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第04話:編入して来た金髪碧眼留学生と中学時代から縁のある銀髪黒眼っ娘と学園一の美貌と可愛らしさを誇る黒髪蒼眼の超絶美少女が修羅場すg…いえ!何でもありません!!

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」


 俺は教室にて、生まれてからの俺史上で最大の声量をフル活用して叫んだ。

 …ど、どうしてここに、あの少女が…!?そもそもあの娘は一体誰なんだ…!?

 …えっ、ちょっ、えぇっ!?

 な、何か近付いて来てるんですけど!?

 アリスは教壇から俺の方へと歩みを進め始めた。


「え…と、あの…」


 俺は超テンパってしまい、口から出る声は言葉になっていなかった。

 しかしそんな俺の目の前で足を止めたアリスは、何の恥じらいもなく、唯々、こう宣った。


「あ、あの!わたし、ありす!ありす・あるばぁと、です!よろしく、おねがいします!マイ・ダーリン♪」


 刹那、教室内に稲妻が走ったのは言うまでもない。正直俺にも、何が起きたのかさっぱり理解出来ていなかった。


「……はぁ…やっぱり、こうなっちゃいますか…」


 隣からそんな言葉が聞こえて来た。瀬栾はある程度予想をしていたようだ。

 俺の周りの男子生徒諸君は、俺が瀬栾と露葉の事を呼び捨てで呼んだことについて何か言いたげだったようだが、このダーリン発言の後となっては、そんな事はどうでもいいようだった。


「…参巻、一つ、聞かせてくれ」


 瀬栾とは逆方向の俺の隣に席を持つ流市が話し掛けてきた。


「お、おう」

「お前、何をしたんだ?」

「ごめん、俺にもよく分からん」


 実際そうなのだ。仕方がない。


「…頼むよ!俺にも教えてくれよ!!」


 何をだ!?


「俺も、モテたいんだよ!」


 えー…。

 んな事言われても…。


「ごめん、マジで俺にも理解出来ない状態だから最近」


 マジのマジ。超 本気マジだ。

 だが流市はこんな返答で納得してくれるような簡単な人間ではない。


「それなら、今までお前が彼女達にした事を、とりあえず何でもいいからさ!」


 …はぁ。

 そんな風に責められ、俺はどうしようもなく溜め息を吐くのだった。


 昼休みになった。


「サンサロール様、お昼、一緒に良いですか?」


 先週までならこの瀬栾のセリフは普通だった。だが、今はそうではない。


「あぁ、全然構わ」

「き、ききき奇遇ねさまき!つゆが一緒にお昼ごはん食べたげるわ!」

「なんだ、露葉も一緒か。なぁ瀬栾、こいつなら別に良いだろ?」

「ええ。露葉さんは消そうと思えば即消せるキャラ、という設定になっているハズなので別にサンサロール様の傍にいても何ら問題はありません」


 …怖ぇなぁ、やっぱり。

 つーか露葉、お前、そんな簡単に消える設定だったのか?

 もちろんそれは瀬栾の吐いた真っ赤な嘘である。が…、


「ッ!?こ、怖いよさまきぃ…」


 露葉はぶるぶると小刻みに震えながら俺のワイシャツを引っ張ってくる。

 …そういう事されるとワイシャツ伸びるんだよなぁー…。

 あと瀬栾、本当に怖いぞ。とりあえず何事も話し合いで決めよう。だから勢いをつけて箸で何の罪もない白いご飯を攻撃しないであげてくれ。そろそろご飯が可哀想だ。


「大丈夫ですよ露葉さん?サンサロール様に変な求愛をしない限りは…ですけど」

「へ、変じゃなかったら…良いの?」

「うふふ、やっぱり今すぐ消してあげましょうか?」

「ひうっ!?」

「冗談ですよ」


 …うぉぉ…、怖ぇ…。

 露葉、健闘を祈るぞ…!


「ところで、何で今日は二人共朝早く出て行ったんだ?」


 ここでふと思い出された『そういえば何故露葉まで楠町家に…?』という疑問は今はとりあえず伏せておく。


「今日…?あっ、あぁ!いえ、別に、何でもないですよ〜!」

「……」

「そ、そうだよさまき!何も無かったよ〜?」

「……」

「何も…、本当に何も…」

「……」

「ち、違うの…何も無かったよ?…あの、本当に…」

「……」

「「…ごめんなさい」」


 よっしゃァァァァ!勝ったァ!

