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無能サマナーの冒険伝  作者: 羽黒つばさ
2/4

有能サマナーから怪力サマナーになっちゃいました・・・

「スー・・・スー・・・」


優しいと吐息が静かな部屋に安らぎを与えてくれる。


「・・・ん。・・・スー・・・スー・・・」


そして、時折寝返りをうち、無防備にもさらけだす生肌は極上の食事を出されたみたいに目から離れさせないし、離そうとも思わない。しかし、これを襲うなというのも無理難題。・・・ああ、その太股を抱きしめてキスをしたい。平らな胸元に顔をうずめたい。極上の絹みたいにサラサラした髪を撫でたい嗅ぎたい。


「・・・そんなはしたない姿だと風邪を引いてしまいますよ」


だけど私はそんな感情に欲求に呑み込まれません。私はロッテの使役者、召還獣となったのです。その関係は友人・親友・恋人・夫婦よりも深い絆で結ばれている。これほどの喜びがどこにあるというのか・・・。いえ、どこにもないでしょう。その喜びを思うと、内なる檻で暴れていた私の獣も一瞬で収まります。


「・・・ん・・・んん」


「・・・おやおや。またですか・・・」


まったく無防備に生肌を見せびらかすとは・・・、誘っているのですか?それとも試しているのでしょうか?しかし、残念ですが私には効きませんよ。


「・・・・・・ん」


「またですか。折角かけてあげたというのに仕方のない主ですね・・・」


「・・・・・・んん」


「・・・・・・」


「・・・・・・・ん~・・・」


「・・・・・・・・・」


それにしても、ロッテは大変寝相が悪いのですね。毛布を掛け直すたびにひどくなってきてますよ。まだまだ夜は冷えるというのに困ったものです。


「ん~!・・・んにゃ!」


「こ・・・これは!!」


ロッテの寝返りで太股しか見えなかったのに更にその上の方が見えそうになりアスモデウスの行動が停止した。


これはもしかすると・・・本当に誘っているのでしょうか・・・!?実はロッテは本当は起きていて私にアプローチをしているのではないでしょうか・・・。・・・・・・そうだ!そうに違いありません!!だからこんな姿になっているのでしょう。ああ・・・、私としたことが愚かな事してしまいました・・・。あんなににもアプローチをかけているロッテに気がつかなく毛布を掛け直す行動をとるとは!そうですよね。今思えばあの契約を交わしてくれたのですから私に気があるのは当然です。まさかここまで理想の主に出会えるとは・・・!!このアスモデウス待ったかいがありました。・・・ではいつまでも待たせているのはレディに失礼ですね。・・・アスモデウス行きます!!


胸元に両手を合わせ、「頂きます」と動作をし、アスモデウスはロッテめがけてダイブした。


「ダメです!!」


「うごぉわっ!!!」


ロッテの裏拳が飛び掛かったアスモデウスの左頬に見事にクリティカルヒットし、アスモデウスはドアを突き破り隣の物置まで吹き飛ばされた。


「・・・ダメですよ・・・これは私のケーキなんです・・・誰にも譲りません・・・エヘヘ。・・・ス~・・・」


笑みで緩んだ頬と口から涎を垂らしながら夢を見続けるロッテ。


暫くして物置の山からどうにか顔を出したアスモデスは


「・・・さすがロッテ。・・・我が主に相応しい方・・・見事に能力を得ていますね・・・グフ」


深い眠りについた。


こうしてこの日の夜は、ロッテの優しい吐息と甘い寝言で更けていった。





「ん~~~よく寝た!」


窓から暖かな日差しが入りベットから出たロッテは立ち上がり伸びをした。


「お目覚めですかロッテ」


「あ、アスモさんおはようg・・・どうしたんですかその顔?」


烏になっているアスモデウスの左顔が膨れ上がっていることに驚き目を丸くしていた。


「いえ、ちょっと油断をしまして・・・大丈夫です。もうじき直ります」


アスモデウスは何食わぬ仕草で自身の体の手入れをしている。


「油断って、誰か来たんですか?」


「はい。獣が一匹」


「・・・獣?」


「はい。獣です」


獣って一体どんな獣だったのかな?


「アスモさん。一体どんな獣だったんです・・・」


「・・・・・・それはロッテが怖がるので言えません。ですが安心して下さい。その獣は無時退治されましたので、今後の生活に支障はでません」


アスモデウスはロッテに獣の正体を教えず、身の安全だけを言った。


ロッテはそれでも知りたかったが、アスモデウスが余りにも親身に迫った顔(烏なのに)と話し方をしているので、これ以上の追及はしないことにした。


アスモさんを怪我させるほどの獣ってどんな魔獣だったの?そうとう手強かったのかな。


「こんな怪我をして、私を起こしてくれてもよかったのに・・・」


二体一なら無傷で済んだかもしれないのに・・・。


「ロッテは私の主です。睡眠を邪魔させるわけにはいきません。それに先ほども言いましたが、獣は退治されました。安心してください」


「・・・アスモさん」


まだ出会って一日も経ってない私を主と認めて守ってくれるなんて・・・、とっても優しくて頼りになる方です。私にはもったいない召喚獣です!!


「それよりもロッテ。そんなはしたない服のままでは些か問題がありますので早く着替えたほうがいいですよ」


「ふぇ・・・?」


アスモデウスの指摘を受け今自分がどんな姿なのかを大きな縦鏡の前で見た。


ボタンの上から二つが外れ胸元が見えそうになり、下のボタンはヘソが見える所まで外されズボンはパンツが見えるか見えないかの際どいラインまで下がっていた。


「では私は一階で食事でも作って待っていますので、ゆっくり着替えてきて下さい」


人型の姿に戻ったアスモデウスは、固まっているロッテに告げ部屋のドアを静かに閉め階段を下りた。


その途中で可愛らしい悲鳴が聞こえたが歩みを止めなかった。


一階に下り、広いキッチンの所まで来たアスモデウスはそこで歩みを止め、膝をついた。


「・・・危なかった・・・。もう少しでロッテの部屋を赤く染める所でした・・・」


手で鼻を覆っているが、その隙間からポタポタと赤い液体が滴り落ちる。


「あれほどまで完璧に自身の魅力を最大限引き出すとは・・・恐ろしい主です。サキュバスのチャームもものともしなかった私の精神力がもはや崩壊寸前です。危うく獣が再び目を覚ますところでした。今後は常に気を張らないといけませんね・・・」


新たな決意(紙屑同然)を胸に秘め、キッチンペーパーを鼻に突っ込んで止血をしアスモデウスはロッテの為に愛情たっぷりの朝食を作り始めた。





「う~・・・恥ずかしいよ~・・・」


着替えを終え、ゆっくりと階段を下りるロッテの顔はほのかに赤く、まだ恥ずかしさが残っていた。


「なんで私いつも寝相が悪いのかなー・・・。いつもは私だけだから気にしなかったけど、今後は気をつけなきゃ・・・。ダラシナイ主って思われないようにしないと・・・。ん?いい匂いがする・・・」


