後先考えないキャラの後始末する人、胃が蓮コラみたいになってる説
穴ボッコボコに空いてそう笑笑
爽やかな朝は誰にでも訪れる。
無垢な赤子。物静かな老人。仲睦まじい夫婦。
そして、私のような薄汚れた殺し屋にも。
ビルの屋上から見える太陽に眼を潤ませながら、吐けば白くなる冷たい空気を吸い込む。新鮮な空気だと思ったのも束の間、ビルの足元から聞こえるディーゼル車のエンジン音に風情を壊された。
「ターゲット乗車。降下スタンバイ」
片耳に付けたイヤホンから指令が飛ぶ。排気ガス塗れの汚れた空気を嫌々吸い込み、いっとき心を止めた。
「降下」
額のゴーグルを両目に掛け、屋上のフェンスにひと跳びで登る。重力に身を任せ、背中からゆっくりと虚空に身を投げ出した。目撃者がいたとすれば、私は自殺志願者にも見えただろう。今の私を目撃できる者がいればの話だが。
1秒……2秒……3……4……
耳馴染みになった空気を切り裂く音と顔を撫でる凍てつく風に別れを告げ、落下先に意識を向ける。落下予測地点には未だ何もない。が、それもいつものこと。
「術式展開」
腰に帯びていた両刃剣を抜刀し、魔力を流し込む。剣は薄く発光し、術式の執行を今かと待ち受ける。
「術式発動・斬艦剣」
剣を真下に投擲する。空気の壁を突き破らんとする刃は、非現実的なスピードで地面に向かって遠ざかって行く。
直後、ビルの地下駐車場から一台の高級車が顔を出した。ああ。あの型番は好きだ。着地時にいいクッションになるから。
2……1……
「ゼロ」
剣が車を串刺しにする。女子供でも振り回せそうな小振りな剣は、貫いた車ごとアスファルトを両断した。けたたましい音と共に、剣を中心とした半径数十メートル程に亀裂で円が描かれる。それを眺めつつ、潰れた高級車の屋根にフワリと着地した。それまでのスピードを無視するかのように、空に舞った羽毛が地に落ちるように。
気配を殺し、車内を覗き込む。動いているものは何もない。
「ターゲットの死亡を確認。任務完了」
剣を引き抜き、離脱する。
ゴーグルを外し、額に押し上げる。
「多少はいい空気になったか」
血糊のついた剣を引き摺りながら、私は深呼吸した。