Valentine Day
バレンタインのおはなし。
チカとはよく会っている。
チカが男の子だなんて今でも信じられない気持ちがある反面、時に大胆に迫ってくる姿はやっぱり正真正銘の男の子だと実感する。
あの日からチカは私にアプローチし続けている。本当の恋を知らなかった私だけど、正直完全にチカに陥落している。私の心はもう、チカのものだ。
そう、私はチカが好き。
でもその気持ちはまだ一度も彼に伝えていない。
今日はバレンタイン、思い切ってチカに気持ちを伝えようと心に決めている。
* * *
三日前
チカに気持ちを伝えるとして、チョコレートがなければ話にならない。なにしろバレンタインデーである。お菓子業界の策略にまんまと嵌っている、なんて言わないで。やっぱりバレンタインにチョコは渡したいじゃん。想い人のために気持ちを込めながらチョコを作る。それを含めてのバレンタインだって、従姉も言ってたし。なにより恋する乙女にとってはそんな時間が一番楽しい。
そこで問題が。お菓子を作ったことはある。チョコレートも。
中学や高校のとき、女の子同士で手作りの友チョコを交換した。クラスの男の子に義理チョコを配ったこともある。美味しいと皆に感心された。でもでも、その手作りチョコレートは我がお母様と一緒に作った手作りチョコレートである。つまりお母様クオリティ。何が言いたいかというと、あれだ。私は一人でお菓子作りをしたことがない。
どうしよう!レシピを見ればなんか出来そうな気がする。気がするけどそれ以上に失敗しそうな気もする!それは困る。失敗しちゃったてへぺろ、なんて絶対やだ。チカなら食べてくれるかもだけど無理無理絶対無理。
「お菓子作り?いいよ!任せて!」
ということで私が助けを求めたのは、例のヘアサロンのマスコット、ひなちゃん!
どう見ても私と同年代には見えない(しかもなんと年上である)童顔で可愛いひなちゃん(男)はなんとお菓子作りが得意らしいのです。イメージぴったりすぎてすごい。賢さんから聞いた私は迷わずひなちゃんに飛びついた。助けてひなちゃん!
優しいひなちゃんは快く承諾してくれて二人でお菓子作り。
いろいろ迷った挙句、ガトーショコラを作ることに。
* * *
そして今日、2月14日。
チカとのデートの待ち合わせ、早めに来た私はひなちゃんと作ったガトーショコラを手にドキドキしながらベンチに座っているのです。ううう早く来すぎた。チカ早く来て。あ、やっぱりまだ来ないで心の準備が…。
「いちる、お待たせ。待った?」
一人ドキドキしていると頭上から最近聴き慣れた声が。チカだ!
慌てて立ち上がると危うく頭と頭がごっつんこ。あかん、私はドジキャラじゃないぞ。どうも緊張してぎこちなくなっているみたいだ。
「わお、びっくりしたあ。いちる今日緊張してる?かっわいいなあもう」
「!」
くすくす笑いながら頭を撫でられてドキドキがとまらない。バレてる。バレンタインで緊張しているの筒抜けじゃん。
「それで、その可愛い紙袋、俺にでしょ?」
首をかしげて訪ねてくるチカは、ちょっと反則なくらい可愛くて、格好いい。
私は勇気を振り絞って紙袋をチカに差し出した。
「……好きです」
「いちる!」
瞬間、ふわりとチカに抱きしめられた。
「その言葉、ずっと待ってた」
「チカ…」
「いちる、俺のこと好きになってただろ?なのになかなか好きって言ってくれないから」
自信に満ちた発言、これがチカだよね。
「チカ、私、チカのこと好き。やっと言えた」
チカは私から体を離すとじっと目をあわせ、満面の笑みで
「俺も、好きだよ。ねえ、もっと言って、いちる」
「好き、チカ」
あいしてる。
* * * *
ガトーショコラ実食
「美味しいよ、いちる」
「ありがとう。私の手作りです、って言いたいんだけど実はひなちゃんに手伝ってもらったんだ」
「知ってる知ってる。昨日ひなちゃんに友チョコもらったよ。ガトーショコラ。いちると一緒に作ったって」
ひ、ひなちゃんフライングーー!!!
ひなちゃんはヘアサロンのスタッフ皆にも配りました。