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無能サマナーの冒険伝  作者: 羽黒つばさ
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期間限定クエスト『ムッソ狩り』(下)

森の中は昼間だというのに薄暗く不気味な感じがしている。木々の種類が違うのか、トレントの森とはまた違う感じがしている。


ここ東の森は西の森とは違いラットラビットやトレントは生息してなく、様々モンスターがいる。本来ここの森に入るには☆3のランクが必要。なぜなら、この森から冒険者は本格的な冒険が始まるからだ。真っすぐこの森を抜けると☆5の山岳地帯になり、南に行くと☆4湿地帯。北は☆3の沼地となっている。この森を抜けなければそれらの所に行けないようになっている。いわば中心地帯となっているこの森は☆3~5までのモンスターが潜んでいる。そのため必然的に冒険者たちはPTを組むことを求められ、連携してモンスターを倒さなければ先へと進めないようになっている。なぜその☆3ランクの森に今回の限定クエストで☆1が入れるのかというと、先ほど受付嬢が話した「結界」が役目を果たしているからだ。その結界とはどんなものなのか・・・。


「ロッテ。足元に注意してくださいね」


周囲に人気がない事を確認したアスモデウスは人間の姿になりロッテを先導するように前を歩く。


ロッテがこけたり木々で傷がつかないように枝を折り草を踏みながら進む。


「ありがとうございますアスモさん。それにしても道という道がないですね」


後ろから優しく温もりのある声をだしてお礼を言うロッテ。


森の中は殆ど整備されておらずほとんどが獣道のようになっていた。さすがに☆5までのモンスター出るのだから整備を出来ないのは仕方ないとアスモデウスは判断した。


「そうですね。でも仕方ありません。ここには色んなモンスターがいるのですから」


「それもそうですね・・・よいしょっと」


「大丈夫ですか?」


「はい。全然平気です!」


「ではもう少し先に行きましょう・・・おや?」


アスモデウスは先に何かがいる事に気が付いた。


森が薄暗いので影みたいにしか見えないが、それは大きな恰好をしていた。


「モンスター・・・ではなさそうですね」


アスモデウスは相手から伝わる気配でそう感じていた。


「何かいるんですか?」


後ろにいたロッテも先の方に目をやる。


「あ、あれは結界ですね」


ロッテはそう言った。


「結界?あれがですか。生命のようなものを感じるのですが・・・」


「アスモさんは見たことないんですね。では近くに行ってみましょう」


今度はロッテが先頭になり、結界の所まで向かった。


「・・・これは、ゴーレムですか・・・」


結界の目の前に来た二人の目の前には大きく頑丈で屈強な体格をした石のゴーレムが立っていた。そのゴーレムは二人が見ているのに微動だにしていない。


「これが結界なのですか?」


「そうですよ。これは魔力を注がれた人工のゴーレムなんです。命令された事を絶対に守るんですよ。例えば・・・」


ロッテはゴーレムの横を横切ろうと歩くと、ゴーレムはゆっくりと動きロッテの前に大木のように太い腕を前に出し制止させ


「ココカラハホシニカラ・・・」


と言って通行を禁止させた。


「このようにですね、条件を見たさない人が通ろうとすると阻止するんです」


「なるほど」


「それでこのゴーレムが一定の間隔で配置されてます。もしモンスターが現れたらそれも迎撃しに行くんですよ」


「それは凄いですね。ではこのゴーレムをずっと置いとけばここは安全になるんですね」


「・・・それがそうもいかないんです。ゴーレムの魔力が尽きると動かなくなるです。しかも注入するのにも凄く時間が掛かるしコストも高いらしいです・・・。なのでこの期間限定のクエストだけ使うことにしてるんですよ」


「中々おおきなデメリットですね・・・」


「そうですね。では限界範囲もわかったようですしクエスト対象がいそうな所に向かいましょう」


「畏まりました。それでその対象とはどこにいるのですか?」


「えっとですね・・・樹液が出ている所に多くいると思います」


「わかりました。樹液ですね。・・・・・・こっちです」


アスモデウスはゆっくりと深い深呼吸をするとその場所を特定した。


「え?もしかしてわかったんですか?」


「勿論です。向こうにたくさんの樹液の匂いがします。まだ他の冒険者の人のにおいもしませんし行きましょう」


「アスモさん有能過ぎます」


「私に出来ないことはあまりありませんからね。では、私に付いて来て下さい」


「はい!」


二人は樹液が出ている木へと向かっていった。





「あーうっとしい森だな・・・」


イラついた声を出しながらカルロは周りの草を踏み枝を折りながら一歩一歩進んでいく。


「だったら早く歩けばいいのに」


その後ろをのんびりと歩くルシ。


「これでも早く歩いてるつもりだ。・・・ったく、整備くらいしてほしいぜ。獣道と変わらないじゃないか」


「いや、獣道ほどでもないでしょ。確かに整備されてないけど全然通れる道でしょ。カルロが気にし過ぎなのよ」


ルシの言う通り、道ではないが獣道のように複雑ではなく人一人が余裕をもって通れるくらいの幅があった。それなのにカルロはその周辺の枝をと草を除去していた。


「当たり前だ。折角の防具が汚れるだろ。手入れをしたばかりだというのに何でこんな森の中に入らないといけないんだ・・・。あ~早く帰りたい・・・」


「駄目。クエスト成功しないと報酬はいらないんだから」


「俺は別に欲しくねぇよ。・・・それよりその恰好は何なんだよ」


歩くのを止めルシの方へと振り向く。


「え?似合わないかな?」


「・・・いや、似合う似合わないではなくてだな。・・・それ虫取りセットだろ・・・」


ルシの左手には大きな棒付き網と肩に下げている大きな虫籠が装備されていた。


「これがないと捕まえられないらしいよ」


「捕まえられないって何がだ?カブトムシか?クワガタか?」


「クエスト対象」


「・・・・・・は?」


「だから、ク・エ・ス・ト・対象」


「・・・なあルシ。詳しく聞いてなかったが、今回のクエストってもしかして・・・」


「カルロの想像通りだよ。今回のクエストはムッソっていう昆虫の幼虫取り」


「・・・・・・・・・最悪だ」


「そうかな?童心に帰った気分で私は楽しいよ。それにそのムッソが結構高額な値で売れるんだって。たくさん取れば自分達で売ってもいいらしいよ」


「合点がいった。それでその報酬額なのか・・・」


「だから頑張ろ。たくさん捕まえたらカルロの防具や装備も新調出来るよ」


「新調かぁ~・・・魅力的な話だが、いまいち乗り気がしないな・・・。虫取りで得た報酬でってところが・・・」


「なら私が全部貰うよ?」


「駄目だ。きちんと半々だ」


「結局やるんだ。ツンデレだね~」


「男にツンデレを言うな。気持ちが悪い」


「はいはい。それじゃあ早く行こ。ほかの冒険者に獲物が捕られちゃう」


「そうだな。ならこの周辺を探索するか」


「奥に行かないの?私達☆3だよ」


「奥に行けてもいるとは限らないだろ。それに☆1の範囲でも十分広いから穴場はいくつかあるだろ」


「おぉ~よく考えてるね」


「これくらい誰でも思うことだ。それに奥に行けモンスターに出会う確率も高くなる。2人だけのPTでは賞賛がないだろ。俺とお前ではな」


「それもそうだねーアハハ」


「方針は決まったことだし行くぞ」


「はーい」





アスモデウスとルシは暫く歩くと少し開けた場所に出てきた。そこには他の木々よりも一回りも大きな大木が立派に立っていた。その木からは樹液が垂れており色んな虫がその樹液を吸いに寄っていた。


