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探偵の助手は機械仕掛けのラブドール。  作者: こもれび
第一章 探偵業始めました
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初仕事

「おはようございます。朝ごはんのお支度はもう出来てますよ。すぐにご用意しますね」


「ああ、おはよう…わりぃな、俺の分まで作らせちまって…よお、兄さん、随分元気ねぇな。昨日はそんなに頑張っちまったのかい?」


 ダイニングテーブルに突っ伏す俺に、ニヤニヤした顔でオッサンが話しかけてくる。ホント…マジで聞かないで!

 ニムもなんだか満足そうな顔してるし…そんなに昨日の俺の醜態が楽しかったの?このドSロボットめ!

 一人、俯いたまま、ニムの用意してくれた朝食に箸をつける。今日は、ご飯とみそ汁に、おかずはベーコンエッグサラダ。やっぱり旨い。なんでこんなに美味い物を、俺達の時代では作れないんだか…まあ、環境汚染を全て封じ込んだ結果、火も使わないし、生体を食料にもしないから、その差何だろうな…なんて想像しながら食べた。

 

「この味…」


 みそ汁を啜ったオッサンが、びっくりした顔でニムを見る。ニムはそれをニコニコしたまま見つめ返した。


「多分奥様の味と同じだと思います。お台所に手書きのレシピがいくつかあったので、勝手に見るのは申し訳なかったのですが、拝見させて頂きました」


 オッサンはなんだかむず痒そうな顔をして、


「ああ…こりゃあアイツの味だ…懐かしい…そういや、娘に料理を教えるって、二人でよく台所にいたっけな…それにしてもすごいな嬢ちゃん、まさか見ただけで作れちまうのかい」


 ニムはエッヘンと胸を張ると、


「これでも、家政婦ですからね。お料理なんかは自信ありますよ」


「家政婦!?こりゃあ驚いた…お嬢ちゃんみたいな別嬪だから、どこかいいとこのお嬢さんで、そこの使用人と駆け落ちしたのかと思ったのに…どうやら逆だったみてぇだな…てことは、なにかい?兄さんそこそこ良いとこのお坊ちゃんって訳か?で、家政婦に手を出しちまったと…ああ、だから『マスター』とか呼んでんだな…納得納得」


 オッサンがみそ汁を旨そうにすすりながら、一人頷いて納得してしまっている。って、俺『金持ちの息子』みたいな設定になってるんですけど!?

 朝食を終えたオッサンは、俺に向き直った。


「明…って言ったか…お前さん働く気はあるんだよな」


 そう言われて、俺も迷う。『探偵』ってのがどんな仕事か分からないけど、今まで仕事という仕事を上手く熟せた試しがない。でも…と思う。

 こんな、どこだか分からない所で、グダグダ言っててもノタレ死ぬだけだ。どうせダメでも、死ぬのだけは嫌だ。もう一度だけ、ここで頑張って見ても…いや…そうじゃない。全て駄目だったオレだけど、これは本当のホントに最後のチャンスを貰えたのかもしれない。だから、ここで逃げてはダメなんだ。


「木暮です」


「あん?」


「俺の名前は、木暮明です。出来るかどうかは分かりませんが、頑張りますのでお願いします」


 そう言った俺を見たオッサンが、


「ハンッ。最初から出来る奴なんていねえよ。だけど、逃げねえでしがみついてりゃ、嫌でもその道のプロにはなれる。お前さんが逃げなきゃいいだけの話だよ」


 そう言われて俺は緊張した。これはつまり、『絶対に逃げるなよ、どんな目にあっても』ってことだよな…俺…まずい話受けちゃったのかもしれない…


「よし、そうと決まれば初仕事だ。まあ、最初だから上手く行かなくて構わない。俺がきっちりケツ持ってやるからな」


 そう言ったオッサンは、俺とニムに1枚の写真を手渡した。







益子弘美(ましこひろみ)さんねえ…この人を探し出すのが今回の仕事らしいけど…」


 俺は今、ニムと2人で依頼人である彼女の母親の家に向かっている。俺はオッサンから借りた、ベージュのスーツの上下に少し大き目の革靴を履いていて、ニムは白のブラウスに紺のスカートで、一見学生の様に見える格好をしている。それにしても…

 不思議な光景だ。

 まず不思議なのが、人がたくさん地面を歩いていること。地上を歩くなんて、本当に金のない貧乏人とか、姿を隠したい犯罪者くらいな物なのに、ここでは、老若男女全ての人が歩いている。当然だが、慣性浮遊して空中を移動している奴もいない。

