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第03話:『ラブリー☆ハッピー☆超ラッキー♪みんな大好き露葉ちゃん』と『LOVE☆LOVE☆LOVE☆LOVE♪参巻LOVE!LOVE!な瀬栾様』+1人の壮絶な戦い…!?

「…て…じゃん…あたし…とけって…ない…」


 俺は耳に入って来たそんな謎の言葉で目を薄く開いた。まず第一に気になった事、時刻の確認を済ませる。

 …午前四時過ぎ。

 …何なんだよこんな朝早くから…。全く、静かに寝かせろっての。

 俺は心の中でそう呟いて、行動はそれに従って二度寝の体勢に入った。


「ね、ねぇ、ちょっと、本当に大丈夫なの?」


 物凄く小声だが何せこの時間だ。どんなに小さくしようがしっかりと聞こえて来る。無論、寝ていたら気付くハズがないという事は、ここで宣言しておく。俺は超能力者でも何かの師範でもなければ何か特別な力を秘めた存在でもない。まぁだが、もし俺が超能力者だとして『寝ていても周りの声を聞き取り続けられる』という能力を持っていたとしても、全然嬉しくない訳だが…。ってか、そんな能力、100%需要ないだろ…。

 と、ここで二人の少女が『俺の部屋』への侵入を果たした。


「ね?大丈夫でしょ?」

「ん…。むぅ、本当だ」

「それじゃ、私はこれで。こんな社会の落ちこぼれみたいな男の何処が良いのかは知りませんけど、この男がお姉ちゃんに近付くくらいなら、あなたと手を組むのも仕方のない事…。良いですね?お姉ちゃんにこの男を近付けさせないって約束、守って下さいよ?私もこれから先、出来ることなら色々手伝いますから」

「うん…。ありがと」

「では」


 そして扉が閉まる音。どうやら一人は帰ったらしい。寝ている…と思われている俺を気遣っての静かな動作だった。さっきの会話も、一応、出来る限りの小声だったのだろうと思われる。

 参巻と同じ部屋に残された小柄な少女、露葉は、その小さな手をグッと握った。


「…よしっ」


 …よし、出て行こうか。良い子だから、とりあえず出て行こうか。

 何故かって?そりゃあもちろん、安眠の為さ。露葉の習性を知っていればこその思考である。


「さーまーきっ」


 ほら来たー…。

 だが俺は寝ているフリをする事にした。一度起きてしまうともう眠れなくなると考えたからだ。


「はにゃ?まだ寝てる?…ふぁ〜」


 …眠いなら寝ろよ全く。そんな大きな欠伸して起きても、良い事なんてないぞー。


「…さーまーきー。起きてー、朝だよ〜。スズメさんも起きてるんだから参巻も起きよーよー」


 …うるさいぞー。俺は寝たいんだよー。露葉と違って朝に弱いんだよ俺は…。 まだ午前四時過ぎだし…ってか、日が昇り次第起きるって、お前の脳内構造どうなってんだよ…。


「…今日は、デートの日なんだからさ」


 !?

 突然過ぎて理解出来ない。

 いつ俺がデートを承諾したのだろうか?


「勝手だなおい!?」

「あっ!」

「あ…」

「やっぱり起きてたー( ´ ▽ ` )ノ」


 な…なんというか…、不覚…。

 起きるつもりじゃなかったのに!

 一度目を覚ませばもうお終い。二度寝は不可能なのです、つゆちゃんの前ではね。

 しかし、露葉は可愛らしく首を傾げて言った。


「んー、まだ眠い?」


 あれれ?これはもしかして二度寝を許してくれるパターンですか…?

 今までの、付き合っていた頃の彼女なら、俺が目を覚ませばすぐに手を引っ張り、「朝のお散歩行こ〜」などと仰っていたんだが…。


「そ、そうだな…。正直、まだ少し眠いんだよなぁ」


 俺はそう言いながらも、内心では露葉の成長に感動しそうになっていた。

 でもまぁ、そうだよな。露葉だってもう高校生なんだしな。朝のお散歩なんて苦行みたいな子供染みた事は卒業していてもおかしくな…


 ちゅっ。


 ……。

 ……ん?

 …な、何だ?

 俺は状況が全く掴めなかった。

 な、ななな、何だ今の可愛い音は!?何だ今の柔らかい感触は!?何なんだ今のふんわりとしたいい匂いは!?一体何がどーなってこんなに俺は熱くなっている!?

 …答えは簡単だ。


「ちょっ!つゆ…ッ!?」


 果たしてその予想は的中していた。

 俺の目の前に、つゆちゃんの髪の毛がわさついています。物凄くくすぐったいです!

 何故キスをしたーーーーー!?!?


「よしよし♪これでバッチリ目が覚めたね、参巻っ」


 確かにバッチリだよ!!

 おかげで眠気はバッチリ吹っ飛んだよ!!

 だけど意識もバッチリ吹っ飛びそうだよ!!

 何だよこの単純過ぎるハニートラップは!?いやその前にそれにまんまと掛かった俺が言うのも何なんだけど!


 …と、まぁ、こういう訳で起こされてしまった俺だが、気になる事が幾つかあった。


「あのさ、聞きたい事があるんだけd」

「でで、デートの事以外なら何でも聞いて!」


 はい、終了。俺が聞きたい事は聞く前に全て消し去られてしまった…。

 何ということでしょう!

 自覚はあったのねこの子…。


「おぉ、そうか…。そうか…」


 俺のげんなりした表情から何かを読み取ったのか、あからさまに目を逸らした。


「その、デート…、行きたくないかな…?やっぱり、嫌、だよね…」


 うわぁ!泣くな泣くな!これじゃまるで俺が…

 ガチャ。


「おはようございます!サンサロール様ッ!今日はあたしと一緒に…一緒、に……。ふぇッ!?」


 うぉぉぉぉおおおお!何て最悪なタイミングなんだぁぁぁああ!?

