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第11話:コスプレ、カフェ、ゲーム三昧!至福な時間、都涼祭!文化祭編Part.2

 都涼祭を明日に控えた本日、我がクラスではコスプレゲーム喫茶と化すための準備が着々と進んでいた。

 女子は主にコスプレに力を入れていて、今日は衣装の最終チェックという事で再び試着を行っている。

 瀬栾のコスプレ姿を観てから、露葉やアリスさんのコスプレ姿も観たいなぁなどと思い、二人の試着区画への入所許可を得ようとしたが、両方共に本人直々に断られてしまった。


「瀬栾さんのドレス姿が観れただけでも普通の男子なら最高の気分のハズなのに…(笑)。流石は石川くん」


 二人に拒否された直後、クラスメートにそんな事を言われてしまった。確かにそれは欲張りというものだ。


 そんな俺が教室に戻った際の事だった。

 あれ?

 なんスかね、何だか男子共が教室中央に放置されていた例の回転椅子の周囲に集合してこちらをご覧になっておられます。

 んでもって流市さんが代表っぽく俺の方へ歩み寄って来て、微笑みを崩さぬまま…


「うわぁぁぁぁあああ!!やァめェろォォォオオオ!!」


 再度高速連続回転が実行されたのだった。


 それから少しして、試着を終えた女子達がぞろぞろと帰還して来た。

 コスプレ姿ではないものの、着用時の気恥ずかしさが残っているのかほとんどのコスプレ担当者の頰に赤らみが見られる。

 しかしそんな中、周囲の事など全くお構いなしにコスプレ状態で教室へ戻って来た少女がいた。

 それは、アリスさん。

 だがしかし、こんなイレギュラーにも拘らず教室中の生徒は誰一人としてそれを咎めなかった。無論俺もそのうちの一人だった。


「ねぇ、ダーリン。どう?」


 アリスさんからそう聞かれるまで、俺はアリスさんのコスプレ姿に気付く事が出来なかった。

 …あまりにもその姿がしっくりし過ぎていたのだ。


「うぉおおおお!?あ、アリスさん!?その衣装っ!」

「ど、どう?」


 俺の脳内はその時、目の前の美少女の存在を認識出来なかった。

 アリスさん+『不思議の街のアリス』の衣装。

 まるでアリスさんがまさしくその物語の主人公なのではないかと錯覚する程に見事なマッチング。

 そしてコスプレ状態である事以上に、いつも通りに微笑みながらの小鳥の様な可愛らしい首の傾げ方と、俺からのコメントを不安ながらに待っているのか、スカートを若干下に引っ張るその恥じらいの二つの要素が完全にこの場に降臨していた。


「どどど、どうって言われても!?」


 クラス中から一斉にこちらへ視線が集中する。

 答え辛いッ!

 けど超可愛い!

 もう男共の例の制裁は受け馴れて来た事だし…、正直に答えよう。恐れるものは(多分)何もない(ハズ)!


「あ、アリスさんっ!?」

「だぁりん…」


 いつもよりも甘く愛くるしい声+うる目でこちらを攻撃し続けるアリスさん。

 くっ!

 なんて可愛いんだ!


「その…と、とっても、似合ってると…いや寧ろ超可愛いと、えと、まぁその、思う、よ?俺は」


 そう告げてあげると、アリスさんは今にも飛びついて来そうなほどに喜び、両手を頬へと運び目を輝かせた。

 うん。

 これは無理だよ。

 直視なんてダメ、絶対。

 似合い過ぎ、というか可愛過ぎ、というか…、もうこのまま抱きしめてあげたくなってしまう。

 そして少し前からこちらを覗き見して来ている露葉という少女に殺される。間違いなく。


「ほっほ〜ぅ、参巻ってば、そんな風にコスプレした幼気な娘が好きなんだ?」


 ドスの効いた黒いオーラが目視出来た気がした。

 と、思いきや。


「露葉!?」


 露葉もコスプレ状態のままで教室へ入って来た。


「お、おまっ、えっ?」


 その姿を魔法少女以外に間違うハズがなかった。

 ピンクのフリフリの付いたスカートに、真っ白の手袋とフリル付きニーソックス。上半身を包む、属性を思わせる宝石を中心に色合いを合わせたドレスは、露葉のぺったんな部分も優しさで上手くカバー出来ている。さらに御丁寧な事に、両手で握られた変身用ステッキと思しきコミカルな道具と共に、だ。


「さ、参巻は、アリスみたいな可愛いロリっ娘が好き…なんでしょ?」

「え…と、まぁ、な」

「つゆみたいな、ここ、こんなに大人っぽいのは、そうでもないん…、でしょ?」

「は…?」


 はい?