「大きな木ですねー・・・」


「この辺りでは一番多くの樹液が出ている木です」


ロッテが『大きな木』と言うと凄く興奮しますね。・・・ですがこの辺りに目的のものはあるのでしょうか?ロッテの格好も見たことない杖と箱を持っていますし・・・。あの感じだとあの箱には目的のものを入れる為のもので、枝の先端には網が付いているということは手の届かない所にあるのを取るためでしょうか・・・。


「・・・目的のものはありましたか?」


大木の周囲を歩くロッテに声をかける。


「・・・・・・・・・・・・あっ!!」


アスモデウスはロッテの反応を見て目的のものが見つかったとわかり傍に近づく。


「見つけたようですね。どこにいるのですか?」


「あそこです」


ロッテが指を指した方は大分上の方だった。


「どの辺りですか?」


「えっと・・・あそこです。黒く光ってるのわかりますか?」


「・・・・・・なるほど。あそこですか・・・」


微かだが、黒く光っているのが見えた。


「・・・結構高い場所ですね・・・」


「む~・・・あそこではこれで取れそうにないです・・・」


しょんぼりとするロッテの表情をアスモデウスは横目で十分に堪能した後に


「私が取ってきましょう」


「え?出来るんですか」


「烏になれば可能ですよ。少し待っていて下さい」


アスモデウスは烏になるとその黒く光る所へと向かった。徐々に目的の場所へと近づいていく。黒く光るそれが大きく見え始める。


「・・・・・・・・・」


アスモデウスはロッテの所へと戻ってきた。


「おかえりなさい」


「・・・・・・・・・」


「どうですか?捕れましたか?」


「・・・ロッテ。一つ伺ってよろしいでしょうか」


「はい。何ですか?」


「目的のものはあそこなのですよね?」


そう言って先ほどロッテが指さした場所をさした。


「はい。そうですよ」


「それは黒く光っているのですよね?」


「そうですよ」


「・・・・・・・・・」


「どうかしましたか?」


「・・・・・・・・・虫・・・だったのですが・・・」


アスモデウスが戻ってきた理由はこれだった。目的のものへと接近したアスモデウスはロッテの為に取ろうとしたが、その黒く光るものは芋虫のような形でトゲトゲしく、大きさが大人の男の手のひらほどで、2本の長い触覚が気持ち悪く動いていた。


アスモデウスは心の中で必死に祈っていた。


どうかこれがクエスト対象とロッテが言いませんように。いくらこの私でも出来る事と出来ないことがあります。あんな気持ちの悪い虫を捕まえるなんて無理です。あれに触れるくらいならあのオカマに触られる方がマシです。お願いですロッテ。どうか・・・どうか違うと言って下さい!


「そうですよ。それが今回のクエスト対象です」


しかし、無情にもロッテの可愛らしい口から絶望を叩きつけられた。アスモデウスはその場で膝を落としがっくりとうなだれた。


「アスモさん。大丈夫ですか!?」


アスモデスの傍に駆け寄り心配そうに背中に手をやる。


「気分が悪いんですか!無理しないで下さい」


「・・・申し訳ありません・・・」


弱々しく告げる。


「大丈夫です」


ロッテは元気よく応えた。


「私が捕ってきますから!」


「・・・・・・え?」


「う~ん・・・。少し高いですけど登れなくはないので。アスモさんはそこで休んでて下さい」


木に手と足を掛け登ろうとする。


「あ、危ないですよ!無茶をしないで下さい!」


「大丈夫です。こう見えて私、木登り結構得意なんですよ。小さい頃はよくこんな木に登って遊んでいたんですから」


「ですが・・・!」


ロッテはアスモデウスの制止を聞かずに登り始めた。


「・・・んしょ・・・んっしょっと・・・」


少しずつ地面から離れ、目的の場所へと向かって行く。


「ロッテ危ないですから下りてきて下さい!もしもあなたの身に何かあったら私は一生後悔してしまいます!!」


あの清らから体に傷がついたとなれば私は一体どうすればいいのですか。・・・待てよ。傷ついたロッテたんが私の元にくるということは、私がその傷の手当てが出来るという事。


『アスモさん。そこは傷はついてないですよぅ・・・』


恥ずかしそうにスカートの裾に手をやるロッテだが、抵抗はしている様子は感じられない。私は優しくその手を離し、ゆっくりと徐々にロッテのスカートの裾を上げていく。


『は、恥ずかしいですぅ・・・』


雪のように白い肌がほんのりと朱くなる。


『恥ずかしがることありませんよ。私はロッテの使役者ですよ。一心同体なんですから、ほらもっと良く見せて下さい。大事な所も傷がないかしっかり見てあげますから。・・・隅々までゆっくりと・・・』


『・・・・・・はい』


ロッテの服を丁寧に脱がしていき体の隅々まで手当てをした。


「・・・じゅるり・・・」


という妄想をしていたアスモデウスの口からは涎が出ていた。


「これはいける。逝けますね。ロッテたんの初めてを私が頂ける絶好の機会だと理解しました。あぁ悪魔はやはり私に微笑んでくれているのですね。感謝します」


アスモデスは先ほどの妄想を実行するために木に登っているロッテへと視線を向けた。仮に落ちる事があったとしても、それを受け止めて怪我がないか隅々まで調べる予定である。


「ロッテ。大丈夫でs・・・!!?」


ロッテへと視線を向けた瞬間アスモデスの目に予想外のものが入った。


「大丈夫ですよ~。アスモさんはもう少し待ってて下さいねー」


慎重に上へと登るロッテ本人は気が付いていない。下から丸見えになっているパンツの事を・・・。


「・・・・・・っふ」


アスモデウスは小さく声を漏らした。


「相変わらずロッテの下着のセンスは素晴らしいですね。あの時も見せてもらいましたが、まさかあんな大人の下着を着ているとは・・・。あれが着ていたのを何度か見せられた時は自身の目が失明するかと思いましたが、未発達のあの体で大人の下着・・・これが本来のあるべき姿なのですね。確か人間は背伸びをしたがる時期があると聞いたことがあります。何のことか解りませんでしたが、このことだったのですね。・・・ロッテGJ・・・ブハッ!!」