 ここで瀬栾ちゃん登場!!

 艶のある黒髪を揺らしながら、華奢な身体をわなわなと震わせている。


「な、何をしているのですかぁぁぁぁあああ!?」


 …そうだよなぁ。

 この状況だとそうなるわなぁ…。

 布団の上で、露葉の腕を掴んで、なおかつ露葉と顔が至近距離で、さらにその露葉が涙目で目を逸らしているこの状況じゃあなぁ!!


「ちょっ、瀬栾!待て!待つんだ!これには事情が…」

「あ、あはは、そそ、そーですよね!事情も無くこんな状況には、なりませんよねぇ!一体、どんな事情なんですかぁ!?正直に言うまで聞きますからね!」


 怖いよー…。


「本当ごめんって!あのな、朝起きたら露葉が勝手にこの部屋に入って来てて、それで、寝ている俺を起こすために『デートする』とか言われて、動揺して起きて、んでキスされて慌ててたところに瀬栾が来た、そういう事ですッ!!」


 我ながら事細かく色々憶えているものだなぁと少し感心する。しかし。


「正直に言うまで聞きますからね!」


 ……。

 …えぇ〜。

 嘘でしょー…。

 信じてよ…。


「正 直 に 言 う ま で 聞 き ま す か ら ね !」


 誰か助けてー…。

 はっ!そうだ!露葉!お前が引き起こした事件だろ!?ちゃんと説明して…


「つ、つゆは何もしてないもん?」


 何だとコラおい露葉!?

 言っておくが最後クエスチョンマーク付いてっからな。


「サンサロール様ッ!?」


 瀬栾も気付けよ…。


「いや違うんだって!露葉が勝手に!本当だって!俺は無実だ!」


 俺は弁解を叫んだ。

 何だって早朝の寝床で二人の美少女に挟まれているんだ…。嬉しい反面辛いんだぞ…?だってさ、一人の美少女なら甘えまくる事だって可能だし、喜ばしい事限りなしだけど、二人となるとそうはいかない。片方に甘えようものなら片方から殺気を感じ、片方が泣けばまた片方から今度は別の意味で殺気を感じ…。片方に何かがあると殺気立てるという俺にとっては地獄以外の何でもない事態に発展するからだ…。

 どーすりゃ良いのよ俺は…。


「サンサロール様…。何も隠さなくても良いのですよ…?あの、あたしより幼児体型でぺったんなロリっ娘の方が良いのなら、その…」


 待て待て待て待て待てぇぇい!!


「だ、だから違うんだって!全部本当に誤解なんだ!」


 どうして俺がそんなロリコンにならにゃならんのだ!?


「さまき、もしかしてつゆの事、嫌い…?」


 うぉぉぉぉぉおおおおおお!!

 やめろォォォオオ…!!

 そんな目で俺を見るな露葉ァ!

 ってかお前は幼児体型言われて文句無しなのか…!?


「いやいやいや、そうじゃない、そうじゃないんだよ露葉。俺は露葉の事は超好きだ!だから、な?泣くなよ頼むから!」

「…露葉の事『は』超好き…?ややや、やっぱり、そういう事、でしたか…!!」


 しまったァァァァアアア!


「あー!あー!ごめん!あのな、えっと…。うわぁぁあ!もう、どうすれば良いんだよ!?」


 すると瀬栾が不意にニヤリと笑った。

 こ、怖ぇぇ…!

 そして、こう宣った。


「そうですね…。そういう事なら…。デート…。今日、あたしとデートして下さい!そしたら全部信じてあげますッ!」


 何でそうなるんだよ!?


「さーまーきー…?」


 露葉も…。

 土曜日の朝五時。通常なら当たり前のようにぐっすりの時間だが、今日はそうもいかず。

 結局、今日一日は瀬栾とデートする事になってしまったのだった…。

 俺が瀬栾とデートって…。

 嬉しいよ?嬉しいけどさぁ…。

 露葉がさぁ…。

 はぁ。


 午前七時過ぎ。俺たちの姿は楠町家の一階にあるリビングにあった。

 そうそう、言い忘れていたが、この家は二階建て。一階にはリビング・キッチンと瀬栾ママ・パパが過ごす寝室、風呂・洗面所、トイレ、物置という生活に欠かせない中枢+楠町家の大家の部屋があり、二階には今俺が住まわせてもらっている例の『THE☆古部屋!』や瀬栾の部屋、それらに加えて瀬栾の妹である鶸の部屋などがある。

