2.掩護
幸せに暮らしているのかどうかがとても心配でねと、婿の領地に乗り込んだ。
取り引きの強化も兼ねての訪問だった。小さいものであっても見つけ次第、不幸せの芽は摘んでしまう気でいる。
出迎えてくれた愛娘は、私の横に母親がいないことに対して安堵と寂しさを感じたようだった。寂しがるとわかっていたが、きっとこの地に乗り込んでも他の男を紹介するのが確実なのでご遠慮願った。その意欲を、誰かに利用されたりでもしたら目も当てられない。
娘の心からにじみ出た寂しさを正確にとらえているのが、その結びあった手の力の込め方からわかった。
夫婦仲は良いようで、訪問は幸先の良い滑り出しで始まった。
滞在する部屋まで、夫婦自らに案内してもらう。娘の歩くのんびりとした速度が懐かしかった。こちらとしては、娘だけで良かったのだが。
忙しない日々を過ごして、まだまだ片付けなければならない案件に追われてても、娘との時間を捻出していた。時間が足りないと常々感じるのに、娘とのゆったりとした時間は別格だった。
「お父様には、会わなければいけない人が多くいすぎるからです」
私の両手を見ながら言った。
今回の旅に、娘の母親を同行させないと決めた後の騒動を思い出す。彼女は他に誰を連れて行くのかと泣いて縋ってきた。そして、他の女達は選ばれるのを心待ちにしていたようだ。
一人で行くことを知ったときの、彼女達の驚愕した顔は見物だった。そうして、この旅の間に、新しい指輪が私の指にはまるのですかと聞いてきた。
最後の最後まで、誰かが連れ立っていくのだと思い込んでいるようだった。
娘がはめているたった一つの指輪。
世間は醜悪で、見るのも耐えられない指輪と評した。でもあそこまで強く深く自分のものだと主張している指輪をはめる幸せに気づいた者もいる。
一番初めに気づいた娘は、自分が捧げた指輪があまりにか細いことを気にしていた。
それぞれに不釣り合いな形状のものが、娘達の指を唯一飾っている。
お似合いの夫婦だと、思う。
その気持ちを添い遂げさせてやりたい。二人の間に子どもが出来なくても、家同士の厚誼は変わらないことを明言した。
娘夫婦の幸せを壊そうとする芽は早くに摘むに限る。
筆頭は、娘の母親である。下手な小細工を繰り出しては排除されている。
これ以上おいたが過ぎるなら考えがあると宣告してきたのだが、わかってもらえているだろうか。