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美少女なきみ  作者: ゆきおんな
本編
4/9

後日談

 

 「そのワンピースすごく似合ってるよ。可愛いけど甘すぎなくて、ちょっと大人っぽい感じがいい」


 「そうですか!ありがとうございます」


 「うんうん。いちるちゃんのイメージにぴったり」


 「一目見て気に入ったんですよ」




 とあるヘアサロン。というのはつまりはいちるの行きつけのヘアサロン。

 今日はいちるの従姉の結婚式の日である。いちるは朝早くからこのヘアサロンに来ていつもの担当の美容師サトルにヘアメイクをしてもらっていた。





 

 

 「それで、チカと映画行ったんでしょう?どうだった?」


 「泣けました。もう号泣ですよ。すっごいいい映画でもう…」


 「へえ、俺も見たかったなあ」


 「おすすめです。チカは全然泣いてませんでしたけど」


 「あいつそういうの泣かないタイプなんだよね」


 「みたいですね。美少女の涙みたかったのに……って、そう!美少女!」



 楽しそうにサトルと雑談するいちるだったが、「美少女」というワードにくわっと目を見開いた。

 鏡越しに目があったサトルが一瞬怯む。



 「チカ!そうチカですよ!ホントもうびっくりしたんですから!」


 「ああ……チカ、女の子バージョンで行ったんだって?」


 「そうです。サトルさんの妹だっていうからてっきり。名前も女の子みたいだし、どう見ても完璧な美少女で…」


 「はは。ほんとにね。男だってわかってても女の子にしか見えないもんなあ。本当あいつどうなってんだろう」


 サトルは女の子の格好をした己の弟の姿を思い浮かべたのか、しみじみと頷いている。





 「そのワンピース、チカが選んだんでしょ?」


 「そうです」


 「チカならいちるちゃんにぴったりなワンピース選ぶと思ったよ。あいつ俺よりセンスいいし」


 「へえ、そうなんですか…」






 

 「でも、チカ、いちるちゃんに男だって言うとは思わなかったなあ。いつもは色々悪戯で脅かしてるけど今回の代役は普通に妹ととして行くって言ってたから」


 サトルの言葉にいちるはチカと出かけた日を思い出し。ワンピース選びを思い出し楽しかったなあと笑みを零し。帰り際のキスを思い出し。……真っ赤になった。


 「……いちるちゃん?」


 「ななな、なんでもありません」


 「動揺してる動揺してる。何があったの?」


 くすくす笑うサトルに動揺しまくりのいちる。


 「女の子だと思ってたのに、男の子で、しかも…」


 口ごもるいちるに、




 「キスでもされた?」


 「!?」


 鏡越しに悪戯っぽい色を浮かべたサトルの目といちるの目があった。その瞳はチカのものとよく似ていた。



 「本当に?……へえ。でも確かにいちるちゃん可愛いもんなあ。うん」


 憧れのサトルに可愛いと言われて照れるいちる。

 サトルはそんないちるの様子をさらりと流して、


 「それで?」


 「へ?」


 「それで、どうなったの?」


 ズバリ、切り込んだ。



 



 「(逃がさない、って言われたなんて言えないよ…)」


 まるでいちるの心の声を読んだかのように、サトルは楽しそうに笑いながら告げた。


 「まあ、なんにせよ。チカはそう簡単に逃げさせてくれないよ」


 「!!」


 「チカが女の子に夢中になるのって珍しいし」


 サトルは実に楽しそうに手を動かす。





 

 「今日もこれからチカと行くんでしょう?」


 鏡越しに楽しそうに見つめるサトルにいちるが頷く。

 そう、今日の結婚式にはチカも一緒に行くことになっていた。本日の主役たる花嫁、いちるの従姉に彼氏でも連れてきなさいよ、と言われていたことを聞き出したチカが俺も行く、と言いだしたのだ。いちるは他に誘う男の子はいないし、まさかサトルを誘うのは恐れ多いしで流されるままオッケーしてしまったのだが、どうやらまんざらでもないようだ。










 

 「いちるちゃん、俺のことちょっと好きだったでしょ?」


 突然の発言にいちるは固まってしまった。

 その様子にサトルは苦笑し、


 「なんとなく、ね。でもまあ好きっていうより憧れって感じみたいだったけど」


 「え、あ、え、…はい」


 いちるは挙動不審に、肯定した。


 「でも、今日いちるちゃんに会ったらなんか雰囲気変わったような気がしたんだよね。……チカでしょう?」


 「えと…」


 困惑しているいちるにサトルはにっこりと微笑んだ。


 「チカとお似合いだと思うよ。怖がらないで、委ねてみたらどうかな、チカに」


 「サトルさん…」


 あの日、チカに逃がさないと言われてからいちるの心はずっとチカに囚われている。本人はまだはっきりとは自覚していないようだが、結局のところいちるはすっかり恋に落ちているのだ。



 「ま、俺がわざわざ言うまでもないみたいだけどね」


 いちるの気持ちをあっさり見抜いたサトルはウインクすると、パン、と手を叩いた。


 「はい、完成。うん可愛い。こんな感じでいいかな?」


 ヘアメイクが終了した。手鏡で頭の後ろも確認する。

 はい、と頷くいちるにサトルは満足げに笑うと、入口の方に目を向けた。



 「王子様のお迎えだ」






 カラン、とドアベルが鳴る。

 いちるが振り返ると、おしゃれにスーツを着こなした男の子がにっこり微笑んでいた。


 「いちる、似合ってる。可愛いよ」


 「チカ…」


 あの日の姿とは一変、どこからどう見ても素敵な男の子なチカはいちるのもとまで歩いてくると、手をとった。


 「行くよ、いちる」






 












* * *



 いちるちゃん、俺のこと好きみたいだったのになあ、なんか寂しい。

 妹に彼氏ができた兄の気持ちってこんなのなんだろうなあ…。


 二人を見送ったサトルは一抹の寂しさを覚えつつ、二人の前途が良きものであることを願った。


 


 



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