 俺は究極奥義、『無言責め』によって勝利を収めた。

 さて、聞こうじゃないか。


「何があったんだ?」


 答えたのは瀬栾だった。


「私達の事…実は生徒会長さんが知ってたんです」


 ほぅ、そうか。で?

 ……って…え!?


「マジでか!?」

「はい…」


 どういう事なのか、今から説明しよう。

 この朝都学園にも、他の学校と同様に校則が存在する。そこでは事細かに生徒の風紀に関係する事や学園行事の予定・規定、また校外活動での注意点など、様々な事柄が決定されている。

 もちろん、恋愛もその規制対象だ。この歳頃である故に、不純異性交遊等を規制しない訳にはいかないのは分かるけどね。

 だが…今の俺達にとっての問題はこの恋愛について定められた校則の中身にある。まぁ、当たり前に存在する規定っちゃあそうなんだけどさぁ。


「どうするんだよ、瀬栾…?」


 『第三条:外泊の禁止』←問題なのはこいつだ。やむを得ない…状況…なのだろうか、今は…?やむを得ない理由があれば、もしかすると特例が下るかもしれないんだがな…。

 つまり、だ。

 簡単に言うと、


「俺達、何らかの処分になるって事か…」


 校則違反なのだから、停学とかそのあたりだろう。

 …と、ここで露葉が口を開いた。


「えと、そのね、それで…、つゆ、頑張って抗議してみたの」


 そうか。校則破っといて抗議して来たのか。凄いな露葉。

 …でもまぁ、したくもなるか。


「そしたら、編入生のお友達と一緒に暮らすなら三人の処分については目を瞑ってやるって…」


 ……ほぅ。

 ほぅっ!?

 えっ!?

 アリスとかいうあの娘と!?

 いや待て嬉しいけど待て。

 突然の策だな!!

 それってつまりアリスさんと…えぇ!?

 いや、それはちょっと今の俺の恋事情からするとマズいって!いや別に全然構わないんだよ!?アリスさん可愛いから好きだよ!?でもな!俺は瀬栾の事が気になって仕方ないし、露葉だって可愛くて抱き締めたいと思ってるけどギリギリのところで理性をフル活用してとどまっている超健全な男子高校生(少なくとも俺はそう思ってる)だぞ!?そんなところにアリスさんまで!?


「……あ、頭痛くなって来た…」


 結局、俺は考え事で頭がいっぱいになり、昼休みをそのまま何も食べずに終了させてしまった。

 因みにアリスはクラスメートの女子達から質問攻めされていて、参巻の所へくる余裕がなかったようだった。

 …ちょくちょく飛んで来るアリスさんの視線が「へるぷみ〜」って言ってたけどごめんなさい俺には無理でした…。自分から修羅修羅させるのが好きな人間なんていないだろう?…多分。


 放課後。

 これからどーすりゃいーのよ俺は。

 瀬栾、露葉を呼び、少し話し合う事にした。


「なぁ、どうするんだ?本気で一緒に…?」

「し、仕方ないじゃないですかぁ…。そうしないと、あたし達の高校生活に支障が出ますし…」


 いや、校則破ったのは事実なんだから支障は出て当然なんだよ?分かってる?


「そうよね〜、難しい事になっちゃったね…。つゆはともかく、ありすがどうしたいのか、まだ分からないし…」


 うん?『つゆはともかく』じゃないでしょ〜?そもそも何で露葉まで一緒に住んでるのかな〜?

 …住まわせてもらってる身なので口出し出来ないけどね!


「困ったなぁ…」

「こ、こまり、ましたね…」

「えぇ、どうしましょうか…」

「うぅー、色々大変な事になりそーだよー…」


 本当に、どうしたものか…。


「まぁでも、ここでグダグダ言ってても話は終わらな…」


 …はて?

 俺はここで気付いた。何かさっきの会話に違和感を感じたのだ。

 何故だ!?

 俺の発言に三種の回答が返って来たぞ!?

 答えは簡単だ!!


「うぇぁ!?いつの間に!?」

「な、なんのこと、ですか?」

「君の事だよ!!アリスさん!!」

「…ありす、なにか…、しました?」


 べ、別に何もしてないんだよ!?

 ただビックリしただけだよ!?

 えぇッ、ちょっ、泣かないで!?

 悪かった!

 俺が悪かったよ!


「急に会話に参加して来たから驚いたんだよ。…それも、超ナチュラルに入って来てたからさ」


 本当に入って来たのには気付きませんでした。


「ありす、ダーリンと、いっしょに、すみたい!」


 !?

