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探偵の助手は機械仕掛けのラブドール。  作者: こもれび
第一章 探偵業始めました
9/13

初仕事完了です

「はーはっはっは…ありゃあ傑作だったな…」


 オッサンがいつもの自分の机を前にして、タバコ(・・・)に火を点けたまま、椅子に掛けて仰け反って高笑いしている。要は思い出し笑い…昨日の一件をえらく気に入ったらしい。

 ったく…こっちはかなり恥ずかしかったし、失敗するんじゃないかと冷や冷やもんだったんだぞ…ソファーに座って、オッサンから渡された『六法全書』というのに目を通しながら、オッサンに言った。


「なあ、オッサン…笑い過ぎ。それにタバコは勘弁してくれって…」


「お?おお…そうだったな…兄さんタバコダメだったな…世の中世知辛くていけねぇや。ここもついに禁煙か。ま、時代の流れだな」


 そう言いながらもタバコの火を消してないし…オッサン最後まで吸う気だな…


 ガチャリ…


 事務所の入り口のドアが開いて、二人の美少女が現れた。一人は黒髪ロングヘアーのお馴染みの顔。俺を見つけた途端にぱぁーっと顔を輝かせた。もう1人は笑顔がまぶしい緑のエプロンを着けた茶髪ポニーテールの元気いっぱいの女の子。手に弁当の入った袋を持って現れた。


「こんにちはー、こもれび弁当でーす。お弁当お持ちしました!」


「おお、待ってたぜ弘美ちゃん。いつも(・・・)わりぃな」


 オッサンがそう言って弘美ちゃんに料金を払う。そう、このオッサン。実は昼飯は随分前からこもれび弁当に頼んでやがった。当然、年中弘美にも会ってたわけだ。くそぅ…それなのにわざわざ俺達に探させやがって…オッサンも実は相当な”S”なんじゃないか?

 そんな俺の思いに気づくことも無く、オッサンはガサゴソと弁当を出す。


「ほらよ、兄さんは『鶏から揚げ弁当』だったな。本当にここの弁当は旨いよ。俺みたいなジジイの口にも会うしな。弘美ちゃん、社長に礼言っといてくれや」


「そ、そんな…お礼をするのはこっちですよ。ほ、本当にありがとうございました」


 俺とオッサンに向かって、弘美が頭を下げた。


「マスター、只今戻りました」


 ニムが微笑みながら俺の側に寄ってきた。


「新人向けの研修も、マニュアル作りも全部終わりました。これであのお店もきっと上手く行きますよ。これも全てマスターのおかげですね」


「ほ、本当にその通りです。明さん、ありがとうございました」


 ニムにそう言われて、弘美に頭を下げられて、俺もなんて言っていいのか分からない。ちょっとキョドっていたら、横からオッサンに言われた。


「今回は全部兄さんのお手柄だな…あんなの俺じゃあ思いつきもしなかったぜ…街の連中も喜んでたし、何よりきっちり稼いできたのが偉い。兄さん探偵より、コンサルでもやった方が良いんじゃねえか?」


 そう言われて冷や汗がでた。だいたいアレは、気づいたというか…気づかされた(・・・・・・)というか…

 ニムが俺の横に座っまま、俺の事を穏やかな眼差しでじっと見つめていた…



----------------------



「…とびっきりの良い方法がありますよ…ね、マスター」


 はい?なにそれ…そんなのある?

 ニムにそう言われて、はて?と俺は考える。そんな俺を見ながら、ニムが言った。


「弘美さんのお母さんは、何が嫌なんでしょうね?」


「そりゃあ、お前…」


 弘美の母親は、高給取りのエリート商社マンの妻で居たかったのは間違いない。着ていた服も落ち着いた高そうな洋服だったし、あの家も綺麗に片付いていて一見して裕福そうに見えた。というか、見えるように努力してるんだろう…