 …で、今は朝食を摂るために全員がリビングルームへ集合しに来たところだ。


「…分かっているんでしょうね?露葉さん?」

「…な、何よ?」


 …お前ら、朝からそんな喧嘩すんなって。


「分かっているのか、と聞いているのよ」

「だから、な、何よ!?」


 あんまり騒ぐな、土曜日とはいえ、まだ朝早いんだから近所迷惑だぞ。


「…分かっているのなら、早くその手をどけなさいな」

「ちょっと言葉の意味がよく理解できないのよね」


 バチバチ、バチバチ。

 …朝っぱらから疲れてんのかなぁ、俺。二人の間に閃光が見えた気が…。


「お、お姉ちゃん!ほ、ほら、私の隣、空いてる!チャンス!」


 何がチャンスなのかよく分からんが、鶸ちゃんよ、あんたやっぱ憎めないわ。


「鶸、何のつもり?あたしの朝の自由を漆黒の闇で埋め尽くすつもりなの?」

「ち、違うよ瀬栾ちゃん!鶸ちゃんは、瀬栾ちゃんの事が好きなだけだよ!だから、ね?座ってあげなよ」


 …露葉、言葉だけ聞いてりゃ良い台詞セリフなんだけどよ、俺の隣の空席を見て唇をふにゃふにゃにしながら言っちゃあ台無しだぞ。


「さぁお姉ちゃん!私の隣へ!どうぞ!」

「瀬栾ちゃん!行ってあげて!それにほら!向こう側なら、参巻の事自由に見れるじゃない!」


 …と、ここで瀬栾の表情が一変した。


「…鶸、あなた露葉さんと何か繋がってるの?」


 刹那、露葉と鶸との間に電撃が走った。二人はアイコンタクトを取り始めた。


 【ど、どうしよう鶸ちゃん!】

 【そ、そう、ですね…。も、もう、こうなったらやるしかないですね…】

 【ふぇっ!?アレを!?】

 【はい…。恐らく、アレを使えば、きっとみんながハッピーに…!】

 【そ、そういうものなの…?】


 そして二人はアイコンタクトを終了し、露葉は瀬栾を見、言った。


「瀬栾ちゃん、一つ提案があるの」

「何よ?急に改まって」


 そして露葉は、言い切った。


「さまきに決めてもらおうよ、どっちがいいのか」


 !?!?

 俺…!?

 えっ、いや、あの、そのー…。えぇっ!?

 直後、二人…いや、今は更に+1に振り向かれる俺。


「えぇっと…その…、ど、どうだろうな…?」

「サンサロール様ッ!あたしは、あたしはサンサロール様の事、大好きです!だから、ね?」


 !!!

 何ということだ…。

 ズルい…、ズルいぞ、今このタイミングでその台詞はズルいって…!


「そ、そうだな、実は、俺も…」

「つゆは、さまきの事、ずっとずっと愛してるよっ?」


 !?!?

 ちょっ!?

 えぇー…。

 それズルいとかいう領域遥かに超越してるって…!


「へぁっ!?…い、いやー…、お、おう…。えっと、俺、やっぱり…」

「お姉ちゃんは、譲らない」


 !?!?!?

 いや待て待て待てぃ!

 この流れでそれはおかしいだろ!?

 おかしいよなぁ!?

 ここは「私も…」って入って来るところだろ!?


「あ、いや、それは分かってるけど…」


 あれ、俺、分かってたんだ…。

 くっ!言葉が心と上手く繋がってねぇ…!


「サンサロール様ッ!」

「さまきっ!」

「お姉ちゃん!」


 一人おかしいが、もう気にしない。


「…分かったよ…、決めてやる!」


 そして、少女全員が息を飲む。


「そうだなー…」


 うわぁ…。

 視線が痛いよ…。

 放射線でも放たれてんのかもなぁ…。


「俺の隣に座るのは…、ひ」

「ってりゃぁぁぁぁあああ!」

「ぐぁッ!?」


 何だ!?

 今思いっきりぶん殴られたぞ!?

 誰だ!?

 だが、殴った者は先程から会話している少女三人ではなかった。何故なら三人共、視線を同じくして表情を固めているのだ。その視線はというと、丁度俺の背後辺りに向けられている。


「っててて…」


 俺は殴られた部分を手で押さえながら三人の視線の先を確認すべく振り向いた。

 そして俺に危害を加えた犯人の姿を捉えた。


「…穂美ほのみ!?」


 そこには間違いなくこの俺の妹、穂美がいた。


「どうしたんだよ急に?ってか何故殴った!?いや待て、何でここにいるんだ!?」


 聞きたい事だらけだ。

 俺は咄嗟にキッチンで朝食を作っている瀬栾ママ、ひよこさんを見た。すると彼女はこちらの視線に気付くなり、軽くウインクした。

 …露葉の次は穂美ですか…!?

 あなたって結構修羅場好き…!?


「…お兄様、これは一体、どーゆー事ですの?」


 いや、それは俺がお前に一番聞きたいよ?

 服装はジーンズ系の短パンにウサギのプリントTシャツ、更に長い髪を軽くシュシュで結んだだけの、所謂こいつの自宅スタイル。我が妹ながら可愛い顔立ちであるが、今はその表情が無理矢理な笑みを浮かべており、非常に恐ろしく感じられる。

 眉も唇もピクピク動いてるー…。

 怖いよー…。

 あれ?俺、最近女子に怖がり過ぎじゃね?

 でも、怖いもんは怖いよなぁ…。


「な、何でもないぞ!?これは、別に、何でもないぞ!そ、それより俺の質問に答えてくれないか!?」


 何故妹にビビってんのかねぇ…。

 情けねーよ…。


「わたくしはお兄様を御護りすべく参りましたのよ!こんな破廉恥ハレンチ女狐めぎつね共からお兄様の貞操を御護りすべく!」

「え、えぇっ!?大丈夫だよ穂美、別に俺はそんな事されてないからさぁ」

「いいえお兄様!『今は』そうかも知れませんが、この後の事まではどうなるか分かったものではありませんわ!」

「い、いや、でも…」


 因みに少女三人はというと、俺が喋ると俺の方を向き、穂美が喋ると穂美の方を見るというまるでテニス観戦でもしているかのような状態になっている。


「とにかく!お兄様はもう少し危機感をお持ちになって下さい!」

「は、はあ…」

「ふふ、分かればよろしいのです、お兄様っ」


 そう言って穂美はその可愛らしい美貌を上手く利用して上品に、かつとびきりに微笑んだ。


「っ!!」


 俺は思わず息を飲んでしまった。

 おいおいおい!嘘だろ!?妹だぞ!?血の繋がった家族だぞ!?それはマズイだろ!


「…と、いうわけで、皆さんには残念ですが、お兄様の隣の席はわたくしの場所ですので」


 前言撤回!!

