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第05話:ゴールデンウイーク!これぞまさしく金色週間!非常に楽しく超面白く、そして最高の想い出に…なれ!いや、するんだ俺!!GW編Part.1

 白いワンピースに身を包んだ一人の少女は、こちらを見て微笑んだ。しかし大きなつばのついたこれまた白い帽子を着用しているせいで、目は見えない。人間ってのは不思議なもので、目が確認出来ないだけでその人が誰なのかという判別が出来なくなる。まさしく今がその状況だ。

 そしてその少女は何かを言ったが、少し遠くにいるので、その声は届いて来ない。


「…誰?」


 思わず俺はそう口走ったが、それに答える様子は見られない。そして、少女はそれ以降何も言わずに、ワンピースの裾を風に任せて翻しながら背中を向けてしまった。


「あ…」


 その少女は美しすぎた。それ故に、そんな声が零れてしまった。俺は、このままずっと、そんな彼女の事を見つめ続けられたら、と思っ…


「お兄様?一体、どうなさったのですか?先程から、何やら口ごもっていますが…。わ、悪い夢でも…?」

「…う〜ん…、ん…。…え?」


 俺は突然のお兄様発言により起床し、辺りを見回した。

 朝、のようだ。カーテンから光が差し込んでいる。

 あれ?

 さっきまでの幻想的な世界が無いぞ?

 じゃあ、もしかしてさっきまでのって…。

 なんだ、夢か…。

 あの少女は一体…誰、だったんだろうか?

 ってか、ここは…?

 当たり前だが、楠町家の俺の部屋だな(『同級生の女子の家に住んでいる』この状況で「当たり前」と言う事そのものは些かおかしいとは思うけどね)。ビックリしたなぁ、まるで穂美そっくりな声が聞こえたからさぁ。

 本当、マジでそっくりだったなぁ。

 うむ。じゃあこの俺の背後に感じる温度は、きっとそんな事ないんだよね。そうだよね。あはは、分かってるって。まさか体温に限りなく近い温度だからって、実際に人間が、俺以外の人間がこんなに朝早くからこの部屋にいるわけ、ないよね。

 うん、ないない。

 ない、ハズ…。

 ……。


「何で穂美がここにいるんだよ!?」


 俺は部屋の壁側に配置された布団置き場と化している場所にて叫んだ。無論、朝であり、また寝ていた事もあり、ここには布団が敷かれている。そして今、穂美は俺の隣に添い寝している状態で存在していた。


「お兄様!?ど、どうかなされましたか!?」

「…え、何?何なのコレ?え、俺がおかしいの?」

「いいえ、お兄様は何もおかしくありませんよ?」

「ですよね!」


 俺は朝っぱらから超次元世界にやって来たかのような錯覚に捕らわれた。

 何だって穂美がここに…。


「今、『何で穂美がここに』って思いましたね?」


 思った。

 思いましたよ。

 お前はエスパーか?


「お兄様ったら、そんなにわたくしの事を…」


 …いや、それはない。ないぞ。


「全くもう、仕方がないお兄様ですね…。ほーらっ!起きて下さい!お兄様っ!」


 穂美によって、掛け布団は空中へとフライアウェイ。従って俺は為す術なく全身をまだ肌寒い空気中へと晒す羽目に。あ、そうそう。カレンダーによると、今日から5月になるそうです。


「…なぁ、俺、まだ眠いんだけど…」


 とりあえず懇願してみる。露葉もそうだが、穂美まで俺の朝を攻撃して来るとは…。俺の周囲にはやたらと朝に強い奴が多い気がする。確か瀬栾も早い方だったよな…。アリスさんはまぁ昼過ぎくらいまで寝ててもおかしくないレベルで爆睡してるけど。


「ふふ、もうわたくしがここにいる事についてはツッコミなさらないのですね。賢明な判断です♪」

「いや…、あのねぇ…」


 まぁ、アレだよ?別に嫌なわけじゃあないよ?でもさぁ…、ねぇ。朝から色々…って、そっちじゃなくて、穂美は妹なんだ!兄が妹に手を出せるかってんだ!…え?今この時代、お兄様と結ばれたい妹少女は数千人?おい待て穂美、そのデータは正確じゃない。もっとこの世界を広く捉えるんだ。そんな偏った知識の人々とばかり一緒だといけません。お兄ちゃんは心配です。


「ところで…、お兄様、今日から金色週間に入りますよね?」

「金色週間…?」


 はて?

