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14.生き残りの町

 ずっと話したいと思っていた。


 皆はもう死んでしまったと慰めようとしたが、それだけでは諦めきれなかった。

 大学に通って勉強して、研究を重ねて神谷市が消失した謎を突き止めて、いつか再会できたらと思っていた。

 話したい事はいくらでもあったし、伝えたい事だってあった。

 だが実際に里村葵と再会した時、真悟は完全に頭が真っ白になっていた。


 何から話したらいいか全く思い浮かばずおろおろしていた間に、葵の提案によって葵達が生活している拠点へと向かう事に決定してしまい、そのまま黙ってついて行く事となった。

 真悟は葵に目を向けた。筋電装甲に身を包み、独特な電子音を立てつつ歩く葵の後ろ姿は落ち着きがある。きっと先ほどのような戦いを行った経験も、二度や三度ではないのだろう。


 真悟の隣を歩きながら、啓一が納得がいかないような顔を見せた。

「なあ、さっきお前が言ってた葵ちゃんって、前に話してた幼馴染の事だよな?」

 真悟はうなずいた。神谷市出身となれば、初対面の時に挙がる話題といえば消失事件の事だ。真悟と啓一が大学で初めて知り合った時も例外ではなかった。


「なんかお前に教えられてたイメージと違うんだけど。別人じゃねーの?」

「……色々あったんだろ」


 啓一が納得いく答えなど言えるはずもなかった。今と昔のギャップに最もついていけていないのは、真悟自身なのだ。

 葵の顔にはどこか張り詰めた雰囲気が漂っていた。タスカーとオーダ・ジャーガは倒したがマガトは逃げており、周囲に敵が残っているかもしれないと警戒しているのだろうか。


(いや、ガーディのほうか)


 真悟はひとりごちた。先ほどの戦いで、ガーデウスを見た時の葵の瞳は鋭かった。ガーディは何も知らないと語り、葵も真悟がいるならととりあえず落ち着いてくれてはいるが、信用ならないのだろう。

 好奇心旺盛で、いつもクラスの友達に囲まれて明るく笑っていた彼女。真悟の記憶の中にある葵の映像が、七年の歳月を経て女戦士へと姿を変えようとしていた。


「なあ、葵ちゃん」

 真悟は声をかけた。二人とももうそんな歳ではないのに、つい子供の頃の呼び方で彼女を呼んでしまう。そしてそれは葵も同様らしかった。

「なに? 真くん」

「町までの距離って遠いのか?」

「もうそんなにないよ。あと歩きで十分くらいかな」


「アーウィ、こいつら本当に信用できるの?」

 リテルが真悟を指差しながら目を細める。こちらはガーディだけでなく、真悟達も信用していないようだった。

「よしなさいよ、リテル。陰口なんて情けない」

 リテラにたしなめられ、リテルは口ごもる。髪型と服装以外ではどちらがどちらか一見分からないほどよく似ている姉弟だが、姉が主導権を握っているのは間違いないらしい。


「だってさ、姉ちゃん。よそ者が信用できないなんていつもの事だろ。大体こいつら、僕らの米を狙ってたんだぜ」

「狙ってねえよ。そりゃ食いたいって思ってたけどよ、人のもんだなんて知らなかったんだ」

 啓一がぼやくが、言い訳としてはあまりよろしくない内容だ。当然リテルが啓一をにらみつける。


「ほら。こいつらなんて町に入れてもロクな事にならないよ。絶対ただ飯狙いだ」

「そこまでにしなさい。あなたも元々はよそ者だったけど、お互いに信頼しようとしたから、仲間になれたんでしょう?」


 図星を突かれたらしく、葵の言葉にリテルは言葉に詰まる。葵は金属フレームの掌で軽くリテルの頭を撫でて、微笑みを返した。


「少なくとも元の世界から来ているのは間違いないみたいだし、色々話も聞きたいの。もし私達の敵に回るなら」

 葵の柔らかい視線が一気に鋭くなり、ガーディをにらみつける。

「ガーデウスが出てくる前に、私が皆を殺す」


「……やっぱり別人じゃねーの?葵ちゃん」

「色々あったんだよ、きっと」

 啓一のぼやきに、真悟にはそれ以外言えなかった。


―――・―――


 到着した目的地を見て、真悟は軽く驚嘆の声を出した。

 元は神谷市の南西部にある大通りだったところだ。その道路を塞ぐようにして、ぐるりと壁がのびていた。捨てられた車や瓦礫を集めたバリケードがいくつも作られ、その前には鉄パイプを束ねて作られた馬防柵が何重にも仕掛けられ、周囲にいる。周囲の建物の窓も家具などを使って塞ぎ、町を囲む巨大な壁として使っているようだった。