 忘れてた!こいつ物心付いた頃から重度のブラコンだったわ!!

 あっぶねー、最近色々有り過ぎてすっかり抜けてた!!


「何でそう」

「何でそうなるのよ!?」


 俺が言いかけた事を制して発言したのは瀬栾だった。

 やっと口を開いたか…。


「はて?わたくしの言葉に何かおかしな点でも?」


 だよなぁ…、お前、昔っから全く自覚無いもんなぁ…。


「大有りよ!先程の会話、そしてあなたのサンサロール様の呼び方から推測するに、貴女はサンサロール様の実の妹!」

「えぇ。それが何か?」

「妹なら、お兄様の恋路を邪魔するなど以ての外じゃないのかしら!?」


 いや、瀬栾、その辺でやめとけ。こいつの正体は知らない方が幸せだ…。さもないと、俺が危ない!


「あー、いや、何ていうかだなぁ、その…、こいつ、ちょっと変わっててさぁ…」


 考えるんだ俺…!何か…、何か良いアイデアを…!!


「お兄様、大丈夫です。わたくしは、心得ております」


 穂美は静かに、そう言った。

 …そうか、そうだよな…、穂美も変わったのか…。

 これは多分、俺をこの状況から助けるために…。なるほどな、我が妹よ、確かに隣に座るのが妹なら色恋沙汰で云々というよりはまし…。そういう事か…!


「瀬栾さん、と言いましたっけ?」

「な、何よ?」


 瞬間、穂美は瀬栾を不適な笑みで見、言った。


「お兄様の事は、諦めて下さいな。…『わたくしの』お兄様ですゆえ


 変わってなかったァァァァァァァァアアアアアアア!!!

 お前!通常運転じゃねぇかァァアア!!

 ちょっと心動かされた俺が恥ずかしいわ!


「もう、お兄様ったら、穂美の事、見直して下って…」


 見直して見直し返したよ!?

 『0°=180°+180°=360°=0°』つまり変わってませんよ!?


「さ、さまき、どどどどういうことなの…!?」


 えぇっ!?今からまた全部説明すんの!?

 露葉は今漸く状況を理解した模様だった。

 あぁ…。

 どうなるんだ、今日一日…。


「俺、明日生きてるかな…?」


 これからの出来事を何となく想像し、俺は悩む羽目になってしまったのだった。


 朝食を済ませ、俺と瀬栾は各々で『デート』の準備を始めた。

 結局、朝食の際は穂美が俺の隣、露葉と瀬栾が鶸ちゃんを敷居にするが如く挟んで俺と向き合う形で反対側の窓側の席に着いたのだった。

 食事中の強い視線に何とか耐えながら、無事に事を済ませることが出来た俺に、誰か賞状をくれないだろうか…?

 物凄く食べ辛かった…。

 まぁ、瀬栾ママが作るサラダやスクランブルエッグが超絶美味だったので一応腹は満足しているが。


「サンサロール様ー、準備出来ました〜?」

「お、おう!一応な!」

「では、出発、しましょっか」

「おう…」


 俺は瀬栾が促すままに楠町家の玄関を出た。今日はこれから、瀬栾と二人きりでデート…の予定だ。


「…なぁ、デート…なんだよな?コレ」

「ふぇっ!?…あ、うん。そうですけど…?」

「?」


 俺は、何か違和感を覚えていた。

 …二人きりの時くらい、敬語と『サンサロール様』はやめればいいのに…。

 …ん?

 『二人きりの時は』…?


「…待てよ?」

「ど、どうかなされました?」


 もしかして瀬栾って…。


「あー、いや、何でも」


 そして俺は、一つ思い当たる節を記憶の中から見付け出した。

 …まさか、な。


「な、なぁ、ちょっといいか?」

「何ですか?」


 その直後、俺は瀬栾の手を取って全力疾走を開始した。


「きゃっ!い、一体どうしたんですか!?」

「ちょっとでいいから、俺に合わせて走ってくれ!」

「は、はい…?」


 その後、俺と瀬栾は二人で走り続け、一つの見知った公園へ到着した。そして俺は、到着した瞬間に瀬栾にある質問をした。


「今日は、…ハァハァ、デート、…ハァ、…だよな?」


 急に全力疾走したのでまだ息が上がって苦しいが、何とか瀬栾に伝わるように声を出した。

 すると瀬栾は、


「な、なな、何言ってんのよ!?あ、あたしが!?野良猫と!?ででで、デート!?そ、そんなわけ、えっ!?何で!?あたし別に、野良猫の事なんて、す、すす、好きなんかじゃないんだからねッ!?か、かかか勘違いにも、ほほ、程があるわよ!?」


 ……。

 ……マジか…。

 深い黒色で若干吊り気味の目をキュッとつむり、柔らかそうな頬を紅潮させ、そしてぷっくりとした唇を尖らせて、不満なのか照れているのかよく分からない表情をしている。

 更に露葉と比べると「ある」胸の前で細く長い腕を組み、すらりとしてスカートの裾から外気に晒されている眩しいほどに色白の脚を恥ずかしそうに忙しく動かしていた。


「…あ、あのさ、お前って…」

「ふ、ふざけないでよっ!あたしがあんたみたいな野良猫と一緒にいてあげるって言ってるからって、へ、変な期待はしないでよねッ!?」


 …何だろう、このテンプレ感…。

 とても演技だとは思えないハズなのに信憑性が薄い…。

 これが…、これが世に言う、ツンデレってやつなのか…!!

 初めてガチで見たわ俺!

 いるんだな!本当に!!

 いや、最初に泊まった日からある程度分かってはたんだけどね!?


