最弱の魔王さま
「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ」
僕は呟いていた。
そう、これはかなりヤバイ、とにかくヤバイ、めちゃくちゃヤバイ。
なにがヤバイって??
その前に僕が一体何者なのかを説明しないといけない。
僕もいまや半ばパニック状態だ。このままではいけない。
ゆっくり思い出そう。
そう、僕は魔王だ。
これは今流行りの異世界転生というやつだったのだ。
しかも少し変わっていて、勇者ではなく、魔王として転生していたのだ。
最近は勇者転生は飽和していて、変わり種に転生することが多い。
勇者、魔法使い、賢者、鍛冶屋、道具屋、ドラゴン、スライム、ゴブリン。
いろいろある。
最強職から最弱職、よりどりみどりの転生小説が世界にあふれていた。
その中で僕は最強最悪の魔王として、この世界に転生していた。
そこで与えられた力は最高のものだった。
最強の攻撃力、最強の魔法、最強のスキル。
全てを持ち合わせていた。
ただの魔王という言葉では物足りない。
世界最強で世界最悪の魔王として転生したのだった。
僕はそれを良いことに、やりたい放題やっていた。
なぜなら負けないからだ。
現実世界ではこんなこと、なかなかないと思う。
たまに遊びにくる、勇者たちをギッタンバッタンやっつけて遊んでいた。
そう、なぜなら最強だからだ。
彼らの攻撃は僕にとってはまったく痛くなく、僕の攻撃は彼らにとっては少し触れるだけで、心が折れるほどなのだ。
誰もが羨むような力を持っていた。
人間だけではなく魔物たちも。
すべてのものが僕に比べたらなんの力もないのだった。
ましてや、人間達では僕にはとても刃が立たなかった。
そのくらいの力を持っていたのだ。
圧倒的な力、それが僕、魔王。
だったのだ・・・今さっきまでは・・・。
しかし、大変なことが起きた。
いま、まさに、遊びにきた勇者をギッタンバッタンなぎ倒し
お帰りいただくところだったのだが
この勇者が、いままで見たことがないアイテムを使ったのだ。
一度倒したこの勇者たちが、暫くの間、ここにこないで
何か探して旅してるなー・・・
とは思っていたのだ。
僕に対抗するための何かを手に入れようとしている、とは思っていた。
それは普通に考えてレベル上げだろう。
レベル99まであげて、この最強最悪の魔王に挑もうとしているのだろうと。
そして、そんなことをしても今の僕に勝つのは無理だ。
そう思っていたのだ。
それほどまでに僕の力は圧倒的。
ちょっとやそっとの努力では僕に勝てない。
しかし、その考えは間違っていた。
勇者たちがまさにやられる直前に出したアイテム「きぼうのひかり」。
それは水晶の中に秘められた力を魔王に当てると
特殊な効果を発揮するというアイテムだったのだ。
そして・・・僕は力を失ってしまったのだ。
正確に言おう。
攻撃力がなくなってしまったのだ・・・
そう、最強最悪の力を持っていた僕の攻撃力は・・・
いまや1なのだった。
「これはヤバイ・・・」
僕はもう一度呟いた。