 そして、道路を走るこの『車』という乗り物。見た感じは『シャトル』に似てなくもないが、タイヤが4つ付いていて、それを転がして走っている。音の感じから、内燃機関を使用しているんだろうけど、明らかにエネルギー効率も悪そうだし、環境にも良くない。吹き上がる煙の臭いで鼻が曲がりそうだった。

 俺がキョロキョロしていると、ニムが俺の腕に抱き付いて来た。


「な、なんだよ」


「えへへ…こういうの、『デート』って言うらしいですよ。あんまり珍しいからって、周りばかり見ないで、私の事も見てくださいよ」


「ばっ…は、恥ずかしい事言うなよ…」


 ニムは本当に無邪気で嬉しそうだ。オッサンから仕事用にとある程度現金も貰ってるし、きちんと仕事を続けてれば報酬も出るという。とにかく、一文無しの俺達は、まずは稼ぐのが重要だ。遊んでる暇はないっていうのに…こいつ本当に分かってるのかな…


 それにしてもオッサンの奴、いくらなんでも、俺の初仕事を丸投げで押し付けてくるなんて、どういう了見なんだよ。そんなにどうでもいい、仕事なのか?

 俺は、出かける前に、彼女、益子弘美についてニムに調べさせた。

 年齢16歳、現在市立高校2年生、女子テニス部所属、成績並み、友人関係広め、ライン・フェイスブックなどでのやり取り大目、3日前から家出状態になっているが、まだ警察へ捜索願を出していない。毎日携帯メールで母親に連絡がある。


「これはただの家出じゃないのか?」


 俺がそう呟くと、ニムは、


「そうですねぇ…私がアクセスした感じだと、友達の家に泊まりに行く感じのやり取りはないんですよねぇ。それに、毎晩母親宛にメールも届いているのですが、携帯電話の発信場所が、家からそんなに離れていないようなんですよ。マスターはどう思います?」


 ここまで言われたら、タダの家出じゃないってことじゃないか!

 ニムの奴、きっちりこの世界の知識を予習してるから、ルールとか、常識とか、すでに身に着けちゃってるんだよなぁ…まあ、俺を立てようしてくれてるんだから、俺もそれに乗っかるか。


「ま、とりあえず、その母親に会ってみよう…で、俺何聞いていいか、多分わかんなくなるから、そこんとこはお前がフォローしてくれよな」


「マスターそれ格好悪いです。フォローはしますけど、まずはビシッとお願いしますね、あなた(・・・)」 


「うっ…」


 ニムにからかわれながら、俺達は目的の益子家を目指して歩いた。







 その家は、同じようなデザインの家が立ち並ぶ住宅街の一軒で、白壁に、オレンジの瓦屋根のおしゃれな二階建ての家で、門柱に『益子』とメタリックなプレートの表札が掛かっていた。表の車庫には小さいブルーの車が1台止まっていて、そのわきには自転車が3台並んでいた。


「わあ…可愛いいおうちですね、マスター。私、こんな家に住みたいです」


「はいはい」


 さらりと、ニムの言葉をかわした俺は、インターホンを押した。すると、女性の声で応答があり、探偵事務所の者だと告げると、玄関が開いた。

 中から出てきたのは、まだ30代前半といった感じの眼鏡をかけた美人。オッサンから借りた写真の少女になんとなく似ていることから、この人が多分母親だと思う。俺達は、室内に通された。


 ソファーに座った俺達二人に、奥さんがコーヒーを出してくれる。まあ、ニムも一応は飲むことは出来るから、失礼になりそうなら、飲んでもらおう。

 それにしても緊張する。さっきから動悸も酷くて、のどもカラカラに乾いている。元々人と話すのは苦手なんだ。しかも相手は愁いを帯びた表情の美人ときてる。もう、どう声をかけていいか分からない。

 チラリとニムを見ると、目を輝かせて、胸の前に両手を寄せて、小さくガッツポーズしてるし…そんなに期待すんじゃねえよ…


 ごくり…


「あ、あの…娘さんの事を、お、お探しとのことでぇすがあ…」


 声が裏返るのも気にせずにとりあえず聞いた。すると、


「うちの子は誘拐(・・)されたんです。お願いです。早く見つけ出してください」


「はい?」


大粒の泪をこぼしながら俺に詰め寄る奥さんに、俺とニムは呆然となった。




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