第13話:アリス♪アリス♪アリスさんっ☆やって来ましたよこの時が!楽しいデートか切ないデートかそれは分からないけどドキドキっ!大胆発言爆弾発言いつも以上のアリスさんっ!文化祭編Part.4
「もう、大丈夫か?」
「…そ、そんなに気にしないで、参巻」
「でも…。いや、そうだな。露葉がそう言うんなら、まぁ、これ以上色々考えたって、仕方ないか」
「そうそう、いーのいーの!このままずっと秘密にしておく事だって出来たけど、つゆはやっぱり参巻に本当の事を知ってて欲しかったの」
露葉の柔らかくて指通りの良い髪を撫でつつ、俺と露葉はクレープ専門店特別訪問販売支店(3年、シアのクラス)にて少しばかり切ない気持ちに浸っていた。
「そっか。でも、俺も今回この事が聞けて、正直嬉しい、かな」
「嬉しい…?」
「あぁ。露葉にも、やっぱり抱えてるものがある。それを少しでもいいから、支えてやりたかった。俺はいつだってそうだったぞ。今日、漸く露葉の抱えていた闇の一つを消せた気がして、何となく嬉しいんだ」
「ほぇっ、そ、そんな、参巻が、つゆの事を、そんな風に…」
露葉は頬を濃い桃色に染める。
あーもう!
ヤバい!
今日の俺おかしい!
どうしてだ!?
何でだ!?
何故今日に限って露葉の表情一つ一つに可愛いと思ってしまうんだ!?
先ほど「どうしてこんなにも露葉の事を愛しく感じるのか」と自問自答した結果の如く、彼女の想いの強さを再認識したからに他ならないという事は言うまでもない。
だがしかし、今の露葉は今までの彼女にはなかった魅力で溢れている。
俺には瀬栾という、学園一、いや宇宙一の美少女彼女がいるというのに、こんな事が許されていいのだろうか。いや、許されない。しかし、仕方がないのだ。仕方が、ない…のか…?男子諸君の視線にはもう慣れたよ、はい。
「つ、露葉、とりあえずほら、パフェでも食べて気を取り直そう。こんな話だけで終われるほど、俺達のデートは簡単じゃないだろう?」
俺はこのままの雰囲気で露葉と離れたくはなかった。出来る限り、露葉も俺も、心からの笑顔でデートを終えたいと、そう思ったのだ。
「そそ、そうよねっ!参巻なら、そう言うと思ってた」
「何だよそれ」
「参巻は嘘の笑顔の女の子を好きじゃないって知ってるもん」
そうして、露葉はパフェをリスのように頬張り「おいひぃねー」などと言いながら、俺に宛てた笑顔をキラキラと見せつつ完食したのだった。
…俺の分まで。
まぁいいけどね!
食べたかったよ!
相当美味しいからねコレ!
