彼女は何かを企んでいる
脱衣所で下着を脱ぐのって、同性同士でも恥ずかしいよね。
私と純玲さんは上下の下着を脱ぎ、純玲さんは私を先に浴室へ通してくれた。黒い下着って、黒い下着って、なんだかオトナ…。けど胸は私のほうが。純玲さんはBで、私はC。って、失礼だね。
からだを洗うため私がシャワーの蛇口をひねると、やがてモヤッとした湯気が二人のからだを包み隠した。純玲さんはまるで雪女のようにしい雰囲気を醸している。
「麗さま、そんなに緊張なさる必要ございませんわ。寧ろお恥ずかしいのは私のほう。きっと女性ホルモンが足りないのですね」
物憂げに笑んで自分の胸を見下ろす純玲さん。二人で入るには少々狭い浴室内に、彼女の声はシャワーのやさしい打音の中でも澄明にこだました。
私はどう返せば良いのかわからず、いえ、そんな…。と腑に落ちない言葉で誤魔化した。
「そうだ、お近付きのしるしに、私が麗さまのおからだを洗って差し上げましょう」
赤く小さい高級そうなシャンプーにリンス、トリートメントとボディーソープのボトルを両手の指と指に器用に挟み、無邪気かつ気品漂う笑みで私の前にちらつかせる純玲さん。
「え、あの…」
「お任せください。私、こういうの得意ですの」
悪いと思いながらも断りきれず、私はお風呂の椅子に腰を下ろし、純玲さんに背中を預ける。ふわふわ泡立つシャンプーと、やさしい手つきが心地よい。純玲さん、頭洗うの上手だなぁ。ヘッドスパってこんな感じなのかなぁ。
「麗さまと神威は、恋人同士なのですか?」
あまりの気持ち良さにウトウトして眠りかけたとき、唐突に訊かれた。
「はっ、はいっ! そうです…」
あわわわわわわ! 唐突に訊かれるとなんだか凄く緊張する。
「ふふっ。神威のどのようなところがお好きなのかしら?」
そう問われれば、答えは決まっている。
「あ、えっと、エッチでよく暴走するけど、ちゃんと人の気持ちを汲み取りながら行動できる人で、周りの人を元気にする力がある。内気な私も、神威くんのおかげで段々と心を開けるようになってきて。彼にはそんな、不思議な魅力があるんです」
あうぅ、あまり上手に言えなかったけれど、思っていることを言うのって、恥ずかしい。言ってから後悔するパターンだ。
「あらあら、そんな風に思ってもらえる神威は幸せ者ね」
「ふふっ。時々大変ですけど…」
どうしてだろう。純玲さんとはさきほど知り合ったばかりなのに、割と話しやすい。他の人だと、神威くんでさえも、こんなに早く笑顔は見せられなかったのに。
「あら、もしかしてまだお恥ずかしい姿で外を走り回ったりするのかしら?」
口調は穏やかだけど、胸中に陰りが出てきたのか、背中から感じる純玲さんのオーラが少し淀みはじめた。
「えっ? あっ、はい…。昔からそうなんですか?」
「えぇ。それはもう、私は神威が小さな頃から注意しておりましたが、まるで聞く様子がなくて。さきほども大声を出して帰ってきたようですが…」
うん、穏やかだけど、なんだか怖い…。
「今日は注意しないんですか?」
「えぇ。今日のところはお母さまにお灸を据えられたようですので、私まで叱責したら神威の居場所がなくなってしまいますわ。ですのでこのような場合の私の役目は、神威の気が楽になるよう、心の拠り所をつくることですの。さすればきっと、豊かな心のまま育ってくれるはず。麗さまの仰る通り、神威は周りを惹き付ける不思議な魅力がある。そんな彼ならきっと、仮に愛を知らぬまま育った仲間がいらしたとしても、豊かな心を分け与えられる。私はそう、信じておりますわ」
そう語る純玲さんの口調はとても穏やかで、優しかった。何かあるとすぐ暴力に及んでしまう私とは大違いだ。神威くん、とっても愛されてるんだなぁ。こんなにいい人なのに、なぜ神威くんは純玲さんが苦手なのだろう。
「シャンプー、このくらいでよろしければお流しいたしますが、いかがでしょうか」
「はい、ありがとうございます」
「いえ、私が好きでしていることですので。それに、麗さまの髪は指どおりなめらかで、洗っていて楽しくなってしまいましたわ」
まるで子供のように言葉を弾ませる純玲さんに釣られ、私もクスクス笑ってしまった。私も自然に笑顔を引き出せる大人になりたい。
シャンプーを流したら次はコンディショナー、トリートメントと続く。トリートメントは髪に浸透させるため、塗布したまましばらく時間を置く。その間に今度は私が純玲さんの髪を洗い、トリートメントまでの行程へ進んだ。純玲さんも私と同じく髪に触れられるのを羞恥したのか、私が髪を洗うと言ったら、あら、そんなご親切にしていただくなど恐縮ですわと、ごく僅かに戸惑いを見せた。
「さて、神威にはとっておきのプレゼントを差し上げましょう…」
「はい?」
何かをボソリと言った純玲さん。
「いえ、なんでもございませんわ。ふふふふふ…」
うーん、なんだろう。もしかしたらなのだけど、純玲さん、何か企んでいるような…。
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神威へのプレゼントとは!?