 この娘は一体何を仰っているのでしょうか。

 大人っぽい…?

 露葉が…?

 その魔法少女姿で…?


「あっははは!全く、露葉、笑わせんなって」

「わ、笑うなぁ!」


 しかし、笑いながらも俺は思った。

 …正直、可愛い。

 普段以上にそう思い、その旨を伝えようと露葉を見た時だった。

 俺の笑っている表情を上目遣いでちらちらと伺いながら、露葉は続けて言った。


「参巻は…、明日、…と、…るの?」


 よく聞き取れない。

 だが露葉の様子が一変している事は理解出来た。

 さっきまでの勢いはまるでなく、何か大切な約束を取り付ける時のような緊張感が見て取れた。


「さ、さぁ〜…?どうだろうな?」


 聞き直すのは非常に気まずい。俺はとりあえずどんな質問にも対応出来るような回答をした。


「そっ…かぁ…。ま、まぁ、暇だったら、暇だったらでいいからさ、つゆは一緒に回りたいなぁ、なんて…あはは」


 本人は「あはは」などと言っているが、表情を見る限り楽観出来る事柄ではない。

 露葉からしてみれば、これは相当勇気を出しているに違いない。

 紡ぐ言葉は厳選する必要があった。


「そう、だな。はは、い、一緒に、な。俺は明日はその、まぁ、暇…かな?あれ、俺何言って」

「ダーリン、うわき、する?」


 ワーストタイミング。

 何という事だろうか。

 いやまぁそりゃあここ教室だし?

 俺と露葉以外にも生徒は普通にいるわけで?

 会話はもちろん聞こえただろうよ?

 でもねぇ、でもねぇ!

 ひぇー、アリスさんマジで落ち込んでる!?

 こんなのってないぜおいマジでよぉ…。


「サンサロールくん、どっちを選ぶんだろー?」

「石川くんはアリスちゃんに弱いからなー、これは勝負有りかもね」


 クラスの女子達の会話が聞こえる。男子達の禍々しいオーラも感じる。

 何という無駄な分析。何という理不尽な環境。

 …俺、そんなにアリスさんに甘いかなぁ?