一口しか貰ってないし、何より俺の分を丸ごと食われるとは…。
予想の出来ない行動に出る反面、予想するよりも遥かに容易な露葉の純粋で優しい心に、俺は惹かれてしまったんじゃなかろうかと、ふとそんな事を思ったのは、俺の中だけにとどめておく事にした。
俺と露葉はパフェを食べ終えた後、コスプレゲーム喫茶への帰路に着いていた。
「露葉、どうだった?」
「…楽しかった、かなぁ?」
「何で疑問形なんだよ」
「いーじゃん、楽しかったかもしれないんだしっ」
「そーかい。ま、そりゃよかった」
こうして露葉とのデートは終わりを迎えようとしていた。
くいっくいっ。
暫く露葉と二人で廊下を歩いる時、俺は誰かに制服の裾を引っ張られるのを感じた。
それに俺より早く反応したのは露葉だった。
「アリスっ!お願い、あとちょっとだけ…」
見ると俺の裾を引っ張っていたのは小柄な猫耳メイド(着替えたんじゃなかったのか…?)のアリスさんだった。
「にゃーっ!」
…威嚇のつもりだろうか。
「ヒィッ!」
露葉もビビんな。
「アリスさん、ちょっとだけ待っててくれるかな?」
「むぅ…」
「ほんのちょっと、少しだから」
「そうよ!少しなんだからぁ!」
露葉、お前が言うな。
アリスさんの威嚇に油を注ぐ事になる。
「一応、その、なんだ、デートはちゃんと見送ってから終わるもの…だと思うし、露葉を教室に帰したらすぐ行くから」
「ダーリン、つゆちゃんに、あまい。むぅっ」
そんな事を言いつつも、とりあえず納得してもらえた。
ぷんすかしてるアリスさんマジヤベーッス。天使級に可愛いッス。
俺はアリスさんに待ち合わせ場所と時間を伝え、露葉をコスプレゲーム喫茶へ送り届けた。
「ふんっ、何よ、アリスの前ではデレデレしちゃって」
「そんな事言うなって。無理だろ?あんなに可愛いんだから」
「はぁ〜。はいはい。分かってるってば。どーせつゆなんかより可愛いですよーっだ!」
「バッ、お前それは違うっていつも言って」
「でも、ありがと」
今日の露葉はやはり普段とは何かが違っていて。
そのいつでもどこでも聞けるような「ありがと」でさえも、不思議と心の奥に届くものになっていた。
「お、おう…」
露葉を教室のドア目前まで送った俺は、アリスさんの所へ行く事を一瞬忘れかけた。露葉に対する想いが離れて行ってしまいそうなのを、無意識に引き戻そうとした結果なのかもしれない。
「はぁ…。ん、参巻、早く行ってあげたら?」
「えぁ?あ、そ、そうだな」
教室へ入る前に気を引き締めようとしているのか、深呼吸をする露葉を後にして、俺は廊下を駆け始めた。
「全く、参巻ってば昔から変わらないんだからっ。ふふっ♪」
露葉は教室へと戻って行った。
待ち合わせ場所は大切だ。
選ぶ場所によってはデートが始まる前に終わってしまう事だってある。
今回のデートも、文化祭という事で校内という制限はあるものの、体育館裏スタートや職員室前スタートなどを選択すればデート開始前崩壊は容易に想像出来る。
「あ、ダーリンっ!こっちこっち」
「ごめんねアリスさん待たせちゃって」
俺が選んだ待ち合わせ場所は、とりあえずデート続行ルートへ突入可能な選択肢だったようだ。
「それじゃあ、行こうか」
「うんっ♪」
朝都学園高等部第ニ校舎の二階、廊下の突き当たりにある音楽室の前で待ち合わせをした俺とアリスさんは、共に笑顔のまま歩き始めた。
アリスさんが何処に行きたいのか、何をしたいのかがよく分からなかったため、何処にでも行きやすいこの場所を選択したのだ。
廊下のど真ん中や階段前でも良かったのだが、それだとアリスさんのファンがアリスさんを確保しやすくなってしまう。その点も考慮すると、見つかりにくいという点も踏まえているここは良かったのかもしれない。
しかしアリスさんはどこか行きたいところがあるらしく、どんどん俺の手を引きながら先へ先へと進んで行く。
いつの間に校内をここまで憶えたのだろうか。
俺でさえまだよく分からない所が多いというのに…。
「デートっ♪デートっ♪」
小声で歌うアリスさんに一瞬にして虜となる俺。
今ここに猫耳メイドアリスさんに甘えてもらえる券などが存在すれば間違いなく購入している。
…いや、買わなくてもよさそうだ。
「ダーリン、あれ、やってみる!」
「おっ、アリスさん射的とかするの?」
「ちがうの。ダーリンが、やるの!」
「俺が?それでいいの?」
「うん。あれ、ほしい」
そう言ってアリスさんの小さな人差し指の延長線上に現れたのは、人気キャラクター、アミュミュのミニマムデフォルメぬいぐるみだった。
まさかこんな所でまたお前に会うとは…と思いつつ、アリスさんの方を見る。
じー…っ。
本気だ…。
本当に欲しがってるよこの娘。
「ダメ…?」
ここまでが我慢の限界だった。
俺はアリスさんに言葉を掛けるより先に行動に出た。
「あの、射的一回いいですか?」
数分後、六発分三回目にして漸くぬいぐるみを獲得。
アリスさんにプレゼントした。
あのね、分かってますよ。はい。俺はアリスさんに弱いですよ。ええ、その通りです。苦労してやっとぬいぐるみが取れたという事もあって達成感に満ちている状況も加えて、その場で「ありがとっ♪」なんてアリスさんみたいにめちゃくちゃ可愛い娘から超☆笑顔で言われたらもう何が起きたって後悔しないじゃないですか。え?モノ欲しさに笑顔を使ってるかもしれない?いいでしょう!この笑顔、一回分の¥100三回分の¥300以上の値で買ったと思えばいいじゃない!…可愛すぎんだよゴラァ!
