エゴかもしれない
「やめろ! やめろ! なんで俺たちばっかり!」
「きゃあああ!! あっち行ってきゃああああああ!!」
なんということだ。昼になったのでボードウォークに腰掛けて近くの商店で購入した懐かしの焼きそばパンを食おうとしたら、どこからともなくトビが集まってきた。みなパンを持っているのに、襲撃されているのはなぜか俺と万希葉だけ。
「あははー、鳥さんには誰が弱いかバレバレさ~」
「アタシと萌香は強者だからな! 鳥はお利口さんだなぁ!」
「トリ頭なんでしょ!? 仲間だと思われてるんじゃないの!?」
「トリ頭……? 萌香、トリ頭ってどういう意味だ?」
「あははー、知らなくてもいいことさー」
俺と万希葉からトビが離れたのは十数秒後。通常、トビは背後から滑空して一瞬で食べ物を奪い去るというが、今回は例外だったようだ。
おかげで周囲の人々からは心配されたり笑われたりと、大恥をかいてしまった。
どうにか死守できたたまごパンを食べ終えると、女子どもは日焼け止めを塗り、真夏の太陽の下、キャッキャウフフと水を弾かせ海水浴。日焼け止めは俺が塗ったのだが、三人とも俺をなんだと思っているのか。
あ、なんとも思っていないのか。
俺の目的は水菜捜し。砂浜を遠目にボードウォークの隅に設置されたオーシャンビューのベンチでスケッチをしている麦わら帽子を被った黒髪ロングヘアの20歳前後と窺える女性に「す、すみません」と恐る恐る声をかけた。彼女ならスケッチのため長時間この場所にいる可能性が高いためだ。
「はい?」と俺を見上げる彼女の瞳はキョトンとしていて、スケッチブックには目の前の景色ではなく、海風を浴びながら髪をそよがせ、波打ち際を心地よさそうに歩くワンピース水着姿の女性が鉛筆で描かれていた。
絵に見惚れつつ、俺は彼女に水菜の特徴を伝え、見覚えないか訊ねた。
「あの、もしかして、不入斗水菜ちゃんですか?」
「ご存じですか!?」
「あ、はい。何年か前にこの近くの甘味処で知り合いまして。でも四月に北海道へ引っ越されてしまって……」
「そうなんです。僕は北海道での友人で、訳あってそこの砂浜で遊んでる女子たちと一緒に捜しに来たんです。電話出ないし」
「さようでございますか。では私のケータイからかけてみますね」
連絡先を知っているほど親しい方と巡り会えたとはラッキーだ。
「わざわざすみません。ありがとうございます」
「いえいえ、お役に立てれば良いのですが……」
彼女はケータイを操作し、耳に当てた。
それにしてもこの街は親しみやすい人が多いな。スケッチをしている手を止めたのにイヤな表情ひとつせず、見ず知らずの俺の人探しに付き合ってくれるなんて、現代ではなかなかないように思える。
元気で人懐っこい水菜には、ふるさとのほうが住みやすいのかもしれないな。無理に北海道へ連れ出そうとしているのは、俺のエゴかもしれない。
だがちゃんと会って、会話をしたい。そんなこともひっくるめて、今後どうしたいのか、水菜の意思を聞きたい。
そうすれば、俺も納得できる、かどうかはわからないが、少なくとも現状より気持ちの整理がつくだろうと、やはり自己中心的な思考を巡らせていた。
お読みいただき誠にありがとうございます。
更新が遅くなりまして申し訳ございません。
今回は『名もなき創作家たちの恋』からのキャラクター出張回でした。




