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砂に埋まる大木  作者: 三珈 友兎
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プロローグ 継承

オーヨコート。太古の昔より人が住み、喜怒哀楽、四苦八苦を繰り返してきた場所。かの救世主がイーサクラウナによる恐怖より人々を救ってからかれこれ2000年にもなる。その間にも多くの血が流れ、長い長い歴史が蓄積していった。


スウィラゼ・ウィア・ウェネットはそんなオーヨコートで唯一の帝国にして、最大の国家、「ティエルダ帝国」の若き姫、そして皇位継承権第1位にある人間である。この国の皇室は遥か昔、30世紀ほども前までさかのぼることができ、初代当主は神話において最も重要な神の1柱であるアセラタマであるともいわれる。国土や政治の中枢は時代とともに変化してきたが、悠遠の神代より君主という地位を貫いてきたウェネット家は世界各国より権威の頂点のような存在としてあがめられている。スウィラゼはその重い重い自分に流れる血に誇りこそ持っていたが、同時にうっとおしくも感じていた。


「スウィラゼ様、間もなく皇城でございます。ご支度を。」

「わかりました。」

そう返事をしながらもスウィラゼは窓の外を見て物思いにふけっていた。

「…どうかなされましたか?」

「いえ、この国のすばらしさを身に染みて感じていたのです。臣民は皆勤勉で、我々皇室の人間にこれ以上にないほど愛着と敬意を持っていてくれています。ほんの50年前にはここが焼け野原だったというのですから、感慨深さを感じても当然でしょう?」

「ええ、そうですね。私が子供のころには、よくお堀に水を汲みに行かされたものです。」

「それが今ではこのように、ビルが立ち並び、10数年しか生きていない私にもここが近未来であるという錯覚をおぼえさせてやみません。」

「それもこれも貴女様のお父様のおかげでございます。」

「ええ、そうですね。本当に父は偉大でした。…偉大でした。」

父の、いや、自分の家の偉大さを他人に指摘されればされるほどに、自分の存在意義を疑いたくなる。スウィラゼは複雑な表情で何度もうなずいていた。




ファンファーレが鳴り響いた。間もなく式典の始まりだ。ふと外に目をやると、群衆が城前広場に集まり、歓声を上げている。

「新皇帝様のご入場であります。」

人々の持つ国旗の翻る様は、いかに自分が恵まれているかということを表していた。見れば、トーウェイやケイティエルダといった属国の旗とティエルダ国旗を両手に持ち、笑顔をこちらに向けている人間も大勢いる。

白い車体が広場に入場してくるとますます歓声はその大きさを増した。


儀仗隊による栄誉礼、国歌の演奏と国旗掲揚がされるといよいよ戴冠式である。大司教から杖と冠が受けわたされる。スウィラゼは今何を思っているのであろうか。彼女自身、よくはわからなかった。

しかしそれは、決して明るいものではないことは明らかであった。


天地を揺るがす何かが始まる。そのことを彼女は直感していた。

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