階段を下りていくにつれ徐々にその匂いは強くなりロッテの空の胃袋を刺激する。


刺激された胃袋はロッテの意思とは関係なしに足を速足にし食堂へと導いた。


「着替えを終えたのですね」


キッチンからアスモデウスが声をかけた。


「あ、はい!先ほどはお見苦しいところ見せてごめんなさい!」


ロッテは頭を深々と下げ謝ったが、アスモデウスは爽やかな笑顔を向け


「いえ、大変可愛らしかったですよ」


と言った。


それを聞きロッテの顔は再び赤くなり、今にも顔から湯気が出そうになっていた。


「丁度朝食の準備が終わったところです。今そちらにもっていきますから座っていて下さい」


アスモデウスはトレイに調理した食事を乗せロッテの座る席まで運び丁寧に置いていった。


「・・・あの、これってアスモさんが作ったんですか?」


ロッテの目の前にはベーコンエッグに野菜のサラダ、パンにジャムと果実を絞ったジュースが置かれていた。


「はい。ロッテが着替えている間の少々の時間に。手抜きになってしまってすみません」


アスモデウスは丁寧なお辞儀をすると、ロッテは両手を振りながら慌てた素振りをし


「い、いえいえ!全然そんなことないですよ!!凄く嬉しいです!いつもは一人だから果物一つだけですませてましたし。こんな温かな朝食なんてとても久しぶりです!」


「そうですか。気に入ってもらえてよかったです」


アスモデウスはロッテから見えない所で拳を固めガッツポーズを取った。


「もしよろしければ今後も作らせてもらってもいいですか?」


「はい!勿論です!!とっても美味しいです!!」


ハムスターのように食べ物を頬一杯頬張りながらモグモグするロッテをみて


「(なにこれめちゃくちゃカワイイハムスターが今ここにいるんですけど!!あ~そのパンパンに膨れた頬をツンツンしたんじゃ~^^)」


と心の中で叫びながら必死にロッテの頬をツンツンしようとする指を抑えていた。


「・・・・・・ロッテ」


「んゆ?なんれゆか??」


アスモデウスは持っているハンカチを取り出しそっとロッテの頬についていた卵の黄身を拭き取った。


「綺麗な顔が台無しになってましたよ。もう少しゆっくり食べた方がいいです(あー!私の馬鹿!!この隙になぜツンツンしないんだ!!この臆病者め!)」


「あ、あり・・・がとう。うん。そうするね」


太陽のように眩しい笑顔を向け、少しだけ食べるペースを落とした。


それでも頬はパンパンで可愛らしかった。


「・・・そういえば、アスモさんは食べないんですか?」


自分の朝食だけ置かれていたことに気づき食べる事を止めたロッテ。


「ええ。私には不要ですので、食事睡眠は取らなくても問題ありません」


「そうなんですか?でも、それじゃあ、何で料理が出来るんです?」


「それは長い間暇でしたから、色々と暇潰しとしてやっていたんです。料理もその一つです」


「そうなんですか。・・・・・・あ、あの、アスモさん」


「何でしょう?」


「もしよかったら今度から一緒に食事しませんか?」


「・・・私が、ですか?」


アスモデウスは意表を突かれたのか少し目を見開いた。


「はい!私いつも一人だったので、誰かと食事をするなんてここの酒場が営業している時くらいしかなくて・・・。もしよかったら一緒に食事・・・してもらないですか?」


「・・・・・わかりました。では、明日から一緒に食事を取りましょう(おほーーー!!!ロッテたんから食事のお誘いキターーーーー!!!!!)」


「ありがとうございます。・・・エヘヘ♪嬉しいな♪」


エヘヘ♪私も嬉しいよ♪


カランカラン。


幸せな空間に、突如店の扉の開く音が聞こえ二人は扉の方を見た。


扉を開いたのは黒い巨人の男性。


「あ、マイクさんおはようございます!」


ロッテは元気一杯な挨拶をした。


「あら~♪ロッテちゃん。オ・ハ・ヨ」


挨拶の返事にマイクは色気たっぷりの投げキッスをロッテに発射した。


「危ない!ロッテ!!」


その発射された毒をアスモデウスはロッテの前に立ちはだかり受け止めた。


「グハッ!!」


口から血が出たかのような声を出し膝を折るアスモデウス。


これはなんという(精神)ダメージだ・・・!!あの魔王の攻撃よりも強力だ!この化け物、ただものではない!!


「アスモさん大丈夫ですか!?」


ロッテはすぐさまアスモデウスの傍により背中へと手をやった。


「だ、大丈夫です・・・。それよりもロッテ。すぐにここから離れて下さい・・・。このブラックオーガは私が始末します!!」


まだダメージが抜けきっていない体に活を入れ、よろめきながらも立ち上がるアスモデウス。


「あら~・・・私の事をブラックオーガって、それちょっと傷ついちゃうわね~・・・グスン」


体をくねらせ「うっふ~ん」と幻聴が聞こえるくらいのポーズをとる。


それを目の当たりにしたアスモデウスは胃の中が逆流し、何かが出そうな衝動にかられるもロッテの前なので必死に堪えどうにか話す。


「オーガは物理攻撃しかできない脳筋の種族のはずでしたが・・・。まさか時代が進み精神攻撃を仕掛けてくるようになたとは・・・厄介ですね」


「ちょっと流石に言い過ぎヨ♪あんまり言うと、お姉さん。怒っちゃうゾ☆」


「うっぷ・・・!!ロッテ。早くここから逃げてください。私がどうにか時間を稼いで食い止めますから」


「待って下さいアスモさん!この人はモンスターじゃないです!!このお店の店主のマイクさんです!!」


「何を言ってるのですがロッテ。まさか!?・・・いつの間にロッテに精神攻撃をしたのだ。このオーガ・・・!」


「精神攻撃なんてしてませんし、されてもないです!!私はマイクさんのお店に住まわせてもらってる居候なんです!!」


「・・・・・・・・・本当なんですか?」


「本当なんです!!」


「本当よ~。私が路頭に迷っているロッテちゃんを見つけて、このお店に住まわせてるのよ。本当は一緒に住みましょうって言ったのに、ロッテちゃんたら全然首を横に振らないから仕方なくね」