 そんな週間の存在を俺は知らない。だが、穂美にとっては当たり前の様子。俺は数秒間考えを巡らした。

 …が、出て来ない。


「…え、待って。何それ?」

「ふぇっ?…え、えぇ!?お兄様ッ!?」


 ちょ、そんなに驚かなくても…。

 だって知らない事は知らないでしょ!?知ってるって言ったらそりゃあ嘘になっちゃうでしょ!?

 俺はそう心の中で叫んでいた。とてとてと聞こえて来る軽やかな足音を認識しながら。


「おっはよーさまきっ!」


 ここで露葉ちゃんが登場!

 って、おい待てまたこれ誤解されるパターンじゃ…


「さ、参巻!?」


 ほらー!絶対こうなる!!


「…あれ?なんだ、ほのちゃんかぁ」

「おはようございます、露葉先輩」


 ……ほへ?

 ど、どゆことッスかね?


「え、お、お前ら…えっ?」

「露葉先輩、随分とお早いのですね」

「ほのちゃんに負けてられないからねっ!」

「ふふっ、そうですか」


 どうやら二人は共に何かを企んでいるようだ。


「いや、あのさ…」

「サンサロール…?なに、してるの?」


 今度はアリスさんの登場!

 めちゃくちゃ可愛い三毛猫のフード付きパジャマ姿!ご丁寧に尻尾まで!ありがとうございますッ!ヤバいぞ…!これはヤバい!今何かが俺を突き動かしたら間違いなくアリスさんへ猫真っしぐらだ!!何コレ超可愛い!!

 だがしかーし!今はそれどころではなーい!今日は一体朝から何だってんだ!?ってかみんな俺の話を聞いてくれ!何故完全にスルーされてる!?


 …ハッ!まさか前回から薄々勘付いてはいたがマジで俺主人公枠から外されかけてる!?


「あのさ…」

「みんな、なに、してるの?」

「アリスっ!?そんな!まだ寝てるハズじゃ…!?」

「露葉先輩、例のアレ、失敗したんですか!?」

「ッ!!まさか、あの状況を打破して来るなんて!」


 !?

 俺の知らない彼女達の世界で一体何が!?何か恐ろしく殺伐としてるんだけども!?

 もうこの際参巻にとってスルーされる事は仕方のない事として処理されつつあった。

 そうするしかないしね!


「あのていど、よゆー、だったわ」

「五円玉催眠術…もう少し長くするべきだったのね…」

「露葉先輩、ここは次のステップに移行しましょう」

「…そうね」

「みんな、へんよ?ありすのダーリンに、なにを、しよーとしてるの?」


 ……。

 アリスさん、何度も言うけど、俺は君のモノじゃないよ?分かる?分かってる?分からないんだろうね…。


「ねぇ、サンサロール。ありす、まだ、ねむいの」


 …そっかぁ。

 じゃあ寝てて良いんだよ。

 … あれれ?どうして俺の布団を持ってるのかな?それで何をするつもりなのかな?今どうして俺を見て赤くなったのかな?何で徐々に近付いて来てるのかな?

