甘味処のおかっぱロリ
「うーん、お出になられませんね」
「そうですか……」
「せっかく頼りにしてくださったのにお役に立てず、誠に申し訳ございません」
「いえ、むしろどうして見ず知らずの僕のために親切にしてくださるのか」
「ふふ、何をおっしゃいますか。お困りの方が私を頼りにしてくださっているのにお力をお貸ししないなんて、もしそうしてしまったのならば、私のほうが心苦しいです」
なんてお人好しなんだ。詐欺に掛かったり変な揉め事に巻き込まれないのだろうか。
そう思っていると、彼女の手中でケータイが振動した。
「あ、不入斗さん。ちょっと失礼しますね」
俺に断りを入れ、彼女は受話をONにし応答した。
「もしもし水菜ちゃん? いま北海道のお友だちを名乗る方といっしょにいるのだけれど……」
電話口から水菜らしき声が聞こえるが、言葉までは聞き取れない。
「あの、お名前はなんと……」
「長万部、長万部勇といいます」
そういえばまだ名乗っていなかった。だが水菜は俺と会いたくないんじゃないかという思いもあり、躊躇いつつ俺は彼女の問いに答えた。
彼女は一礼し、電話の向こうに俺の名を告げた。
それからしばらく二人の通話が続き、俺は緊張と恐縮を抱きつつ、砂浜で遊ぶ連れたちや沖で跳ねる無数の魚などに目を遣り、焦点を定められないまま潮風を浴びていた。
「お待たせいたしました」
「あ、いえ、なんか色々、申し訳ないです」
「いえいえ、それでですね、あの、これから私も交えてお会いできないかということでして」
事情が垣間見えてしまったのか、彼女は困ったように要件を告げた。
海水浴をしている三人に事情を告げ、俺と……。
彼女の名前を知らなかったので訊ねた。星川美空さんというらしい。
星川さんに連れられて、二人で海岸からほど近い和風の甘味処に入った。きっとここが先ほど彼女の言っていた水菜と知り合った店だろう。連れの三人は引き続き海水浴。大人の女性との行動はなんだか緊張して胸が高鳴る。
現在ではハワイ推しの茅ヶ崎だが、伝統的には和のテイストが強い街で、この店も老舗の一つなのだとか。
引き戸を開くと正面すぐに勘定場があり、その後ろ掛かった暖簾の奥から「いらっしゃいませー!」と女性の声がした。
出迎えてくれたのは、よもぎ色の割烹着を纏った小学校高学年くらいの女の子。いまどき珍しいおかっぱ頭で、将来は大和撫子になりそうなおしとやかな顔立ち。
「あ、美空ちゃん! いらっしゃい! えと、こちらの方は?」
「うーんと、道に迷っていたので案内がてら、お茶をしようと誘った、というところかな? 後で不入斗さんも来るよ」
「どうも」と俺はおかっぱさんに会釈したら、彼女も優しい笑みを浮かべて会釈し返した。かわいいな。
「水菜ちゃん!? 帰って来てるの!?」
「うん。それで、こちらの方は北海道のお友だちなんだって」
「そうだったんだ! どうぞごゆっくりお過ごしください!」
「あ、はい、ありがとうございます」
なんて礼儀正しい子なんだ。もう養子縁組に迎えたいくらいだ。
おかっぱさんは俺たちを簾が掛かった窓際のテーブル席に案内すると、再びにこっと一礼して店の奥へと引っ込んだ。
お読みいただき誠にありがとうございます。
毎度更新遅くなりまして申し訳ございません。
今回も『名もなき創作家たちの恋』よりキャラクター出張回となりました。