「ロッテ。いい判断です」


「あ、アハハ~・・・」


「それよりもロッテちゃんこのカッコイイイケメンな男性は?」


「あ、そうでした!マイクさん見てください。私やっと使役を手に入れたんです!!」


「主の使役のアスモデウスと言います」


「・・・・・・・・・・・・ロッテちゃん」


マイクは暫く呆然としていたが、急に滝のように涙を流しロッテを抱きしめた。


「よかったわねぇ~!!やっとサマナーになれたのね!!私凄く嬉しいわ!!!おめでとう!!!!」


抱きしめられたロッテの体はミシミシと嫌な音聞こえる。


「マ・・・マイク・・・さん。・・・くる・・・・しい・・で・・・す」


「オーガよすぐにロッテから離れろ!!さもないとこの店一帯火の海にするぞ!!」


「あ、あらごめんね!!私ったらつい感動しちゃって。大丈夫?骨折れてない?砕けてない?」


「ゴホ・・・ゴホ・・・。だ、だいじょうれす・・・」


「それにしても初めての使役があの大召喚士ロザリーの使役していたアスモデウスだなんて。ロッテちゃんって凄い才能の持ち主だったのね」


「い、いや~・・・。そんなことないですよ」


偶々呪文を弄って召喚出来たなんて言えないよ~・・・。


「先ほどは失礼なことを多々言って申し訳ありません」


アスモデウスは頭を下げ謝った。


「いいのよ~。誰にだって間違いはあるのだからね。・・・ふ~ん。アスモデウスね~・・・・・・」


「!?」


アスモデウスはマイクのその熱く鋭く体を舐めるように見つめる熱い視線に尋常じゃないくらいの寒気を感じ怯んだ。


そして、その隙をマイクは逃さなかった。


「・・・・・・あら♪いいお尻してるじゃない♪」


「なっ!!?」


一瞬にしてアスモデウスの後ろに回り込み尻を優しく撫でまわし耳元で優しく囁くマイク。


「馬鹿な!いつの間に私の後ろに!!私の目で追えないスピード、その巨体でどうやって移動したんです!?」


すぐさま距離を取り防衛に入るアスモデウス。


不覚!!まさかこんな気持ちの悪い人間に尻を触られるとは・・・!いくら油断したからといって、ここまでされるとは。この人間強い・・・。


「あ~ん!もっと触りたかったのに~。ざ~んねん♪」


マイクは惜しむようにアスモデウスの尻を触った手をクネクネを動かした。


「マイクさん!アスモさんは私の使役なんですから、勝手に襲うのは駄目ですよ!」


「は~い。わかってるわよ。ちょっと味見しただけよ。許してね二人とも♪」


そう言って二人に謝罪のウインクをした。


「・・・ロッテ。私は喰われるのでしょうか?」


自身の身の危険を感じたアスモデウスはロッテの傍に寄り添った。


「?。食われるの意味はよくわかりませんが、マイクさんはいい人ですよ」


「・・・・・・その言葉信じます・・・」


「あ、そうだ二人ともちょっといいかしら?」


「何ですか?」


「何でしょう」


「今度はアスアスの名前は言わないほうがいいわよ」


「アスアスってアスモさんのことですか?」


「そうよ。アスアスは魔王を討伐した大召喚士ロザリーの使役していた悪魔。それを手に入れた召喚士がいると知ればどうなるかわかるわね?」


「ロッテの身と命が危なくなりますね・・・」


「そういうこと☆だからくれぐれもその名前は言わないようにね♪もちろん、私も黙ってるわ」


「わかりましたマイクさん。気を付けますね!!」


「いい返事ね。さて、それじゃあ朝の開店準備しなきゃね!ロッテちゃんは今日も冒険者ギルド行くんでしょ?」


「はい!勿論です!!今日からはアスモさんもいますから」


「ふふ♪元気一杯ね。なら今日の夜の営業はロッテちゃんのお祝いするから楽しみに待っててね☆もちろんあなたもよ。アスモちゃん☆」


「わ~!!本当ですか!!嬉しいです!!」


「マイクさん。申し訳ないのですが、その呼び方止めてくれませんか。吐き気がします」


「あら~正直にキツイこと言うのね。・・・ん~・・・、じゃあ、アスモっち?」


「却下します」


「アスアス?」


「駄目です」


「アーちゃん?」


「殺意が湧きますね」


「う~ん・・・なら普通にアスモさんしかないわね~」


「それでお願いします」


「私的にはアスアスが良かったんだけどね~。仕方ないわね。じゃあアスモさん。しっかりとロッテちゃんを守ってあげてね」


「それが私の役目ですから」


マイクに出発の挨拶をすまし、二人は冒険者ギルドへと向かった。


その道中・・・。


「お!ロッテちゃんじゃないか!おはよう!!」


露店に商品を並べている髭の生やしたおじさんが声をかけてきた。


「おはようございます!」


ロッテはそのおじさんに元気で明るい挨拶を返した。


「ロッテ、この方は?」


アスモデウス(烏バージョン)がロッテの肩に乗り話しかけた。


「いつも酒場に来てくれてる常連のお客さんだよ」


「なるほど」


よかった。ロリコン大好きの変態ではないようですね。


「ロッテちゃん。今日もギルドに行くのかい?」


「はい!今日も頑張ってクエストに励みます!!」


「いい返事だ!じゃあこれ持っていきな!!」


おじさんは木箱の中にあった丸くて赤い果実を一つとりロッテに向けた。


「これ私の大好きなププルの実じゃないですか。いいんですか!?」


目を輝かせながら嬉しい層にそのププルの実を受け取ろうとするロッテの横でアスモデウスはしっかりとその果実の形と名前を憶え、ロッテに喜んでもらえるように、褒めてもらえるように勉強していた。


「ああ!いつも酒場ではお世話になってるしな!道中食べながら転ばないようにしなよ!!」


「もう!私そんな子供じゃないですよ。ありがとうございます」


ププルの実を手でつかんだ瞬間。


グシャ!


「・・・え?」


「・・・・・・」


突然ププルの実が潰れてしまった。


「ありゃ?中の実が腐ってたのか。堅い表面だから中の具合がわかりづらいんだよなこの果実。ごめんなロッテちゃん。手汚れただろ。これで拭いてくれや。今代わりのもの渡すからよ。・・・にしても潰れるのは初めて見たなー・・・」