 ……。


「ほいっ!…っと。…サンサロール、ここ、いいよね?」


 ……。


「ほのみはよくて、ありすはだめ、そんなの、ひどい」


 ……えーっと…。


「サンサロール、そんなひとじゃ、ない、よね?…ありす、いい、よね?」


 何故「いい」のだろうか。今はこの部屋に他約2名の人口が在るという事を忘れないで欲しい。参巻はそう思ったが、それがアリスに伝わるなどという事は微塵も考えられない。

 ってかマジお願い密着しないで頼みます俺の理性的ブレーキがかけられなくなrいやその前に残り二名の視線が痛いからやめて下さい俺死んじゃうからやめてー…。

 無論、何度も言うが本気でやめて欲しいわけではない。本当はいくらでもいつまでもどこまでも傍にいたい。抱き締めたい。

 でも出来ない。俺は誠実に生きていたいのだ!

 うーむ…。

 だが今は、瀬栾がいないのが唯一の救い…か。

 本気でそう思う。いなくてよかっ…


「サンサロール様…」


 うわぁぁぁぁああああ!!!

 この後、俺は小一時間ほど瀬栾に説教される事となる。

「何故参巻が…?」って思うだろ?でも仕方ないんだ、他の三人がいくら言い訳したところで埒が明かないからね!


 以前、似たような事で瀬栾が説教を始めた時、その三人は次のように言っていたのだ。


 ある時は俺との添い寝(俺が寝ている間に勝手に布団に潜り込んで来たという状況)の後。「瀬栾ちゃんは参巻の事、どーでもいーんだ!?参巻の事本当に想ってるなら、つゆとのイチャイチャくらい、許したげないと!参巻も、その…お、男の子だし、つゆみたいな女の子と色々…にゃはぁ〜。…はっ!と、とにかく!これくらいいーじゃんっ!」by ペンネーム『朝露で光る葉っぱ』さん

 うん、まぁ言ってる事の50%は合ってるよ。だけどね、つゆちゃん。後半はつゆちゃん自身から、ってかつゆちゃんの欲求だよね?


 またある時は俺と瀬栾、露葉、アリスさんの四人で買い物に出掛けている最中にある少女が突如として現れて色々間違った事(抱き付くとかキス未遂とかキス未遂とかキス未遂とか!)を仕出かした後。「お兄様はわたくしの事を求めていらっしゃいました。ですからこうしてお兄様の後を付け…いえ、お兄様の後を付けて来ただけです!わたくしの心の準備はいつでも完璧ですっ!」by ペンネーム『ほのぼのとした美少女』さん

 待て。まずは落ち着け我が妹よ。一体お前は何を言っている?しかも何故言い直したんだ?結局変わってねーじゃねーか…。あと、最後の一文は文脈おかしいよな?準備って何なんだ…。意味不明すぎるだろ。


 そして極め付けは、俺の入浴中に明らかに意図的に侵入を果たしたとある少女の言い訳。「サンサロールは、さみしがりやさん。つまり、ほっとけない。だから、きただけ。ありす、わるい?…どうして?なにがわるいのか、ぜんぜんわからないわ…」by ペンネーム『隣の国のアリス』さん

 さ☆て☆と。どうしたらいいのだろうか。よし、とりあえず何か着ようか。この際俺のワイシャツでも何でもいいから頼むお願い何か着て下さい…。ほら見て、だんだん瀬栾の表情が怖く…!?やめてー!瀬栾まで脱ぎ始めないでー!!俺別に求めてないからッ!!そういう事は別に望んでないから!!…な、なんでしょうか?え、何でそんなうるうるした目でこちらを見るのでしょうか!?…ぎゃー!!だから脱がないでー!!


 …とまぁ、大変な事になったわけで。瀬栾のお説教が始まったら俺が対処する、なんていうまさに今の状況が出来上がったという訳なのでございます。はい。


「あぁ〜もう!とにかく!まずサンサロール様は布団から出て下さい!全く、アリスったら…」


 俺、まだ寝てたかったのに…。

 そんな俺を他所に、瀬栾含め少女四人はギャーギャー騒ぐ。どうしてだろう、とてもうるさくて普通なら溜息の一つや二つ、簡単に出ている所なのに、今はそんな気分じゃない。

 この生活に馴染み始めているのだろうか、俺はそう思う事で、今をまとめることにしたのだった。


「ハッ!そ、そうでした!忘れていましたわ!お兄様ぁー!」


 穂美に急に呼ばれ、咄嗟に「ほぁっ?」などと言う変な声が出てしまった。しかし穂美は気にせずに言葉を続けた。


「金色週間!思い出されましたか?」


 えー…っと…、ヤバい、思い出せない。いや待て。その前に俺はそんな週間やっぱり知らない。そ、そうだよ!知らないんなら仕方ないよな!?何で俺は知らない事を悪い事みたいに…