 突然そんな事を仰る金髪碧眼のお姫様に、俺は硬直してしまった。


「…あ、あの、アリスさん?それがどういう意味か、分かって言ってるのですか…?」


 瀬栾はいつにも増して怖い声を発し始めた。その証拠に、俺の背後には怯え始めたつゆちゃんがいる。

 …「い、今ならさまきの背中、つゆのもの…♪」みたいな事が聞こえた気がしたがきっとそれは幻聴だ。そうだそうに違いない。露葉は純粋に怖がっているんだ。そうだそういう事だ。

 アリスはアリスで、瀬栾の問いに答えた。


「いみ…?えっと、ダーリンと、いっしょに、ねる…、そゆことです?」


 ちょっ!?


「な、なな…!?」


 せ、瀬栾!落ち着け!大丈夫だ、例え共に住むことになってしまったとしても、俺はそんな不純な事は…


「そそ、それは、あた、あたしが!あたしだけが!あたし一人だけが!唯一許される事なの!!」


 はい!?!?

 今、何と!?


「……?」


 ほら!

 アリスさん困ってる!

 何て返せば良いのか分かんないんだよきっと!

 参巻はそう思ってアリスに話し掛けた。


「え…っと、その、なんだ。あんまり、気にしない方が…」


「いいよ」と続けようとしたその時、思い掛けない事にアリスは口を開いた。


「せら、ありすの、てき?」


 えっ!?


「い、いや、あのー、ほら!瀬栾はさ、元々ちょっとこうー…ま、負けず嫌い!そう!負けず嫌いなんだよ!だから、突然何かを突き付けられると思わず言葉が出ちゃうんだよ!な?そうだよな!?」


 俺は瀬栾の方を向いた。

 あれれー…。

 瀬栾ちゃん〜?ど、どうして不貞腐れた顔してるの…?


「…サンサロール様は、いつもそうです…」


 しゅんとした顔の瀬栾が発したのはそんな言葉だった。いつもポジティブでちょっとばかり怖いセリフを言う彼女の言葉が。


「…ご、ごめん。何か、言い過ぎたかも…。瀬栾、俺がお前の事を好きなのは知ってるだろう?だからさ、これは…アレなんだよ。…せ、瀬栾が俺のせいで俺以外の人から嫌われて欲しくないから…。つまりは、俺の単なるエゴ、なのかもしれない。…けど、そういう事なんだよ。だから、な?そんな暗い顔、すんなよ」


 んん〜。

 我ながらにして良い言葉だった…。

 まさかラブコメディとはいえコメディ率が96%を裕に上回るこの物語でこんなセリフを使う事があろうとは…。世の中、どうなるものか分かったもんじゃありませんな。

 …しかし、悲劇は訪れる。


「…じ、じゃあ、サンサロール様、あたしの事、愛してる…?」


 …何か凄い事聞いて来たよこの娘。これはアレですよね?言ってしまえばそれで瀬栾は回復、通常モードに…、しかしその代わりに露葉・アリスの好感度が激減、バッドエンドへ…。また何も言わなければ言わないで瀬栾ストーリーは終了、また露葉・アリスの二人による「女の子を泣かせるなんて!?」という世にも恐ろしい視線と態度による攻撃が開始され、結局はバッドエンドへ…。

 うわぁ…マジでどうしよう…。

 俺は天井を仰ぐ。そして、少し考える。


「…あ、愛…してるかって…?」


 ヤバいぞ…、この状況は…。

 どうにかして、どうにかしないと、三人とも傷付けてしま…。

 ん?

 …そうか!

 そういう手も有りか!有りだよな!