「ねぇ、聞いてるの!?あたしはね、…ッ!?」


 突然、瀬栾は黙り込んでしまった。


「どした?具合でも悪くなったのか?」


 そうではなかった。

 だが俺は、次の瀬栾の言葉を聞いて、ある事を確信する。


「ふぇっ!?あたしったら、一体どうしてこんな事を…!?ち、違うんですサンサロール様ッ!これはその、あたしの本音ではなく、あの、その…」


 …も、戻った…!?

 急に戻るのか、コレ…。

 さっきまであれだけ俺の事『野良猫』って言ってたのに、急に『サンサロール様』って…。

 ここで俺は全力疾走する直前に考えていた事を思い出し、辺りを見回した。


「さっきまでと違うのは…」


 さっきというのは、俺と瀬栾がこの公園へ到着した時の事だ。

 確認の結果、相違点は三つあった。

 一つは、時刻。これは当たり前である。

 もう一つは、近所のスーパーがシャッターを上げ、店を開けた事。今が午前九時過ぎだから、これもまぁ普通だ。しかし、瀬栾の今までの様子から言って、スーパーの営業とこの口調との関連性はなかなか結びつけ難いものがあるのではないだろうか。

 それに、最後の点が、この点よりずっと核心を突いている気がするし。

 その最後の点とは…


「露葉!それに鶸ちゃんも!」


 露葉と鶸。この二人が丁度今この公園へ俺達二人を追って走り着いたところであるという事だ。


「ひうっ!」

「あ…」


 二人とも、『見つかっちゃった…』とでも言いたげな表情をしている。

 普通に走ってたからね君達。見つかりたくなかったらもう少し上手く隠れる練習しようか、電柱使うとかさ…。


「せ、瀬栾ちゃん!ききき奇遇だねぇ〜、えへへ、つゆ、変な人じゃないから安心してね〜」


 変な人じゃなければそんな事言いませんよ、つゆちゃん。あと動揺しまくってるの見え見えだからね?


「お姉ちゃん!こ、こんな所にいたの〜?本当、奇遇だね〜」


 これが本当なら恐ろしい奇遇レベルだよなぁ…。


「…何で」


 おや?瀬栾様の様子が…!?


「…何で!?どうしてあなたたちがここにいるのよーーー!?」


 おめでとう!(?)

 瀬栾様はお怒りになった!!

 お怒りに…。

 …わー、怒ってるー…。

 …はぁ…。


「えっ、あっ、べ、別にさまきの後をつけてきたわけじゃ、ないよ〜?」


 そう言って露葉は直様視線を上空へと逸らす。

 おい、口笛鳴ってないぞ。


「そうよお姉ちゃん!別にお姉ちゃんの事が好きなんだから仕方ないじゃない!」


 そっかぁ。鶸ちゃん、よく分かんない。

 …はぁぁー…。

 俺はここにいてもしょうがないので、二度目の溜め息(長め)をしてから近くにあったベンチに座ることにした。


「意味不明よ!今はあたしとサンサロール様との時間よ!?あなた達は手出し出来ない時間なのよ!?」

「うぅー…」

「お姉ちゃん…」

「全くもう!大体あなた達は…」


 始まったなぁ、瀬栾の説教タイム…。

 ふぁ〜あ、おっと、そう言えば今日は朝早かったし、なんだか眠くなってきたぜ…。

 多分説教終わったら起こしてくれるだろうから、ちょっとだけ、ね。全力疾走して丁度疲れたし…。

 というわけで、俺は眠りにつくことに…。



「…んん…。…あ、あれ…?…俺、どれくらい寝てたんだ…?」


 俺はまだ陽が高い時刻に目覚めた。

 目覚めたのだが。


「…薄暗いな…。…それに、何だろう…この柔らかい感触…」


 枕、だろうか?今俺は、確かに後頭部と頭部の右側に何かの温かくて柔らかい感触を得ている。

 これは一体…?

 …ふにっ。


「ひゃんっ!」


 俺は、枕もどきが何なのかを確認するために手を伸ばした。しかし、その手は鉛直上方向あった何か柔らかいものを掴み、止まった。そしてその瞬間、そんな声がした気がした。

 そのおかげか、まだ起きたばかりの薄目のためによく見えないが、だんだんと状況は理解出来てきた。


「…人、肌…?」


 そう。

 この温かさの正体は間違いなく人肌だ。

 …でも、だとしたら、誰の?


「…ん…?」


 俺はまぶたに力を入れてこの状況における自分以外の熱源を見た。

 そして。


「ーーーーーッ!?」


 俺は目をいっぱいに見開いて驚いた。今にも絶叫しそうなほどに大きく口を開けてもいる。

 …目の前に見えたのは、一人の見知らぬ少女だったのだ。


「…No,No!! Oh,no!!!! This is my failure!! I'm very sorry!!!」


 …英語!?

 ちょ…って、えぇっ!?

 た、確かに、金髪碧眼で、外国人かも知れない、とは思うけれども!流石に英語でテンパられても困るって!


「あ…、いや、えぇっと…。ディ、ディス イズ、 マイ…、マイ…ソーリー?」


 やっべぇ!!英語とか出来ねぇし!!咄嗟に話し掛けられたって、上手く返せねーよ!!

 しかし相手は、俺が言わんとしていた事を理解してくれたらしく。


「Well…,thank, you…?」


 と、とりあえずその高めの可愛らしい声で微笑んでくれた。少女は落ち着きを取り戻したようだ。

 ほぇぇ…。

 外国人(多分)の女の子に微笑まれたの初めてだけど、何これヤバいよ…!

 この子の金髪以上に、笑顔が眩しい…!!