そこでアスモデウスの意識は途絶えた。





「あ~暇だな・・・」


「そうだな・・・」


森の外で待機している☆5の冒険者達は暇を持て余していた。武器の手入れをする者、寝転がり昼寝をしている者、持参してきた薬草と薬品の確認とその調合する者。


「皆さん。暇なのはわかりますが、いつ危険なモンスターが出現するかわからないのですから気は引き締めてもらわないと困ります」


受付をしている女性が冒険者達に注意を促した。しかし、その注意を聴いても態度は変わらない。


「心配すんなよ。ちゃんと偵察をやってくれてる仲間がいる。何かあればすぐに連絡がくる。・・・それに俺達が向かえばこの森のモンスター達なんてあっという間に倒せるしな。そうだろ皆?」


リーダらしき冒険者の男がそう言うと全員が迷いなく頷いた。


「・・・ですけど・・・」


「心配し過ぎなんだよ。安心しろって、ちゃんと報酬分の働きはする」


「・・・・・・わかりました。お願いしますね」


渋々その言葉を受け止め受付嬢はその場を引いた。


「・・・と言ったが、周辺には結界用のゴーレムが無数にいるからな。正直あれの方が俺達より強いだろ。ゴーレム一体で俺達のPTがどうにか倒せるくらいの強さだ。頑丈な体は刃も通さなくて、魔法も魔力で動いているから効き目が薄い、あの巨腕が一振りしたら大木も草みたいに吹き飛ぶ。正直この依頼は旨すぎるな。これが終わったら皆で飲みに行こうぜ」


冒険者達はこの依頼が既に完了したかのように談笑に華を咲かせていた。その時、仲間の職業アーチャーの冒険者が駆け寄った。それと同時に森から笛の音が聴こえた。


「どうした!?」


先ほどまでの温い緩やかな空気が一変し緊迫した空気へと変わった。


「皆すぐに向かうよ!」


「待て、いったい何が起こったのか説明しろ」


「今偵察にいってた私のパートナーから知らせが来たのよ。それと同時に笛が鳴ったの」


「相手はどんな奴だ」


「・・・相手は―――――よ」


「なっ!!?」


冒険者全員がそのモンスターの名を聞いて驚いた。


「・・・嘘だろ・・・何でこんな所にあれが来るんだよ・・・」


「何かの間違いじゃないの!?」


「本当なんだろうな!!?」


「間違いないわ。パートナーがそう教えてくれたんだから・・・」


「・・・クソ!最悪な依頼になりやがったな・・・」


「あ、あの皆さん・・・」


受付嬢が心配そうな表情をして皆の前にやってきた。


「なぁ。ちょっといいか・・・」


リーダーが受付嬢に話しかけた。


「この依頼の報酬上げてれ。今から向かう相手に不釣り合いだ」


何のモンスターが出現したか説明をすると受付嬢はすぐに


「わかりました。報酬の額を倍にします。ですから森にいる新米の冒険者さんたちを助けて下さい」


頭を下げお願いした。


「・・・わかった。全力で助ける。退治できるから正直言うと絶望てきだが時間は稼ぐ。行くぞ皆!!」


リーダーの掛け声で仲間たちは一斉に森の中へと入って行った。





「―――さん」


・・・・・・


「ア――さん!」


・・・


「アスモさん!!」


「・・・・・・・・・」


目を開けると可愛らしい天使がいた。その天使をぼんやりと見つめていると私の頬に一粒の雨が降り落ちた。


「大丈夫ですかアスモさん!」


目を覚ました私にロッテは安堵したのか、より大粒の雨を降らせた。


「・・・私は・・・それに・・・これは一体・・・」


意識がはっきりし始めたが、今の現状にはまだ頭が追いつかないでいる。なぜなら、今は私はロッテに膝枕をされているからです。


「よかったです・・・。中々目を覚ましてくれなかったので・・・」


「・・・申し訳ありません」


あ~ロッテたんの太もも柔らかくて最高でちゅ~。


「ところで、こうなる前の記憶がないのですが・・・ロッテにはわかりますか?」


なんて甘くていいのに何でしょう。ロッテたんの体は一体何で出来てるのでしょうか。私とても気になります。調べていいですか?


「えっとですね。私がムッソを捕まえようと木に登っていたらいつの間にかアスモさんが血の池を作って倒れてたんですよ。お顔は気を失っている時に綺麗に拭かせていただきました」


「そうだったんですか。全く記憶にないですね。私の顔を拭いてくれてありがとうございます」


・・・ッチ!私とした事がとんだ失態をしてしまった・・・。意識を失っている時にロッテたんにお顔フキフキだとっ!!そんなご褒美を最高の時間と一時を堪能できないなんて!!!それに何か大切な事も頭の中から抜けている感じですし、全くもって自分に嫌気がさします。