「ダーリン、つぎ、あっちいこ!」
ぬいぐるみを抱き抱える可愛さ倍増のアリスさんを追いかけつつ、俺は頭の中で財布の中身を計算し始めた。
「ちょいとそこのお兄さんとお姉さん。よろしいかな?」
アリスさんとのデート中に俺達へと話し掛ける一人の男子学生の声。その人物は限られる。
「なんだよ流市」
「…?どしたの?」
どうやら彼の今日のシフトは終了したようだ。
「なんだよとはなんだよとは」
「いや、とりあえずこれからゲーム巡りでもしようかと思ってた所に話しかけられたからさ」
「ふふふ、だろうなぁ」
「だろうなぁ」って、何で予め知ってた風なんだお前は。
しかし俺達二人のいる場所を的確に把握していなければここへ来る事は出来ない。
なるほど流市、お前さてはアリスさんに何か言ったな。
おかしいと思ったんだ、編入して来て初めての都涼祭だってのに何を迷う事なくこのエリアにアリスさんが俺を連れて来たからさぁ。
「で、何だよ流市」
「まぁ聞きなさいな。実はな、毎年恒例のイベントになってるあの『最強のリア充は俺達だ!都涼祭杯』のエントリー枠が、まだあと一つ余ってるみたいだったんでな」
都涼祭には恒例行事『最強のリア充は俺達だ!都涼祭杯』なるものが存在する。
男女一人ずつの二人一組で参加するこのイベントは、毎年賞品がなかなか入手困難なモノとなっているため、参加するカップルは多い。
賞品目当てで参加するリア充でないカップルもいるとかいう話も聞くが、それがきっかけとなり結局リア充になった、などという伝説も噂されている。
「え、えぇっ!?いーやいやいや、待て待て待て!」
「どうした?別に本物じゃなくてもいいんだぜ?」
ここで彼が言っている【本物】というのは俺とアリスさんの仲が本当のリア充でないという事を指しているのだろう。
「は!?えっ!?ちょっ、待って!」
「エントリー済ませておいてやったぞ!」
「なんだ、エントリー済んでるなら仕方が…って、はぁ!?」
「仕方ないだろ?誰でもいいからあと一組呼んできてくれないかって言われたんだからさ」
「えぇぇー、マジかよ…」
かくして俺とアリスさんは、恒例行事への参加を余儀なくされたのであった。
会場へ到着。
到着するや否や、会場である体育館の前にはまるで有名アイドルでも来たかのような賑わいの人混みがこちらへ押しかけて来た。
「今回の優勝最有力候補が来たぞー!」「マジかよ!あの三股のサンサロール・石川か!?」「みなさん落ち着いて!ここはアリス様FCの我らが厳粛にインタビューを…」
待て。
まぁ待て。
まず色々突っ込みたいところではあるが、三股は…、なんかもう誤解だと言っても信じてもらえそうにないから諦めるとして、これだけは言っておきたい。俺は日本人だ。そして芸能人でもない。そんな『サンサロール・石川=サン』みたいな片言の日本語で話しそうな人物を彷彿とさせる名前と間違えないで頂きたい。
「ダーリンと、ゆーしょー、するの♪」
アリスさんは律儀にもインタビューに答えていた。
って、超やる気じゃねーか!