「明日!!」


 突然クラス中に響いたその声は、クラスの出入口付近から発せられたものだった。


「せ、瀬栾!?」

「明日!サンサロール様は、あたしと…、でも、露葉さんやアリスさんも…。サンサロール様は、どうしたいんですか!?」


 クラスメイトは瀬栾が叫んだ事に驚いていて、内容にまで頭が回っていないようだった。流石に瀬栾までコスプレはしたままではなかった。


「俺は…」


 困窮しすぎたあまり、言葉を詰まらせていた時だった。


「参巻、ちょっとこっち来てくれないかー?」


 流市がそう声を掛けてきた。

 彼の方を見ると、一応真面目な顔でゲームの打ち合わせをしようとでも言いたげな雰囲気を漂わせていた。

 このまま言葉を詰まらせているだけというのも居心地の悪かった俺は、三人の少女達に「ちょっと待っててくれ」と言い残して流市の元へと歩みを進めた。


「ありがとな、流市。一応助かったよ」

「何言ってんだよ。お前はクラスのアイドル三人から同時にデートのお誘いを受けてんだ。他の男子共から何の制裁もないとは思ってないよな?」


 流市の顔がゆっくりとニヤけ始め、俺はまたあの回転椅子の刑が来ると予想し、覚悟に近い決意を固めようとした。


「マジかよ…」

「冗談だ」


 あっさりと否定が来、若干驚きながらも安堵する。


「冗談か…?まぁでも、本当に一応助かった」

「あん?参巻、まだ助かってはいないんじゃないか?」

「…あっ」


 考えてみれば浅はかだった。

 まだ少女達へしっかり回答を示していないという事がどういう意味なのか、とても簡単に分かる事ハズなのに、俺は既に解決したかのように勘違いをしていた。


「まだ上手く切り抜けられたわけじゃないぞー」

「そ、そうだな…」


 落ち込み始める俺に、流市が光をもたらす。


「だがとりあえず安心しろ参巻。策がある」

「…策?」

「この俺が何の意味もなくお前を呼んでどーなるってんだ」

「いや、あれはてっきりあの場を脱する機会をくれただけなのかと」

「はぁ…。お前さぁ、この流市様をナメすぎ。何の策もなしにただ親友を助けたいがための行動をとるほど、俺は無能じゃないぜ?」

「流市…」


 何言ってるんだこいつは?みたいな目で流市を見る俺が、ここにいた。


「『何言ってるんだこいつは?』みたいな目で見てくんのやめてくれよ。本当に策があるんだって」


 俺の表情は読み取りやすいのだろうか?

 露葉だけでなく流市までも心をダイレクトに読んで来ている。

 それも、彼ら自身に対する意外だったり不安だったりする内容ばかりだ。なかなか口に出せない分、表情が豊かになってしまうのかもしれない。


「その、策って何なんだ?」

「フフフ、これを見るがいい!俺の奮闘の末に勝ち取ったビクトリーだ!」


 ビクトリー…?

 まぁいいか。

 俺はとりあえず流市から渡されたA4の紙に目を通す。

 そして、


「お前、これ…!」

「ま、まぁな。俺、結構頑張っただろ?」

「本当だよ!流市、お前は超頑張った!!…けど、どうしてこんな事を?こんな俺と彼女達をくっ付けるような事をお前が進んでするとはあんまり思えないんだが…」


 そのプリントには、都涼祭のタイムテーブルが書かれていた。

 それには、何年何組が何時に体育館を使うからうちのクラスのバンドのライブは何時からになるだとか、クラスの出し物でコスプレする女子の名前とその子達の休憩時間や休憩場所、また屋外ステージでのイベント内容と屋台等の責任者の電話番号やメールアドレスなどなど、様々な事が見やすいように表が作成されて記されていた。

 その中でも俺が注目したのは、クラスの出し物であるコスプレゲーム喫茶の休憩時間スケジュールだ。


「初めは、お前と彼女達はバラバラの休憩時間だったんだけどな。その…、何ていうか、露葉様の悲しむ顔を見るのは俺も嫌だし後はそのついでっていうか?ま、そんな訳でちょっと頑張ったんですわな」


 そう語る流市は、少しだけ優しそうな表情を浮かべていたが、すぐにいつもの悪巧み顔に戻り、「癪にさわるのは変わらなけどな、フッフッフ」などといかにもな言葉を使いながら話をそらし始めた。

 俺はそんな流市を見て、良い親友を持ったな、という感想を抱いた。


 俺はそのスケジュール表を流市に返して瀬栾達三人の元へ戻り、それぞれに対してOKを出した。

 もちろん三人は一筋縄では行かず、伝えた時は「自分一人だけではない」という事に対して不満があったようだが、何かを諦めたような顔して三人で同時に顔を見合わせながらため息を吐いて、それから漸く承認してくれた。


「えっ!?はぁ…。参巻お前あのスケジュールの事言ったのか?」

「あ?普通に言うだろ?三人それぞれの休憩時間に全て偶然的に俺も休憩、なんて出来すぎてて不自然だろ」


 三人の少女からのデートの誘いに何とか答えた俺は、再び流市の所へ行き、明日の準備を進めようとした。

 軽い礼のつもりで「ついさっき『流市の組んでくれたスケジュールのおかげでみんなとそれぞれ回れる事になったから、こちらこそよろしく』って伝えて来たぞ」と、こう流市に話した途端、流市は頭を抱えて瀬栾達同様ため息を吐いたのだった。

 俺には正直流市が何を言っているのか分からない。


「あのさぁ、何のために俺がお前と彼女達とをそれぞれデート感覚になるように時間帯と日時をずらしてスケジュールを組んだのか、分かってないのか?それともバカなのか?」


 散々な言われようである。


「黙ってても当日になればバレるわけだし、別にいいんじゃないか?」


 俺はどうせバレるのであれば初めから隠す必要などないと思う。

 しかし流市は右手を額に当てながら残念な出来の彫刻でも見るかのような目でこちらを見て来る。


「確かにな、お前の言う通り、後々全員とデートした事はバレるだろう」

「だろ?だったら」

「だがしかし!」


 突然声を張られたので少し怯んでしまった。


「それでもだ。バレる事が分かっていたとしても今回は言わない方がよかったぞ」


 どういう事だろうか?