おじさんは木箱の中にあるププルの実を手に取りしっかりと吟味したうえでロッテに渡した。


「今度が大丈夫だ。すまなかったな」


「いえ、いいんですよ。・・・それじゃあ」


ロッテはおじさんの手の中にあるププルの実を掴んだ。


「大丈夫だな。じゃあ頑張れよ!!」


おじさんは再び露店の準備を開始し始めた。


「手は大丈夫ですか?ロッテ」


アスモデウスはププルの実を美味しそうに齧るロッテに声をかけた。


「ん?大丈夫だよ。さっきのは傷んでたせいで弾けてびっくりしちゃったけど。あ、アスモさんも食べる?」


「・・・一口いただきます」


「うん。はい、どーぞ♪」


ロッテは一口サイズにちぎりアスモデウスの口に運んであげた。


「どうです。美味しいでしょ?」


「・・・ええ。美味ですね(ロッテたんから「あ~ん」してくれたよー!!アスモ感激!!)」


心の歓喜踊るアスモデスであったが、完全には喜んでいなかった。


「(・・・しかし、もしかするとあれの可能性がありますね。そうすると少々困り事になります。なるべく早く対策を打つとしましょう)」





「ここが冒険者ギルドですか・・・」


ギルドの中に入るとたくさんの冒険者達が掲示板の張り紙を眺めクエストを選び、受付で手続きをしている。


その風景をアスモデウスはロッテの肩に乗り見ていた。


「どうですか?たくさんの冒険者を見て」


ロッテも他の冒険者と同じように掲示板に向かい、自分の身の丈に合ったクエストがないか探しながら話しかけてきた。


「そうですね。率直な感想を言うと、皆さんとても活き活きしてていいと思います。私がいた頃とは違いますね」


「アスモさんがいた頃って魔王が存在して時ですよね。どんな感じだったんですか?」


「・・・・・・。あまり話していいものではありませんし、聞いても暗くなるだけなので止めたほうがいいです。それでも聞きますか?」


「・・・止めておきます」


「それが正しいと思いますよ。それでロッテはどのクエストを受けるのですか?」


「えっと・・・。これかなっ・・・と」


ロッテは小さな体を背一杯伸ばし掲示板に貼ってある一枚の紙を剥がそうとしたがあと少しの所で届かない。


「ん~!・・・んん~~!!」


「ロッテ。私が取ってあげますよ(あ~一生懸命背伸びするロッテたん。ハアハア)」


アスモデウスはロッテ肩から飛び目的のクエストが書かれた紙を足で器用に剥ぎ取り渡した。


「ありがとうございます。アスモさん」


「これも主の為です。それでクエストの内容は?」


「えっと。これです」


肩に乗っているアスモデスに見えるようにクエストの内容を見せてあげた。


「『ラットラビットを10羽討伐。難易度:☆ 報酬:銀貨1銅貨50(雄の場合、角を獲得したなら追加報酬有り)』。・・・間違いなのですね?」


「はい。間違いないですよ」


アスモデウスは張られてあるクエストを一通り眺め、もう一度ロッテのクエストを見た。


「ロッテ。私がいるのですからもう少し難しいクエストでもいいんですよ?」


最強の使役を手に入れてたロッテが子供のお遊び程度のクエストを受けるのは不釣り合いだと遠巻きに語り掛ける。


「そんなことないですよ。私毎回このクエストやってますけど、毎回ギリギリでどうにか達成してるんですから」


と、こんな返答をした。


どうやらロッテは私の言葉の真意を受け止めていませんね・・・。


そう理解したアスモデウスは率直に言い直した。


「私がいれば正直ここにあるクエストは全部片付きます。もちろんロッテは見ているだけでいいです。なのでもう一度選び直したほうがいいかと・・・」


「それは駄目だよアスモさん。ここに来るまでに説明したけど私達冒険者にはランクがあるの。そのランク以上のクエストを受けるにはクエストの数をこなしてギルドからの信頼を得るか、試験に合格しないと駄目なの。じゃないとランク以上のクエストを受けて失敗すると依頼者からの信頼は落ちてギルドの運営はがままならなくなって、最悪倒産でもしたらたくさんの冒険者が路頭に迷うことになるの。・・・それにクエストに失敗したら最悪死ぬこともあります・・・」


ロッテは丁寧に説明しアスモデウスのやり方は良くないと言った。


「わかりました。ロッテの言う通りですね。では、しっかりとこのクエストでの護衛を務めさせてもらいます」


アスモデウスはそれに対し反発をせず素直に従った。


「はい!頑張りましょうね。では受付に持っていきましょう!」


ロッテはクエストの内容が書かれた紙を受付に私クエスト受注の手続きを完了させた。


「では行きましょうかアスモさん!」


「はい。・・・ところでロッテにはお仲間はいないのですか?」


他の冒険者達は複数集まって談笑したり作戦を立てたりどのクエストにするのか相談していたのを目にしていた。


だが、ロッテの傍にはそういった人間が来る気配がなかったので気になり聞いてみた。


だが、これはすぐに失敗だと悟った。


なぜならロッテの目からは光がなくなり、濁った瞳となりいつも見せてくれる可愛らしい笑顔が口だけが笑い不気味な笑顔へと変貌していたからだ。


「・・・はい。私昨日まで『無能サマナー』だったので誰からもお誘いがこなかったんです。召喚が出来ないというか召喚する召喚獣や使役がいないサマナーがいても何も役に立たないですからねー・・・。というかこんな役立たずがいたら報酬の山分けの額も減るしモンスターから取れたアイテムや装備の山分けも減りますから寧ろいないほうがいいんですよ」


「ロ、ロッテ!落ち着いてください!今のあなたはもう昨日のあなたではありません。なので、そんなに自分を自負しないでください。聞いた私が愚かでした(ロッテたんがこんな顔するなんて思いもしなかったよー!ゴメンネ!ゴメンネー!!)」


「・・・・・・っは!?そ、そうですよね!もう私にはアスモさんがいるんですから。しっかりとクエストこなして活躍していけば今後は臨時PTのお誘いが来たり、もしくはチームの勧誘が来たりするかもしれないですもんね!私頑張ります!!」


先ほどまでの冷たい蝋人形のような表情はなくなり、ロッテの瞳には光が差し込みいつもの可愛らしい笑顔に戻っていった。


「そうです。その意気ですよ!一緒に頑張りましょう!(ワー!お帰り!!私の大好きなロッテたん!!)」


「はい!では早速草原に向かいましょう!!」


二人はラットラビットが生息する草原へと出発した。





西の草原


「緑豊かな場所ですね。それに気持ちのいい風が吹いて気分がいいです。こんな場所でティータイムを取るのもいいですね・・・」


辺り一面緑の草で生い茂り風が吹くたび草が揺れ自然の豊かさを味わうことができる場所をアスモデウスは気に入った。


「そうですね・・・んしょ。この場所は・・・いっちにーさんしー、冒険者になりたての初心者が集まる場所ですから・・・ん~~~っと、危険があまりなくて落ち着いた所なんですよ・・・っよし!」


準備体操を終えたロッテは握り拳をし胸元で小さく構え気合を入れる仕草をし目的のラットラビットを探し始めた。


「・・・・・・ん~この辺りにはいないかな~・・・」


「ロッテ。すぐそこにいますよ。狩らないのですか?」


すぐ先の方に目的のモンスターがいることを告げるアスモデウスであったが、ロッテはそれを狩ろうとしなかった。


「あれは駄目だよ。だってほら・・・」


そう言ってロッテが指さす方を見ると、近くにいた冒険者がそのモンスターへと突撃していた。


「この辺はあの人の狩場になってるから邪魔したらルール違反になるよ」


「ルール?そんなものがあるのですか?」


獲物を見つけたら早い者勝ちではないのですか・・・。


「別に決められた事ではないけどね。暗黙の了解っていうのかな?そうしないと周りの評価が悪くなるし、そうなるとPTのお誘いが来なくなったりして冒険が出来なくなったり、ランクも上げてもらえなくなるし、最悪クエストの受注も出来なくなるから。だから獲物を見つけても、まず周りに他の冒険者がいないか確かめて、いなければその周辺を狩場にするんだよ」