マジかよ!?
何で!?
四面楚歌かよ!?
「アリスさん、え…と、本当に、いいの?」
「……?」
「…あ、あぁ、な、何でもないや、あはは…」
もう!
そんなに可愛らしく見つめないで!
分かった!
分かったから!
優勝目指すから!
こうして俺とアリスさんで参加する事は確定事項となった。
その後、大会参加者として控え室に案内された俺とアリスさん。
他の参加者達との初の対面にもなる。
どの参加者も、この朝都学園内ではそこそこ有名なカップルだそうだ。
「ダーリン、ダーリン?ねぇねぇ、あれ、せら?」
「え、瀬栾…?」
俺はここで聞く事はないだろうと思っていたその名を聞いて不思議に思いながらアリスさんを見る。
アリスさんは控え室内の天井と壁が交わる角を指差していた。
そこにはモニターが備え付けてあり、会場の様子が確認出来るようになっていた。
今は各位置に配置してあるカメラを確認する為か、様々な視点からの会場や観客席の拡大映像などが流れている。
そして、その数秒間毎にループしながら流される映像のうちの一つに、明らかに瀬栾の姿が映って見えた。
瀬栾はまだシフト中のハズだが、コスプレゲーム喫茶のシフトを影ながらに操っている流市なら、瀬栾のシフトを動かすのも造作もない事なのだろう。
「流市のやつ、わざわざ呼んだのかよ…」
「人聞きが悪いぞ、『サンサロール様』くん」
「って流市!?お前、何でここに!?」
振り向くとそこには流市の姿が。
テレポートの能力でもあんのかお前には。
「ふむ。やっぱり楠町さんは来たか」
「やっぱりってお前」
「ねぇ、せらだよね?」
「そ、そうだね。アリスさん大丈夫?緊張とかしてない?」
「はふー、はぅー」
ただの深呼吸がこんなに可愛い高校生が一体他のどこにいるというだろうか。
「ま、いーじゃないか参巻。一応この出場メンツになら、お前らが優勝するのは間違いないわけだし」
「何がいいんだよ。大体なぁ、この大会に出場するなら俺とアリスさんじゃなくて俺と瀬栾の方が」
「おっと参巻、それ以上は危ないぜ?」
流市が急に俺の口を塞ぎながら、まだこちらの会話よりモニターの映像に興味を示しているアリスさんを親指で指差す。
アリスさんの目の前で同じ事がもう一度言えるか、という事だろう。どうやらアリスさんに今の会話は聞こえていなかった様子。
妙な所で気の利く男だ。
「…しゃーねーな。でも、流石の俺達でも厳しいんじゃないか?噂じゃあ、この大会に出場する参加者は基本的に自信家でこういう類の大会には強い方なんだろ?」
「それについても心配はないぞ。今回のメンツは色々ヤバいヤツらだからな」
「ヤバいヤツらって…」
「それに、楠町さんには“あること”を伝えてある」
「“あること”?」
「ま、それは優勝してからのお楽しみって事で!よし、じゃあ俺はそろそろ行くわ。あ、そうそう。一応これ差し入れな。緊張で喉でも渇くかと思って」
「お、おう…。サンキュー」
そう言って流市はスポーツドリンクを一方的に押し付ける形で控え室を出て行った。
「…アリスさん、そろそろ俺らも行こっか」
「うんっ!まけられないっ!」
渡されたスポーツドリンクを一口だけ飲んでから、大会の誘導スタッフについて行った。
そしてその後ステージ上で待つ事五分、大会は始まりのブザーを鳴らした。
「みなさん!お待たせ致しましたァ!毎年恒例『最強のリア充は俺達だ!都涼祭杯』!!いよいよ開幕です!」
耳を穿つ様な恐ろしい歓声と共に開幕してしまったこの大会。
朝都学園の全校生徒の半分程が入るこの巨大な体育館が、開場三十分で満杯になる程に凄まじい勢いの生徒達によって埋め尽くされている。
怖ぇ…怖ぇよこの熱気…。
何で自分対象じゃないリア充にそこまで盛り上がれるんだよ…!?