「少なくとも、彼女達はみんなそう思ったハズだ。…ため息吐かれたりしたんだろ?」

「え…あ、ま、まぁな」

「やっぱりな」


 ふむ…。

 流市は把握しているみたいだが、女子の考えはよく分からないものだ。少なくとも俺にとっては理解し難い。


 そんな風に参巻と流市が会話している頃、参巻から事情を聞いた少女達三人は三人で会話していた。


「はぁ…。全く、乙女心をよく分かってないんだから」

「でも、分かってない分自然に振る舞えるのが素のサンサロール様よ」

「ありすが、いちばん」


 アリスさんはいつもの調子で隙あらば狙って来る。

 露葉はいつもそんなアリスと競争し、瀬栾は普段通り競争する二人を微笑ましく眺めている。


「あたしも明日は頑張らなきゃね」

「そーね!明日は待ちに待った文化祭!気合い入れなきゃ!」

「きゅーけーじかんが、だいごみ」


 三人ともそれぞれのグループへ戻り、明日の準備を再開したのだった。



「さーて、そろそろ今日はこの辺で切り上げるかー」

「だな。お疲れー」

「お疲れー」


 何処からともなく『お疲れ』が飛び交う教室。

 結果として何とかゲーム内容とカフェで提供するメニューの考案・調理・材料の確保を終えた俺達のクラスは、それぞれ帰路へと向かい始めた。

 俺と瀬栾も教室を出て、着替えたままだったアリスさんと露葉が制服に着替えるのを待った。例の如く空き教室から響く衣擦れの音。


「な、なぁ…。ちょっと俺、先に外出ててもいいか?」

「え?どうかしました?具合でも悪かったり…?」


 何だろう。

 とても居心地が悪い。

 瀬栾の心配そうな顔が本気なので更に居心地が悪くなってしまった。しかもその瀬栾に悪気がないところがまた辛い。


「いや、ほら…ね?一応、その、き、着替えてるし?」

「……ッ!」


 察してくれたようで何よりです瀬栾さんだから顔を赤くするのやめてというか俺の頬目掛けて平手を振りかぶらないでって使ってない方の片手で顔隠してるお陰でこっち見てないじゃないかおいちょ待って話せば分かる痛い痛い分かったから俺が全力で悪かったから謝るからやめてくれごめんなさいー!!


 パァンッ!


 廊下にその音が響いた時に目撃者がいなかった、という事実が一番の幸いでした。


「お待たせ参巻っ」

「おまたせ」


 数分後、制服に着替えた二人が空き教室から出て来た。

 腫れた俺の頬を見るなり、二人揃って顔を赤くして、


「せ、瀬栾にやられたのね?全くもう、ほ、本当に瀬栾は何するか分からないんだから」

「いたい?いたいの?だいじょーぶ?」


 と、俺の心配をして来てくれた。


「ま、待って二人とも!あたしはあなた達の為に…と思って、つい…」

「まぁまぁ、俺は大丈夫だから!そんなに瀬栾を責めるなって」

「それに、露葉さんもアリスさんも、み、見られてもよかったんですか!?」


 瀬栾、落ち着け。


「ふぇっ!?…え、えーっと、べべ、別に?」

「えぇッ!?」


 露葉、落ち着け。


「みたいの…?」

「きゃぁっ!アリスさんダメですッ!スカートは上げちゃダメですッ!」


 アリスさん、落ち着け。

 そして俺の鼓動よ、落ち着け。


「もう!か、帰りますよ!」

「はーい」

「かえる」

「そー…だな」


 かくして俺達も学校を後にした。

 アリスさんのハート柄がちょっとだけ見えてたなんて事は、今更言えないのだった。


「ただいm」

「おかえりないませお兄様ぁ〜!」


 帰宅するなり速攻で突撃して来たのは我が妹である穂美であった。その後ろには瀬栾の妹の鶸ちゃんと露葉の妹(自称:姉)の姫音の姿もある。どうやら楠町家に集まって遊んでいたようだ。


