金銀妖瞳
皇宮の外まで撤退したウォーカー率いる戦車隊は皇宮を包囲している騎兵隊と合流し、自身達もその包囲網に加わった。
相変わらず威圧的な音楽が戦車に取り付けている魔法陣から流れている。そのおかげかは分からないが騎兵隊からは距離を置かれ、前門があった場所に戦車4両ポツンとたたずんでいる形になっていた。
まるで嫌われ者だな。と、ラインは皮肉気に感じた。
同じ味方であるはずなのに残念ながら騎兵隊と戦車隊の折り合いは良くない。
特に騎兵隊の副隊長ことムスカル・ソウは事あるごとにうちの隊長に突っかかってくる。
戦車隊に武勲を奪われる形に成っているのが相当悔しいらしい。
ただ、それだけでもないのがエルフとして醜いところだ。
彼ら騎兵隊に限らず、総督府をはじめ多くの人がウォーカー隊長を嫌っている理由。
それはウォーカー隊長が純粋なエルフ族では無く、人間族とのハーフであると言われているからだ。
ラインはそんなあちらこちらから嫌われているウォーカーに顔を向けた。
砲塔のハッチから体半分を乗り出して皇宮を眺めているウォーカーはそんなラインに気が付いたのかニカッと笑う。
『もう、そろそろ内部の制圧も完了する頃だと思うよ』
『隊長は……いいのですか?』
『ん?何が?』
『いえ、大丈夫です』
ならいいんだけどと、よくわかっていないウォーカー隊長。彼の細目は右左で虹彩の色が異なっていた。
エメラルドの様な右目とオニキスの様な左目、薄緑の瞳と黒い瞳を持つ彼はハーフであるだろうとラインもそう思う一人であった。
通常、左右の瞳の色が異なることは滅多に起こりえない。
ただし、異種族間で出来た子供。いわゆるハーフと呼ばれる人たちにはよく起こっていた。
特に魔法を使えない人間族と魔法を最も扱えるエルフ族の間にできた子にはその特徴が顕著に表れる。
そして魔法を使えない人間族の多くは迫害の対象で奴隷、またはそれ以下の存在として見られていた。
そんな人間族とのハーフ。嫌われる理由には十分すぎるというわけだ。
本人が言ったわけでは無いが、彼の来歴、また黒の瞳はエルフ族に絶対存在せず、かつ人間族によくあるものだ、という点からして間違いないと事実として広まっている。
ウォーカー隊長はそのことに関しては否定も肯定もしない。
ただニコニコと笑っているだけだ。
二人の魔導通信機に歩兵隊から内部の制圧を完了し、目標を捕縛したとの連絡が入る。
それを受けたウォーカーはハッチから出てきて戦車からヒラリと飛び降りた。
既にエンジンは切って有り、戦車は沈黙している。
「じゃ、行こっか」
「その格好で行かれるのですか?」
「……」
ウォーカーは自分とラインの服装を見てまだ戦車兵の戦闘服のままだったことをやっと思い出したらしい。
「ここからは東方辺境軍作戦司令室付としてでは無かったでしょうか」
少し、あきれたような口調のライン。
こうしたちょっとしたミスはラインが副官として任官して以来、何度も起こっている。
「……ごめん、少し待ってて」
「了解です」
再び戦車に戻ったウォーカーは中でしばらく格闘した後、カーキーの軍服に身を包んで姿を現した。
「よし、今度こそ行こう」
「そうですね」
まるで家に帰ろうかとでも言うような軽い調子のウォーカー。
胸ポケットから眼帯を取り出し、右目を覆うように着ける。
そのまま紅いベレー帽を被りなおすとラインの隣に立って歩き出した。
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