ローファンタジーのヒロインって戦闘力高い子多くね?
サブタイトルは全くの無関係です。
奇跡って信じるか?
俺は信じてる。だって、あんな体験をしちまったんだからな……。
☆
「ハァッ……ハァッ……!」
真夜中の住宅街。多くの人が眠りに就き、寝静まった家々。
そんな中を、肩で風を切って俺は駆け抜けていた。別にトレーニングとか青春エネルギーが暴発しちゃったアレとかではない。
俺は逃げていた。何からかって?
異形
そう呼ぶのが一番しっくりきた。受験を真近に控えた高3の秋。予備校からの帰り道にソレは突然やってきた。
はっきりした姿は見えない。形容するとすれば『動くヘドロ』だろうか?不定形の巨軀をふらふらと揺らしながら俺に近付いてくる。
時折鳴き声のようなものを上げる。野太い風穴に強風が吹き込むような、低い唸り声。それが一際恐怖心を煽った。かれこれ30分近く逃げ回っているだろうか?
「なんなんだよクソッ!なんだよアレ!?」
ソレは徐々に速度を上げた。今では走ってないと距離を詰められる速度になっている。
それと反比例するように俺の足腰は悲鳴を上げ始める。卓球部仕込みのスタミナも底が見えてきた。
「…………ア゛ァ」
ソレは短く吼えた。チラッとソレの方を振り向いた瞬間、俺の視界は星空へとシフトした。何かに足を取られてそのまま背中から転んだのだ。
「痛ってて……な、なんだよコレ!」
足を見ると、ソレから伸びた触手のようなものが俺の足首を掴んでいた。
「…………」
無言で躙り寄るソレを見る。月光に反射され、身体の中央にある紅い目が見えた。
「ヒッ……」
短い悲鳴が漏れた。コイツは俺をどうするつもりなのだろうか?どうにせよいい予感はしない。
「クッ!外れろ!」
ソレから伸びた触手を外そうとする。泥のような不快な感触に総毛立つが、外すことに専念する。しかし外れない。足枷のように足首をガッチリ掴んでいる。
「……セェ」
ソレが初めて鳴き声以外の音を出す。思わず耳を澄まして聞き直した。
「ヨ……コセェ……」
無機質だったソレは急に雰囲気が変わった。
自動追尾する機械のようだったソレが、今は感情を露わにしている。
怒り。怨み、とも取れるその感情は、間違いなく眼前の俺に向けられていた。
「なんだよ……俺がお前になんかしたってのか?」
「ヨコセ……チカラヲ、ヨコセェ!」
ソレははっきりと声に出して言った。
「力……?何かよくわかんねぇけど、お前にあげられる程の力なんざ持ってねぇよ!人違いじゃねぇのか!?」
「ヨコセェ……チカラァ!」
ソレは聞く耳を持たない。グッと圧縮したかと思うと、バネのように伸び上がり空中で落下傘のように体を広げた。俺を飲み込むつもりなんだろうと直感する。
「クソッ!外れろ!外れろよ!嫌だ!こんなとこで……」
死にたくない。死にたくない。まだ生きていたい。こんなところで、得体の知れない怪物の養分になるなんてまっぴらごめんだ!
しかし、抵抗虚しくソレは高速で落下を始めた。
もうダメか。畜生。こんな終わり方なんて嫌だ!誰でもいい!
「助けてくれぇっ!」
奇跡よ起きてくれ……!
「……一ノ太刀・無影斬」
一瞬静まり返った空間に、男の声が置かれた。
直後、凄まじい風圧と共に異形の怪物は四散した。
「なん……?」
何が起こったか分からなかったが、自由になった手足で即座に後ずさった。
「ふん。案外元気そうだな」
声のする方を見る。そこには、どう見ても銃刀法違反な大太刀を腰に帯びた一人の男がいた。着物に袴。まるで侍だ。
「久しぶりだな相棒。つっても、今のお前には記憶が無いんだったか。なら初めましてだな」
侍風の男は何やら意味深な発言をしつつ俺に話しかけてきた。
「アンタは……?」
「ま、やっぱりな反応だな。とりあえず場所を移そうぜ。ここじゃ誰に見聞きされるか分からん」
そう言って男は俺についてくるよう促した。
突如現れた異形の怪物。
そして、俺を相棒呼ばわりする謎の男。
もう分かるだろ?俺の“奇跡”は、ここから始まったんだ。
リハビリがてら不定期に投稿します。お目汚しやも知れませんが、皆様の妄想の入り口になれば幸いです。