「なるほど。私がいた頃とは大分やり方が変わってしまったんですね」


「そうなりますね。今日は他にも私みたいな初心者の冒険者の人が結構いますからもう少し向こうの方へ行ってみましょう」


「わかりました」


先を行くロッテの後ろを飛びながら彼女が行く先の所に危険がないかを警戒しながらついていった。


先を進んでいくと他の冒険者が狩りをしておりさらにその先、そのその先へと二人は進んでいく。


そして草原を抜け森へとやってきた。


西の森


「狩場になっていない所を探してたらここまで来ちゃったね・・・」


「この森は?」


「ここの森は『トレントの住む森』って言われててね。その名のとおり木の精霊のトレントが住んでいるんです。他の木々とよく似ているからどれがトレントなのか見分けがつきにくくて一人で入るには危険なところなんです。一応私たちのランクでも入れる場所なのですがその場合はPTを組んでしっかり陣形を組みながらいかないとトレントに囲まれて大変なことになります」


「なるほど・・・触手プレイですか・・・」


アスモデスは口に手を当て小さく呟いた。


「?。何か言いましたか?」


アスモデウスの言葉をうまく聞き取れなかったロッテがきょとんとした顔で向いてきた。


「おっと、声に出ていましたが・・・。いえ。何でもありません。それでこの森にはいるのですか?クエストの対象は?」


「ちょっと待って下さい」


ロッテは腰ベルトに付けていた小柄なバックから本を取り出しページをめくっていく。


「・・・わかりました。この森の入り口付近までなら生息しているみたいです」


「そうですか。では入り口付近まで入りましょう」


「え?でも私一人ですよ!?」


「ロッテ。今のあなたは一人ではありませんよ。私がいるではないですか」


「あ!そうでした。アスモさん。危なくなったら助けてくださいね」


「そのつもりです。ロッテに傷一つ負わせることはしません」


「ありがとうございます」


「では行きましょう」


アスモデウスが先頭になりトレントの住む森へと入っていった。


森の中は草原と違い上は葉で覆われ下は木々の影で少し薄暗くなっている。だけど葉の間から差し込める光が照らしてくれているので恐怖はなかった。これがもし夕暮れだったら確実にその恐怖にのみこまれていただろう・・・。


「まだ日が高いので十分時間はあります。どのあたりにいるか見当はつきますか?」


「ごめんなさい。この森に入ったことはないのでどこにいるのか見当もつきません」


「気になさらないでいいですよ。・・・そうですね。少し上空から見てみますので、ロッテはここを動かないで下さい」


「わかりました。気を付けてください」


アスモデウスは森抜け、上空からラットラビットがいそうな場所を探し始めた。


「ロッテが言っていた通りでしたらおそらく、入り口付近に開けた場所があるはず。その場所を探せばあとは退治するだけです」


森の入り口付近を入念に調べ、森のどこかにある開けた場所を探し始める。


暫くすると、その開けた場所を見つけ、そこにラットラビットの群れもいた。


「なるほど。・・・場所も覚えましたし、ロッテの所へ戻りましょう。・・・ロッテちゃん褒めてくれるかな~。ナデナデしてくれたら最高だな~・・・」


そんな儚い妄想をしながらアスモデウスは帰りを待っているロッテの場所へと戻り報告した。


「ロッテ。ここから南の場所に開けた場所を見つけました。そこに目的のモンスターもいることは確認しました」


「本当ですか!?スゴイです!流石です!!アスモさん!」


「我が主ロッテの為です。これくらいどうということはありませんよ。(褒められた!褒められたよー!!あ~最高の気分です。できたらその胸の中に飛び込ませてください)」


「それじゃあ行こっか。アスモさん!」


「御供致します」


ロッテの肩に乗り南にいるラットラビットを退治しに歩き出した。


目的の場所は意外に近かった。木々の間から徐々に見える開けた場所。そして、目的のモンスターラットラピットがいた。


周りには他の冒険者はおらず、狩場独占状態になっている。


ラットラビットに見つからないようにロッテは大きめの木の後ろに隠れアスモデウスにお願いをした。


「私が討伐しますので、アスモさんは相手が逃げださないように立ち回ってもらっていいですか?」


「それは構いませんが・・・。私が退治すればすぐに終わりますよ?」


アスモデウスは最もなことを言った。


サマナーである主より、召喚獣や使役したモンスターが戦った方が断然強く効率が良い。


それに、サマナー自身は前衛向けの職業ではない。


ロッテもそのことは理解しているはず。


「ダメです。アスモさんが戦闘にでてもし他の人にその正体がばれたら大変なことになるじゃないですか。折角私の使役になってくれたアスモさんに危険な目に合わせたくないんです」


今朝マイクが言ったことをロッテは覚えており、その事を告げた。


「!!?」


アスモデウスの脳裏に電流が走った。


マイクが言ったことはアスモデウスも覚えていた。


だが、仮に自分の正体が他の人間にばれ、ロッテの身に危険が生じたなら、その人間を消せばいいと考えていた。


だが、ロッテが話した「危険な目に合わせたくない」という言葉。


これはアスモデウスも同じ気持であった。


「(私の正体がばれたら確実にロッテは危険な目に合う。個々の危険ならいくらでも対処は出来ます。しかし、その対処が出来るのは個々のみ。・・・いくら強い私でも所詮は個々の力。その危険が数の場合でさらに私の許容範囲外であれば守る事が出来ずにロッテは・・・・・・)」


アスモデウスの脳裏に如何わしい不安が走馬灯のようによぎる。


ロッテがあられもない姿にさせられ、男たちの慰みものへとさせられる姿。


駄目です!絶対にそんなことをさせません!!ロッテの全ては私のものなのです!!


誰にも手渡すものか!!!


