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異世界の大地を戦車は駆ける ~砲声ハ誰ガ為二~  作者: 蜜柑の三等兵
皇国鎮圧作戦における最終局面。
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皇宮へ

 ハルメ皇国の首都を取り囲んでいる城壁はその役割を疾うに消され、ただ瓦礫の山としか存在を許可されていなかった。


その間を、上を、砂塵と轟音を生じさせながら、戦車隊は慎重に市街地へ。敵首脳部のある皇宮へと前進していく。


戦車上に乗車していた兵士たちは既に下車しており、周辺にある建物の死角からの攻撃に注意深く備えていた。


辺りの民家は窓を閉め切っていて、この天災のような状況が過ぎ去ってゆくのを息を潜めて待っているようだ。


街道上にはバリケードも何もなく、後方から追いついてきた騎兵隊と戦車隊は各中隊ごとに分かれ城内の武器庫や対空陣地などの主要拠点を制圧しながらエンジンの駆動音を響かせ前進していった。


遂に皇宮の正門前広場に魔法の射程範囲ギリギリまで進軍した戦車隊の4個中隊、計16両及び戦車跨乗歩兵隊は整然と停止した。既に皇宮周辺では騎兵隊が辺りを封鎖しており、ネズミ1匹も通さない厳重さであった。


『かなりの数ですね……』


ライン・アイルハス副隊長は白い顔に緊張の色をたたえて、隣の戦車のハッチから顔を出している隊長を見やった。


『我らが総督閣下は一体皇国の何を統治していたんだろうな』


ウォーカー隊長の声に皮肉の色が混ざるのはある意味仕方のないことだろう。

帝国に併呑されてからかなりの月日が経ったというのに、監視の目が十分に行き届いていない現状は総督府に能力がないことの証明だった。



およそ1000人を超える皇国近衛兵、及び魔法上級兵が前門を盾として陣取っていたのである。

どうやらここを決戦の場とするらしかった。


睨み合う両軍の間に一人の近衛兵が馬に乗った状態で前進してきている。

その装飾具合から見てどうやら隊長級の人物のようだ。


皇国の象徴である黄金の鷲の飾りを派手にあしらった其の甲冑はそれを身に着けている人の性格を物語っていた。


『彼は何をしているんだ?』

『おそらく、決闘でも始めるつもりなのかと』

『へえ、決闘ね。決闘の文化は廃れたんじゃなかったっけ?』

『ええ、50年ほど前には』


ウォーカー隊長が不思議そうに眺めている。

他の兵士達も一体何を始めるつもりなのかと興味深そうに見つめていた。


近衛兵は騎士の出で立ちをしており、丁度両軍の中間まで来ると朗々と響き渡る声で口上を述べ始めた。


『彼の口上が終わって、行動を取り次第、攻撃を開始する。歩兵隊には戦車の後ろに下がって魔法攻撃に警戒しろと伝えてくれ』

『了解です』


ラインはハッチから頭を下げ、魔導通信によって包囲網を形成している騎馬隊へと連絡を飛ばした。突然の砲声に騎馬が驚き包囲網に綻びが出る可能性があるからである。

歩兵隊には事前に戦車の攻撃が始まるまでは動かないよう指示してあるので問題はない。


「――よって我々はここに貴様ら悪しき帝国を非難する! 我々皇国は決して誇りを失わない! 我々の祖先が苦難の道をもって作り上げたこの国は! 自由は! 我々が守る!全機、突撃ぃーっ!」


近衛兵の熱を帯びた絶叫と共におよそ100機ほどの皇国騎馬隊が突撃を敢行した。

そして時を同じくして魔法による攻撃も開始された。


先ほどまでの口上というよりもはや演説であったそれは確かに皇国騎馬隊の士気を高める効果があったらしい。そこには死を恐れるといったような感情は一切見受けられなかった。


『目標、前方500メートルほど先、騎馬隊。弾種榴弾、停止射』


ハッチに手をかけながら敵の攻撃開始を確認したウォーカーは淡々と指示を出し、自身も戦闘態勢に移った。


ハッチを下ろし、車長席からペリスコープを覗いて外の状況を確認する。大規模な魔法による攻撃が戦車隊を襲ってくるのが見えていた。


炎や鋭利な刃物のように尖った氷や岩石の槍、雷撃などモノを傷つける事を目的とした魔法達が暴風雨の様に戦車隊へ殺到した。


「やったか……?」


騎馬の上、戦車隊へと駆けている近衛兵の一人はそう呟いた。

しかし、彼が見たのは土煙の中から姿を現したのは何の変化もない、無傷の戦車達だった。


「そんなバカな! ありえん!」

『撃て!』


その声は特に大きくも無かったが、全ての砲塔が正確にその指示に従った。

発砲が開始される。


85ミリの榴弾は16両全ての戦車から同時に放たれ、その全てが接近してきた100機の騎馬隊へまんべんなく命中した。


直撃を受けた騎馬兵や周辺の騎馬兵達たちは痛みを感じることも無く爆炎の中に消えていく。


そして何とか躱すことの出来た後方の騎馬兵たちも直ぐに彼らの後を追うことになった。

圧力により破砕された弾殻が高速で彼らの体を通り貫けていったからである。


戦車の無傷さを見て動揺していたあの騎馬兵は幸運にも直撃は免れたがその暴力的な音に驚いた愛馬から投げ出され、その身を大地に叩き付けることとなった。


その朦朧とした意識の中、閃光が彼を包み込んだ。最後に見えたのは故郷の年老いた母の顔だった。


経った二度の砲撃で精強を謳う近衛騎馬兵100人は文字通り全滅した。

もっとも85ミリの榴弾を生身の人間に向けたのだから当然のことでもあったが。



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