 という事は…


「弘美ちゃんのママは、生活が変わるのが嫌だったんだろうな…『お弁当屋の奥さん』って言われるのも嫌だから、お店を手伝わなかったんじゃないかな」


 その俺の言葉を聞いた弘美は、


「そんな…お弁当屋さんのどこがいけないんですか?全部手作りで、安くて美味しくて、確かにパパも忙しそうで必死に頑張らないと儲からないとは言ってますけど、お客さん達はみんな喜んでくれてるんですよ。パパのお弁当は、みんなを笑顔にしてるんです」


 そう力説する弘美の言葉に、あることが閃いた。


「あのさ…君のママって、ひょっとしてお店が賑わってるの知らないんじゃないかな?」


 俺がそう尋ねると、弘美は顎に人差し指を当てて…


「うーん…そう言えば、ママがお店に来たのは開店前の様子見の時で、最近は来てないと思いますけど…」


 そうか…思った通り。


「それならさ…お店が人気あるんだってことを、ママに見せてあげたらどうかな?そうしたら、君のママも気が変わるかもしれないよ」


 俺がそう言うと、弘美は困ったような顔をした。


「でも明さん…うちの店は見てのとおり、パパが一人で頑張ってるんです。お客さんはたくさん来てくれるけど、お昼時は本当に忙しいし…あんなのママが見たら、余計嫌いになっちゃいますよ」


 手遊びをしながら項垂れる弘美を見ながら、どうしたもんかなと悩んでいると、ニムが横から、


「じゃあ、お店で人を雇いましょう。待っている間にお店の帳簿を拝見しましたが、昼の時間であれば、後3人は雇って平気です。それに、厨房のスピードが上がれば、その分お客さんもたくさんこなせます。お父さんの負担もかなり減りますよ」


「で、でも…」


「それと…マスターの提案。素晴らしいです。お店が賑わっているのを見れば、きっとお母さんの気持ちは変わる筈です。ですので、今回は『ご招待』する形にしてはどうでしょうか」


 ん?招待?ということは、ただ普通にお店をやるだけじゃなくて…


「そうか…『セレモニー』をすればいいのか。お店を営業するのではなくて、いつものお客さん達もひっくるめて招待するんだ。客はみんなこもれび弁当のファンだし、招待されて嫌な気持ちになる奴もいない。タダで旨い飯が喰えればなおさらだ。そのファンで盛り上がってるそこに、君のお母さんを呼ぶんだ」


「素晴らしいです。マスター!」


 ニムが俺の腕に抱き付いた。それを弘美が顔を真っ赤にして口を開いて見てるし…ちょ、ちょっとニム…いい加減にしなさいって…

 俺はニムをひき剥がすと、弘美に向き直った。


「きゅ、急な話で戸惑うかもしれないけど、やってみようよ。俺達も手伝うからさ」


 そう言われた弘美は、コクリと頷いた。





 その後の動きは早かった。特にニム…


 俺達の案をすぐに店主である彼女の父親に告げると、彼は、『お客さんへの感謝祭』のような事を常々催したいと考えていたとのことで、一も二も無く賛成。

 そこで、すぐに弘美が『明日リニューアルオープンセレモニー、参加費無料食べ放題』という大きなポスターを手書きで仕上げて、店頭に張り付けた。そして、来店したお客さんや、表を歩いている人に声掛けをする。

 父親はセレモニー用の食材の発注を手早く行ってから、早速仕込みに入る。ニムはそれを手伝いながら何か父親と話をしていた。

 そして、俺は…

 ニムに言われて、明日セレモニーで司会をすることになってしまい、何を話すか内容を考え中。こんなの普通は司会ロボットがやる仕事なのに…当然ここには、そんなのいないから無理なんだけどね…

 頭を悩ませているところに、ニムが来て、自治会長と、商店会長へあいさつに行くことになった。どうやら、父親からその辺の事を教えて貰っていたらしい。なんでこんな事を?と思いながらも、二軒のお宅を訪問してセレモニーの話をしてきた。


「やりましたね、マスター…自治会はすぐに明日のセレモニーを宣伝してくれるそうですし、商店会は酒屋さん、ケーキ屋さん、中華屋さん等が、お店の宣伝の代わりに色々協賛してくれることになりましたよ。これも全部マスターのおかげです」


 いや、俺のというか…筋書書いたのおまえだろう?

