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13.再会

 アーウィとリテラ、リテルの三人の話は長く続いていた。真悟達から離れて5メートル程の場所で、三人が円を作り、せわしなく話し込んでいる。

 大袈裟な身振り手振りで話す二人の説明に、アーウィは聞き入っているようだ。時たま真悟達の方に目を向けるが、その仮面からは表情や心情は分からない。


 オーダ・ジャーガをガーデウスが倒した後、ひとまず姉弟はアーウィへの報告を始めていた。マガトと名乗っていた褐色の男はすでに逃げおおせたらしく、周囲には見当たらない。ジャーガを倒した後、ガーデウスは立ったまま放置されている。

 ガーディはオーダ・ジャーガに興味があるようだった。残骸に駆け寄り、構造や材質を確認している。ガーデウスとの関わりなどはあるのか、真悟としても気になるところだ。


「ひとまず、初対面の印象は悪くないと思うんだけど、どうだろうな?」

 真悟は所在なさげに杖をいじった。待つ時間が長くなるほど不安が募る。アーウィはガーデウスの名前を知っていたし、よくない感情を持ち合わせているかもしれない。


「さあな。とりあえず、あの二人が俺達の事を米泥棒だとか言わない事を祈ろうぜ」

「思い出させるなよ……」

 啓一の言葉で忘れていた事を思い出して、真悟は顔を歪めた。疲れきった今の体で、泥棒だなんだ、生きるだ死ぬだの話はしたくなかった。


 啓一は座って壁にもたれかかっていた彰子に肩を貸し、持ち上げた。彰子の顔は青ざめているが、何とか動こうとはしているようだ。真悟は杖を彰子に差し出した。敵のいない今なら自分が持っていても意味がない。

「これ、使ってください」

「あはは、ありがと……」

 彰子は力なく笑い、杖にすがりつくようにして立った。


 アーウィとリテラ達との話が終わったらしく、アーウィが真悟達に顔を向けた。こっちも話を始めようと歩き出したところで、アーウィが銃を向けた。

「そこで動くな」


 銃口を真悟達に向けながら、少年達を背後にゆっくりと近づいて来る。歩くたびに筋電装甲の鳴らす電子音や硬い足音に、真悟は死神の足音を連想した。先頭の真悟とガーディから2メートルほど離れた位置で、鉄の死神は歩をとめた。

「答えてくれ。お前達はどこから来た?」


 電子音によって変換された音声はハスキーで、口調はかなりきつかった。

 姉弟の話によって、話を聞いてはもらえたものの、どうやら無条件で信用を得られるほど甘くはなかったらしい。真悟は杖を彰子に渡した事を少しだけ後悔した。


「まずは、俺達は話し合いが必要だと思うんだ。話し合う為に銃を下ろしてくれるとありがたいんだけど」

「信頼を築く前に警戒を解く事はできない。特にこのカーマ・ガタラではね。大体ガーデウスを従えている奴らを、簡単に信用できると思うか?」

「待て。貴様には理解できんのかもしれないが、私をこいつらのペットか何かと思われては困る」


 調査から戻ったガーディが駆け寄り、強い口調で断言した。

「私は私、誰も従える事はできない」

「ガーディ、話をこじらせないでくれよ!」

 あわてて真悟が叫ぶ。ガーディの不服そうなしかめ面に、アーウィの銃口がガーディに向いた。


「ずいぶんと偉そうなペットだな。本当にボガロの関係者じゃないのか?」

「ボガロという奴なぞ知らん」

「知らんでは済まん。ガーデウスを持つお前が何者なのか、私達の敵にならないのか、納得できる答えが欲しい。ないなら殺す」

「ほう。そんな小道具で、私に命令できると本気で思っているのか?」

「分かった、分かったから!一から話すから!落ち着いてくれって!」


 一触即発の空気が一瞬で高まり、真悟は慌てて間に入った。仲裁しようと両手を二人に広げて、必死に抑える。

「俺達は昨日神谷市、この街が元々あったところからこのカーマ・ガタラに飛ばされたんだ」

「なん……だと?」


 アーウィの銃口が再度真悟に向けられた。真悟の首筋から腰まで冷たいものが通り抜けた気がした。何が地雷だったのかは知らないが、どうやら一気に不信感が高まってしまったらしい。


