最後の抵抗
『全車、前進。歩兵隊も後に続け』
無線機から流れる何の変化もない声にラインは軽く冷や汗を感じていた。
先ほどの二度目の砲撃。大部分の敵は戦闘能力を喪失していたにも関わらず、実行された。
任務上、仕方ない事ではある。そうであるにしろ、何とも言えない気持ちにラインはなっていた。
『次弾目標、前方正門。弾種榴弾、停止射』
駆動音と共に砲塔が回り、正門へと照準を合わせる。
『撃て!』
ドッと砲炎が咲き、榴弾は飛翔する。
次の瞬間、青磁の瓦で葺かれていた皇宮の前門はその周りの壁ごと、瓦礫の山と化した。
歴史的な価値は正に吹き飛んでいったのである。
『全車前進、歩兵隊の露払いだ。動く物はすべて撃て』
ウォーカーによる無線が流れてくる。
パラパラと降ってくる土塊の中、ラインの搭乗しているT-34-85中戦車も前進を開始した。
皇国の兵が隠れていそうな場所へ砲塔を回転させ機銃で掃射する。
7.62ミリの弾丸は潜んでいた歩兵達の鎧を貫き、永遠の沈黙を与えていた。
瓦礫の山を越える戦車隊。
その途端、地面に白色の魔法陣が急速に広がりウォーカーたち戦車隊を閃光の中に包み込む。
歩兵隊の位置からでも確認できるほどの爆炎が立ち上り、大地を轟かすほどの激しい爆発音が重なった。
黒煙が立ち上ると共に釣鐘の様な物が転がる音がどこかから聞こえて来る。
煙が薄れていくと其処には砲塔がない車両、砲塔のハッチから火を噴き出している車両、履帯が破壊され走行不能に陥っている車両などのある光景が無残にも広がっていた。
――皇国の最終防衛線、皇宮の前門背後には遠隔操作が可能な巨大な魔法陣が埋められていたのである。
かつて250年前、皇国が周辺国家をまとめ上げ、建国された時に作られた、当時の為政者の考えた装置であった。
その技術、存在の在り処は帝国に統治されるようになってから後も厳重に秘匿され続け、ついぞその身で効果を試すまで知られることは無かったのである。
地下5メートルに敷設されていたこの魔法陣の効力。それは魔力を流すと接地面に対して垂直な方向に激烈な爆発を引き起こすものだった。
爆発の生んだ衝撃波は先程までの砲撃でバラバラになっていた石畳を巻き込んで、戦車の床を次々に貫いていった。そして運悪く弾薬庫を貫かれた車両はその後の爆炎により引火、砲塔を空高く舞い上がらせていったのであった。
皇宮からは皇国兵の歓声が上がっている。
ついに敵の化け物を倒すことが出来たと。
これで我々にも勝機が見えたと。
そう口々に叫んでいた。
再び魔法による攻撃が戦車隊に向かって放たれる。
先程のいわば地雷による攻撃で車体に多大なダメージを受けていた車両が二両、履帯を破壊され、走行不能に陥った。
更に衝撃で操縦席のハッチが開いていた車両が炎による魔法を車内に受け、引火、先程の車両に続く事となった
走行不能に陥った戦車を見下して、一人の魔法上級兵があることに気付いた。
奴らは足が弱点だと。そうすれば動くことが制限でき、ずっと脅威が下がると。
いわば当然の事ではあるが、先程までの攻撃の通用しない様子から、完全に選択肢に入っていなかったのである。
「足元だ!あの化け物たちの足元を狙うんだ!」
その言葉の意味に気付き、色めき立つ魔法兵達。
しかし、残念ながらそれを実行することは終ぞ叶わなかった。
彼らが立てこもっていた場所に榴弾が飛び込んできたのである。
その爆発によって生じた爆風と破片はそこの部屋に立てこもって居た彼ら一人余すことなく、死を手渡していた。
皇宮の二階に位置する一角が爆発で吹き飛ぶのをペリスコープから確認したウォーカーはハッチを押し開け、顔を出した。
これ以上魔法による攻撃はないと見て良いかな。これで十分露払い出来たでしょ。と、ウォーカーは呟く。
そのままラインに無線で指示を出した。
『音楽を始めてくれる?』
『了解です』
ラインの明瞭な返事と共に城外で流していたあの音楽が再び各戦車から流れ出した。それに伴って事前に予定されていた通り、歩兵隊が攻撃を開始する。
攻撃的で勇蛮なあの音楽。帝国の版図、威光を広げんとするその意思を高らかに歌うそれは,先程までの皇国兵の歓声を塗りつぶし、味方の士気を上げるのに十分な効果を発揮した。
敵の魔法による攻撃もない今、敵の抵抗が激しい場所には戦車からの支援砲撃が随所に加えられ、敵の歩兵部隊は激しい損害を出しながら、押し込まれるように建物内へと退却していった。