 俺は思い付いて、言った。


「そ、そうだな、愛しているとも!瀬栾!」


 この瞬間、瀬栾は満面の笑みを浮かべ…

 露葉は絶望感を表情に浮かべ…

 アリスは何かの間違いだと言わんばかりに耳を塞ぎながら頭を振り始め…


「露葉!アリスさんも!」


 続けて俺は言ってのけた。

 すると、瀬栾は満面の笑みから神妙な面持ちになり…

 露葉は絶望の表情からパァッと花開くかの如く得意気な表情になり…

 アリスは耳を塞いでいたのにも関わらず瞬間的に現実逃避行動を終了し、「ですよね、ダーリン♪」とでも言うかのように笑顔になり…


「「「やっぱり!」」」


 と、三者二様(瀬栾のみが若干残念そう)の反応を示したのだった。


 結局、本日は四名で徒歩により下校する事になった。

 そして楠町家に到着した。

 まぁ、帰宅したってだけな訳だが。

 …俺は早速、修羅場を迎えていた。


「で…、どうすんだよこれから本当に…」


 俺の問いに答える者は誰一人としていなかった。


「いいですかアリスさん?サンサロール様はあたしの彼氏!夫!亭主なの!この意味が分かりますか?」

「瀬栾ちゃん、それは間違ってる。さまきはつゆの恋人、婚約者」

「…しんじつは、いつも、ざんこく、なのね…」


 いつもの少女三人は俺の事をとやかく言っているようだ。

 …俺について話してくれるのは物凄く嬉しいんだけど、それならまずこの俺の問いに答えてくれよ…。

 しかもアリスさん、あなたいつの間にそんな日本語覚えたんすか。間接的に二人を虐めないであげて。

 …ってかあなたどんだけ言語能力高いんすか。最初に英語で色々言われたあの日からまだ二日…三日かな、でもその程度しか経ってねーよ?

 などと考えていたからなのか、瀬栾がこちらを見ている事に気が付かなかった。


「サンサロール様?サンサロール様っ?」

「へ?あ、あぁ、悪ぃ。どした?」

「どうしたもこうしたもないじゃないですか!これからどうするんですか?このままだとまた色々なトラブルに…」


 瀬栾はあからさまに嫌な顔をしてアリスの方を見た。


「そうだよなぁ…」


 俺もそこについてどうしたものかと思っていた。


「瀬栾は、その、やっぱり俺と二人の方が…良かったのか?」


 直後、このセリフは馬鹿げていたと感じる事となる。


「そんなの、当然じゃないですか!当たり前ですよ!全く、露葉さんが来てからというもの、トラブル続きで…。…あたしは、サンサロール様となら…、と思っています…。い、今も…」


 後半になるにつれてディミヌエンドしていくその言葉は聞き取り辛かったが、それとなく意味は伝わったので何も言わないでおくことにした。

 この手の会話を続けると露葉がうるさくなるしなぁ…。しかもこれからはアリスさんにも気を配らないと…ね?


「瀬栾…。まぁ、分かってるとは思うんだけどさ…」


 俺は露葉とアリスが会話しているのを見ながら言った。二人はさっきから謎の会話を繰り広げていた。


「さまきはね、つゆの恋人なのよ。分かる?」

「サンサロールが…?…ちよっと、まって。つゆちゃんは、なにか、まちがってる。うん。そう、おもうわ」

「何でつゆが間違ってる事になるのよ!?アリスさっき『真実はいつも残酷』って言ってたじゃん!」

「…うん。それは…、せらちゃんと、つゆちゃんにとっては、ってこと」

「な、何をッ!?」

「ありす、おかしい?」


 …露葉、突然編入して来た英国娘に日本語で論破されるとか、お前ってどんだけ可哀想なんだよ。

 とまぁ、二人はこんなんで、こちらはこちらで。


「…分かってますよ?分かってますけど…」


 瀬栾はそこで口ごもる。

 俺が言いたい事は伝わっているようだ。

 まぁ、一緒に暮らすならって条件が出された時から、既にそういう事になるのは了承済みだったんだろう。

 …了承せざるを得なかった、という方が正しいのかもしれないが。


「そうだな…。正直俺も、仕方がないと思ってる一方で、何か変だとも思うんだよなぁ」


 …生徒会とアリスさんとの間に、何か深い関係があるのでは、とかね。

 瀬栾もどうやらそこが引っかかる要因であったようで、困った顔のまま言う。


「やっぱり、変ですよね…?…えと、確かにあたしは、サンサロール様と二人きりの生活が、さ、最高、ですけど…、現実はそう簡単にはいきませんから、仕方がないということは事は理解出来ます。それに、日本にやって来て間も無いアリスさんと交友関係を築いて貰いたいという生徒会の要求も、まぁとりあえず理解出来ます。…でも…」


 その後のセリフは容易に想像がついた。


「俺達の校則違反を見逃す代わりに、まるで校則違反を助長するかのような条件を出して来たから、変だと思う、そういう事だろ?」


 俺が瀬栾の言葉の続きを察してそう言うと、瀬栾は頷いた。


「はい…。どうも普通の状況じゃあないんじゃないかな、って思っちゃいます」


 しかし、今、その事をどうこう話したところで時間は待ってくれない。あっという間にすっかり夕方を迎えてしまっていた。この家に到着した時からもう若干夕方に近い昼下がりだったわけだが。


