為にだ。


 屋内の邪魔な家具を払いのけ、葵は左手に持っていたガーデウスの杖を、兵士の一人がいる壁に向けて引き金を引いた。

 放たれた光弾が壁に命中すると、エネルギーを爆発へと変えて壁を破壊した。衝撃と無数の瓦礫が壁の向こうにいた兵士に降り注ぎ、兵士は何もできず昏倒した。葵はそのまま外に出て、通りの向こうの小道にいた男に向けて小銃を撃つ。いきなりの攻撃に、男は全身に銃弾を浴びて絶命した。


 これでひと段落だ。次の場での戦いが待っている。

(しかしすごい威力ね、この杖)


 心中で嘆息した。これだけの武器を作れるガーディが出会ってから今まで、特に無理も文句も言わずに共に行動し、助けてくれた。葵は正直これまでガーディを亜神という点で信用できていなかったが、少しは自分の気持ちを変えてもいいのかもしれないと思うようになっていた。少なくともこの杖の威力は特筆ものだし、できれば神谷市の為にももっと数を揃えたいところだ。


 銃声を聞きつけたものが近づいてきていないか、葵は注意して歩き出した。

 ボガロの兵士達はそこまで強力な兵器を持ってはいないようだった。ボガロの戦力の強みはタスカーという量産できる兵士とオーダ・ジャーガなどの従神、そしてボガロ自身の実力によるものが大きい。葵が着ているような筋電装甲に戦車や機動兵器は希少品だ。だからこそ、ボガロは異星人の兵器を強奪して回っていたのだろう。


 従神が二体消えた今、ボガロの戦力は大幅に減少している。ルーターの全面協力を得ているレジスタンスは武器も豊富だ。今なら十分に対抗できる。


 頭上から轟音が耳を貫き、葵は空を見上げた。ボーガ・ゴーマの首が伸びてガーデウスを噛み砕こうとするのを、ガーデウスは必死に金棒で弾き、その度に爆発と放電が起きる。金棒によってカーニエン粒子が弾ける。ボーガ・ゴーマの多彩な武器に、ガーデウスは押され気味だった。

 たとえこのままレジスタンスがボガロの部下相手に勝利しても、ボガロが勝てば状況は変わらない。亜神に勝てるのは亜神だけだ。そうなれば皆遅かれ早かれ死ぬ事になるだろう。


「真くん、頑張ってよ……!」

 真悟を信じる以外、自分には何もできない事が酷くもどかしかった。


 かつていた世界での生活を思い出させてくれる人々。カーマ・ガタラでの生活の中でできた友人達。そして、大切な思い出から飛び出して、会いに来てくれた人。どれも葵がこれまで生きてこれた大切なものだ。どれも失いたくない。その為ならば何だってできる。


 次の敵を探しにいこうとした時、妙な機械音が聞こえた。カルラと似た、だが聞きなれない駆動音が近づいてくる……。

 即座に、葵は横に跳んだ。家と家の間の細い路地に体を割り込ませると、一瞬前までいた場所を弾丸が風を裂いて通り抜け、突き当りの壁にいくつもの弾痕が作られる。


 思わず舌打ちした。大口径の重機関銃が銃弾を高速で吐き出す音と共に、独特な駆動音が壁の向こうからしている。相手が何者かは分からないが、相手が何を使っているのか、葵は過去の経験から感じ取っていた。


「アーウィ!どこに行った!?」


 スピーカーで拡声されたマガトのだみ声が届いた。シリンダーがやかましくきしむと同時に、機関銃の連射が再開される。

 銃弾が壁を貫通し、砂埃を上げる。破片がぶつかって、杖が手から離れて転がった。弾痕がこちらに迫るのを見て、葵は跳躍して家の屋上に向かって跳躍する。周囲を確認すると、通りの向こうにそれはいた。


 それは全身を装甲で包まれた、人型の鎧だった。灰色の角ばった装甲に全身を包まれ、身長は二メートルをはるかに越えている。装甲と装甲の間にシリンダーが見え隠れする。背中には巨大な機関砲を担ぎ、右わきから多銃身が前方に向けて伸びていた。頭部の装甲は後方に向けて流線型の角が伸び、顔には六つのカメラアイが並んでいて、どこか昆虫のような無機質で不気味なものを感じさせた。


 葵のカルラと同じ、筋電装甲の一種のようだが、サイズはカルラより一回り大きかった。似たデザインのものを、葵は昔、市場で異星人が装着して、敵を追い払うのを見た事があった。

 おそらくボガロが異星人の町を襲撃した際に、略奪したものの中にあったのだろう。それをマガトが装着し、葵に目をつけたのだ。


 相手に気づかる前に、葵は手に持っていた自動小銃を連射した。狙い違わず銃弾が命中するが、弾丸は装甲を貫く事ができずに小気味いい音を立てて弾かれる。

(強化装甲が組まれた重装型か)

 厄介な、と葵は仮面の奥で歯を食いしばる。


 屋上にいる葵に、マガトが気付いて機関砲の銃口を向けた。葵が屋根から飛び降りると同時に、束ねられた銃身が回転し、五月雨式に銃弾が放たれる。着地と同時に走り、壁を砕きながら迫る弾丸から全力で離れる。


「相手が同じ装備になったら逃げるだけか?情けねえなアーウィ!」

 マガトの嘲笑が癪に障るが、今はそんな事を考えている暇はなかった。


 装甲と武装は向こうが上。手持ちの装備で破壊するのはかなり厳しそうだ。先ほど杖を落としたのが悔やまれたが、取りに戻るよりまずは生き延びる方が先だ。

 このまま逃げてもいいかと思ったが、放置しておけば他の獲物を狙いにいくだろう。真悟達の装甲車を狙いに行ったら目も当てられない。


 葵は大きく息を吸った。頭をクリアにして、マガトを倒す方法を考える。

「さっきの従神を相手にするよりはマシね」


 逃げるしかなかった先ほどと違って、今は慣れ親しんだカルラがある。これが動く限り、葵の闘志もまた尽きる事はない。

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