「・・・わかりました。その指示聞き入れましょう。ですが、危ない時は力を使わせていただきます」


「わかりました。では行きます!」


ロッテは隠れていた木から飛び出しラットラビットの群れへと突撃した。


急に人が現れ驚いたラットラビットはロッテの反対方向へと一目散に逃げだしたが、その目の前に烏になっているアスモデウスがいた。


「・・・・・・・・・」


アスモデウスは何も言わずただ空中に留まりラットラビットを見つめている。


ただそれだけなのにラットラビットは動きを止めその場に留まってしまった。


「ロッテ。今です」


「はい!」


その好機をロッテに伝え、追いついたロッテは動くことを止めたラットラビット達を華麗に討伐した。


クエストの任務は一瞬で終わった。


「お見事です」


アスモデウスはロッテの傍により、賛辞を贈った。


「ありがとうございます。でも今回うまくいったのはアスモさんのおかげです。ラットラビットの動きが急に止まったのは、何か魔法でもかけたんですか?」


「いえ、魔法は使用していませんよ。ただ見つめていただけです」


「それだけで動きは止まらないと思うんですけど・・・」


「ロッテ。全ての生き物には生まれた時から本能というのが備わっています。経験したことはありませんか?道端で自身より強い者と出会った場合争い自然と近寄らないようにしたことは。ただ残念なことにここは戦場。あのモンスター達は本能で悟ったのでしょう。私からは逃げられないと、だから自然と動きを止めたのです」


「なるほど。そうだったんですね」


「では目的達成しましたし帰りましょうか」


「はい。今日は傷薬とポーションも使わなくて済みましたから報酬から出費分の引かなくて嬉しいです」


「それはよかったです。町に戻りましたら私が何か菓子でも作ってお茶にしましょう」


「楽しみです!・・・ん?・・・何でここに木の根が?ってあれれ!!?」


草しかない大地にいつの間にか太い木の根が現れ、ロッテの足首に巻き付きそのままロッテを宙づりにした。そして森の奥からメキメキと他の木々をなぎ倒しながら正体を現したモンスター。


モンスターはトレントだった。


何本もある木の根を足にし器用にこちらに向かってくる。


「ロッテ!!」


叫ぶアスモデウス。


「助けてくださーい!!」


木の根に巻き付かれ宙づりのまま身動きが取れなくなっているロッテは必死にアスモデウスに助けを求めた。


ロッテの我が主のピンチ!早くあの木の根を断ち切らなければ!!・・・ですが、あともう少しでロッテのそのスカートの中が見える。見えそうで見えない!ああ、なんてもどかしいのかっ!!


宙づりになった際、ロッテはひっくり返りそうになったスカートを両手で抑え見えないようにしていた。


「アスモさん!助けてください!!」


「待っていてください。すぐに救出します(トレント。もう少し大きく揺さぶってくれ!そしたら見える!見えるから!!)」


アホな事を考えながらもロッテを助けるためアスモデウスはトレントへと攻撃開始した。


・・・かに思えたが、


「・・・戦闘行為ができない・・・!」


攻撃をしようとしたその瞬間、体中から力が一気に抜けその場に膝をついてしまった。


その事に何が起きたのか理解するのに数秒時間がかかったアスモデウス。


「まさか・・・。これは思わぬ誤算でした・・・。まさかここまで少なかったとは・・・」


「アスモさん。大丈夫ですか!?」


トレントの枝と根で身動きが取れなくなっているというのに私の事を気遣ってくれるとは・・・。ああ・・・、先ほどよりも木の根が上へと巻き上っている。・・・上?っは!?ロッテの太ももに巻き付こうとしてるではないですか!?私もまだ触れたことがないというのに、なんとけしk・・・羨ましい!!たかが植物のモンスターが私の主に如何わしい行為をするとは許せん。


「ロッテの力を借りなくてもこの程度のモンスターに遅れを取りません」


脚に力を入れ立ち上がりトレントへと走り出す。


拳を構え放つ。


ドンっと大きな音が鳴り響いた。


「・・・・・・・・・痛い・・・」


放った拳は骨まで響き、痛みが熱へと変わり動けなくなった。


なお、トレントの木の体には傷や凹みはなくダメージは一切受けていなかった。


近づいたアスモデウスにトレントはまだ自由にしてある枝と根でアスモデウスを薙ぎ払った。


「アスモさん!!」


アスモデウスは吹き飛び地面へとぶつかった。


「やはり、駄目ですか・・・」


体に受けたダメージが大きすぎます・・・。


守りに対しても影響を受けているのですか・・・。


これは手詰まりですね。


「大丈夫ですかアスモさん!」


いまだにトレントに捕まって動けないでいるロッテが声をかけてくれる。


「・・・大丈夫・・・ですよ。待っていてくださいロッテ。すぐにお助け致します」


「・・・・・・許せません」


「・・・ロッテ?」


安心させる為に言ったその言葉。だけど私の予想していた反応とは違う。なぜでしょう・・・。


そう思った瞬間、アスモデウスは自身の口に違和感を感じた。


「・・・・・・なるほど」


手で口元をぬぐうと血がべっとりと付着していた。


原因はこれでしたか・・・。


「・・・私の大事な初めての使役を怪我させるなんて・・・」


ロッテの様子徐々に変わっていくのが目に見えてわかった。


四肢を根で拘束されているロッテの右腕が動き出した。


ミキ・・・ミキ・・・


何かを引っ張る音?


ミチ・・・ミチ・・・・


その音はどうやらロッテの方から聞こえている。


まさか・・・!?トレントがロッテの四肢を締め上げている!!?


「ロッテ!すぐに助けます!!」


・・・・・・ブチ!!


「・・・・・・・・・ロッ・・・テ・・・」


「・・・・・・・・・」


トレントの木の根で拘束されていたロッテの右腕は自由になっていた。


「あなただけは許してあげません」


静かにそう言うロッテは自由になった右腕で左腕を拘束する根を掴み・・・。


ブチブチブチ!


引き千切った。


両手が自由になり今度は脚を拘束する根を掴み引き千切る。


空中で体勢を立て直し上手く着地をした。


トレントは引き千切られた根でロッテへと攻撃しようとした。


しかし、それよりも早くロッテはトレントの胴体みきへ拳を放った。


ドガン!!!


何かが弾けて爆発でもしたかのような大音量で周囲に潜んでいた鳥たちが一斉に飛び去って行く。


トレントの太い胴体に大きな風穴が開いていた。


そして真っ二つに折れて倒れた。


「・・・・・・・・・」


これは夢なのでしょうか・・・。


私の主で天使のように優しくて笑顔が可愛いくてロリで貧乳でちっちゃいロッテが・・・。


ワンパンでトレントを倒してしまうとは・・・。


私のロッテ像が崩れていく・・・。


・・・・・・まぁ本心は一旦置いておきまして、なぜここまでの力をお持ちになったのでしょう・・・。


それに、なぜ先ほどまでその力を使わなかったのか・・・。


・・・・・・・・・原因は私ですね・・・。


説明しなくては。


「アスモさん無事ですか!?」


トレントを倒したロッテはアスモデウスにかけより心配そうに見つめている。


「ええ。ロッテのおかげで助かりました。ありがとうござます。それよりも手は大丈夫なのですか?思いっきり殴ったのでしょう」


「・・・よかったぁ~・・・。えっと、手の方なんですが、全然痛くないんですよ。無我夢中だったのかな・・・?殴った時の感触がすごく軽くてクッキーを割ったみたいな感じでした。・・・私の体どうしたのかな?」


