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鴉と鬼  作者: saki
13/20

 夕食後、部屋でアルバムを開いてみれば、モノクロの薄汚れたものが一枚一枚丁寧に糊で貼り付けられている。ところどころ色褪せてはいるが、大切にされてきたのだと一見して解る代物だ。

 主人公は一人の人物のようだ。その男の子が大人になり、やがて老成するまでが綴られている。

 他人の思い出を覗いているようなものだから、少し悪いような気はしたが一枚一枚目が追ってしまう。

 楽しそうに家族で写っている写真や、日常を撮ったものまである。当時、写真機は高価なものだった筈だから、裕福な家の生まれなのだろう。少し見た目は違うところこそあるが、紛れもなくこの家だった。

 そして、ある写真の前で目が止まった。

 ごくりと喉が鳴る。

 まさかとは思うが、瞬きもせずにただその写真を凝視してしまう。

 そこに写っているのは、紛れもなくユニそのものだ。他人の空似などでは断じてあり得ない。

 ずきんと頭が痛んだ。

 耳鳴りに交じり、「ユニ」と名を呼ぶ優しい男性の声がする。

 ちかちかとする目の中、映画を早送りしているみたいに古い映像が見えた。

 どのシーンでもユニはその男の人と一緒にいる。ユニは成長していないようだが、隣に居る男は確実に年を取っていた。少年が青年へ、青年が壮年へとゆるやかな時の中で変化している。

 男の顔は逆光でも浴びているみたいで、ハッキリとは見えない。だが、笑顔はどれも変わることがない。その眼差しもだ。

 そして、その隣ではユニが絶えずほほ笑みを浮かべている。幸せだと言わんばかりの笑顔だ。

「何、今の」

 はっと気が付き、茫然と呟いた。

 頭の中がぐるぐると廻っているような感覚。初めて見たような気がするのに、懐かしくて胸が温かくなった。

 妙に苦い息を吐き出すと、アルバムを閉じた。そして、古びた紙を手に取る。

 広げると、むわっとした紙の臭いが押し寄せてくる。

 羅列のように思える文字を視界に収め、読み取る。先代ということは、恵の両親の親ということだろう。既に他界しているらしく、ユニはその人と会ったことはない。

 下の方から数えた方が早い先代の横には誰の名前も並立していない。

 それが差す意味は、妻がいなかったということ。

 つまり、恵の両親は先代の養子ということになる。

 だからといってそれがどう関係しているのか解らず、ユニは首を捻る。鴉戯が面白いものがあると言っていたが、これの何処が面白いのだろうか。

「そういえば……」

 鴉戯は書斎の金庫の中の鍵がどうとかも言っていた。そして、先代の部屋の掛け軸が云々とも。

 時刻は九時を幾らか回ったところ。

 恵は部屋に居ることを確認しているし、養父と養母は泊まり込みで研究とのことだ。また書斎に降りて金庫を開けたところで、見つかる可能性は殆どないだろう。

 よしと呟き、ユニは立ち上がった。

 有言実行、思い立ったら即行動。

 足を忍ばせ、音を立てずに階段を下りると書斎のドアノブに手をかける。カチャリと小さな音を立ててノブが回った。

 机の下、つまりは机の中に収納されるようにして金庫は置かれている。

 ぱっと見では気がつかないが、よくよく見ると机の内側にツメのようなものがある。そこに指をかければ、あっさりと扉が開く。

 大きさにして縦横四十五×三十くらい。金庫としては小さい分類だろう。だが、こういう場所に隠すのなら実に有効である。

 カードキーもいらないタイプだ。

 教えられた通りにダイアルを動かせば、小さく軋んだ音を立てて開いた。中には宝石でも仕舞い込むかのように銀色の小さな鍵が鎮座している。

 鉄ではなく銀でできているのだろう。伝わってくる冷たさは少しぬるまっている。

 あまりにも簡単だった。それこそもう、拍子抜けでもしてしまうほどに。

 しかし、あまり考えても答えはでないのだから仕方がない。

 ユニは金庫を閉めると、その鍵を片手に廊下を渡る。ギシギシと立つ音が奇妙なまでに大きく響く。急き立てられるかのように、何時もよりも早く心臓のポンプが伸縮していた。


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