「さまき、忘れちゃったの…?つゆと、色んなとこ、行ったよね…?つゆと…二人…で…ぐす、う、うぅぅ…」

「え!?いや、ち、違う!覚えてるさ!行った所全部、そう!全部覚えているとも!!」


 何をだァァァァァァァああああああ!?一体俺は何を覚えてるんだよ!?全部分かんねーって!!何故だァ!?何故泣きそうな露葉を見ると言葉に変化がッ!?


「なな、何ですと!?お兄様!?ま、まさか、そんな場所にまでも!?」


 …穂美、安心しろ。少なくとも今お前が頭に思い描いたような派手な色した建物には入ってもいなければ行こうともしていない。よって安心しろ。


「サンサロール様も一人の男子。穂美ちゃん、妹であれば、兄のそのような場面をも許してあげられる広い心を持っていなければならないのよ?分かる?」


 !!

 め、珍しく瀬栾が俺側に!


「…で、ですが…!」

「大丈夫、サンサロール様はまだあんな事やこんな事の経験は皆無。あたしもいつ襲ってくれるのか待っているのよね…。(チラッ)でも、そこは彼の長所の一つでもあるの」


 !?

 前言撤回!!

 しかも(チラッ)のところでこっち見てたけど俺がそんなに獰猛で良いんですか!?さらに言っておく!確かに俺はまだ経験皆無だがその類の感情や欲望がないわけではないぞ!何か物凄くヘタレな感じの説得だった!一人の男子としてこれは納得行かなさすぎる!


「あ、あのなぁ…」

「…しかしお兄様!思い出されたのなら、早速参りましょう!」

「何処へ?」

「ふぇっ!?」


 穂美の頓狂な声を聞き、俺はクエスチョンマークを浮かべる。

 どうもその『金色週間』なるモノを知らないのは俺だけらしい。

 今までそんな週間、あったっけなぁ…?もしかして、『週間』じゃなくて『習慣』…?いやいや、意味不明だろ。まぁ、『金色週間』もそれはそれで意味不明なんだけどね。


「…ところでサンサロール様…、さっきから何やらあたし以外から一体何を言われているんですか?」


 そう言えば瀬栾はまだ俺に金色週間について聞いて来ていない。ここに来て漸く仲間が増えたのかと参巻は思ったが、瀬栾はセリフの直後に露葉と穂美に連れ去られた。

 連れ去られたって言っても、俺の目の前からドア付近に、だ。そしてそこで瀬栾は二人に小声で何かを囁かれ、「えっ、それは…本当なの?」などと言い始め、連行実行者の二人に同時に勢いよく頷かれていた。


「えぇーっと…」

「サンサロール様、これは事件ですッ!」

「そ、そうよ参巻!これは事件よっ!」

「お兄様…」


 今度は事件と来ましたか。

 もう何が何だか分からなくなって来た…。


「あのさ、悪いんだが…、もう教えてくれないか?」

「サンサロール様…」

「え〜…」

「お兄様…」


 三人が同時にがっかりし始めた。

 何故だ!?