「・・・そういえばロッテ。先ほどムッソと言っていましたが、ムッソとは何ですか?」


「あれ?アスモさんに言ってませんでしたっけ?」


「はい。初耳です」


「ムッソとはですね・・・これですよ」


そう言ってロッテは籠の中に入っている黒く光る大きな幼虫を見せた。


「これがムッソです。今回のクエストの目的です」


「・・・・・・虫ですか」


「虫ですけどとても美味しいんですよ」


「食べるのですか!?」


「アスモさんは食べたことないんですか?」


「ないですよ!そもそも食べようと思いません。そんな気持ちの悪いのを口に運びたくありません」


「え~・・・とってもと~~~っても美味しいんですよ」


「美味しかろうと食べたくありません」


「折角こんなにたくさん捕ってきたのになぁ~・・・」


「・・・たくさん?」


「はい。更に上に登ってみたらたくさんいました。ほら、こんなに!!」


ロッテが指さした方向に目をやるとちょっとした小山になって積み重なれている大量のムッソがいた。


「・・・うっぷ・・・」


「ちゃんと逃げないように脚は千切ってありますから大丈夫です!」


えっへんとどや顔で言うロッテ。普段ならアスモデウスは褒めるのだが、この時だけは褒めなかった。


「これだけ取れれば報酬分の差し引いても家に持って帰れます」


「・・・・・・・・・あの、ロッテ。それはおいt・・・」


置いて帰るよう説得しようと話しかけたと時、森に笛の音が響き渡った。


「これは・・・」


「どこかでモンスターが出現したみたいです!」


アスモデウスは名残惜しいがロッテの膝枕から身を引き離し立ち上がった。


「アスモさんもう大丈夫なんですか!?」


この一大事な時でも心配してくれる主に敬愛し優しい笑顔を向け


「大丈夫ですよ。ロッテのおかげでもう回復しました。それよりも早くここから逃げましょう・・・・・・と言いたかったのですが、・・・遅かったようです」


「・・・・・・え・・・」


「こちらに向かって来てます。それも私達が全力で逃げてもすぐに追いつく速さで・・・」


「結界用のゴーレムが迎撃にでているのにですか!?」


「・・・それも倒されてますね。魔力の反応がありません」


「・・・そんな・・・」


「すみません。これは私の責任です」


急な謝罪をしたアスモデウスにロッテは意味が解らなかった。


「何でアスモさんが謝るのです」


「それは、モンスターが私の血のにおいでこちらに来ているからです。私を手負いで弱っていると判断したのでしょう。申し訳ありません。この失態はいくらでも償います」


「・・・アスモさん・・・」


「私がそのモンスターを食い止めます。その間にロッテは逃げて下さい」


「嫌です!」


「ロッテ・・・」


「アスモさんは私の大事な方です。そんな人を見捨てて自分だけ逃げるなんて出来ません!」


「・・・・・・」


ロッテたんにプロポーズされた私大歓喜。これは今日の夜に初夜が待ってますね。


「わかりました。では救援が来るまで時間を稼ぎます。ロッテは私の後ろにいて下さい。決して前にでないように。いくら力が強くてもあなたはサマナーなのですからね」


「わかりました」


「・・・・・・来ます」


遠くから聞こえてきた地鳴りのような声が大きくなり、それと同時に木々の倒れる音も大きくなり、茂みの向こう側から音がしたと思った瞬間そのモンスターは現れた。


「・・・・・・これは」


「・・・ウソ・・・。何でここにワイバーンが・・・」


「キシャアアアアアアア!!!!」


甲高い奇声を上げ二人の前に現れたのは種族ドラゴンのワイバーンであった。


ドラゴンとは、トカゲのような形であるがその体はとても大きく背中には左右に1羽ずつ大きな翼を持ちそれで大空を悠然と飛ぶ。体は堅い鱗で守らており、その堅さはそこいらのモンスターと比が全然違く、並大抵の攻撃では傷がつかないように出来ている。口からは火・氷・雷・水・毒・霧・闇と地域によっての自然の恵みを受けたブレスを吐く。鋭く強固で長い爪は岩盤をも紙切れのように切り裂く。牙はどんな堅い獲物もかみ砕くダイヤモンド並に堅牢である。まさに自然界・・・いや、生きるもの全てのにおける頂点に存在するモンスターである。


ワイバーンはドラゴンの種族だが種族の中では底辺に値する存在。小柄でブレスを吐くことが出来ず、飛行も長距離は出来ないし外皮の堅さもドラゴンの中では柔らかい。おまけに、知能も低い。・・・しかし、それはあくまでドラゴンの中での事。他のモンスターに比べたら強さは歴然である。ワイバーンは小柄といったが大きさは大人の人間の10倍ほどだ。その大きさに似合わず素早く獰猛。尻尾には無数の棘が存在しその棘には猛毒が仕込まれている。尻尾の毒で相手を動けなくし捕食するのが彼らのやり方だが、自身の生命の危機になるとその度合いにより毒が強力になり触れるだけで相手を溶かすほどになる。それがもし瀕死の場合は近づくだけで溶けてしまうほどになるという。なので、倒すなら一気に仕留めるか、生き物の共通である心臓を突き刺すしか倒し方がない。それが出来る冒険者のランクは最低でも☆7は必要とされている。


ワイバーンは鋭い黄色に光る眼でアスモデウス睨み付ける。すでに戦闘態勢に入っており口からは大量の涎が零れ落ちていた。


「おやおや、私を餌と思っているのですか・・・」


「アスモさん!」


「大丈夫ですロッテ。私がトカゲに食べられることはありませんよ。ですから私の後ろにいて下さい」


「・・・・・・」


「さて、このお行儀が悪いトカゲに少し躾をしましょうか」


「キシャアアアアアア!!!」


ワイバーンは尻尾を左右に振り口を開きながらアスモデウスへと突進をした。


「・・・・・・フン!」


アスモデウスは開ききった口を片手で掴むとワイバーンの直進方向へと投げ飛ばした。


ワイバーンは勢いを殺せずにそのまま大木へと背中を激突し、大木が折れてしまった。


「・・・すごい・・・」


後ろに隠れているロッテは驚いていた。


「驚いてくれて光栄です」


「アスモさん強いです!一体どうやってそんな力を身につけたんですか!?もしかして本来の力が戻ったんですか!!?」


「残念ですが違います。本来の力があればこの森を一瞬にして更地にする事が出来ますよ」


「・・・更地ですか・・・。じゃあこの力は何なんですか?」


「これは私の力ではありませんよ。あのトカゲの力を利用しただけです」


「・・・力を利用ですか?」


「はい。昔仲間にそういった戦い方を得意とする者がおりましたので興味本位で見てたのです。まさか私が使うとは思ってもみませんでしたが、意外に使えますねこれ」


「シャアアアアア!!!!」


ワイバーンは起き上がると再び同じ行動した。


「・・・・・・フン!」


アスモデウスはワイバーンの力を利用して反対側の大木へと投げ飛ばした。


「ギャッ!!!」


大木に叩きつけられた倒れこむ。しかし、相手は底辺に位置するがドラゴンの端くれ、叩きつけられたダメージをものともせずにすぐに起き上がってきた。その反応にアスモデウスはロッテに聞こえないように小さな溜息を吐く。


「大木くらいではダメージを負わすことは出来ませんか・・・。面倒なトカゲですね・・・よっと」


向かってきたワイバーンの力を利用し再び投げ飛ばす。それを数回繰り返したところでワイバーンの動きは止まった。だが、ダメージを負っている感じは一切見受けられない。アスモデウスの事見つめ首を傾げている。


「ワイバーンの動き止まりましたね・・・」


「ええ。・・・厄介な事にならなければよろしいのですが・・・」


「何か問題があるのですか?」


「あります。今あのトカゲは考えているのです。先ほどまでの攻撃が全く通用しない為その改善策を思案しています。知能が低いのでそのような行動はとらないと思っていましたが・・・まったく、ドラゴンとは面倒なやらかです・・・」