はっ!
もしかしてリア充への新手の攻撃なのかこれは!?
「今年の優勝最有力候補は…こちらのお二人!本学の七不思議を八不思議にしてしまう程のハーレム伝説を創り出している異邦人!『サンサロール=石川』!そしてそして、イギリスよりやって来た天然ロリ系美少女!『アリス・アルバート』!」
いやだから待てって!
俺は日本人だっつーの!
異邦人って、完全に外国人じゃねーか!
「アリスが、てんねん?…って、なに?」
あ…、うん。
まぁ、そういう事だよ、アリスさん。
その後も参加者俺達を含め五組の紹介があり、この大会の火蓋は切って落とされる。
「さてさてでは早速参りましょう!まず初めは【彼氏彼女フリップクイズ】!」
何処かのTV番組で聞いた様な効果音と共に、俺達は最初の関門へと差し掛かる。
「普段から何かと甘い青春を送っていると思われるみなさんに、今回はお手元のフリップを使っていくつかの質問に答えてもらいます!」
おいおいマジかよ…!?
本格的だな!
何かだんだん面白く感じてきたぞ!?
「それでは第一問、まずは彼氏さんに関する質問です!『彼の事を普段は何と呼んでいますか?また呼ばれていますか?』お手元のフリップにお書き下さい!どぞ!」
うぉぉおおおお!?
マジか!
いきなりコレかよ!?
ま、まぁ、普通ならここはいつも通り『ダーリン』なんだろうけど、いざ公の場で公表となると、……マジか。
いや、だがここで俺とアリスさんの答えが合わなければ優勝が遠退く…。くそぅ…!
い、いいさ!
かかか書いてやるよオラァァア!
「おっ、みなさん書き終えた様ですね。それではまず彼氏さんから発表して頂きましょう!デデン♪」
俺は自らの筆跡による『ダーリン』という単語がここまで羞恥ダメージの大きいものだという事をこれまで思いもしなかった。
が、しかし。
「おぉーっと、流石は校内で有名なカップルのみなさんですねぇ。それぞれ、インパクトのあるニックネームが付いております」
その言葉が気になり、俺は他の参加彼氏のフリップを見てみた。
『ケンさん』
うむ。
健全な関係だね。
初々しさもあって、いいと思うよ。
『ご主人様』
……アレ?
ここそういう関係の人もいるのか、なるほどなるほど…。
…えっ?
マジか。
でもね、ほら、彼女さんにメイドの趣味があるかもだし?
頭ごなしに否定はいかんな。
そういう事にしておこう。
『アッシーくん』
いいのかお前それで。
確かに名字が『芦田』とか『足尾』とかなら分からなくはないが、いいのか、お前本当にそれで。
えっ、何?
「別に名字は関係ない」?
「僕の名前は湯沢 一郎」だと?
「いいんだ、『アッシーくん』で」って、えー…。
マジすか…。
『駄犬』
……。
さ、さぁて、今思うんだけど、俺の『ダーリン』って、意外と普通なのな!
「ではでは続いて、彼女さんのフリップを見てみましょう!デデン♪」
俺はアリスさんの回答を見ようとした。
しかしどうした事か、アリスさんはフリップを立てようとしない。
「アリスさん?フリップ立てなきゃ」
「…だ、ダーリン…、うぅ、ど、どうしよ…」
!?
何だ!?
突然どうしちゃったのアリスさん!?