不思議そうに殴った手を見つめるロッテにアスモデウスは深刻にその原因を告げた。


「すみません。私の責任です」


「・・・・・・え?」


「私と契約してしまった性でロッテの身体能力は異常に上がってしまったみたいです。どうやら、私とロッテは相性が最高と最悪みたいです」


「え?ええ~っと・・・。もう少し詳しく教えてくれますか?」


「はい。契約した時に言いましたね。身体能力が上がる話は。どうやらロッテは私の力の影響を多大に吸収してしまった模様です。これは、私の魔力がロッテの体に非常に相性が良かったのだと思われます。そして、私は戦う際は主の魔力を消費して戦うのですが・・・、非常に言いにくいのですが、ロッテにはその魔力が少なく、私が戦闘に参加することが出来るだけの魔力を持っていないようです。・・・折角使役してもらえましたのに、何一つ役立つことが出来ない私を許してください」


深々と頭を下げるアスモデス。


「・・・・・・・・・そうだったんですね。ごめんなさい。私の性でアスモさんを危険な間に合わせてしまいました・・・。・・・やっぱり私にはサマナーは向いてないみたいですね・・・」


「そんなことはありませんよ。まだ希望はあります」


「・・・希望?」


「はい、ロッテが強くなれば魔力は増えます。それにアイテムや武器・防具でもそういう能力UPの装備があるはずです。それらをうまく使えば私も参加出来るようになります。ですからそんなに落ち込まずに・・・。一緒に頑張りましょう」


「・・・アスモさん・・・」


目に涙を浮かべていたロッテだがその涙は悲しみから嬉しさの涙に変わった。


「はい!私一生懸命強くなってアスモさんと戦えるようにします!!」


そう言ってアスモデウスに抱きついた。


ベキベキベキ!!


「・・・ほえ?」


何か鳴ってはいけない音がなった。


「・・・ロッテ。あと、感情的になるとどうやら力の制御が不安定になるみたいですので・・・、人に・・触れる際は・・・・気を・・・つけ・・・て・・・(ロリに抱き着かれて歓喜・・・死んでも・・・いい・・ゴフ!)」」


「アスモさーーーーーーん!!!!!」





「うぅ~・・・ごめんなさい」


しょんぼりしながら町に戻ったロッテ。その肩には烏に変化したアスモデウスがいる。


「いえいえ。気にしないでください。暫く人型に戻れないだけですので(紳士にとってロリに抱き着かれ傷を負ったのは誉れです)」


アスモデウスの体はロッテの抱き着きによって多大なダメージを負い戻れなくなってしまった。


「本当にごめんなさい・・・」


「そんな悲しい顔をしないでください。ロッテは笑顔が似合います。それに私は死にはしませんよ。悪魔ですから。ほら、ギルドにつきますよ。クエストの報酬を受け取りに行きましょう。それと臨時報酬も手に入りましたしね」


ロッテの背中に背負っている大きな木の根を見る。


「・・・アスモさん・・・。はい!」


元気を取り戻し、ギルドの扉を開け受付に行きクエストの完了報告をした。


「お疲れ様でした。クエストのラットラビット10羽討伐の報酬はこちらになります」


そう言って受付の女性は銀貨2枚と銅貨50枚、それと追加報酬を手渡した。


報酬を受け取ったロッテは腰袋に大事に入れ、背負っていた木の根を受付に渡した。


「あ、あとこれもいいですか?」


「あの、これは?普通の木の根ではないようですが・・・」


木の根を不思議そうに見る受付。


「えっと・・・、トレントの木の根です」


「え・・・?トレントですか・・・。ロッテさんどなたかとPTを組まれていったのですか?」


ロッテの事は、ここのギルドにいる全ての人達知っている。女性は遠まわしに聞いた。


「いえ、私一人とこの子と一緒に倒しました」


大人しく肩に乗っているアスモへと顔向けた。


「・・・ロッテさんサマナーになれたのですね。おめでとうございます。召喚獣を手に入れたのなら納得しました。少々お待ち下さい」


女性はトレントの木の根を持ち奥へと向かった。


暫くすると、奥から先ほどの受付の女性が戻り報酬のお金を提示した。


「こちらが先ほどの報酬になります。お疲れ様でした」


窓口から渡された報酬は銀貨50枚だった。


初めて見る大金に目を丸くさせ驚くロッテ。


「あ、あの。多すぎませんか・・・」


何かの間違いではないと受付の女性に聞く。


「いえ、こちらの報酬は妥当の額です。PTを組んでの討伐になりますから、一人一人の報酬はそこまで多くはありません。ですが、今回はロッテさんお一人での討伐。ですから多く感じるのです」


「そ、そうなんですか・・・。本当に戴いていいんですね?」


「はい。どうぞお受け取り下さい」


「あ、ありがとうございます!!」


思いもよらなかった多額の臨時報酬を受け取りギルドをでた。


「ロッテよかったですね」


大人しく動物を演じていたアスモデウスが、嬉しそうに頬を緩まして笑っているロッテに声をかけた。


「はい!まさかこんなに貰えるなんて思ってもいませんでした」


嬉しくし自然と足取りがスキップしスカートがヒラヒラを舞う。


喜んでいるロッテを見ると私も嬉しくなります。・・・ですが、


「ですがロッテ、今後は気を付けてください」


ここは釘を打っておきましょう。


「何をです?」


スキップしていた足取りを止めアスモデウスの方へと顔向ける。


天使のように可愛らしい顔がアップで見られるこの場所。最高に至福です。


「この力を使うことです」


「だめ・・・なんですか?」


「あまり、良ろしくないかと・・・。この力を使えばロッテのランクはすぐに上がります。強いモンスターにも苦戦をせずに討伐も出来ます。周りからの注目を浴び、PTだって組めるでしょう。しかし、その力を利用して良からぬ事をする者に利用される可能性が非常に高いです。ですからこれを渡しておきます」


アスモデウスは自分の羽を毟りロッテ髪へと挿し簪のようにした。


「・・・これはアスモさんの羽・・・ですか?」


「はい。私の羽です。力を抑え込む魔法を掛けてあります。これを常にお持ち下さい」


「これを持っていれば私は大丈夫なんですか?」


「はい。完全に抑える事は出来ませんが、少し力の強い女の子くらいまでにはなります」


「わかりました。私も悪事を働くのは嫌ですし、強くなったって言ってもこれはアスモさんのおかげです。私は立派なサマナーになるために自分の力で強くなります!そしていつか出来る仲間と共に頑張りまります!!」