 こんな茶番、いつまで続けるつもりだったってんだ!?もう朝七時過ぎだぞ!今日最初に起きた時はまだ六時になりたてくらいだったのに…。全く、どうして今日から一週間の連休だから楽しい休みにしようって時にこんな…。

 ……。

 …今日から、一週間の、連休…。

 …五月の初めの連休は、確か…。

 …ゴールデン…。


「…分かり辛ッ!!」


 俺は漸く謎を解き明かした。

 解き明かしたのだが…、パッとしない…。朝からこんな状況なんて…、この先一週間が心配だな…。

 そうは言うものの、俺は心の何処かで、こういうくだらない事を出来る環境に少しばかり喜んでもいた。俺のセリフを聞いてホッとしている少女達を見、今日も元気に楽しもうと決めたのだった。

 まぁ、朝早くから少女三人と部屋に集まる、なんて普通の生活してたら100%あり得ない訳だしね。嬉しくないハズがないのです。


 そういう訳で、初日の今日は例の如くひよこさんの用意してくれた朝食を摂った後に出掛けることになった。

 ふと思った…俺達、食費とかやっぱ納めるべきですよね〜…。突然押し掛けて住まわせてもらっているこの居候状態に流石に家計が火の車…などという可能性も無きにしも非ず…。こ、今度ちょっと聞いてみようかな…。いや、どうだろう、逆にひよこさんに色んな意味でショックを与えるかも…。

 俺は心の中でそんな事を考えながら最寄りの駅から電車に乗り、車両に揺らされること約十五分の所にある瀬栾が行きたがっていたアミューズメントパークへとやって来た。


「さーまーきー、早いよー…」


 露葉とアリスはゆっくりと俺の後を追って来ていた。ゆっくり、というより精一杯、の方が正しいのかも知れないが。アミューズメントパークに到着するや否や、瀬栾が急に俺を引っ張りながらきゃあきゃあ言ってはしゃぐせいで残り約二名との実質的な距離の差が生じたのだ。

 瀬栾、走るのは構わないけど…、俺の左手に指絡めてるの忘れないでね…。さっきから何度転びかけたことか…。ってかそのせいで後ろの約二名に睨まれてる事も忘れないでね…。


 俺達が園内でまず最初にやって来たアトラクションは、お決まりというべきか、ジェットコースターだった。

 はしゃぎ過ぎている瀬栾は「こ、これに乗りましょう!乗るしかないよねっ!そうよねッ!」などとおっしゃりながら俺を率いてコースター乗り場へ入場した。してしまった。

 どどどどうしよう、俺ジェットコースターとか乗った事ないんですけど!?これが初めてなんスけど!?

 テレビとかで観てる分には面白いと思ってたけど、自分がその立場となると…、これはまずい!やばいって!あの状況に俺が!?ないわー。うわー。ないわー…。


「参巻、もしかして怖いの〜?」

「サンサロール、かわいい」

「ぐぬぬ…」


 言い返せないのが辛いぜ…。


「ち、違うんだ!俺は怖い訳じゃない!ここ、これは武者震いというやつでな!」

「ダーリン、かわいい」

「だから、これは!」

「かわいい」

「……」


 何故だ…。

 何故俺は今途轍もない敗北感を得ているのだろうか…。そしてアリスさんに可愛いと言われてちょっぴり嬉しいと感じてしまっているこの状況を誰か打破して下さいませんか…。

 俺は思う。 間違いない。俺はこの魔物コースターに乗ってはいけない。そうだよ!これは武者震いなんかじゃねーよ!何か悪ぃのかよ!怖ぇんだよ!!

 …いーやーだー、乗りたくないよー…。

 だが残念な事に瀬栾によりしっかりホールドされた手が解放される事はなく、俺も自らの手を失うわけには行かないため、結局のところ搭乗してしまった。あ〜ぁ…。


「さっ、サンサロール様ッ!ジェットコースターとか好き!?」


 遅ぇーよ!!

 何で乗った後に言うんだよ!?

 もうセーフティーバー降りてきてるよ!?

 身動き取れねーよ!!


「あぁ…、べ、別に…。き、嫌いじゃ…ない、かな…?」


 何を言ってるんだ俺は!?

 いやでもこの状況ならそう言うしかなくね!?