 周囲の建物の低い階には鉄条網が張り巡らされ、建物と建物の間はバリケードで埋められている。建物を壁の一部とした砦を作っているのだ。

 奥からは何かを焼いているらしく、煙がたなびいているのが見えた。


「あたし、こういうの昔映画で見た事ある。核戦争とかで文明が滅んだ後、生き残った人類が要塞を築いたりするやつ。あれにそっくり」

 物々しい外観に圧倒されながらも、彰子の感想は的を得ていた。まさに要塞だ。生き残った人々が外敵から身を守る為、町の一部を利用して作り上げたのだろう。だが外の田畑を動かすのだけは難しかった為要塞の外にあり、リテラ、リテルの姉弟がやっていたように、定期的に見張りをやっているわけだ。


「ついてきて」

 柵をかわしながらまっすぐ歩く葵に、真悟達は列を作ってついていく。鉄パイプに赤いものがこびりついているのが見えたが、真悟は考えない事にした。

 門番らしき人と葵達が幾度かやり取りを行った後、葵が入るように手招きをした。


 内側に入ると、まず音が真悟の心を響かせた。

 人が入ってきたどよめきの音。焚き火の音。子供の声。台車で物を運ぶ音。たった一日、誰もいない廃墟で眠っただけなのに、人々の出す音の数々が酷く懐かしかった。

 町の中の人々は戸惑っているようだった。葵と姉弟の帰還に加えて突然現れた見慣れない真悟達に加え、真悟の隣にいるガーディに視線が集中しているのが分かる。


 真悟はちらりとガーディに視線を向けて言った。

「みんなお前を怖がってるみたいだぞ」

「初めて見るからだろう。すぐに見慣れる」

「そういうお前のプラス思考がうらやましいよ……」


 ガーディの表情は超然としていて、周囲の事など全く気にしていないようだった。確かに、例え目の前にいる十数人全てが敵に回ったとしても、全て楽に撃退できる、くらいに思っているのだろう。実力は安全につながり、安全は自信につながるのだ。


「里村君!」

 右手にあった市役所――かつて市役所だった建物、と言ったほうが正確だろう――の入り口から、痩身の男が駆け寄ってきた。歳は四十近いだろうか、汚れた眼鏡とよれよれのシャツが気弱そうな顔をさらに強調していた。


「嵯峨さん」

「良かった。田んぼの方で騒ぎが起きてたみたいだから心配してたんだ。リテラとリテルも怪我はないかい」

「もちろん」

「こちらの方々が助けてくれましたので」


 リテラの示した先に目をやって、嵯峨は真悟達の姿に気づいたようだった。挨拶をしようと近寄ったところで、ガーディの姿に気づき、喉奥から引きつった声を上げた。

「どうかしたかな」

「いや、その……。里村君、これは?」

「話すと長いんです。とりあえず私達に害意はないみたいですし、意思の疎通はできます。変に刺激しないようにしてください」


 葵の言葉に嵯峨は不安を隠しきれていなかったが、なんとか頷いた。葵は手を伸ばし、真悟達を指差す。

「こっちは馬上真悟君。こっちが高原君に、遠野さん」

「えっと、馬上です」

「どもっす」

「はじめまして」


 口々に挨拶する三人に、嵯峨も生返事を返す。

「ああ、私は嵯峨。ここの議会所の一人だ。君たちは?」

「この人達、昨日神谷市から来たらしいんです。ここが消えた後の、地球に残ってる神谷市の跡地から」

「何だって!?」


 嵯峨の目が驚きに見開かれた。あわてふためきながらも自分達の会話が聞かれていないか辺りを見回す。

「とんでもない事だぞ、それは。冗談じゃないんだね?」

「おそらく。だから詳しい話を聞く為に、ここまで連れて来たんです」

次回:6日予定

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