「お兄様ー!いつになったらわたくしの元へお帰りにーっ!?」


 漫画などでよく見かける振り子のような涙を流すくらいの雰囲気で泣きついてきた。この間も会ったろうに、この妹は寂しがりやなのだろうか。


「悪いな穂美、まだ帰るわけにはいかないんだ」


 穂美に言われて思い出したというわけでもないが、俺はここへやって来た理由を改めて考えた。

 瀬栾に恋をした事が、俺にとってどんな意味を持つのか…。大きく言ってしまえば正しい選択なのかどうかを知る為にここへ来たのだ。しかし今の楠町家は、俺だけでなく露葉やアリスりさんも一緒に住んでいて…。楽しく過ごしてかれこれもう四ヶ月弱か。


「さま兄!?つゆ姉も!!」

「今はつゆのお家だもん!帰って来て何か変なの?」

「へ、変やないけど…。って、えっ!ちょ、ちょちょちょ!そそそのお人形さんみたいな娘誰なん!?え、待ってウチえっ?ひゃーっ!どないしよー!可愛いなぁ!もう〜っ!はぁぅんっ」


 落ち着きないさい姫音ちゃんよ。

 アリスさん「!」の度にビクビクしながら俺に隠れてるから。

 そんなアリスさんも可愛いけどね!


「あら、お友達が来てたのね。鶸、お母さんは今いる?」

「お母さんなら今買い物に出掛けてるー。あ、どーもこんにちは『サンサロール様お兄ちゃん』!まだ生きてるなんて何て図々しいのかしら」

「わたくしのお祈りのおかげですねっ」


 鶸ちゃんは通常通りの反応。相変わらず俺への態度が他と違いすぎる。何も念を押すような力の籠った声で挨拶しなくていいのに。

 だがやはりアリスさんには照れが隠せないようだった。

 アリスさん大人気だな。

 もちろん俺もファンだが。

 そして妹よ。鶸ちゃんの呪いにも等しい効力を持った祈りを捧げてくれていたとは…!

 お兄ちゃん嬉しいよ。


「ダーリン、こわい?」

「何でアリスが聞いてるのよ」


 露葉の言う通り、何故アリスさんは俺に隠れながら俺に「怖い?」などと聞くのだろうか。


「ありすは、こわい」

「お、おぅ。そっか…。とりあえず部屋に行くか」

「うん」


 アリスさんの言葉を契機に、いつまでもリビングにいても埒が明かないので、それぞれ部屋に戻る事にした。

 例の『The☆古部屋』も、もうすっかり住み慣れた空間になってしまった。

 …と。


「…えーっと、アリスさん?」

「なに?」

「あの、部屋に…」

「…?」

「あぁいえ、何でもないです」

「そう」


 待てい!

 どういう事やねん!

 アリスさんまだ隠れとるやないかい!

 なるほどさっきからアリスさんが挙動不振&謎の発言をしていたのはこうやって二人きりになりたかったからか。


「まだ怖かったり」

「ダーリンのことを」


 その発言はほぼ同時だった。


「あっ、ごめん。いいよ、アリスさんから」

「だ、ダーリンこそ…」


 !?

 あのアリスさんが話をこちらに譲った!?

 これはただ事ではない!


「…ダーリンのこと、すきになったのはね」


 あ、結局そっちから話すのね。

 まぁ今この部屋には俺とアリスさんしかいないから、普段言えない事も言えるのかもしれない。

 瀬栾は鶸ちゃんから「お姉ちゃんここ教えて!お願いっ!だからここ!隣!こっち座って座って!」と熱烈なアピールをされて仕方なさそうな表情で了承していたし、露葉は「はんっ!つゆ姉に(チラッ)勉強教えてもろても(チラッ)嬉しく(チラッ)ないし(チラッ)?」という素直じゃない姫音ちゃんのセリフをそのままの意味で受け取ってしまってケンカが始まり、部屋に戻るどころの話ではなくなってしまっている。


「じつはありす、まえから、しってた」

「…おう。何を知ってたの?」


 アリスさんの唐突な話だが、どうやらアリスさんが俺をどう思っているのかをよく知るいい機会かもしれない。文脈が繋がっているようでそうでないのは、緊張しているからなのかもしれない。


「にほんにね、くるまえ、シェリーがいっぱい、おはなししてたの」

「シアが…?」


 確かにシアは日本にいたから小さい頃から俺と会っているが、シアがフランスに戻った、何て話を聞いた事がない。


「てがみ、よくおくってくれてたの」

「あぁ、なるほどね」

「まいかい、ダーリンのしゃしん、いっしょだった」

「ほぅほぅ」


 …ほぅっ!?