『トカゲ』から『ドラゴン』と呼び方を変え、相手に敬意を示し出方を伺う。


ワイバーンは左右に頭を動かし、尻尾をくねらせ考えていたが、思いついたのか再び突進の構えをした。


「どうやら決まったようですね・・・ロッテは私にしっかりと掴まっておいてくださいね」


「ハイっ!!」


ロッテはアスモデスの背中に体を密着させた。・・・その時アスモデスに電流が走った。


「こ・・・これは!!」


微かに感じる柔らかい感触。背中に全神経を向けなければわからないほどですが、この感触は間違いなくあれですね。・・・思っていた通りのサイズで私は嬉しいですよ。それとは別にもう一部分感じる場所。これはロッテたんの吐息・・・。背中からでも感じられる甘い吐息。必ずお守りいたします。


「キシャアアアアアアア!!!!」


アスモデウスに向かってくるワイバーンは先ほどと同じように真っすぐ突進してきた。


「先ほどと行動は変わっていませんね・・・。打開策が浮かばなかった感じでしょうか」


アスモデウスは受け流す構えを取った。


ワイバーンの体が一気に迫る。


「(・・・・・・あともう3歩・・・2・・・1・・・!?)」


直後ワイバーンは動きを止めた。


アスモデウスは焦った。


しまった・・・。ここでワイバーンの口が開き私に食らいつくはずなのに動きを止めるとは。


ワイバーンはその場で勢いよく回転し、鉄球のように重い毒付の尻尾をアスモデウスにぶつけてくる。


「ロッテ!私に捕まって下さいね」


「ハイ!!」


アスモデスはワンテンポ遅れた状態でこれを防ごうとしたが無理だと判断すると、後ろでしがみついてるロッテに指示を出し後ろへと跳んだ。その直後ワイバーンの尻尾が向かってきたが、間一髪で猛毒の尻尾を避ける事に成功した。


「・・・・・・」


と思っていたが、アスモデウスはその場に膝を崩し顔色がみるみる青ざめていく。


「・・・うかつ・・・でした・・・」


ワイバーンの尻尾を見ると尻尾から何かの液体が滴り落ちていた。落ちた液体が草に付着すると草は一瞬で枯れていった。ワイバーンはアスモデウスに毒汁を飛ばてきたのだとすぐにわかった。


「アスモさんっ!!」


膝をつき動けないでいるアスモデウスの背を揺さぶる。しかし、毒の性で動くことができないでいる。その間にも、ゆっくりと獲物に近づくワイバーン。勝敗は決したと判断したのか警戒も解いている。


その時だった・・・。


「あーくそ!笛が鳴ったから走ったが、一体どこだよここ!?」


「どこだろうねーアハハ」


「お前は少しは緊張感を持てよ・・・」


「緊張しても意味ないでしょ。それにほら」


「・・・・・・まじかよ・・・」


「・・・あなたは・・・」


ワイバーンの後方の茂みから出てきたカルロとルシ。カルロの顔をロッテは覚えていた。


「きみはあの時の少女か」


「ん?知り合いなの?」


「ああ。危ないところを助けたんだよ」


「へ~・・・」


「・・・その眼は何だよ・・・」


「べっつに~・・・」


カルロとルシは目の前に強敵がいるのに呑気に話をしている。


「逃げて下さい!」


その和やかな雰囲気をロッテは壊し、二人に向かって叫んだ。


しかし、その言葉を聞いた二人は互いの顔を見合わせた後ロッテの方を向き不思議そうにきょとんとしていた。


「助けてほしくないのか?」


カルロはロッテに言った。


「・・・・・・え?」


「今危ないんだろ。助けてやるよ」


カルロは一歩前へと歩を進める。


「無茶です!相手は☆7のドラゴンなんですよ!!食べられるだけです。逃げて下さい!!」


「へ~・・・☆7か・・・。ルシ。あれの手当て頼んだぞ」


「りょ~か~い」


ワイバーンは近づいてくるカルロへと体を振り向かせ叫んだ。その叫び声は森中に響き渡る。


「・・・五月蠅くて品のない鳴き声だな。ドラゴンならもっと綺麗に鳴いてほしいよな」


腰に付けていた剣を取るとカルロはワイバーンにスキルの『挑発』を発動させた。それによりワイバーンの視線は完全にカルロの方にいった。それを確認するとすぐさまルシに指示を飛ばす。


「今のうちだルシ。・・・来いよ。俺が相手してやる」


「キシャアアアアアア!!!!!」


ワイバーンはカルロに襲い掛かった。開けた口には鋭く尖った無数の牙。それを盾に突き進んで来る。カルロはそれをただ見つめる。片手に剣を持っているが構えをとっていない。しかも鞘からも抜いていなかった。ワイバーンの牙が左右から向かってくる。


「・・・・・・」


ガチン!!


堅い鉱物をかみ砕いた音が響く。


「・・・・・・そんな・・・」


助けに来てくれた人がワイバーンに喰われてしまった。そうロッテは確信した。アスモデウスの治療をしているルシはその顔を見て


「あ~・・・カルロなら大丈夫。あいつには一切攻撃効かないから」


「・・・それってどういうことですか・・・」


「ん~・・・正確に言うと違うけど・・・説明するのは難しいから見てたらわかるよ。それよりほら、この人をしっかり支えて」


「あっハイ!」


一旦カルロとワイバーンの方を見て確認をしたルシは、毒が入っった傷口に杖を当て治療を開始する。


「ヒールオールシャワー」


ルシの周辺の広範囲が温かな光が雨になって降りだし周囲を包み込む。


「これって・・・高等回復呪文ですか!?」


「そうだよ。お姉さんの得意な回復呪文よ。これですぐに良くなるわよ」


「ありがとうございます!!アスモさんもう少しの辛抱ですよ」


青ざめていた顔色が徐々に良くなり、荒い息づかいも収まり、アスモデウスの目がゆっくりと開いた。


「・・・・・・」


「アスモさんっ!!」


気が付いたアスモに涙を流しながらロッテは抱きついた。


「あらあら~。中々やるじゃない」


ルシはそのこうけいを見てほくそ笑む。


「・・・・・・ロッ・・・テ・・・?」


まだ毒が抜ききれていないのか、目の焦点が合わない感じでいる。


「もう少しじっとしてなさいね。毒をいま抜いているから」


「・・・・・・すみま・・・せん」


私の腕を誰かが手を当てている・・・。・・・温かい。体も軽くなっていくのがわかります。相手を過信し過ぎて毒をもらうとは使役者として情けない・・・。これは確実にロッテに失望されてしまいました。・・・そういえばロッテはどこに?


