1.始末
奥方様の威力は絶大である。超絶不良物件が、いまや人気殺到の優良案件に躍り出ていた。
吹けば飛ぶような線の細さ。年若く見るからに頼りない者が、正夫人として勤まるのなら私にだってできると妙な自信をつけた令嬢様ご一行の秋波が直球で叩き付けられてくる。
しかし受取り手は残念ながら色々とひねてしまったので、その秋波を額面通りに受け取らない。
妻に夢中になっている今なら、名目上の夫人として君臨できると踏んでいるのだろうと、にべもない。金だけ出させる気満々の女性陣に興味は一片たりともわかないと切り捨てている。
相変わらず女性関連において、自己評価が低い。
全てがそうだとは言わないが、ご令嬢方の秋波のいくつかは本気のものがあった。
しかし、今更である。散々見下し貶す言葉しか出してこなかったその口で、いきなり愛を囁かれても主従一同信じることなどできるわけがない。
それに、ご令嬢様方が主様に下していた醜い化け物という評はある意味正解だった。国境地帯の安寧を保つためなら、冷酷非道となる。本気の愛を囁いてきた令嬢であっても、領土の礎として使えるのなら躊躇しなかった。
辺境伯の夫人になるつもりが、いつの間にやら違う男と指輪を取り交わしあう羽目になっている。
領主肝入りの婚儀に花嫁だけが浮かぬ表情を浮かべていた。
奥方様に、子が成せぬのなら身を引けと散々吹き込んでくれたご令嬢の一人だった。主様を怒らせたら怖いと、本能で知っていたのに間違った。
産めよ増やせよを美徳とする地が嫁ぎ先である。彼女はこれから、何人の子を産むことになるのやら。
主様は、本日も機嫌良く奥方様の手足と成り果てている。