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母の思い

 


 ―――――


「おーい! こっちこっちー!」

「待ってよ~ おにいちゃん!」


 春空の下、風の吹き渡る草原を走る二つの毬。

 もとい、元気いっぱいに走り回っているのはキリクとクナメだ。


 彼らの後ろ姿を微笑ましそうに眺め、ゆっくりと歩く母カレン。

 そしてその母のスカートのすそをちょこんと掴んで離さないウォーカーが居た。


 もう片方の手には大きな花束。

 そのウォーカーの小さな体にはちょっと大きかったが、ウォーカーが自分で持つと言い張った物であった。


「ウォーカー、無理はダメよ?」

「……だいじょうぶだもん」


 この子に持たせたのはちょっと不味かったかしら。

 カレンは軽い心配をしながら今年で7歳となるウォーカーを見つめている。

 空は青く、温かな日差しが道行く彼らを包んでいた。


 しばらくして、彼らが到着したのは草原の先にある高台の墓地だった。


「これはこれは、カレンさん。こんにちは」


 掃除をしていたのだろう、墓地の中から一人の年老いた男性が箒を手にして出てきたのがカレンの目に映った。


「あら、村長さん。こんにちは」


 どうもとお辞儀をするカレン。

 不思議そうに村長を見つめるウォーカーにカレンは笑って促した。


「ほら、ウォーカーこんにちは。は?」

「……こんにちは」


 カレンの陰に隠れるようにしてお辞儀をするウォーカー。

 あっはっはと、ひげを揺らして笑う村長に困り顔のカレン。


「ごめんなさい。この子、人見知りが激しくて」

「なに、礼儀がしっかりしているから大丈夫だわい」

「ほら、村長さんとお話をするからお兄ちゃんたちと遊んでなさい」


 カレンが花束をウォーカーから受け取ってキリク達の方へそっと背中を押す。

 ウォーカーは小さくうなずくとそのまま走り回って遊んでいるキリク達の方へ歩いて行った。



「……今日はチミツの墓参りかね?」


 カレンの抱えている花束を見て村長は尋ねた。


「ええ」


 二人の視線は先の原っぱで遊んでいる子供たちへと向けられていたが、どこか遠いものを見つめるまなざしになっていた。


「あれから、もう8年じゃのう」


 村長の過去を振り返る声にカレンも記憶を巻き戻し始めた。


「そうですね、早いものです……」


 ***


 遡ること18年前、当時行商人として界隈を鳴らしていた一団の御者として夫のチミツが雇われ始めた。


 温厚な性格で、動物が大好きだったチミツは村では馬たちの世話をしていたし、その行商人とも仲の良かった。また給金も弾んでくれたこともあり、御者として一団について行った。とてもいい働きぶりをしているとの事は月一で送られてきた手紙で教えてくれたことだ。


 もちろん、不安は有ったがその一団は規模も大きく護衛が優秀である事でも有名であったことから安全面での心配は無いだろうと信じていた。


 その不安が現実となってカレンの前に舞い降りたのが8年前。

 傷つき、ボロボロとなって変わり果てた一団の生き残りが村にやって来た時のことであった。


 ***


「――かね?」

「えっ? あ、はい、何でしょう?」

「ウォーカー君にはいつ話すのかね?」


 現実に呼び戻され、まじまじと見つめるカレンと気づかわし気に尋ねる村長。

 この方とこの方の奥さんには子育ての事から何やら色々とお世話になった。


 そもそもウォーカーと同じように捨て子としてこの村に引き取られた私。

 そんな私を気にかけてくれたのもこの村長さんだった。

 ほんと、感謝している。


「――10歳の誕生日に、話そうかと思っています」

「……そうか、確か流星祭の日じゃったな」

「ええ、あと3年です」


 ウォーカーの事情は村の人たちはよく分かっているから何も心配することは無い。

 ただ、いつかは独り立ちをしていく日が来るだろう。


 この世界は人間族には悲しいけど優しくない。

 そんな世界で生き抜いていくにはウォーカーの出自は相当なハンデになる。


 少なくとも今だけは、何も考えずに楽しく日々を過ごしてもらいたい。

 少し、内気な性格ではあるけれども、きっと大丈夫。


 私と同じような辛い思いをするのはまだ先でいい。

 キャッキャと笑って遊ぶ三人。

 楽しく遊ぶ我が子らを見ながら、そう思うのがカレンの親心であった。



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