「あの・・・ロッテは・・・?」


「ん?ロッテて可愛らしい女の子の事?それなら・・・ほらそこに」


「・・・そこ・・・に・・・!?」


アスモデウスが下に視線をを下ろすと胸元にロッテがいた。


「え?・・・え?・・・ええ!!?」


「気づいてなかったんだ・・・」


「え、ええ・・・。毒でまだ感覚がないので・・・」


「なるほどね。まぁ時期に治るから安心してよ。・・・それよりも早くロッテを慰めてあげたら」


「・・・・・・ロッテ」


・・・感覚がないのがひどく悔しいですね。折角ロッテが無防備に私の胸元の中に入るのに、その感触も温かさも感じないとは・・・。


「・・・ひっぐ・・・っひ・・・」


「泣かないで下さい。ほら、顔を上げて」


「・・・・・・グス・・・」


欲情をそそる上目遣いの可愛い顔・・・ジュルリ。


「ご心配お掛けしてすみません。不甲斐ない私を許して下さい」


ロッテの可愛らしい瞳から流れる涙を優しく拭う。


「後でいくらでも罰はお受けします」


契約の解除以外は何でもしますよ。


「罰なんて・・・そんなことしませんよ」


「・・・ロッテ」


・・・少し、残念ですね・・・。


「私の方こそごめんなさい。私がいたからアスモさんは反応が遅れたんですよね・・・」


「そんな事ありません。あれは完全に私の慢心です。ロッテが悪いわけではありません」


「いえ、私が悪いんです」


「私です」


「私です」


「・・・あ~二人とも、、夫婦漫才はいいから、早く逃げるよ」


「これは失礼しました」


「ご、ごめんなさい。・・・でもあの人がまだ戦って・・・え?」


ロッテがカルロの方を見ると、目を疑った。


「どう?私が言いたかった事わかってくれたかな」


ルシは少し自慢げに言った。


「・・・・・すごいです・・・」


「これは中々・・・」


二人の目に写っていたのは、ワイバーンの攻撃を全て避けきっているカルロの姿があった。喰らいつこうと襲い掛かる口を避け、鋭い爪で切り裂くも空を切り、毒の尻尾と飛ばされる毒汁も避けられている。ワイバーンの息づかいは荒く体力の消耗が激しく見える。しかし、カルロの方は一切息切れもせず、汗一つ掻いてない。


「・・・ルシ終わったのか?」


目の前の強敵を他所にカルロはルシの方へと向いた。


「今終わったとこだよ~」


「そうか以外に早かった・・・なっと」


後ろを向いていたカルロにワイバーンは噛みつこうとしたが、その攻撃を華麗に飛び越えワイバーンの後ろを取った。


「・・・あの人後ろに目が付いてるんですか・・・」


「いや、カルロは人間だからついてないよ。ただちょっと変わってるだけ」


「・・・変わってる?」


「そう。カルロはね・・・潔癖症なの」


「潔癖症・・・ですか」


「そうだよ。昔から清潔好きでねその洞察力は人間離れしてるの。その人間離れした洞察力で相手がどう攻撃してくるか事前に把握してるのよ」


「・・・そんな事出来る人がいるんですね・・・」


「うん。いるんだよね~。・・・ただ欠点があってね・・・」


「欠点ですか?」


「カルロは潔癖症なの。潔癖症が故に相手に攻撃を一切しないの」


「・・・どうしてですか」


「カルロ曰く『武器が汚れるから』だって」


「・・・・・・・・・」


「戦士として失格でしょ?だから私達二人は毎回PT入れてもらっても無能で使えないからすぐにのけ者にされるのよ」


「じゃあどうやってこの場を切り抜けるんですか」


「う~ん・・・。ワイバーンが諦めて撤退するか☆5の冒険者の人達が来るまでここで見守るしかないかな?カルロが相手を引き付けてるからこっちに来ることないから安心して・・・・・・何あれ・・・」


「どうかしたんd・・・・・・」


「あれは・・・生きてたのですか」


ルシとロッテは二人して言葉を失った。カルロとワイバーンの先に出てきた何者かによって・・・。だが、アスモデウスだけはその正体を知っていた。





「それにしてもよく粘るなぁ~・・・」


ワイバーンの攻撃を余裕で避け続けながら独り言を呟くカルロ。


「ドラゴンなんだからいい加減理解もしてるばずだろ。諦めてさっさと帰ってくんねぇかなっと」


尻尾の攻撃を後ろへ跳んで避け距離を置いた。


「グルルルル・・・」


口から涎を垂らしながら睨み付ける。


「・・・・・・お前怪我してるのか?」


ワイバーンの左の側面から血が流れていることに気が付いた。


「あんな堅い皮膚を貫く事ができる人がいるのかよ。・・・相手にしたくねぇな」


ワイバーンの攻撃に備え避ける準備をしていたカルロ。しかし、ワイバーンは何かに気が付いたのか、カルロに背を向け奥の方へと威嚇した。


「キシャアアアア!!!」


その声の直後


「お!ここにいたのか」


木々の向こうから何者かの声がした。その声はカルロとワイバーンの方へと向けられている。


「・・・おいおいまじかよ」


カルロが見たのは大きなオーガだった。


ボサボサの黒の長髪に肌色は茶色く体は鍛え抜かれ、頭と口に2本の角と牙を生やしていた。


「全く、手加減し過ぎたせいでこんなことになるとはな。いきなり逃げやがるから探すのに苦労したぜ・・・。じゃあ決着つけようか」


「シャアアアアアアアア!!!!」


ワイバーンはオーガに突進していく。オーガは口が裂けるほどの笑みを出し両腕を広げワイバーンを受け入れるような形をとった。互いの距離が縮まり衝突する寸前、オーガはワイバーンの頭に拳を放った。その衝撃が風となって辺りに吹き荒れる。ワイバーンは動きが止まりゆっくりと地面に倒れた。