「とりあえず…、一日様子を見ましょうか。こうなってしまった以上、もうどうしようもないですよね…」


 瀬栾は半ば諦めを表して言った。


「そうするしか、ないよな…」


 俺は露葉とアリスさんの二人を呼び、瀬栾の後に続いて楠町家へ帰宅し…、二人も俺に続いて帰宅(?)した。


 夕食。

 それは、一日の中で最もゆっくり食事をする事が出来、また比較的質の良い料理を複数人で囲み楽しく過ごせるひと時…。

 …そのハズなのだが。


「アーリースーさん?何をしていらっしゃるのかしら〜?」

「ねね、アリス、ケンカ売ってんの?ねぇ?ケンカ好きなの?好きなんだよね、えへへ〜…」


 何故だろうか。

 非常に殺伐としている気がする。

 それも、原因は俺…の隣にさり気なく座っている金髪碧眼少女であるような気がする…。


「…?」


 !?

 アリスさんッ!?

 ヤバい何コレ超可愛い!!

 瀬栾と露葉にはなかった雰囲気を醸し出している!

 これは俺のストライクゾーンをがっしり掴んでいる!!

 えっ?

 何をしたのかって?

 よし、簡単に説明しよう!!

 アリスさんは、若干困ったような表情で俺の方を見、まるで「やっぱりこうなっちゃったね」と今にも言い出しそうな雰囲気を纏いながら微笑み、首を傾げたのだ!!

 いやー、こんなテクニック初めて知りましたよ。はい。

 これがモテ技というやつなのかねぇ…。

 確かにこの仕草はぐっと来ますわー。


「く、首を傾げてサンサロール様にアピール…!?な、なんてこと!?このあたしを差し置いてサンサロール様とそういう関係を築くための土台作りを!?」


 瀬栾、落ち着け。


「待ってさまき!つゆをおいて行かないでぇっ…ぐすっ、うっ、ま、待って…」


 露葉、落ち着け。


「はぁ。まだ生きてたんですね、デス○ートに名前書かれて生きていられるなんて、どれだけこの世界に逆らえば気が済むんです?早く倒れて病院へ連行される前にこの世をお暇してくれませんか?あ、それと、あの、き、綺麗なお姉さん、あなたのお名前は…?」


 鶸ちゃん、俺の事嫌いなのは分かったからディスらないで…。心に刺さるよ…。それとアリスさんに緊張してるの?可愛いところもあるんだね。うん、あと一つ言わせてもらうけど帰って来たならまずは挨拶しようね。

 …と、三人は三者三様の行動と台詞を発信していた。


「まぁまぁ落ち着け、落ち着くんだみんな。折角の夕食が台無しになっちゃうだろ?」


 だが俺はこのセリフの直後、気付いた。


「さ、サンサロール様ッ!?ま、まさか、その、アリスさんがそうしていることについては、も、問題だと思ってないのですか!?」

「そうよ参巻!どーゆー事!?そ、そんな、アリスの、そんな事してるのを許すなんて!」


 俺は、先程から左腕に伝わって来ている温もりの熱源を確認。

 そこには、アリスがいた。

 いや、正確に言えば、いるのは分かっていた、それだけだった。


「ちょっ!?えっ!?アリスさん!?」


 刹那、俺を貫く二つの視線が高エネルギー凝縮光線となったのを、俺は感じた。

 理由は簡単だ。


「サンサロール、えっち…。でも、ありす、いいよ?」


 見るからにふわふわしてそうな女の子のものが左腕を挟んでいた。


「ま、まま、ままま待て!待つんだ!!あのな、分かるよな!?俺は、いや、嫌なわけじゃ…って違う!違うんだ!違うんだよ!!」


 我ながら毎回思うけど…、言ってる事メチャクチャだよなぁ…。

 『違う』って、何が違うんだよ…。

 って、そんな事考えてる場合じゃねぇ!!今はこの状況を何とかしないと…!


「アリスさん!ちょっと、その…。あ、後でね…」


 うわぁぁぁぁああああああああ!!何を言っているんだ俺はぁぁぁあああ!?ヤバいってコレはぁぁぁあああ!!何で俺はいつもいつも誤解を招くような事ばかり…!!

 ほら見ろ!アリスさん顔真っ赤にしてる!!


「さ、サンサロール…!?…あ、あり、がと。うん…。ありがと!あとで!あとでね!」


 そんなに喜ばないでぇぇぇぇええええ!!

 期待に応えられないよ俺!!

 どうしよ!?


「ふ、ふふふ、ふふふふ…。サンサロール様、少しお話があります。うふ、その…、『後で』、あたしの部屋に来て下さいね。ふふふ…」


 瀬栾!?


「参巻は、つゆとアリス、どっちをとるの!?」


 露葉まで!?