 俺シアとそんなに頻繁に写真撮ってた憶えがないんだが!?


「とっても、やさしくて、たのしくて、いいひと、そうかいてた」

「うん!待って!待とうかアリスさん」

「…?」

「あ…えっとね、俺、その写真どう写ってた?毎回同じ写真じゃなかったかそれ」

「そんなことない。ぜんぶ、ダーリンのよこがおとか、うえからとか、うしろからとか。ちゃんと、ぜんぶちがうしゃしん」


 上!?後ろ!?

 おいおい待て待て!

 気にするところは毎回違う写真だった事じゃない!

 その写真の撮り方!


「アリスさん、それは盗さ」

「そんな事ないわさまくん!」


 その声は窓の方から聞こえて来た。

 って、えぇっ!?


「シア!?一体何処から…!」

「ここよ〜♪」


 窓の外、目の前だった。

 そう言えばここに住むって言い始めたシアをメイドさんが連れ戻しに来て…あっ。何かこの近くに住むとか何とか言ってたな。まさかここまで近くだとは…。

 俺は窓を開けてアリスさんと一緒にシアの新居(仮)の方へ歩み寄った。


「シア、お前写真なんて撮ってたのかよ」

「んー、まぁね♪」


 認めちゃったよこの人。


「だってさまくん、普通に頼んだって照れちゃって一緒に撮ってくれないもん」

「それは、そう、だけど…」

「それに私、さまくんの事が大好きだしっ!」

「シェリー、ダメ。ダーリンは、ありすのもの」


 だから俺は物じゃないよアリスさん。


「つまりそゆことだからこっち向いてーハイっ!」


 つまりどういう事なのか全く分からないまま、シアはカメラを何処からともなく出現させてこちらに向けて来、パシャリ。


 撮られたー…。


 ピシャリ。


 アリスさんが容赦なく窓を閉めた。


 シャーッ!


 カーテンも閉めた。

 容赦ねぇなおいマジで!


「ダーリン、シェリーは、わるいひとじゃ、ないよ?ほんとだよ?」

「おう…」

「聞いてよ参巻ぃー!っと、うわぁあ!」


 ガシャン!ドン!ゴァッシャァン!!


「っててて…」


 突然ドアを開けられたのと、勢い余った露葉が窓際から普段使っているスペースへ移動しようとしていた俺の体にクリーンヒットしたのとが重なり、バランスを大きく崩して転んでしまった。


「…いたた…、ハッ!それよりねぇ聞いてよさま…き…えっ!?ちょっと参巻何して…!?」

「え…?」


 俺は自らの末梢神経全てに探りを入れて、よからぬ事態を招いていないかどうかを触覚によって確かめた。

 …異常無し!


「あ?何がそんなにヤバいんだよ?」


 またアレなところを掴んでいるとか触れているのかもしれないと思ったが、そんな事はなかった。

 しかし、露葉の表情は変わらない。


「今凄い音が聞こえましたけど大丈夫ですかサンサロール様…、えぇっ!?」


 心配で駆けつけてくれた瀬栾までもが驚いている。それも顔が真っ赤だ。

 俺は恐る恐る、残りの選択肢を確かめるべくゆっくりと後ろを振り返って…ゴンッ!!

 瀬栾が急に腕を引っ張ったせいで後ろを振り向く寸前で急転回&不自然に閉じようとするドアに頭を強打。


「キャァーッ!大丈夫ですかーっ!?」

「…瀬栾はそろそろ力の加減を覚えた方がいいと思うよ?」

「ありすも、おもう」

「ち、違うの!あたしこんなつもりじゃ…!つ、露葉さんだって慌ててたじゃないですかー!」

「まぁ確かにこのアリスを見せるわけにはいかないからねぇ、そりゃあ焦ったけど…。流石のつゆも暴力は…」

「だからそんなつもりじゃなかったんです!ドアがまさか閉まるとは思ってなくて」

「はぃ!?普通にドア閉めるでしょ!恥ずかしくなって見たくないならつゆは賢いからドア閉めるね!」

「という事は、ドアが動いたのは露葉さんのせいですね!」

「何よそれっ!?瀬栾が悪いんですー」

「ありす、わるくない」

「「あなたはまずブラを隠しなさいッッ!!」」



「あれ…?俺は、えーっと…、あれ?」


 気が付いたら朝でした。

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