「ダーリンのこと、かんがえるだけで、あたまいっぱいで、あぅ…」
そしておそるおそる俺にだけ見せてくれたフリップには、なんと。
『ダーリン』、『さまくん』、『さまにい』、『サンサロールさま』、『さまき』、『ねこさん』
という、今まで俺が呼ばれてきた名前ほぼ全てが丁寧に書かれていた。
猫もランクインしてんのか…。
「ん〜っ!何という事でしょう!彼女さんもなかなかインパクトのある回答ばかりだーッ!」
…え?
何これ一致しなきゃダメなんじゃないのこれ?
隣を見ると、アリスさんも俺と同じ事を思ったようで、“?”が頭の上に見えそうな程に首を傾げている。
「おやおや〜?アリス・アルバートさんがどうやらまだのようです!」
うーむ、ここはこのフリップでいいのだろうか…?
俺は半信半疑のまま、とりあえずフリップを立てるようにアリスさんに促してみる。
「ダーリン、OK、かなぁ…?」
「多分大丈夫だとは思うぞ?」
そして俺のその予想は確信へと変化を遂げる。
「ここで彼女さん全員の回答が出揃いましたァ!それではそれぞれ見て行きましょう!」
俺とアリスさんも他の参加カップルのフリップを見る。
『ケン』
おぉ。
まぁ分かるな。
“さん”はついてなくてもこの際有りという事だろう。
実に健全でお兄さん嬉しいよ。
『主人』
…アレっ?
『ご主人様』と『主人』だと意味合いがかなり違って来るんだが、彼氏がそう呼んで欲しいだけという、そういう事なのだろうか?
何れにせよ、こちらもなかなか健全で何より。
『アッシーくん』
変えてやれよ!
そいつ『湯沢 一郎』だからな!?
その意味そのままなの!?
彼女じゃないのバレバレじゃねーか!
…な、なるほど、賞品目当ての参加、という訳だな?
そういう事にしておこう。
そうだ、きっとそうなんだ。
…え?
何ですか今度は?
「ただの賞品目当てじゃない」?
「私とアッシーくんは見ての通りラブラブ」?
「付き合ってもうかれこれ三年」?
だったら尚更だろ!?
変えてやれよ!
一郎が可哀想だろ…。
ん?
「僕は『アッシーくん』がいい!」だと!?
やかましいわ!
『イグアナ』
……。
そして俺達の回答へと目を移す。
すると、何ともまぁ健全な健全。
驚く程に普通に見える。
「ダーリン、ほんとに、だいじょぶ、かな?」
「あー…、全くもって問題はないと思うぞ。確信した」
アリスさんのこの杞憂は、おそらくまだこのカオスな状況について行けてないからなのであろう。
「ここでアンケート結果が出ました!」
ほぅ。
どうやらこの大会の全ての結果は会場の観客全員によるアンケート投票に依存するらしい。
「結果はこちら!」
聞きなれたバラエティ番組の中に出て来そうなSEと共に俺達ステージ上の参加者の背後のスクリーンに映し出されたのは円グラフ。
そしてその円グラフは青い色の部分が約8割程を占めていた。
まさかと思いつつ、青がどの参加者なのかをグラフの横に見える色参照表で確認する。
“赤→ケンとメグミ、緑→主人のご主人様、黄→アッシーと氷の女王、青→アリス in 石川ランド、白→動物園【ZOO】”
……。
…俺達じゃねーか…。
この結果を生み出したのは、間違いない。
ステージから見た会場の左手五列最前列からその後ろの数十席を占める謎の黄色い制服集団、通称『アリス様FC』と思われる組織だ。
しかし、その集団が本当にそうなのかと聞かれると、分からない。露葉のファンかもしれないし。
「アリスさん、ちょっと左側の席に向かって手を振ってみて」
俺はアリスさんFCだと思われる集団に対して軽い実験を施してみる。
「アリス様が御手を挙げていらっしゃるぞーッ!皆!この幸せを分かち合おうではないかァ!!」
…アリス様FCですね分かります。
ってか手を挙げただけでこうなるのかよ。
アリスさんこれ以上彼らがエスカレートする前に手を下ろそう。
熱出して倒れてるやついるから。
これ以上は危険だからその行為!