 顔立ちが露葉に負けないロリ系な上に幼い容姿が加わり、守ってあげたくなる感MAX!な少女だ。


「…良い…」


 俺は思わずそう呟いてしまっていた。

 …しかし、そんな風にして新たな出会いに俺が完全に気を取られていると、どこか上の方から声が聞こえて来た。


「さ、サンサロール…様…!?こ、こここ、これは一体…、どういう事ですのーーーーー!?!?」


 この声は瀬栾かぁ。

 何だよ、あんなに大声…で…ッ!?


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!?!?」


 ここで漸く全ての状況を把握した俺は、全力で叫んだ。


「サンサロール様ッ!?」

「ま、待て!誤解だ!!」

「何が誤解ですか!?そ、そそそそんなに可愛らしい洋風の少女に膝枕されて、その上、その、み、右手で、そんなところを…!!何を誤解だと言うのですかァ!?」


 俺は自らの右手の所在地を確認した。


「ーーーッ!?」


 それは、まだ名前も知らない膝枕洋風少女(?)の、胸を鷲掴みにしていたのだった。

 そのせいで少女は少しばかり頬を赤らめている。

 条件反射により右手は瞬時にその若干未発達な膨らみを離脱したが、これは惜しい事をした…ような気がする…。

 一人の男の子として、ね!

 ……ッ!!!

 …いいい今、な、何かを感じた気がする…!とてもドス黒い、殺気のような…!

 …な、何でもないですから!その、ごめんなさい…。


「…それにしても…。どうしようか、この状況」

「そうですねぇ…。放っておくのも、なんだか気が引けますし…」


 俺達はこの状況を打開する策を考えていた。

 …あれ?確か今日は、デート…ですよね?


「えーっと…、今日ってさ…」

「デートはちょっとお預けね」


 …今日はちゃんとデート出来なかったから、また明日、なんていう風にして、無限にデート…うふふふ…。

 などと瀬栾が心の中で思っているとは俺は微塵にも思っていなかった。

 寧ろ、デート出来てちょっと嬉しかったんだけどなぁ、なんて俺は思っていた。


「……?」


 洋風少女は可愛らしく首を傾げている。


「さまき!?その子は一体!?」


 露葉もこちらの状況に気付いたようだ。


「わぁー…。お人形さんみたい…」


 お、鶸ちゃん、意外と良い例えを使うじゃないか!

 結局、俺達四人で打開策をどうにか捻出する事になった。

 あ、瀬栾ちゃんのツンデレの真相についてはちゃんと後で説明するからご安心下さい。


「…で、何か良い案浮かんだらすぐに教えてくれると助かるんだが…。そう簡単にはいかないか、やっぱり」

「ってゆーか、別につゆ達が色々お世話しなくてもいいような気が…」

「まぁ、それもそうなんだけどさ…」


 露葉よ…お前、この子のつぶらな瞳を見てみろ…。放っておけるか…!?

 無理だろ!?無理だよなぁ!?

 …だってさ…、だってよ…。

 超☆可愛いんだもん!!!


「…この変態強姦魔、どうにかなりませんか?」

「ひ、鶸!?サンサロール様に向かってなんて事を!?」

「お姉ちゃん、目を覚まして…?」


 楠町姉妹の会話は、やっぱ慣れない。

 っつーか、俺の心の中が今読まれていたような気が!?


「あの、お困りのようですね?」


 ん、誰だ?後ろ…?

 ここで俺は、ついさっきまでこの場にいた面子以外の一人の声を聞き、その音源へと視線を向けた。


「穂美!」


 どうやらこいつも俺達のあとを追って来たらしい。露葉や鶸ちゃんと一緒に来ない辺りが、『わたくし』オーラを惜し気なく放ち続けられる秘訣なのかも知れない。


「お兄様、その少女にはあまり関わらない方が良いかと…」

「何を言い出すんだ急に!?」

「皆さんだって、そう思っているのでしょう?」


 穂美は言いながら俺達一人一人の顔を見ていた。


「ど、どういう事だよ?」


 俺は瀬栾、露葉、鶸ちゃん、そして穂美を、順番に確認した。

 瀬栾にはそっぽを向かれてしまい、露葉には俯かれてしまった。鶸ちゃんはいつも通りに無視され、穂美に対しては敢えて視線を外しておいた。ちょっと泣きそうになってたけど知るもんか!


「どうしたんだよみんな!」


 叫んだ後、思った。

 もしかしたら、みんなに失望されちゃったのか?俺は…!?

 そして、必死の弁解タイムへ突入する事にした。


「瀬栾、デートがこんな形で壊れちまったのは残念だけどよ、これで全てが終わるわけじゃないんだしさ!お前が望むなら、いつだってデートしてやるぞ、俺は!」


 …な、何故若干上から目線なんだ俺…。もう少し言い方ってもんを…。ってか、その前にデートはお預けって言ったのは瀬栾だよな…?

 しかし、瀬栾の表情はパァッと明るくなった。


「さ、サンサロール様は、あたしを、あたしだけを見ていてくれるのねッ!ふふっ、やった〜!」


 ……お、おぅ!良かった!何か分かんないけど良かった!

 よし、つ、次だ!


「露葉、俺は露葉の事、凄く大切に思ってる。露葉は超可愛いからな、見た目も性格も。甘えたいなら、いくらでも来い!」


 …だから何故上からなんだろうな…。

 いや、だがこれでも結構考えたんだぜ…?

 露葉の瞳にはキラキラした何かが浮かび始めた。


「さまきが、つゆを…!?にゃんにゃんにゃん!!!ダメダメダメェ!けけけ結婚はまだちょっと早いってばぁ〜。えへへ〜」


 …何が起きたのだろうか。彼女の脳内で今、一体何が…?

 …とまぁ、これは露葉がよく言うので軽く聞き流しておくか。

 あ、いや、違うよ?嫌だから、じゃないよ!?