 何だか、ニムにいいように操られている気がしつつも、悪い気はしていなかった。こういう経験は初めてだ。人にお願いしたり、交渉したりなんて、今まで一度もしたことが無かったし、出来るとも思ってなかった。でも、実際やってみたら、俺の話をきちんと聞いてもらった上で、協力までしてもらえるなんて…

 

 …こういうのも悪くない…


内心、ちょっと喜びを覚えつつ、準備を済ませた俺達は、本番を迎えたのだ。


あ、奥さんを一人で呼びに行くのが怖すぎて、オッサンには頼ったんだけどね…



----------------------




「本当に楽しかったです。お客さん達も沢山来ましたし、かなり仲良くなれましたし、それに御祝儀も沢山もらえて、パパも驚いていました。それに、ママもお店をすごく気に入ってくれたみたいで、毎日ではないですけど、お店手伝ってくれることになりました」


 弘美は本当に嬉しそうだ。そして、ニムを見た後に話を続けた。


「それに、昨日のお客さんにニムさんがお手伝いをお願いして、今日から主婦の方が2名、アルバイトしてくれることになったんです。それにしてもニムさんってすごいですね。パパの作り方すぐに覚えちゃうし、今日も新人のアルバイトさんに手書きのマニュアルを作って、すぐに教えちゃうし…皆さん…何から何まで、本当にありがとうございました」


 爽やかな笑顔で、弘美がそう話した。そして茶色の封筒をエプロンのポケットから出すと、それをオッサンに差し出した。


「これ、ママとパパからです。今回の依頼の代金と、お礼分が入れてあります。本当にありがとうございました」


 オッサンはそれを受け取ると、中からお札の束を出して、指を舐めて数えだした。そして、その半分ほどを弘美に返した。


「依頼料だけ、きっちり貰っとこう。残りは親父さん達に渡してやれ、俺からのご祝儀だよ」


「そ、そんな…困ります。パパもママも本当に感謝してるんですから…」


「仕事ってのは最初は金が掛かるもんだ。いくらあっても足りるってことはない。まあ、もしくれるってんなら、もっと稼げるようになってからにしてくれよ」


 弘美は困った顔でオロオロしている。それを見たオッサンが、一言、


「そうしたらな…たまに弁当食いに行くから、そん時御馳走してくれよ。頼むぜ」


「は、はい!是非!」


 笑顔になった弘美はオッサンに頭を下げた。それからオッサンが俺とニムを見て、さっき弘美から渡されたお札の入った茶封筒を投げてよこした。


「ほら、初任給だ。今回はお前ら二人でよくやったな。その金は全部くれてやる。大事にしろよ」


「え?はい?」


 俺はそのずしりと重い封筒に言葉を失う…ニムを見ると、今にも抱き付かんばかりの興奮した顔をしていた。俺は咄嗟にニムの両手を掴んで、飛びついて来ないように抑える。


「ま、マスター!やりましたね!お給料もらえましたよ!わーいわーい!」


 満面の笑みで喜びを言葉にしてくれたニムのおかげで、俺は無言のまま感動に浸ることが出来た。多分、今俺の顔も喜びで引きつった顔をしてるんだろうな。

 まさか1000年も前に来て、仕事をして、給料まで貰えるなんて…


「おい兄さん、気持ちわりぃ顔してないで、ニムちゃんと弘美ちゃんに何かお礼でもしてやれよ。お前さん一人の力じゃねえだろ」


 オッサンに言われるまでもなく、そのつもりだった。この後、二人にこのお金で何か買ってあげよう。感謝の気持ちを込めて…

 隣ではしゃぐニムと、恥ずかしそうに俺を見下ろす弘美を見つつ、とりあえず俺は『鶏から揚げ弁当』に手を伸ばしたのだった。





第一章 Fin








 



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