(初手から失敗か……)

「嘘だ。この街は七年前にカーマ・ガタラに飛ばされたんだぞ」

「俺達は追加で飛ばされたんだよ。昨日、神谷市が消滅した地点を複数の大学が合同で調査をしようとしてた。そこで俺が妙な機械を見つけて、機械が光ったと思ったら近くにいた俺達はここに飛ばされた。ガーディとはその後出会ったんだ」

「そんな、そんな馬鹿な……」


 真悟の言葉はアーウィにとって酷く衝撃的な話のようだった。先ほどまでの鉄を思わせる強い意志が崩れ、気持ちが揺れ動いているように感じられた。

「信じられない」

「信じてくれ、としか言えない。俺は嘘は言わない」

 真悟の背後から啓一と彰子が会話に割り込もうと近寄った。

「そうだ。俺だっていくらでも話すぞ。試しに何か質問してみてくれよ」

「私も……」


 数秒沈黙しながら、アーウィは悩ましそうに銃口を揺らした。真悟が答えを待っていると、アーウィが銃を持たない左手を首元に伸ばした。首元のスイッチを操作するとプシュッ、と空気が漏れる音がする。アーウィが筋電装甲の兜の、ちょうど鴉天狗の嘴を親指で引っ掛けて持ち上げると、嘴の付け根の辺りから分割線が入り、仮面が上、右、左と三方向に開いた。

 現れたアーウィの素顔に、真悟は息を呑んだ。背後で啓一と彰子も、唸るようにして小さく声を上げた。


「私も神谷市の出身だ。本当にこの街があった場所から来たと言うのなら、元の場所の事を話してみろ。例えばそうだな、神谷市からここが消えたのは地球の西暦で何年の事だ」

 仮面を脱ぐ事で電子音声による変換がなくなり、アーウィの爽やかな声が響いた。


 歳は二十歳程度だろうか。後ろで軽くひっつめた黒髪は真っ直ぐ伸び、鮮やかだ。日に焼けた小麦色の肌には汗がにじみ、すらりと整った顔に健康的な輝きを与えている。丸い瞳に太い眉、薄い唇はきりりと引き締められ、意志の強さが感じられた。


「女だったのか……」

 啓一が間の抜けた声で呟いた。装甲を身に纏い、銃を持って戦うには不釣合いな彼女の声と顔に衝撃を受けたのだろう。だが真悟の驚きは啓一以上だった。


「俺は……君の事を知ってる」

「何?」


 予想していなかった返答に、アーウィは眉を寄せた。そんなアーウィの反応を無視して、真悟は言葉を続けていく。

「出身は神谷市銀鈴町。銀鈴小学校出身で、両親と父方の祖父母と一緒に暮らしていた」

「な……!?」


 アーウィが驚きに目を見張った。勘が的中していた事に、真悟の胸に熱いものがこみ上げてくる。

「小学校では毎年学級委員をやってた。責任感が強かったし、スポーツも得意で、特にバスケットボールが好きだった。友達とよく休憩時間にやってた。クラスじゃ人気者で、毎年夏休みになると友達と近所の花火大会を見に行ってた」

「なんで、そんな。お前一体何者だ……?」

「中学は私立を受験して、進学するつもりだった。だから俺は、小学校を卒業したらもう会えなくなるかもって思って、六年生の花火大会は一緒に行きたかったんだ。だけどその年の夏休みに、俺は足を骨折して行けなかった」


 アーウィの驚きに、真悟は自分の考えが間違っていなかった事を確信した。

 ガーディの用意した翻訳機能は完璧ではなかった。姉弟の会話から、アーウィが固有の名詞だろうと推測はしてそのまま残していたが、そもそも姉弟は彼女の名前の発音自体を間違えていたのだ。


「……真、くん……?」

「やっぱり、葵ちゃんだ」


 アーウィではなく、アオイが正しい発音だった。


 葵との七年ぶりの再会に震える真悟と、驚きに二の句が告げなくなっている里村葵を、周囲はどういう事か分からず、ただ眺めていた。

次回:4日18時予定

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