 ここで実は嫌いですなんて普通言えねーよ!?


「えーっと…、あ、あたしも好きなの!一緒ねッ!」


 ちょっ!?

 待って!

 何で好きって事になってんの!?

 嫌いじゃない=好きって理論やめようか!?

 敢えてこの表現にした俺の気持ちが伝わって欲しい!


「ねーねー、参巻ー、確か参巻ってジェットコースター系の乗り物、乗りたがらなかったよねぇ?」

「ダーリン、ふるえないで。こわく、ないよ?」


 ……。

 誰か…、俺の心の中を察してくれ…。

 どうして今俺は過去の出来事を参照されて現在の状況に相反する事実を抉られているのだろうか…。

 どうして今俺は同学年だけど小柄な女の子に「こわくないよ〜?」的な扱いを受けねばならないのだろうか…。

 そんな俺の思いも知らず、ジェットコースターは始動したのだった。


 一番叫んでいたのは意外にもアリスさんでした…。瀬栾は乗り慣れてる感じで、リアクションはそんなに面白くなかった…と思う。俺はとにかく意識が飛ばないように必死になって構えてたのに、予想していた以上に勢いのないジェットコースターに少しばかり「何だ、こんなもんか」と思ったりしてました。後日、瀬栾から「まぁあのジェットコースターはまだまだ序の口の序の口だからね」と言われ恐怖するのはまた別のお話である。


 とりあえずアトラクションを一通り楽しみ終えた俺達は、時刻が既に午後になっていたことに気づかなかった。気付いたのは午後三時を回った時だった。


「サンサロール様、少し、お腹が空きませんか?」

「ん〜、そうだなぁ。よし、何か食べるとしようか」


 瀬栾が恥ずかしそうにお腹を押さえて提案して来たので、そろそろ遅い昼食にすることに。近くにあったホットドッグの屋台的な店に立ち寄り、注文を告げ、俺達はその店の前方周辺に展開されている白塗りの簡易テーブルとイスについた。


「…アーリース、何してるのかなぁ〜?^ - ^」

「うふふ、アリスさんはとってもお茶目ね、全くもう」


「「座る場所が違うわよ?」」

「ありす、ここがいい」


 ここでもいつものように争奪戦が。

 みんな、落ち着くんだ。いいか、俺は別に、誰が良いとは言わない。何故って、そりゃみんなが好きだからさ!…で、今更思うんだけど、俺の隣に座ったところで、何の得もないよ?いやこれマジで。何を期待してるのかは知らないけどさぁ。

 瀬栾、露葉、アリスさん、誰か一人とデートしてるって状況なら、俺も割り込んで来た残り二人にはガツンと言えるんだけどね。残念ながら、今この状況の俺には選べないですぜ…。何なんだこの超ベリーハイリスク…。


「…はぁ。全く、アリスさんは甘えん坊ね」

「サンサロールは、あまえられるの、いや?」


 いや、嫌じゃないけどね。

 寧ろそっちのが嬉しいよ?


「つ、つゆも甘えん坊さんだよっ!?」

「あのなぁ…」


 とりあえずその場は他人の目があったせいか、その後すぐにこの戦は終了を迎え、軽い昼食を摂ることに成功した。


 俺達は昼食の後すぐに、このパーク内最大のお土産店に入った。このアミューズメントパークにはやたらとあちこちにお土産店が存在する。まぁでも、どの店もその近くにあるアトラクションに関連する商品を販売している。今日初めて乗ったジェットコースターの乗り場のすぐ隣にもジェットコースターを象ったキーホルダーなどが売られている店があった。


