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18.初めての買出し

 真悟達がカーマ・ガタラに飛ばされて数日が経った。

 カーマ・ガタラにも季節の概念があるが、日本よりも激しく変わるのだと葵は教えてくれた。数ヶ月程続く春が終わると、土砂降りの雨季、太陽が照り付ける日が続く夏季、一転して冬季と極端に変わる。

 神谷市で育てていた米も初めは気候になじまず、取れる米の量も少なかったのだという。

 米は葵達神谷市の住人にとっても生命線の一つだ。これが不作に終われば周囲に暮らす獣の肉などを頼りに、厳しい冬を越すことになる。


「お米がどのくらい取れるかは、毎年のカーマ・ガタラの動き次第。今年は運が良かったよ」

 運転席に座り荷馬車を運転しながら語る葵の説明を聞きながら、真悟は天を仰いだ。葵の説明通りならもう一ヶ月から二ヶ月程で雪が舞いだすという話だが、眩しい太陽の輝きはそんな事はない、と無言の抗議を行っているようだ。


 左右に顔を向ければ、五メートルも行かずに見たこともない木々が伸び集まって、暗緑色の影を作っている。林に挟まれながら、荷馬車は何重にも轍の跡が残った道を通っていく。道に雑草がほとんど生えておらず、赤土が鮮やかに見えているのは、この道の交通量の多さを示していた。


 石を踏んだらしく、荷馬車がガタリと揺れた。

 荷馬車と言っても先頭を歩くのは馬ではなく、二本足で歩く巨大な爬虫類だ。ディフと呼ばれるそれは全身を黄土色の鱗に覆われ、とがった頭と太く巨大な足のアンバランスな体型をしている。二メートルを越える身長が猫背で丸まり、どことなく昔の怪獣映画に出てきそうな印象を受ける。


 パワーは強いが太い足でのたのたと歩くその外見通り、馬や牛のように穏やかな気性をしたカーマ・ガタラの原生動物らしい。荷馬車というより荷獣車といったところだ。昨日の夕食で出たリブの肉もこれだと葵から聞いて、真悟と啓一、彰子は何とも言えない空気を味わった。

 荷車も元は壊れた軽トラックからエンジンや排気管など邪魔なものを取り出し、固定したディフを操れるように運転席を改造してある。後方の荷台には鉄屑や木材に食料、そして護衛用の武器が載り、その端に真悟達が座っていた。ガーディはいつも通り、彫刻のように固まって休んでいる。


「葵ちゃん、市場までまだかかるの?」

「もうちょっと、あと十分もかからないよ」


 真悟と啓一、加えてガーディが葵達の砦に迎えられてから初めての仕事として選ばれたのが、葵とリテラについて行き、買い出しを手伝うことだった。先ほどの葵の説明通り、冬の前に必要な材料や食料、武器に燃料を今荷台に積んであるものと交換する予定だという。


 他の仕事もあると嵯峨は言っていたが、真悟は葵に同行できるように強く願い出た。市場という事は他の星からカーマ・ガタラに飛ばされた人々に出会う事ができるという事であり、自分達の知らない情報が集まると考えたからだ。ガーディもこれには興味を示し、結局真悟達はで葵の手伝いをする事になった。


(まあ、それだけじゃないんだけどな)

 運転席に目を向けると、葵は昔、神谷市がここに飛ばされる前に流行っていた歌を口ずさんでいた。

 綺麗な歌声だった。小学生の頃、クラスの女子は全員この曲を歌えたものだ。当時の彼女はもっと高い声でこの曲を歌っていて、同級生達から歌声が歌手にそっくりだと褒められていた。

 だが、今のほうがずっといい。


 視線を感じた先に目をやると、啓一がおかしそうに顔を歪ませていた。

「なんだよ、その顔」

「お前こそなんだよ、ニヤニヤしてよ。勝手に自分の世界に浸りやがって」

「うう、うるせえ」


 いい気分だったのを邪魔されて、憮然としながら真悟は荷物に背を預けた。


―――・―――


 真悟達が目的地に到着した時、既に市場は開かれていた。

 所々割れたり欠けたりしたカラフルな石畳が三叉に分かれ、一本は町をまっすぐ走り、残りの二本がそれぞれ左右に弧を描いて伸びて、通りを形作っている。通りの左右には、木材や鉄パイプに布を張った簡素屋台が立ち並び、皆思い思いに商売を行っていた。その並びは祭りの屋台を思わせるが、商品は祭りの屋台のように食べ物だけでなく、物騒な形をした刃物や銃器も多い。


 目に付く屋台から顔を上げると、奥には円錐形をした塔がいくつも立ち並び、円錐の頂点から頂点へと橋がかかっている。市場の舞台となっている場所も、かつてカーマ・ガタラに飛ばされた町のひとつだったらしい。

 ここにどんな人達が住んでいたのか、彼らがどこに行ったのか、興味を惹かれるところだった。


 市場には様々な姿をした人達が売り買いし、騒ぎ、雑談に花を咲かせていた。鮟鱇を思わせる巨大な口と平べったい頭をした男や額が岩のように尖り硬質化した人間、笹のように尖った耳が六つ並んだ者もいる。

 すげえ、と啓一が嘆息した。


「宇宙人の見本市みたいになってんな」

「ここにいない奴らもまだまだいるよ。カーマ・ガタラに飛ばされた町はそれこそ何十ってあるからね」

 リテルが自慢げに解説する。葵もそれに続いた。

「このシャウテンって市場はカーマ・ガタラにいくつかある市場の一つなんだけど、それこそ全体から人が集まってくるの。皆不足してるものを補い合ったり、情報交換したりしないと生きていけないから、ここでの騒動はご法度」


 葵はちらりとガーディに視線を向けて、

「暴れたりしないでよね」

「なんだその目は。私がそんなにろくでもない奴に見えるのか?」

「信頼関係を築くって大変って事よ。あなたが私の知ってるガーデウスと違うって言うなら、その信頼をこれから築いていこう?あなたにできるならね」

「まあまあ、俺達が先に騒動を起こすことはないだろ?とりあえず仕事を終わらせようよ」


 火花を散らす葵とガーディの間に、真悟は双方を制しながら割り込んだ。葵のガーディへの態度は中々軟化しない。どうにも過去の印象が強いようだった。


「そんじゃ俺は、リテルと食い物を見て回ってくるわ。お前らはそっちの仕事やっといてくれ」

 啓一はリテルの肩に手をかけて笑顔を見せる。昨日出会ったばかりの頃に比べて、こっちは葵とガーディとは違ってずいぶんと関係が改善しているようだった。


「分かった、一時間ほどしたらまたここで合流しよう」

「おう」

次回:14日予定

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