 ってか瀬栾については認識すらしてあげてないのね!?


「うえぇぇ。気持ち悪ッ…。早くさよならすれば良いのです…」


 鶸ちゃん、露骨に嫌な顔しないで…。

 この後、誤解を解くために数十分を要したのは言うまでもない。


 コンコン


「はーい」


 キィィ…


「い、今、大丈夫?」


 あの例の『THE☆古部屋!』を改装(掃除)して設けられた俺の部屋にやって来たのは瀬栾だった。

 俺はスマホをいじる指を止め、彼女と向き合って座布団に座った。瀬栾は、お気に入りなのだろうか、座布団を一枚持参して来ていて、それに座った。


「なんか、今日は…、色々ごめん。あたしもちょっと、おかしかった。野良猫にも、ちょっとだけ、本当にちょっとだけだけど、迷惑かけた…かもと思って」


 ツンデレ瀬栾ちゃんにも、良心というものは存在しているようです。


「そんな事ないさ。俺なんか、こうして住まわせて貰ってるわけだし、例えそんな事で色々あっても、迷惑だとは感じないよ」

「…そ、そうよね!そうよ!あんたがここにいられるのは、あたしのおかげなんだし!そうよ、寧ろ感謝しなさいよね、野良猫!」


 相変わらずのツンデレ。ここにデレがあったかどうかは不明だが。

 あ、そうだ。

 もうこの際読者の皆さんに正式に発表しますが、瀬栾のツンデレがある条件下においてのみ現れる、という事はご存知の事かと…。そして、その条件ですが、それは…。


「ありがとな瀬栾、いつもいつも。…って、そうだ。そういえば気になってたんだけど、瀬栾はアリスさんの事、どう思う?」

「ふぇっ!?あ、アリスさん?ま、まぁ、可愛いんじゃない?」

「やっぱり女の子から見ても可愛いと思うよね、あの娘は…」


 実は、俺はアリスさんを、今夜この部屋に来るように呼んでいた。今後の生活の事とか、生徒会との関係とかについてをみんなで話し合おうと思っていたのだ。だからもちろん、瀬栾と露葉も呼ぶつもりでいたが、彼女達は先程の俺の誤解を解くための必死の弁解後、お風呂や自室へすぐに移動してしまい、約束を取り合えなかったのだった。一応、メールはしておこうと思ってたんだけど、送信しようとした時に瀬栾が入って来た、そういう事だ。

 つまり、そろそろこの部屋には、アリスさんが入って来る予定なのでございます。


「で?それで?それがどうかし…」


 瀬栾が言葉を詰まらせ、表情を変えた。困ったような、青ざめたようなまさしく顔面蒼白になってこちらを見る。


「あ、あたし、一体何を!?サンサロール様ッ!忘れて下さい!あたしは、あたしはそんな、さっきまでのは、その…、あれなんです!そんな、つもりじゃ…。あたしは、サンサロール様を野良猫だなんて、ほ、本当は呼びたくないんです!本当です!本当に!」


 …こんな言葉が、瀬栾の口から紡ぎ出された。

 そして、この口調に変化した事から、俺は理解した。

 どうやら、アリスさんがやって来たようだ。

 これでもうお分かり頂けましたでしょうか。

 瀬栾のデレは、一般に『ツンデレ』と称されている属性とは若干異なるものであるという事と、その条件が、『見知った人物がいない時』にツンデレになる、という事を…。

 これはあくまで俺の推測なんですけど、恐らく、元々の瀬栾は重度のツンデレであったハズ…。そして、何かが瀬栾のツンデレを抑制せざるを得ない状況へと追い込んだ…。そんな事なのではないのだろうかと思うんですよね。


「サンサロール、おはなし、なに?」


 ここでアリスさんが話しかけて来たので、俺は彼女に向き合った。


「あぁ、うん。えっと、これから、どうする予定なのかなーって思ってさ」


 するとアリスは首を傾げて、クエスチョンマークをふよふよその周囲に浮かべながら答えた。


「これから…?これからも、ありす、サンサロールのとなり、いたい」


 !?


「え…あ、あぁ、そ、そうだね。俺も、一緒に…」


 俺はこの次のセリフを口に出来なかった。


「…いや…、アリスさん、そうじゃなくって、あのー、何処に泊まるのか、もしくは住むのか、という事を決めてもらいたいんだけど…」


 あ、危なかった!!

 あのままアリスさんとの二人の世界に入界していたら今頃俺の命はなかった…!!

 忘れるなよ俺、今ここにはアリスだけじゃない、瀬栾もいるんだ!!

