サザンビーチは大人のホテルの前にある
水着を購入した俺たち四人は茅ヶ崎駅南口からサザンビーチ直行の路線バスに乗車。乗車率は50パーセントほどで、その過半数は若者グループや家族連れといった海水浴客とみられる。生活路線というよりは観光路線なのだろう。
俺たちは中ドアから段差を上がってすぐの座席に左右二人ずつ分かれて着席。俺は陽が差す右窓側、萌香はその隣。通路を挟んで左側の座席には窓側に静香、通路側に万希葉がちょこんと座っている。万希葉はモデル体型で脚を組んだらサマになりそうだが、公共の場でそれはみっともないし、隣に静香が座っていて彼女のスペースを侵食してしまうからやらないそうだ。
『雄三通り』と呼ばれる地元の大御所歌手にちなんだ通りはバス同士がなんとか擦れ違えるほどの道幅で、歩行者や自転車が縦横無尽に行き交ういわば荒れ放題の無法地帯。自動車は接触事故を起こさぬよう慎重に進むか、思いきって突っ込み無法者らを威嚇するかのどちらか。街並みはヨーロッパを想わせるカフェやブティックを中心に構成されているが、古いコンクリート製の建物で営むラーメン屋や真新しいドラッグストアといった日本各地でお馴染みの店舗も見られる。
和風カフェの前を通過し右折し、道幅が若干広い『鉄砲道』を2、3分直進。この間には異国情緒は特に見られなかった。左折して、雄三通りと同じくらいの道幅の『サザン通り』に入る。サザンと言う割に、この道もまた特に異国情緒はないなと思いかけていたら、サーフショップなどのハワイアンな個人店がちらほらあり、北海道の漁師町の雰囲気とは大きく異なる。
『お待たせいたしましたー、終点サザンビーチに到着です』
減速し、路肩に寄ってバスは停車し、扉が開いた。
冷房に効いた車内から外に出てむわっとした暑さを感じる。
「改めて思うが、この暑さは道産子にはきつい」
「あははー、灼熱地獄だー。まさにサザンって感じだねー」
「これでも東京よりマシだぜ。あそこは駅で電車待ってるだけで死ぬかと思った」
「そうね、東京よりはマシだけど、とりあえずカフェに入りたい気分。ていうかここ、本当に海なの?」
バス停のポールには確かに『サザンビーチ』と表記されているが、周囲を見渡しても海は見えず、目の前の坂には大型のラブホテルがある。さすがサザンの街。こんなところにバス停があるのもこの街らしさだろうか。
「あははー、勇ラブホに釘付けだー。美女に囲まれてるからしたくなっちゃった?」
「おう、なんだ勇、アタシとやりたいのか!」
「そうだな、確かに静香がベッドではどんな感じになるのか気になるところだ」
「アンタ女なら誰でもいいの?」
乗り気な二人とは対照的に、一人だけジト目の万希葉。俺の豆腐メンタルにはグサッと突き刺さったが、一部には需要がありそうだ。
「そういうわけではない。万希葉の家でメシ食うとき、俺が一度でも手出ししたか?」
「なに、私には女としての魅力がないっていうの!?」
「そうじゃない。なんなら今すぐホテルに入って確認するか?」
「やっぱり誰でもいいの?」
「おいおいやめろって。それより海探そうぜ」
静香はちょうど俺たちの前を通り掛かった通行人に「すんませーん!」と声をかけた。
お読みいただき誠にありがとうございます!
更新間隔が開きまして大変恐縮です。
本作のキャラクターは一人ひとりが色濃いなぁとしみじみしつつ、更新ペースを上げてゆきたいです。