「こ、こここ…、これは…!」


 声に出して驚いているのはまさかのアリスだった。どうやら彼女はこの手の店に来たのは初めてのようで、目をキラキラ光らせながらショーケースに張り付いている。


「アリスさん、そんなにじーっと見ても買えないものは買えないんだよ?」


 アリスが先程から見つめていたのはショーケースの中にある…


「ダーリン、これ…。この、あみゅみゅが、ほしい…☆」


 アミュミュというのはこのアミューズメントパークのマスコットキャラクターだ。店内に配置されてあるショーケースには、それぞれにアミュミュのフィギュアが置かれている。どれ一つとして同じポーズのアミュミュはない…らしい。


「だからそれ非売品だから。アリスさん、諦めようか」

「アリスってお子様ねぇー。そんなお人形さんが好きなんだぁー」


 つゆちゃん、あのね、そういう事はまずミューくんを手離してから言おうか。

 ミューくんってのもこのアミューズメントパークのマスコットキャラクター。一応、女の子と男の子の両方に好感が持てるようになっているようだ。

 俺は、とりあえず露葉にその旨を促す。


「ふぇっ!?…だ、ダメなの!?」


 えーっと、あのね…。

 お前も同じじゃねぇぇかぁぁぁぁぁああああ!!


「サンサロール、いじわる」

「さまきぃ…」


 本当に子供な二人。それに対して瀬栾はさっきから比較的静かにショーケースやお菓子のブースを見ていた。


「瀬栾、何か良いもの見つかったか?」

「ほぇっ!?あ、うん、これとか…どうかな?」


 瀬栾がそう言って指差すのはよくある感じのデザインのタオルハンカチだった。まぁ、このデザインなら誰に渡しても喜ばれるだろうけど…。一体誰に?


「お母さん、ああ見えて結構子供っぽいからね。お土産無いといじけちゃうの。サンサロール様の事を話した時も最初は寂しそうにあたしの洋服の裾をいじくり回してたし…」

「あー、なるほど」


 どうやら瀬栾は母・ひよこさんにあげるお土産を選んでいたようだ。

 確かにあの人ならそうなりかねないわ。でも、瀬栾が俺の事を…ってのはちょっと嬉しいな。最初のひよこさんは俺に嫉妬とかしてたのだろうか…。

 そう考えた俺は、瀬栾と一緒にひよこさんへのお土産を選ぶ事にした。別に悪い事は何一つしていないけど、何故かそんな気分になったからだ。


「ほら、こんなのはどうだ?」

「わぁ!良いですね!あたしもそういうの欲しいなぁ」

「んー、これ、か…」

「サンサロール様?」

「あ、いやぁ、別に何でも。ほ、ほら、こっちのこれなんてどうだ?」

「そうですねぇ…、でもあたしはこっちの方が良いかと思ったり…」


 俺と瀬栾がそうやって二人で色々物色している時、背後に残された二名はお互いに何かを話し合い始めていた。


「アリス、ここは共闘しない?」

「きょーとー?」

「一緒に瀬栾ちゃんから参巻を救けない?」

「でも、ダーリン、こまってないよ?」

「ち、違うわよ。そういう意味の救けるじゃなくてさ…。じゃ、じゃあアリスは参巻の事瀬栾ちゃんに取られて良いわけ?」

「!」

「そゆこと」

「なるほど…」


 俺は二人がそんな会話をしているとはつゆ知らず、瀬栾との一時を楽しんでいた。

 何か黒くて重い視線がグサグサ背中に刺さってたのは口には出さないでおくことにするけどね!


 買い物を終えた俺達は、この後何するかを話し合った。その結果…


「…ま、こうなるわけだ」

「どうしたの?」

「あ、いやぁ、まぁ…ね」


 俺は言葉を濁した。

 でもさぁ、こんな状況になりゃあこう言いたくもなるわな。アミューズメントパークもとい遊園地から帰ってすぐに自宅…楠町家にてトランプとか…。楽しいのは分かるけどね。おっと、次は俺の番か。