 俺はアリスさんがこの部屋に入って来てから背後より強い殺気を感じ取っていた。


「ん…、まだ、よく、わからない、けど…」


 アリスはアリスでまだ日本に来て間もない様子。両親は一体何をしているのやら。彼女一人を日本に送り出したのだろうか?でもそれなら何故?

 何にせよ、俺に決められる事など有りはしない。

 全てはアリスさんが自分で決める事だと、俺はそう思ってアリスさんの決定を待った。


「…すむ、いえは…、ここじゃ、だめ?」


 いやそれは俺に聞くな。

 その問題に関して聞くならもっと適任者がいるじゃねぇかこの部屋に。


「アリスさん」


 と、意外にもここで声を上げたのは瀬栾だった。


「あなた…、もしかしてサンサロール様のためにここまで…?」


 どういう事だろうか。俺にはさっぱり分からない。だが、アリスさんには今の言葉の意味が分かるらしい。


「そう…。にほんごも、まだ、なれてないけど、サンサロールと、むすばれるいじょうは、このくらい、へーき」


 !?

 アリスさん!?

 何を突然!?

 恥ずかしいよ!まぁ嬉しいけど!!嬉しいから良いんだけど!!そ、それは不意打ちにも程がありすぎるよ!嬉しいけどね!?


「…はぁ。やっぱりですか。どうもおかしいと思っていたんですよ」


 瀬栾!?

 お前何を知ってるんだ!?

 え、待って!

 主人公って多分俺!俺のハズ!

 何で主人公の俺が謎を抱いたままなのに瀬栾は謎が解けたみたいな状況になってんの!?

 俺だって真実を知りたいよ!?


「な、なぁ、つまり、それってどういうー…」

「アリスさん。あなたはうちに住んでもらいます!」


 あれ?

 再確認してもよろしでしょうか。

 俺、主人公、だよね?

 何故に今超自然的なスルーを喰らったの…?

 しかも瀬栾、お前一体どうした。出来る限り俺と二人きりの方が良いって言ったのは確か瀬栾だったような気がしているんだが…、わざわざ自分から進んでこの家の人口密度を上昇させるなんて…ねぇ。色々とそれは矛盾してないですかね?


「せら…!い、いいの…?」

「えぇ。構いません」

「やったぁ…」

「但し、サンサロール様の部屋に入る時は、あたしに一言断ることが条件よ」


 瀬栾さんマジ怖ぇー。マジ強ぇー。住まわせて貰ってるので何も言いませんが。言いませんよ?口に出しては流石に。

 そして、対するアリスはというと。


「そ、それは…、せら、どうして?」

「あ、の、で、す、ね!アリスさん!?あなたは大胆過ぎるからです!行動も!言葉も!容姿も!」


 あ、容姿の事は可愛いだけじゃないってちゃんと認めてあげてたんだね。


「だから、だめなの?」

「そうです!いつあなたがサンサロール様と…はぁぁ!なんて事!?ハレンチな!と、とにかくあなたがサンサロール様のそばに近付くと、だ、だだだダメなんです!分かりましたか!?」


 瀬栾はそれはもう凄い勢いだった。どんな想像したんスか。

 っていうかさぁ、今更思ったんだけど、瀬栾ってやっぱり鶸ちゃんと姉妹だよねぇ。今のセリフ、聞いてて鶸ちゃんのそれに言い方とかがそっくりだったぞ。

 俺はそんな事を思いながらアリス vs. 瀬栾の口論を見守っていた。


「…そう。…わかった。ありす、ここに、すむ。せらの、いうことも、きく」

「全く、本当は今までの事も色々と責めたい所ですが…」

「だから、せら、ぬけがけは、だめ」


 アリスはその口調には似合わぬ動きで人差し指をビシィッと俺の隣へと向けた。


「…あのー、瀬栾さん?」


 俺は、隣にいながら俺の右腕をしっかりホールドしている少女に視線を向けた。


「な、ななな、なな、何よ!?こ、これは、ほら、あれよ!ね、ねぇサンサロール様、あたし、サンサロール様となら、いいよ?…だ、だからね、これくらい、いいでしょ?」


 何がいいのだろうか。

 敢えて聞かないでおくけれども、とても色々凄い事になってしまっている気がする。ここで応答の仕方を間違えると、分岐後のこれから先のストーリーが心配になってくる。

 うぉ…。

 どうしたらいいんだ…。


「ほら、サンサロールが、こまってる。せら、そういうのは、だめ」


 何故だろう、アリスさんが天使に見える…。


「アリスさんには言われたくないですね」

「サンサロールは、ありすのもの」


 ……。

 …ん?