「よし!これで今日の飯は確保だ!」


オーガは満足そうに倒したワイバーンを軽々と片手で掴んだ。そして、ようやく自分以外にもいる事に気が付いた。


「・・・お前らは誰だ?」


ワイバーンを地面に置きオーガは話しかけた。


「・・・・・・」


「あれ?言葉が通じないのか?それとも俺が話し方間違ってるのか」


「いや、聞こえてる」


カルロは口を開いた。


「よかった。通じてたみたいだな。それで名前は?」


「カルロだ」


「カルロか。俺はローだ。他奴らは?」


ローは少し離れたとこにいる3人に顔向けて聞いた。


「ルシよ」


「・・・ロッテです」


「・・・・・・」


ルシとロッテは自分の名をローに言った。


「そっちの姉ちゃんがルシでちびっ子がロッテだな。・・・覚えたぜ。そして、お前さんの名は?」


「・・・アスモです」


「アスモ・・・・・・」


アスモデウスの名を聞いてローは暫く沈黙していたが何かを思い出したかのように目を見開いた。


「・・・お前、あのアスモデウスか?」


「・・・ええ、その通りです」


ローから名「アスモデウス」をルシとカルロは聞き驚いた。


「アスモデウスって、魔王討伐をした悪魔の・・・」


「この人が・・・」


二人の反応にアスモデウスは静かに肯定をし自分がそのアスモデウスであると証明した。


「こいつは驚いたなぁ~・・・まさか再び出会えるなんてよ」


「私は会いたくありませんでした。生きているとは・・・タフガイですね」


「オーガだからな。あの時は死んだと思ったぜ」


ゲラゲラと笑うローとうんざりしているアスモデウス。


「アスモさん知り合い何ですか?」


ロッテが尋ねるとアスモデウスは少しだけためらいながらも答えた。


「・・・魔王討伐の時に魔王軍筆頭の将軍・・・いわゆる敵です」


「よろしくな!」


「は・・・はぁ・・・」


「俺はこの先の東の山岳地帯を縄張りにしてるが人は襲ってねぇから安心しな」


「本当なんでしょうね」


「・・・本当は今すぐにでもあの時の礼を返したいところだが・・・」


アスモデウスを睨み付ける。


「・・・が、俺は鬼だぜ。嘘はつかねぇ。昔は魔王に従って暴れまくって楽しかったが、今の生き方も楽しいと感じてるんだ。壊して討伐対象にされたら面倒くせぇ・・・」


「・・・あなたらしいですね」


「そういえば、お前さんの契約者は誰だ?さぞ魔力が高いサマナーなんだろ。あの時の人間はやばかったなぁ~・・・。人間に恐怖を感じたのは生まれて初めてだ。どんな奴なんだ?」


「・・・それは・・・」


「・・・あ、あの~・・・私です・・・」


ロッテはゆっくりと手を上げた。


「「「・・・え?」」」


ローとカルロとルシは一斉に言った。


「・・・君がアスモデウスの主なのか・・・」


「・・・本当なの・・・」


「いや~、これは驚いたな。まさかちびっ子が契約者だったとは。どんだけ強いのかちょいと腕試ししたいぜ」


「あ・・・あの・・・」


「止めて下さい。ロッテはあの人とはまるで逆です。まだサマナーになったばかりの新人です。魔力も高くありません。普通の冒険者です」


「でもよ、お前を召喚出来たんだろ?普通のはずないじゃないか」


「・・・それは・・・」


ここでは私が手違いで召喚されたと言ったらロッテのここは深く傷つく・・・。かと言って、私が理想の召喚士に召喚されるように細工をしたと言ったらロッテに幻滅される・・・。どう言って誤魔化そう・・・。


「あ。あの!!」


悩んでいるアスモデウスにロッテは声を出した。


「それには訳がありまして実は――――――」


ロッテは皆に説明をした。


「なるほどな。そういうことだったのか。納得したぜ」


「よかったです・・・」


「それにしても呪文を書き換えただけで召喚できるなんてな・・・」


「その運すごく羨ましいわね」


3人はロッテの説明に納得し、各々の感想を述べた。


「それで?何でお前たちはここにいるんだ?」


「えっとですね――――――」


ロッテはその事を説明した。


「ほぅ。期間限定クエストの最中に俺が逃したワイバーンがアスモデウスの血のにおいに誘われて向かったきたと、そして、カルロがワイバーンの足止めをしルシがアスモデウスの治療をして、その後俺が来たというわけか。こいつはすまなかったな。ちょっと待ってな」