「こういうゲームって、ポーカーフェイスなやつが一番強いんだよなー」

「さまきぃ〜、さまきはつゆの事好きだよね…?」

「はい、こっち」

「チッ」


 おいコラ舌打ちすんな露葉。

 今のは明らかにお前が悪い。大体なぁ、ジョーカーを引かせたいのは分かるんだが、どうしてこうカードそのものが一つだけ別の手に握られてるのか不自然で仕方ないぞ。どう考えたって残りのカードの方が安全性高いだろ。

 俺達が今行っているのは所謂ババ抜きだ。旅の疲れもあってか、これ以上は外で行動したくないと決断した瀬栾が自宅で何かしようと提案し、そういう事なら、とアリスさんが自前のトランプを部屋から持って来、この流れに繋がる。ゴールデンウィークに家でトランプというのは、どうしてだろうか、何だか不思議な気分だ。


「つゆちゃん、つぎは、アリスのばん」

「つ、つゆが引くのよね」

「さぁ、はやく」

「えいっ!」


 つゆちゃん、ジョーカー持ってるのキミなんだから怖がらなくていいんだよ?


「やられたッ!!」

「ふぅ。やっと、ババがいなくなった」


 !?

 ジョーカー!?

 じゃあお前が右手に持ってた一枚は何!?

 しかもあの舌打ちの意味は!?


「ここからが、しんの、たたかい…」

「お茶、持って来ましたよ」

「おぉ、サンキュー」


 瀬栾は相変わらず元気に遊ぶ他二名の少女とは違って落ち着いている。お茶を持って来る動作一つをとってもその事はよく分かる。

 俺が好む理由の一つなんだよなぁ、こう、落ち着いた雰囲気の女の子ってのがさ。最近は、俺の周りにはたくさんの少女が神出鬼没になってるんで、瀬栾と二人きりなんて時間が少しもないんだよね。

 …しっかし、よく見てみればやっぱ瀬栾は可愛い系というよりは美人系なんだなぁ。んでもって、露葉は完全に可愛い系。…アリスさんも可愛い系なのかなぁ…?まぁでも、「〜系」ってよく言うけど、実際はそうやって完全に割り切れる女の子なんて、なかなかいないんだよな。俺から見た瀬栾の印象だって美人系→可愛い系→美人系ってな感じで堂々巡りな訳だし。


「ほら、次、サンサロール様の番」

「ん?あぁ、ごめんごめん。よし…じゃあ、コレに決めたッ」

「引っかかりましたね〜」

「マジか!?回って来んの早ッ!」

「うわぁ〜、『参巻、初のババを引く!』だねー」

「変なタイトル付けられたッ!?」

「ダーリン、どんまい」

「くっそー…。ま、まぁ別に良いしー。次にこのカード引くのは露葉だしー」

「つゆは賢い子だもんね〜」

「ほほぅ、賢いとか言いつつ見事に引き当てましたねぇ〜」

「さまきっ!?」


 こうして、俺達の楠町家集合生活初の長期休暇の幕が開かれたのだった。

 確かこの後、俺達は大富豪(大貧民とも言うらしいが)とポーカーをやって、その後は学校があるウィークデーとほぼ同じように過ごした。

 少しいつもと違うところを挙げるのなら、ひよこさんの料理が休日メニュー、つまりはちょっとばかり豪華になってるところかな?

 …はっ!やっぱり俺、ひよこさんに何かお礼しないとまずいよな!?この際露葉とアリスさんも同じ境遇な訳だし、三人で何か考えておかなくちゃな。

 ふとそんな事を考えながら、時間を経過させていたのだった。


 そして俺はこの日の夜、また再び例の夢を見た。


 …その白いワンピースの少女は、大きな帽子を脱いだ。


「あれ…?キミは…」


 少女はふわりと笑って言った。


「さまくん…、大好き」


 …俺は何故か、とても暖かくて懐かしい何かを、その瞬間に感じた。


「さま、くん…?」


 俺はその名詞を自分で発音してみた。

 はて?今まで出会って来た娘の中で、俺の事をそう呼ぶ少女は、一体…?

 結局、何一つ謎は解決しないまま、次の日の朝を迎えたのだった。

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