 瀬栾と穂美がいる手前、迂闊な言動は出来ないしさ…。

 よし、次…だが…、え、どうしよう。いや、どうしようもない。


「鶸ちゃんは」

「は?」

「いえ、何でも…ないです…」


 怖ぇぇぇぇぇえええよ!

 怖ぇし強ぇし!何この子!?

 俺が弱いだけなのかもしれないけどさぁ!


「あの、お兄様、私は」

「あ、うん。穂美は口を閉じていた方が可愛いな」

「……」


 …ほほぅ、単なる思いつきの発言だったのだが、ちゃんと命令は聞くらしい。

 聞くらしいが…。

 …あの、そのキラキラ目で口をキュッと閉めて迫って来るのやめません?

 穂美は口が使えない代わりに身体で表現しようとしていたようだ。

 …妹じゃなければ、こんな複雑な気持ちになる事もなかろーに…。


「…と、俺の気持ちは、そういう事だ!それで、今はこの俺に免じて、一緒に考えてくれよ!それでも、まだこの子の事を警戒するのか?」

「「「もちろん」」」


 …えぇ〜…。

 どないせぇっちゅうねん…。

 そして俺は、仕方がなくなったので再びベンチを見た。


「ご、ごめんね〜、こんな…、あれ…?」


 洋風少女の姿は、既に見当たらなかった。

 他の面子も、これには流石に面食らったらしく、きょとんとしたままベンチを見守っていた。


「…どこ行ったんだ?ってか、誰だったんだ…?」


 名前、聞き忘れたな…。

 そんな事を思い、ベンチから視線を動かし、いつもの美少女五人組を見た。


「なぁ穂美、さっきのって、本当はどういう意味なんだよ?」

「はぁ…。少しは自覚をお持ちになって下さいませ、お兄様」


 お前にだけは言われたくない台詞だわ!!


「あのままあの少女と共にいたら、お兄様はきっとあの少女に恋をします!そして、結婚して、子供も産まれて…、にゃおぉん!?」


 最後の暴走は置いておくとして、大方、言いたい事は伝わって来た。


「…なんだ、嫉妬かよ…」


 …『なんだ』とはなんだ『なんだ』とは!少女達は頑張って悩んでいたというのに!俺は…俺は!!

 瀬栾を見ると、俯き加減の上目遣いでこちらをチラ見。


「…あ〜、その…、デート、やり直すか。まだ昼だしさ」

「えっ!?い、いいの!?」

「まぁな。時間はあるし」


 そう言って俺は空を見上げた。

 …いや、あのー…、ここでエンディングテーマとか良いと思うんだけどさ?どうよ?

 …何で俺が今こうやって空を仰いでいるのかって?

 そんなの簡単だろう?


「さぁーまぁーきぃー?(暗黒微笑)」

「お姉ちゃんと…?ふふ、ふふふふ、そうですかぁ、そうなんですね…ふふふふふ…(暗黒微笑)」

「お兄様、一体これからどちらへ?(暗黒微笑)」


 この三人が、ね☆

 瀬栾ぁ〜…。


「それじゃ、まずはお昼ですねっ、サンサロール様♪」


 …瀬栾は可愛いなぁ…。

 こうして、俺『達』のドタバタデートは幕を開けたのだった。



「…ひぁあ〜…、疲れだー…(←※注:俺です)」


 現在時刻、午後六時四十分。

 俺達は揃いも揃って楠町家に帰宅。

 そして俺は今日、初めての体験をした。

 誰でもいい、

 『実家の目の前まで妹を送り届け、その足で恋人…(?)の同級生クラスメート宅に帰還』という、どうも何かがおかしいシチュエーションに見舞われた人はいるだろうか?いたらこの気持ち、是非分かち合おう!

 『何故、自宅へ帰れないんだろうな』と語り合おう!

 ……。

 嫌じゃないけどね、この生活。


 瀬栾ママが作ってくれた夕食を摂り、自室(例の部屋)へとIN。

 一日の総まとめを行う。

 まずは一言で。


 疲れた。


 そうだね、この一言に尽きるわ。

 これ以上に今の俺にピッタリな言葉はないような気がするほどに。

 だが、なんだかんだ言って、楽しかったのも事実だ。

 瀬栾の笑顔、やっぱり良いよな…。

 ハッ!いかんぞ!いかんいかん!

 変な妄想なんて、してねーからな!

 …して、ねぇよ…別に…。


「…ま、それでもよかったものはよかったんだ」


 そう独り言を呟いた。


 トントントン。ガチャ。


「さまきー?」


 相変わらずなやつだ。ノックが出来るのならその次の試練・「入っても良い?」が出来るようになってもらいたいものだ。


「どうしたんだ露葉?」

「え、えへへ、別にそんな急用じゃないんだけどさ…」


 よく分からんやつだ。


「ねぇ、さまきは、今日会ったあの子みたいな、金髪碧眼少女が良いの?」


 ぶふぉお!

 何も口にしてないのに盛大にせた!

 な、何を突然言い出すんだ!?


「そそ、そんな事はないぞ〜…、多分…な?」

「多分って何よ!?」


 だってまだこれからどーなるか分からないし?


「ごめんごめん、謝るから許してくれ」

「まぁ、謝ってくれるのなら…」


 …俺、何か悪い事してたのかな、やっぱり…?


「じゃあ、一つ聞かせて。銀髪黒眼の小さい少女と…、どっちが好み…?」

「え、えぇっ!?」


 もろに露葉自身の事じゃねーか…。

 って事は、ここで解答を誤ると、後々大変な事に…!!

 切り抜けろ!何とかして上手く切り抜けるんだ俺!


「えぇっと…」


 考えろ!俺のこれからが賭かっているんだ!!

