今日まで恋人じゃ、だめかな
萌香は昨夜のことを気にしていないのか、バイキングの朝食を経てからチェックアウトに至る現在午前10時まで、恥じらってもじもじしたり、色を出したりはせず、ごく普段通りの振舞いだった。
真夏の太陽が照り付け汗が噴き出しアスファルトから反射するジメジメした熱に悶えながら、家電量販店や大型スーパーなどが建ち並ぶ市街地を取り敢えず駅に向かって進む。雪国育ちにの俺にとってはこれだけでも地獄を徘徊している気分だが、萌香は平然としている。マジで何者だよコイツ……。
ねっぷたちが自作本を売る同人誌即売会はもう終わったらしく、連中は修学旅行以来の東京見物を満喫していると連絡があった。
「ねぇ、せっかくだから、勇との思い出、もうちょっとつくりたいな」
「海辺のモーテルで休憩するのか?」
「あははー、『モーテル』って、いつの時代だよ。そうじゃなくて、せっかく湘南に来たんだから、海水浴でもしたいなって思ったんだ」
「まるで恋人みたいだな」
「うん。今日まで恋人じゃ、だめかな?」
「……だめってわけじゃないが、なんというか、俺と萌香とでは気配り力が違いすぎる。きっと萌香を疲れさせてしまう」
「もうとっくに疲れてるよ。だからもう限界だって思ったら、午前中でも別れ話を切り出すよ」
「容赦ないな」
「勇の女垂らしよりはずっと優しいと思うゾ☆」
「うっ……」
蘇るアレやコレやソレの記憶。どうやって調査したんだと一瞬疑問だったが、これはねっぷから聞き出したのだろう。覚えとけ、うほいうほい言ってられるのも今のうちだぞ。