 今、何と?

 アリスさん、アイベグユアパードゥン?


「せら、まだわからないの?サンサロールは、ありすの」


 ちょぉぉぉっと待ったぁぁァァアアアア!!

 俺は!?

 俺の意思は!?

 え、何!?

 これ、俺の意思は汲んでくれなかったりするの!?

 しかもアリスさん、あなたこの状況でその言葉って、狙ってるんですか!?修羅修羅するのがお望みですか!?


「お、落ち着くんだアリスさん。いいか、俺は、俺だ。俺のものだ。分かるな?」

「わからない」

「そうか」


 そうか…。

 分からない、即答か…。

 どうすればいいんだ…。


「アリスさん、それなら、これはどうでしょう?サンサロール様は、サンサロール様。でも、あたしのサンサロール様。もちろん分かりますよね?」

「わからないわ」

「そうですか」


 うわぁ…。

 瀬栾もか…。

 まぁ、今何か確かに俺にも分からない謎の文章が混ざってた気はするが…。

 結局、この後小一時間程度この面子で話し合い、最終的に決まったのは、アリスが暫くこの楠町家の住人となる事だけであった。


 深夜。

 みんなが寝静まったと錯覚し始めた頃、俺は部屋をこっそりと出ていた。何も変な事をしに行くのではない。

 ただのお手洗いだ。

 それなのに。

 それだけのハズだったのに。


「あっ」

「あっ」


 廊下で露葉とばったり遭遇してしまったのだった。

 いやそれだけなら全然構わないんだけどさ。問題はその後だよね、予想はある程度出来ると思うけど。


「参巻、ちょっと」


 小さな手でこっち来てと言わんばかりの行動を取る露葉。

 仕方なく俺はその指示に従う。


「どした?眠れないのか?」


 一応、というよりも、何故か露葉まで楠町家にお世話になっている。今やこの家はシェアハウスのような状態だ。実際のそれとの違いと言ったら、その家そのものがシェアしてる(?)うち一人の住人の実家、というところくらいだろうか。

 そんな事で、夜にクラスメートとこうして会う事も今の俺にとっちゃあ日常化しつつある訳だが。


「ううん。つゆはいつでもぐっすり寝れるよ?」

「じゃあ、どした?」


 こんな他愛もない会話をしている間も、露葉は一歩一歩、まるで俺を何処かへ誘導するかの如く後退りしながら手招きをている。


「一緒に………観たいなぁ、って………思って……」


 そして露葉は立ち止まり、ちょっとしたバルコニーのような場所へ出て行った。俺も露葉に遅れてそこへ出た。

 そして…


「ね?どう?綺麗だよねぇ、やっぱり」


 俺は露葉が一緒に観たかったもの、すなわち満天の星空を目の当たりにした。


「…あぁ。今まで見て来たどんな星空よりも、綺麗だ…」


 この日はそれから少しの間、二人きりで星空を眺めて過ごし、その後は二人ともそれぞれの部屋へと戻ったのだった。



「…これから、ねぇ。…どうしたものか…」


 俺は布団の上に大の字の大勢で寝転んで、そう言っていた。

 明日は何が起きるのだろうか、と頭の何処かで考えながら。



「つゆちゃん、ぬけがけ、したの?」


 アリスがまだ起きていたという事に、露葉は正直相当驚いていた。


「し、してないしてにゃい!」


 あちゃー、噛んじゃいましたか。

 アリスは言う。


「ありす、サンサロールとむすばれたい…」

「だ、だからどうしたっていうの?」

「うん…。あのね、サンサロールには、すきなひと、いるのかな、って」

「!!」


 ここで露葉はこれまでの参巻の行動を振り返ってみた。

 そして、もし彼が、自分ではなくて他の女の子の事が好きだったらどうしようか、また、もし本当は自分の事を好きだったという時はどう対処しようかなど、ついさっきまではほんの少しも疑わなかった事に急激に関心を向けてみた。

 すると、一つの答えに辿り着いた。


「参巻ってさ、瀬栾ちゃんとアリス、あと…つゆの事が!みんなの事が大好きに違いないよ!絶対そうだよ!」


 アリスも、何処かそれに納得がいったようで。


「そう、ね…」


 そう言い終え、アリスは眠りについた。


「全く…。しょうがない子ね、アリスは」


 子供っぽいお前にゃあ言われたくないよと世界中の露葉をよく知る誰もが言うであろう中、彼女はアリスの掛け布団を掛け直してあげるのだった。

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