あぁ!また一人倒れた!
「♪」
ダメだアリスさんなんか楽しそうにしてるこれは彼らが全滅する以外選択肢はなさそうだ。
数秒後、アリス様FCは驚愕の壊滅を遂げ、大会は次なるステップへと進んだ。
「さて!みなさん、現在の時点でトップはなんと第一優勝候補の石川・アルバートペアです!しかし、この大会はまだまだ続く!次で他ペアが巻き返すのも一興、このままこのペアがトップを守るのもまた一興だァ!」
実況さん、よくよく考えるとあなた凄いわ。
この濃いカップル達の中心に立って平然かつ堂々と話せるのは本当尊敬します。
「ダーリン」
「ん?」
「…がんばろっ」
「おう」
そう俺に宣言するアリスさんの表情に、若干の不安が見て取れた。
もしかしたら…、いや、それはないだろう。
俺は、アリスさんがこの大会に参加する事を迷わなかった理由を考察しようとして、やめた。
その謎は簡単に解けそうで、しかし解いてはいけない気がした。
瀬栾がこの大会を観ている以上、俺も下手な事は出来ない。もしアリスさんに何かしようものなら死の鉄槌が下る事だろう。
「それでは、第二問へ参りましょう…」
この後も順調に一位を独走(アリスさんの笑顔という激レアポーションにより奇跡の復活を果たしたアリス様FCのおかげで)した俺とアリスさんのペア。
【彼氏に作ってあげたい/彼女に作って欲しい料理は何!?】、【カップル対抗好きなところ発表バトル】、【のろのろ惚気物語大戦】を次々と潜り抜け、見事優勝を収める事が出来た。
しかし、中でも好きなところ発表バトルでアリスさんの放った必殺技『ダーリンのおよめさんがみんなかわいい』は俺はもちろん、会場全体を騒然とさせるものだった。
男子がハーレム自慢をするのは聞いた事があるが、まさかこんな美少女からそのセリフが飛び出すとは誰も予想だにしなかった事であろう。
因みに、第二位との差はなんと大会異例の千二百ポイント。
通常は百数十ポイントの差で終わるらしい。
「あみゅみゅ…っ♪」
「アリスさん、そろそろ行くよ」
大会後、優勝賞品である旅館の無料宿泊券【ペア】を手に、俺は射的で当てたアミュミュのぬいぐるみを抱きかかえているアリスさんを呼ぶ。
どうやらアリスさんは優勝した喜びをぬいぐるみに分けてあげているようだ。
あぁ、可愛い…!
これで俺と同い年なんだよなぁ。
神様本当にありがとうございます!
「まって、ダーリン」
不意に呼び止められる俺。
「ん、どうした?」
「あのね、…あの、ね」
何故か凄くもじもじしているアリスさん。
視線も泳いでいて、顔は熱っぽい。
「…せら、いたね」
「お、おう。いたな」
「いやじゃ、なかった?」
…あぁ、なるほど。そういう事か。
アリスさんは罪悪感に襲われてたのか。
そんな事にも気付けないなんて、全く、俺って本当鈍感なのな。
俺はそのアリスさんの問いに答えようと思ったが、何と返答すればいいのか咄嗟に分からなくなって。
ただただ、純粋に微笑んで、こう言うしかなかった。
「楽しかったな」
「ほぇ…?」
驚いたようにこちらを見るアリスさん。
予想外の返答だったからだろう。
浮かびかけていた不安の涙も出ないまま、次に俺が紡ぐ言葉を待っている。
「大会、悪くなかったね。結構楽しかった」
俺は、嘘偽りのない笑顔で、そう答えた。
すると、アリスさんにも、その意図は通じたみたいで。
「…そっか…。うん、よかった。ふふっ♪よかったよかった♪ふふっ♪」
アミュミュを先程よりも強く抱きしめつつ、アリスさんも満面の笑顔で、そう答えた。