北海道に戻ってみる!
あれからほとんど会話はなく、私は二人の様子を気にしつつ宇治金時を味わった。
杏ちゃんに配慮し、敢えて話を切り出さなかったとも考えられる。
店を出た私たちは一中通りを駅方面へ歩き出した。
「私、北海道に帰ってみようと思います」
ドキッ。水菜ちゃんの発言に、私は胸を締めつけられた。
「ほ、ほんとか?」
勇くんも驚いている。
「はい、勇せんぱいの言う通りでした。帰ってきてって懇願してた父親は、やっぱり日に日に横柄な態度に戻ってきて、いまの状態じゃ私、茅ヶ崎には住めないなって。この街は好きですけど、大人になって、自分の力で暮らせるようになってから戻るのもいいかなって、勇せんぱいとか、北海道のみんなのことを思い出したらそう思うようになりました」
「そ、そうか、それは良かった……」
歯切れ悪い口調けれど、勇くんは内心とても嬉しいのだと思う。きっと舞い上がってしまうほどに。
こうして水菜ちゃんは一先ず北海道での暮らしを続ける運びとなったのだけれど、心配する勇くんを彼女がどこか避けている理由は、他にある気がする。あまり女らしくない私の女の勘だ。
茅ヶ崎駅に到着した。勇くんは近くのビジネスホテルに宿泊ということでここでお別れし、私は水菜ちゃんと二人になった。
生暖かいビル風が全身を舐める北口ペデストリアンデッキの隅、銀行と階段に挟まれた小さな一角で、私は問う。
「ねぇ水菜ちゃん、もしかして、嫉妬してる?」
「……うん。勇せんぱいはモテるから、女がいっぱい寄ってくるの。それを見て、茅ヶ崎に帰りたくなった節もあるかな、いや、ある!」
「ふふふ、そうなんだ。青春だね」
「家は荒れてるわ嫉妬に狂うわで本当につらいよ」
「うん、そうだね。水菜ちゃんは本当に、勇くんが好きなんだね」
「うん、そうなんじゃないかな。だからこんなにモヤモヤするんだと思う」
「うん、そしたらちゃんと、北海道で気持ちをぶつけて来よう。それからのことは、そのとき考えよう。もし芳しくない結果になったら、私がなんとかする……ようにがんばる」
「ありがとう。うん、わかった。ねぇ、ときどき美空ちゃんに会いに戻って来ていい?」
「もちろんだよ。私が北海道に行きたい気もするけど」
「来て来て! 少しずつ街を覚えてきたから、案内するよ!」
「ふふ、楽しみにしてます」
こうして水菜ちゃんの問題は一件落着……?
かどうかはわからないけれど、また何かあるようならば私が手を差し伸べられたらと思う。
大切なお友だちの遥か遠い地での幸せを、私は本当に心から願っている。
お読みいただき誠にありがとうございます。
毎度更新が遅くなりまして大変恐縮です。
北海道、また各地におきまして少しでも早い災害復旧を本当に心より願っております。