ローは倒したワイバーンの鱗と牙と爪を抜き取り4人の前に持って来た。


「これは迷惑かけた礼だ。受け取ってくれ」


「・・・いいのか?」


カルロは尋ねた。


「もちろんだ。こいつは俺からの謝礼だ。俺の性で迷惑かけたんだから遠慮なく持って行ってくれ。足りないなら肉もやるぜ?」


「いや、これだけ十分だ」


「凄いよこれ!牙1本で金貨10枚に値するのにこんなに貰えるなんて!!」


「ええ!!?金貨10枚ですか!?」


「そうよ。だってドラゴンなんてそうそう倒せない種族よ。それの素材なんて滅多に出回ってないからね。おまけにこれで作った防具や武器はかなりの一級品よ」


「・・・ゴクリ」


「・・・・・・誰か来るみたいだな」


ローの耳が何かを聴いたのか、ピクピクと動いた。


「笛が鳴ったから☆5の冒険者が来たのかも」


「だったら俺がいたらマズイな。そいじゃあ俺は帰るぜ」


ローはワイバーンを軽々と担いだ。


「あの、ローさん」


ロッテが声をかけた。


「なんだい?」


「今回は助けてくれてありがとうございます」


ペコリと深いお辞儀をし御礼をした。


「礼はいらねぇぜ。これは俺の性だから気にするな」


「でも・・・あ、そうだ。少し待って下さい」


「あん?」


何かを思いついたのかロッテは捕獲しているムッソをいくつか手に抱え戻ってきた。


「これよかったら食べて下さい」


「・・・・・・・・・」


あの虫の事すっかり忘れていました。出来れば全部渡してもいいのですよ・・・。


「・・・いいのかい?」


「はい!まだたくさんありますから遠慮なくどうぞ。生で食べても焼いても美味しいですよ」


ロッテの腕でムゾムゾと動くムッソをローは掴んだ。


「ありがとよ。・・・アスモデウス」


「何ですか」


「優しい主だな。大事にしろよ」


「・・・言われなくても全身全霊で守りますよ」


「そうかい。ちびっ子・・・じゃなくて、ロッテ。いつか俺のとこまで来れるようになったら遊びに来いよ。待ってるからな。・・・カルロもルシもな」


「・・・はいっ!!」


「気が向いたらな」


「その時はまたいいもの頂戴ね~」


「じゃあな」


ローは軽く膝を曲げ一気に力を開放し、ワイバーンを担いだまま跳んで行った。


「・・・凄い力ですね・・・」


「彼は魔王軍一の剛力ですから。・・・そこのお二方」


アスモデウスはカルロとルシに顔を向けた。


「私の存在を秘密にしていただけませんでしょうか」


その言葉にカルロはすぐに勘付いた。


「この子が危険な目にあう可能性があるからか」


「はい」


「・・・わかった。ルシもいいな」


「OK~」


二人はあっさり承認してくれた。


「助かります。では私は変身します」


人型から烏へと変化しロッテの肩に乗った。


「君達大丈夫か!?」


アスモデウスが変化した直後に☆5の冒険者達が現れた。


「は、はい大丈夫です!」


「そうか。残念だがクエストは中止だ。ここは危ないから早く森から出るんだ。行くぞ皆」


『おう!!』


冒険者達は再び走り去って行った。


「・・・・・・言った方がよかったですかね・・・」


「いや、言わない方がいいな」


「そうだね。もし言ったら面倒な事になるか信じてもらえないからね~」


「クエスト中止ですか・・・こんなにたくさん捕ったのに残念です」


大量の蠢くムッソを見つめ残念そうな顔する。


「それはどうするんだ?ここに置いていくのか?」


「ん~・・・出来れば持って帰りたいです。マイクさんも楽しみにしてますから」


「マイクって誰だ?」


「私が泊めてもらってる酒屋の店長さんです。料理がとても上手で美味しいんですよ」


「へぇ~」


「なら私が持つの手伝ってあげよっか?」


「いいんですか?」


「いいよ。虫苦手じゃないしね~。そのかわり、そのマイクさんのとこでご飯ご馳走してもらいたいなぁ~・・・チラチラ」


「いいですよ。マイクさんも喜びます!」


「やったね!それじゃあ早く行きましょ」


「・・・ルシお前って奴は・・・すまないな」


「私は全然問題ないですよ」


「そっか。・・・そういえばまだ俺の名前言ってなかったな。カルロだ。宜しくな」


「ロッテです。こちらこそよろしくお願いしますね!」


「お~い早く行こうよ~」


先に行っていたルシが声を上げている。


「行きましょうか」


「・・・ああ」





「それにしても今回はいい報酬だったわね♪」


ルシが嬉しそうに話した。


「そうだな。ドラゴンの牙は丈夫で切れ味がいい武器になりそうだしな。鱗はどうする?」


「ん~・・・換金しちゃおっか?どうせ私達には必要ないでしょ?ってか武器ってカルロ使わないから無意味だと思うけど」


「今はそうだが、何時か使う時が来るかもしれないだろ。その時に仕えない武器だと困る。ロッテとアスモはどうするんだ?」


「私は防具にします。後は換金して貯金ですね」


「私には必要ありませんから、全てロッテのものです」


「え~なら私に少し分けてよ」


「それは先ほど配分したので駄目です」


「ぶ~・・・ケチ」


「は~い。お・ま・た・せ♪」


「わぁ~美味しそうです!!」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「ほんとだね~」


4人のテーブルにはたくさんのムッソを使った料理が出された。ムッソのスープ・ムッソの素揚げ・ムッソの身入りの野菜炒め・ムッソの煮つけ・ムッソの酒蒸しなど全てがムッソで出来た料理が並べられている。ロッテは目を輝かせながらその料理を見つめ、ほのかに涎が出ている。ルシはニコニコと笑顔な顔をし楽しそうにしている。カルロは嫌そうな顔しムッソを見つめないように視線をずらしている。アスモデウスはというと口にハンカチを押し付け目は閉じ鼻を摘まんで出来うる限りムッソを見ずにおいを嗅がずし、中からこみ上げる『何か』を抑えようと必死にしている。


「さぁ遠慮しないでね。ロッテちゃんがたくさん捕ってきたから安心してね☆」


屈強な漢女のマイクがウインクをして去って行った。周りの客はロッテが捕ってきたムッソを美味しそうに食べている。


「では皆さんいただきましょう!」


「いっただきま~す」


「・・・・・・これは何の悪夢だよ・・・」


「ええ、その通りです・・・」


カルロとアスモデウスは死んだような魚の目をしていた。


「まさか食用のクエストだったとは思いもしなかったな・・・あんたは知ってたのか?」


「・・・一応ロッテから聞かされてました・・・」


「それにあのオーガみたいに屈強な男は何だよ、店に入った途端尻を揉まれたぞ。気配を完全に殺してた・・・。何者なんだ」


「気を付けて下さい。あれは隙があると色々な事をしますから・・・」


「・・・すっげー怖いな。それより食べないのか・・・」


「私は悪魔なので食べなくても大丈夫です。あなたこそ早く食べないと冷めてしまいますよ」


「食欲がわかなくてな」


二人はテーブルに並んでいるムッソに溜息を吐く。


「あれ?二人は食べないのですか?」


二人の異変に気が付いたロッテは箸を止めた。


「もしかしてどこか悪いのです?」


心配そうな表情で見つめてくる。


「い、いや・・・」


「どこも悪い所はないですよ」


「ならどうして食べないのです?美味しいですよ」


「「・・・・・・・・・」」


「好き嫌いは駄目だよカルロ~。・・・ほら」


ルシはムッソの酒蒸しの一部をフォークで突き刺してカルロの口へと向けた。


「やろめ!いきなりそんなものを持ってくるな!!」


「そんなものとは失礼だね。確かに見かけはグロイけど味はとっても濃厚で美味しいよ」


「そんなことを言われても、まだ心の準備が・・・」


徐々に近づくムッソの身に恐怖を感じるカルロ。


「・・・・・・仕方ないなぁ~」


ルシは諦めカルロからムッソを引いた。


「・・・危なかった・・・」


「・・・・・・な~んてね。エイ!」


ルシはカルロの鼻を摘まんだ。


「フガッ!!?」


「さあこれで後は口を開くだけだね~・・・」


ロッテはアスモデウスを見つめていた。


「・・・アスモさんはどうして食べてくれないのですか?」


「・・・そ、それは・・・」


「私との食事は一緒にしてくるって『約束』しましたよね?」


「・・・え、ええ・・・」


「ならどうしてです?」


「・・・・・・・・・」


「食べてくれないと私寂しいです・・・グス」


目に涙を浮かべながら見つめてくるロッテにアスモデウスは完敗した。ゆっくりと箸を取り、ムッソの素揚げを掴み徐々に口へと近づける。ムッソの姿が徐々に迫る。滝のように汗がで、顔色が青ざめる。しかし、ロッテとの約束を守る為、意を決して口を開きムッソを口へと放り込む。丁度カルロも息が出来なくなり口を開いたところにムッソの身を入れられた。


「「・・・・・・・・・・・・!?」」





東の山岳地帯


ローはワイバーンの肉を焼いて食べていた。


「やっぱドラゴンの肉は旨いな。・・・そういえばロッテに貰った虫は・・・よし。そろそろいい感じに焼けているな」


串刺しにしたムッソを一本手に取る。


「それにしてもこんな虫が本当に美味いのか?まぁ食べてみればわかるか・・・あむ・・・」


何の躊躇も迷いもなくムッソを口に放り込み噛む。


「・・・・・・・・・!?」





「「「・・・美味い」」」

相変わらずの誤字脱字が多々ありますが許して下さい。今回は少し文字数が多くなってしまい読んでくださった読者の方々には申し訳ありません。感想やアドバイスがありましたらよろしくお願いします。ご愛読ありがとうございました。

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