 何か…何か良い答えはないか…ないのか…!?

 あぁ!

 あれだ!

 これしかない!

 俺はマイクを持つフリをして、


「そんな事、聞かなくたって分かっているんだろう?」


 左手を自らの胸へ運び、まるで何かのミュージカルのような仕草をしながら、


「あぁ、何という事だろう!露葉が、眩しい…!」


 すると、露葉は何故か非常に喜び、言った。


「ありがとうさまきっ♪つゆ、さまきの気持ちも知らないで…、こちらこそ、ごめんね」


 露葉…!!

 分かってくれたん…だ…よね…?


「そんなにつゆの事しか考えられなかったなんて…」


 何かが間違って伝わるといけないので。


「露葉も瀬栾も、大好きだ!だけど、いや、だからこそ、どちらか一方と、だなんてまだ決められないんだ!」

「にゃははぁ〜、にゃーん♡」


 …あれ?

 ど、どうしよう。

 これ100%伝わってないフラグだ…。

 何故だ…。何故なんだ…。


「サンサロール様、お風呂どー…っ!?…ぞ…」


 瀬栾か。

 瀬栾は正直のところ、この楠町家の新たな二人の住人とシチュエーションについて、どう思っているんだろうか?

 あんまり良い返事は…もらえないだろうなぁ。


「サンサロール様ッ!!露葉さんと二人で、一体何を!?」


 ?

 また俺は誤解を招くような状態にあるのだろうか。

 俺は自分自身を見る。別に露葉がじゃれついていたり、俺があらぬところへ手を伸ばしているわけでもない。

 …なら、何だ?


「二人で布団の上って…!!きゃああああ!!」


 場所かぁぁぁぁぁああああ!

 うぉぉ!天才か瀬栾は!?

 その発想はなかったァ!!

 しかもベッドじゃなくて布団の上!この部屋では確かにベッドの役割ではあるけれども!そういう使い方は生まれてこの方した事がないよまだ!


「瀬栾ちゃんって、もしかしてこーゆーの出来ないタイプ?…にゃっはっはっ、そんなんじゃさまきは喜ばないよ〜?」


 いや、そんな事ないぞ瀬栾!!

 俺はそんなにエロくないぞ!?


 …どうやら今日も、『あいつの家』は通常運転のようだ。午前中デートの時の洋風少女事件は通常ではなかったが…。



 俺達のデートの日の翌日、俺が予想だにしていなかった事が朝都学園にて進められていた。


「…そ、それでは、よ、ヨロシク、おねがいしマス…?アッテマス?」

「あぁ、合っているよ。こちらこそ、よろしくね」

「ハイ!」


 一人の金髪碧眼の洋風の少女が、学園の生徒会室にいた。


「…それにしても、日本語が上手だね。どこかで習ったのかい?」


 少女は静かに目を瞑り、優しく言葉を紡いだ。


「……わたし、あるヒトと、むすばれる…!そのためニ、ニホンゴ、べんきょしまシタ!」


 片言の目立つ日本語だが、しっかり聞き取れるし、彼女が言いたい事も伝わる。十分な日本語だ。


「つまり…好きな人がいる、という事ですね?…それも、この学園に…」


 そして、生徒会長は微笑んだ。


「大歓迎です、アリス・アルバートさん」


 少女、アリスも微笑む。


「ハイ!Thank you very much!!」



 月曜日。

 日曜日も瀬栾と露葉に振り回され続けた参巻だったが、鶸や穂美の妨害工作が参巻にとっては幸いとなり、なんとか無事に一日を終える事が出来た。


「デート続きの週末、かぁ…。悪くなかったけど、なんだかなぁ〜。特に昨日は、瀬栾も露葉も普段以上に可愛い洋服着てたし…。うむ、露葉はやっぱりワンピースだなぁ。それに…」


 などと独り言を言いながら教室に入る。

 そう言えば今日あいつらどうしたんだろう?

 今日は起床してから学校に来てもなお、瀬栾・露葉に出会っていない。朝食の時に瀬栾ママことひよこさんが言う所によると、今日は二人共外せない用事が出来て朝早くに家を飛び出して行ったらしい。多分、学校に…だと思う。

 ガラッ!と、教室の前方のドアが開かれた。


「はーい、みなさん席についてー」


 入室して来たのは担任の、担任…の、担…、み、認めたくないなぁ、やっぱり…。

 担任の琴坂ことざか先生だった。

 最初見た時は誰か生徒の妹かと思ったんだけど…、いやぁ、だって物凄く幼く見えるんだもの。髪は結ばずに背中の中ほどまで伸ばされていて、本人曰く大人な色の藍色の洋服を身につけているし、非常にぶかぶかの。その上、露葉レベルの童顔って…。ズルいよ、何そのチートロリ…。


「今日はみなさんに、新しいお友達を紹介するのですよっ!…あっ、二人共、もう戻って大丈夫だよ〜」


 二人共…?

 って、まさか!?


「「はい…」」

「瀬栾!露葉も!」


 二人揃が教室へ入って来た。

 だが…、どうも様子がおかしい。


「どうしたんだよ?」


 問い掛けるが、返答がない。


「瀬栾?」


 瀬栾は黙ったまま俯く。


「露葉?」

「さまきの、ばか」


 !?

 何故そうなる!?


 しかし、俺はこの露葉の言葉の意味を、この後すぐに理解事になる。



「さぁ、入って来ていいよ〜?」

「は、ハイ…!」



 そして、


「ーーーッ!?」


 俺は、再び、出会った。



「お、おはよございマス…。わたし、は、アリス…。…アリス・アルバート、デス!ど、どぞ、ヨロシク、おねがいしマスッ!」



 ……。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」

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