「流石です。それでこそ我が主。日々の成長を見守りながら微力ですがお手伝いさせていただきます」


「よろしくお願いしますね。アスモさん」


「こちらこそ。そろそろ日が沈みます。今日はマイクさんがお祝いをしてくれと言われてましたので早く戻りましょう」


「はい♪」





酒場「乙女」


ロッテは扉を開けたその瞬間一斉に声がした。


『ロッテちゃん。おめでと~!!!』


酒場の店主マイクさんに従業員の皆と常連客の皆さんがお祝いの言葉をかけてくれた。


その大勢の声は店の外にまで響いた。


「み・・・みなさん・・・」


驚いているロッテに巨漢のマイクさんが近づき笑顔を向ける。


「みんなロッテちゃんの事を祝うために来てくれたのよ♪ロッテちゃん愛されてるわね。さぁ主役は真ん中の席よ。いらっしゃい」


マイクはロッテの背中を押して主役の席へと移動させた。


テーブルには色取り取りの鮮やかな色をしたたくさんの料理が作られていた。


ロッテが席に座ったところで、マイクは声をだし


「では始めるわよ。今日はロッテちゃんが初めて召喚したモンスターを使役できた日。皆、今日は大いに食べて飲んで祝ってあげてね♪私も愛情をたっぷりと込めた料理を振る舞うからね」


『おーーーーー!!!!!』


楽しい宴が始まった。


皆ロッテの場所に集まりお祝いの言葉を言い飲んで騒いでの大盛り上がりをした。


アスモデウスはテーブルに足を置きマイクの作った料理を追つまんで食べていた。


「・・・ほう。これは中々・・・。あの巨漢がこんな繊細な料理ができるとは・・・」


「どうです。マイクさんの料理はどれも最高に美味しいんですよ。隠し味はたっぷりの愛情って言ってました」


「その愛情は私にはいりませんね・・・。ですが本当に美味しいです」


「ロッテちゃんこれでやっとサマナーに道に入れたな!」


今朝もあった出店のおじさんがお祝いの言葉と共にこちらに来た。


「ありがとうございます!今後はこの子と一緒に頑張っていきます」


食事を楽しんでいるアスモデウスに笑顔を向けた。


アスモデウスはロッテに反応し肩にのって「カァ」と一声烏の真似事をして鳴いた。


「へぇ~この子がロッテちゃんの使役か。強いのかい?」


「はい!とっても頼りになりますよ♪」


「俺には使役の強さなんて全くわからないが、ロッテちゃんがそういうならそうなんだろうな!お前さんしっかりとロッテちゃんを守ってやってくれよ!!」


おじさんの問いにアスモデスは「カァカァ」と元気よく応えた。


「いい返事だ!こんな可愛い子の使役になれたのがよっぽど嬉しいみたいだな!今は可愛いロッテちゃんだが、後数年すれば美人さんになるのは確実だ!」


そう言ってロッテのお尻を冗談めかしに軽く触った。


「キャ!」


「ハッハッハ!可愛らしい声だ!」


「もう!おじさんのスケベ!」


そう言ってロッテは冗談めかしに軽くおじさんを叩いた。


「っぐっほ!?」


「・・・・・・・・・え?」


軽く叩いたはずのおじさんが壁まで吹き飛ばされた。


「アスモさん・・・・・」


「・・・・・・何でしょう」


「この羽を持っていれば力を抑える事が出来るんでしたよね・・・」


「・・・・・はい。ある程度は・・・」


「これはその力が働いてこれなのですか?」


「・・・・・・はい」


「・・・・・・どうしよう・・・」


さっきまでお祭り騒ぎで騒いでいた皆は一気に静かになり、皆ロッテを見た。


「え・・・え~~~と・・・。その・・・」


あたふたするロッテに皆は


「・・・今のロッテちゃんが・・・?」


「・・・ウソ・・・だろ・・・」


「なんて力だ・・・姉さん並か・・・」


「いつの間にこんな力を・・・」


「おやっさん。しっかりしてくれ!」


店の中は違う意味で騒ぎだした。


「あら?どうかしたの?」


店の様子がおかしいと感じだマイクがキッチンからでてきた。


「あら~・・・。これはどうしたのかしら?」


マイクは近くにいた常連の客に状況を聞きロッテの所へ来た。


「マ、マイクさん・・・」


「ロッテちゃん・・・」


この状況をどう誤魔化すかお茶を濁すか考えているロッテに


「サマナーから格闘家に職変えたの?」


「変えてません!!これはその・・・アスモさんの力の影響でして・・・」


小声でマイクにだけ聞こえるように言った。


「あら?そうなの。アスモちゃん」


「その通りです」


「ん~・・・困ったわね~・・・」


マイクは人差し指を口元に当てて色気っぽい仕草(吐き気)をして考える。


「どうにかなりませんかマイクさん?」


「・・・・・・ロッテちゃん」


「はい!」


「大人の女性にはね。1つや2つ欠点があったほうが魅力的なのよ」


「えっと・・・それってつまり・・・」


「受け入れましょ♪」


「そんな~~~・・・・・・・・・」


こうしてロッテは『無能サマナー』から一変し『怪力サマナー』と言う名が町中に瞬く間に広がった。





冒険者ギルド


「悪いけど、君達とはもうPTは組めない」


PTのリーダーが戦士とヒーラーにそう告げた。


「・・・わかった。仕方ないよな」


戦士は素直にその言葉を聞き入れた。


その言葉に続いてヒーラーも黙って頷いた。


「すまないな。じゃあ元気で・・・」


リーダーは他の仲間を連れその場を去っていった。


「・・・・・・はぁ~・・・今回も駄目だったかぁ~・・・」


「・・・元気だして」


落ち込む戦士の背中をポンポンと叩いて慰めるヒーラー。


二人の首元から見える首飾りには☆が3つ付いていた。


戦士の男の身なりはきちんと整えられ綺麗にされていた。


ヒーラーの女性は男ほどではないが綺麗にされている服装だった。


「今回はうまくいくと思ったんだけどな・・・。というか、お前の性だぞ」


「・・・私の性?違う違う」


ヒーラーは首を振り戦士へと指を指した。


「おいおい、俺の性だっていうのかよ・・・。俺はちゃんと仕事してたぞ」


「してないしてない」


「・・・・・・まぁいいや。それより今後はどうするかだな。流石に二人だけだとクエストを受けても成功は出来ないからな。またPT募集のチラシがでるまで待機だな・・・」


「私は二人だけでもいいよ?」


ヒーラーの目はハートのようになりラブ光線を送っている。


「あ~ハイハイその気持ちはありがとさん。・・・俺達を迎え入れてくれるPT探さないとな~・・・」


それを男は簡単にいなして募集の掲示板を眺めた。


掲示板には一枚も募集の紙が貼られていない。


「・・・しばらくはここで待機だな。いいPTが見つかるのを待つとするか。それでいいか?ルシ?」


「私はずっとこのままでもいいよ。カルロ」


「じゃあ方針も決まったし宿に戻るぞ」


「はいは~い」


カルロとルシは宿へと戻っていった。

誤字脱字があると思います。温かい目で見守ってください。次回の投稿は未定です。出来上がり次第投稿させていただきます。

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