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美少女なきみ  作者: ゆきおんな
本編
1/9

第一話

 私の名前は鹿野かのいちる。大学1年生。

 別に箸が転んでもおかしいわけじゃないけれど、それなりに日々他愛のないことで喜んだり悩んだりするお年頃なわけで、そんな私は今行きつけのヘアサロンの美容師さんに淡い淡い恋心のようなものを抱いていたりするのです。

 

 その彼の名前は直木なおきさとるさん。カットモデルとかも時々したりしているそのヘアサロンはかなりのお気に入りで、私はいつもサトルさんにカットしてもらっている。

 恥ずかしながら恋だなんて、幼稚園の頃の初恋の純くんくらいだから、この気持ちが果たして恋なのかどうか実はちょっと怪しいのだけど。でもすごい格好良いんだよ、サトルさん。スラっとした長身で、美形で、優しくて、カットもうまい!いつもサトルさんに見とれていて、気づいたらカット終了。ああ素敵。






 そんなわけで美容師のサトルさんに憧れちゃっている私なのですが、実は実は、なんと今日は彼とデート!デートなのです!

 二人で映画!……というのも、来月従姉の結婚式があるんだけど(もちろんヘアセットはいつものヘアサロンでサトルさんにしてもらうつもり)そのときに着るワンピースを選ぶのにアドバイスをしてもらいたくて勇気を出して誘ってみたら快く了承してくれて、しかもたまたま映画のチケットを持っているからついでに映画も見に行こうと言ってくれたのだ。これをデートと呼ばずしてなんと呼ぶ。わくわくして待ち合わせ場所に一時間も早く来てしまったよ。やばいドキドキしてきた。ちなみに、結婚式には従姉から彼氏でも連れてきなさいよと言われているのだが、彼氏などいないわけで。憧れのサトルさんは……まさかそんな高望みはしない。


 ビルの広告のイケメン俳優を見て隣の女の子達が格好良いー!って騒いでいるけどサトルさんの方がずっと格好良い。……ああ、どんな映画なんだろう。












 

 「ねえねえ」



 サトルさんとこれから見る映画の内容についてふわふわと考えていたら、肩をとんとんと優しく叩かれた。

 

 「!」


 声の聞こえた方に顔を向けると、わあびっくり。すごい美少女が目の前にいた。色の白さだけには自信がある私に負けず劣らず白い肌に綺麗な茶色の瞳、可憐な唇。どこをどうとっても完璧な美少女が私の顔を覗き込むように顔を傾げている。……可愛い。アホみたいに口を開けてしまった。

 思わず見とれていたら、美少女が口を開いた。




 「あなたが鹿野いちるちゃん、であってる?」


 いかにも、鹿野いちるです。うんうんと首を縦に振ると私をじっと見つめていた美少女はよかったとばかりににっこりと微笑んだ。……天使だ、天使がここにいる…!




 「はじめまして、いちるちゃん。私、直木なおき智加ちかです」


 「は、はじめまして。鹿野いちる、です」


 なんだかわけのわからないまま、とりあえず私も自己紹介し、笑顔で手を差し出す彼女と握手する。

 って、ん…?直木…?




 「えと…、直木って」


 戸惑いがちに尋ねかけた私に彼女は、


 「私、直木賢の妹なんだ」


 とにっこり笑った。

 妹!?

 どおりで美少女だ。こんな綺麗な顔そうそういてたまるか。……可愛い。

 ……って待てよ。なんで妹さんがここにいるの?


 


 「あの、どうして妹さんが?私に?」


 疑問を口に出してみたら、彼女は目をぱちぱちとさせた。


 「チカでいいよ。いちるちゃんと同い年だし。あ、さんもちゃんもいらないよ」


 じゃあチカさん、と呼ぼうとしたら先にそう言われてしまった。


 「え…っと、チカ?」


 「うん」


 名前を呼ぶと嬉しそうにニコニコ笑う。可愛い。

 ……じゃなくて、なんでここにいるかだよ。……はっ!可愛い顔して、もしや、実は大好きな格好良いお兄ちゃんとデートする憎き女を見に来てやったぜ、みたいな。デートを邪魔してやる、みたいな。私のお兄ちゃんを取る女をいじめてやろうか、みたいなー?!天使のような笑顔でにこにこしているけど実は、実は私を……





 「ねえ、ちょっと、変なこと考えてない?」


 「!!」


 恐ろしい想像が頭の中をぐるぐる回っていると、チカが私を下から覗き込んでいた。びっくりしたあ…。

 いかにも図星です、というような私の顔を見てチカがくすくすと笑った。


 

 「何考えているか知らないけど、私別にいちるちゃんに敵対心とか、いじめるとか、ないからね。ブラコンじゃないし」


 何考えているか知らないけどって、めっちゃわかってるじゃん!心読まれている…!?

 わたわたする私を見てチカはまたくすくす、楽しそうだ。なんだなんだ。うう…。可愛いぜちくしょう。









 「私ね、兄さんの代わりにここに来たんだ」


 情けない顔の私に、チカはそう言った。

 え…?代わり?

 チカはうんと頷く。


 「今日兄さんね、急な用事が入っちゃって。でもいちるちゃんに悪いからって代わりに私が」


 急な用事って、サトルさん…。せっかくのデートだと思ったのに。わくわくのドキドキだったのに…。

 しょんぼりな私の様子に、チカは大丈夫だよ、と元気づけるように微笑んだ。



 「私もセンスには自信あるから、いちるちゃんにぴったりのワンピース選んであげる!」



 …………。

 ワンピースを選んでもらうんだったっけ、そうか。もう私の中ではサトルさんと二人っきりの映画で頭がいっぱいだった。そうか、ワンピースか。はあ、ぶっちゃけワンピースなんて口実だよ…。

 こぼれそうなため息を押し込んでうなだれていた頭を上げるとチカがにっこり私を見つめていた。




 「映画のチケットもしっかり兄さんからもらってきたし、早速ワンピース見に行こう!映画はその後ね、いちるちゃん」



 そう言うとチカは、ほら、と私の手を引いて足取りも軽く歩き始めた。

 サトルさんとうれしはずかしドキドキ初デートのはずだったのに、サトルさんは来なくて、妹のチカがいて、なんかもうよくわからないよ…。





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